第526話 影狼族の長、修理した剣を受け取る

 「リンシア殿、如何です?」

 「軽い……こんなに軽くなる物なの?」

 「はいです! ミスリルは鉄よりも軽いです!」

 「軽いという事は、その分耐久性が劣っているという事になりますか?」

 「そんな事はないです! 前の倍の倍以上に頑丈になったと思うです! 使い方にもよるですが、前の剣の状態を考えれば手入れさえ怠らわなければ、ずっと使い続ける事が出来ると思うです!」


 それもミスリルの性質なのですかね?

 鉄よりも軽く、それなのに鉄よりも頑丈というのは不思議ですね。


 「という事は、これで完成ですか?」

 「まだです! 最後の仕上げがあるです!」

 「時間はかかる?」

 「それほどはかからないです! 直ぐに終わるです!」


 ミレディさんの作業も三日目となり、今日も朝からシアさんと二人でミレディさんの工房を訪れました。

 すると、僕たちを待っていたのか、ついて早々にミレディさんはすっかりと元通りになったように見える剣をシアさんに渡しのです。

 ですが、まだ完成とはいかないようで、まだやる事があるようです。


 「何をすればいいの?」

 「折角なので、剣に所有者の刻印を刻もうと思ってるです!」

 「所有者ですか?」

 「はいです! ユアン殿でしかサクヤ殿を扱えないように、この剣もリンシア殿にしか扱えないようにしようと思うです!」

 

 ミレディさんはそんな事が出来るのですね。

 

 「それって何か意味あるの?」

 「深い意味はないです! でも、そうした方がリンシア殿と剣の繋がりはより深いものになると思うです! それがきっとリンシア殿の助けになってくれると思うですよ?」

 「確かにそうかもしれない」

 「なら、やっちゃってもいいです?」

 「構わない。けど、その前に確認したい事がある」

 「なんです?」

 「刻印を刻むと所有者が私になるのはわかった。その時の効果を知りたい。サクヤと同じようになるって事でいいの?」

 「それは無理です! サクヤ殿と同じくらいの効果を出すのは流石に私でも出来ないです!」

 「そんなに?」

 「はいです! 所有者以外に刀を抜けないのに加え、抜刀した状態で所有者以外が持つ事が出来ないなんて効果なんて普通はあり得ないです!」

 「確かに」

 「そもそも、サクヤは普通の武器ではないので比べる事は出来ないです!」


 普通の武器ではないと言われちゃいましたね。

 まぁ、ここまで僕に語り掛けて来るくらいですし、確かに普通ではありませんね。

 シアさんも剣と会話をしていると言いますが、何となくこう言っている気がするのがわかるくらいですし。

 しかも、それすら凄い事だとミレディさんは言うくらいですので、サクヤがちょっと異常なのはよくわかりますね。

 

 カタカタッ!


 あっ! もちろんいい意味ですよ?

 だから、拗ねないでくださいね?

 

 「ふぅ~」

 「ユアン殿も大変そうですね」

 「そうですね。ですが、こうやって素直に気持ちを表してくれるのは嬉しいですよ」


 ちょっとシアさんに似ている所がありますからね。

 っと、話が脱線していまいましたね。


 「なら、刻印を刻むとどうなるの?」

 「はいです! サクヤ殿みたいな効果は無理ですが、リンシア殿以外が剣を抜刀した時に、ちょっとした意地悪をする事くらいは出来るです!」

 「意地悪ですか?」

 「はいです! 剣を抜いたらいきなり麻痺をしたりしたら嫌ですよね?」


 それは嫌ですね。

 でも、それって微妙じゃないですかね?


 「剣を抜かずに盗まれたらどうするのですか?」

 「そんな状況になるのなら、剣の所有者である権利はないと思うですよ? その時は、潔く諦めるといいです!」

 「うん。その通り。そんな事になったら剣士の恥。あり得ないから大丈夫」

 

 まぁ、その効果はオマケみたいなもので、大事なのは剣にシアさんが所有者である刻印を刻む事みたいですね。


 「どうするですか?」

 「お願いする」

 「はいです! では、工房の方で手伝ってほしいです」


 どうやら直ぐに作業に移るみたいですね。

 ミレディさんの後に続き、シアさんと何故か僕も手伝うように言われ、工房に入りました。


 「えっと、僕は何をすればいいのですか?」

 「今からリンシア殿の名前と、魔法文字を刻むです! ユアン殿にはその魔法文字を刻むお手伝いをして貰うです! ユアン殿は、魔法文字に詳しいと聞いたです!」

 「詳しい訳ではありませんけどね。でも、手伝える事があるのなら手伝いますよ」

 「はいです! では、まずはリンシア殿の名前からです!」


 そこに刻むのですね。

 ミレディさんは剣の刀身の根元に文字を刻み始めました。

 ですが、不思議な光景です。


 「こういうのって、道具を使わずに彫れるのですね」

 「普通は使うですよ? でも、私ならこれくらい道具がなくても出来るです!」


 今日までの作業を見守っていたのでわかっていましたが、ミレディさんは魔力が凄く高いです。

 ドワーフという種族は魔力があまり高くない事で知られているのですが、ミレディさんはその中でも異質と呼べるほどに魔力が高いです。

 現に今もミレディさんの指先から青白い火花のようなものが走り、剣にシアさんの名前を刻んでいます。

 

 「もしかして、ミレディさんの腕がいい事って魔力が関係していたりするのですか?」

 「その部分が大きいかもしれないです! その代わり、この見た目からわかる通り、腕っぷしはそこまで高くないですが……」


 それでも剣を叩いている時に力強さを感じたりしたので、僕やシアさんよりも力があると思いますけどね。


 「でも、それって秘密にした方が良かったのではないですか?」

 「ユアン殿は誰かに言いふらすですか?」

 「いえ、そんな事はしないですよ。ですが、どこで話が漏れるかわかりませんからね」


 他愛のない話であれば構いませんが、これは職人の技術です。

 僕がゴブリンの干肉様の作り方を秘密にしているように、秘匿の技術は出来る限り内緒にした方がいいと思います。


 「まぁ、気にする必要はないです! 私の技術が広まった所で、私の真似を出来る人はいないです!」

 「それもそうですね」


 真似したくても真似しようがありませんよね。

 

 「それで、僕は何をすればいいのですか?」

 「ユアン殿には魔法文字の改善をお願いしたいと思うです!」

 

 そういって、ミレディさんは魔法文字が刻まれた紙を僕に見せてきました。


 「これを刻むって事ですかね?」

 「そうです! 改善するところはあるですか?」

 「悪くはないと思いますよ」


 このままでも魔法文字の効果は十分に発揮できると思います。

 ですが、改善する場所はありますね。

 

 「ここをこうして、これを足したらどうです?」

 「ここを、こうですね?」

 「はい。それから、これを足したら別の効果も現れますよね?」

 「複合魔法です!? あう、これは凄いです!」

 「問題は効果を発揮する為の魔力が足りるかどうかですけど……鞘の方にも刻んだらダメですかね?」

 「刻むのは問題ないですが、何を刻むつもりでいるです?」

 「魔力を集める方法がありますので、それを刻んで貰おうと思ってます」

 「なるほどです! とりあえず、やってみるですか? 失敗しても元に戻すのは簡単ですので!」 

 「シアさん、どうですか?」

 「うん。やれる事はやって貰えると嬉しい」


 シアさんの許可も頂けましたね。

 なので、ミレディさんは直ぐに作業に移りました。


 「これでどうです?」

 「いい感じだと思いますよ!」

 「良かったです! では、これにて完成とするです!」

 

 ついにこの時がやってきましたね!

 

 「ミレディ。本当に助かった。ありがとう」

 「お礼は必要ないです! これが私の仕事です、報酬も、ちゃんと頂いた……ので、お互いさ……ま」

 「あっ、ミレディさん!」


 ミレディさんがシアさんから剣を受け取り、大事そうに抱えながらお礼を伝えていると、突然ミレディさんがフラフラと揺れ、そして倒れました。


 「びっくりしました」

 「うん。顔をうたなくて良かった」


 あのままでしたら顔から床に倒れていた所ですが、どうにか僕とシアさんがそれを支え事なきを得ました。


 「緊張の糸が切れたってやつですかね?」

 「仕方ない。三日間も起きつづけるのはきつい」


 僕とシアさんに抱えられたミレディさんはすぅすぅと寝息をたてていました。

 限界だったみたいですね。

 

 「どうしますか?」

 「寝かせてあげる」

 「それが一番ですね……となると、魔鼠さん」

 「ヂュッ!」

 「ミレディさんが起きたら連絡を貰えますか?」

 「ヂュヂュッ!」

 「お願いしますね」

 

 ミレディさんはご飯も食べずに寝てしまいましたからね。

 眠って起きたら絶対にお腹が空いていると思います。

 それにしても、ミレディさんって普段どんな生活をしているのか気になりますね。

 眠る為のベッドもありませんし、布団なども見当たりません。

 なので、仕方なくミレディさんをソファーに寝かせ、布団の代わりにウルフの毛皮をかけてあげました。

 

 「それじゃ、睡眠の邪魔をしては悪いので一度宿屋に戻りましょうか」

 「うんっ! 帰ったらアクセサリーつけよ?」

 「そうですね! 僕もサクヤにつけてあげたいですからね」


 という事で、僕たちはミレディさんにゆっくりと休んで頂くために宿屋に戻るのでした。

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