第519話 補助魔法使い、第一皇子の病気を治す

 「寝ている、のですか?」

 「あぁ。さっきまで起きてたんだけどな」


 さっきというと、ロイさんが確認をしに行った時ですかね?

 長く起きていられないと言っていましたが、どうやら本当みたいですね。


 「近づいてもいいですか?」

 「よろしく頼む」

 「わかりました」


 ロイさんの了承を得られたので、僕は第一皇子様へと近づきました。


 「食事はとっていますか?」

 「一応はとっているとは思うが、俺も長い間離れていたから、その辺りまでは詳しくはわからん」

 「そうなのですね。誰かその辺りの事情に詳しい人はいますか?」

 「それなら、そのメイドに聞けばわかるだろう」

 

 当たり前の事ですが、第一皇子様には専属のメイドさんがいました。

 僕たちが部屋に入ってからは隅の方で静かにしていますが、普段はこの方が第一皇子様のお世話をしているようですね。


 「ソティス様には食事を優先的にとって頂いております。いつ眠ってしまうのかわかりませんので」

 

 メイドさんからの話ですと、食事中に眠ってしまう事もあるみたいなので、起きたら食事というのが習慣になっているみたいですね。

 もちろん、それは朝、昼、夜の習慣であって、ロイさんが先ほど会いに行った時などは例外のみたいですけどね。

 

 「しかし、食事はとっているとなれば、ちょっと変ですよね?」

 「どの辺りがだ?」

 「ちょっと細すぎると思うのです」

 

 食べて寝てを繰り返せば、運動をしないので太りますよね?

 中には太らない体質という人も居ると思うのですが、それにしても細すぎると思うのです。

 となると……。


 「ちなみにですが、この症状はいつ頃から発症したのですか? 僕の予想ですと、生まれた時からではないと思うのですけど」

 「確かに生まれた時からではなかったとは聞いているな」


 やっぱりですか。

 それなら僕に治せそうな気がしますね。

 何せ、この病気の事は見た事はありませんが、聞いた事があります。

 ですが、これだけですと他にも可能性はあるので確かめたい事はありますね。


 「症状として、激しく咳き込んでしまったりしますよね?」

 「確かに、そんな事もあるな」

 

 やっぱりですか。

 これでほぼ確信に変わりましたね。

 では、決定打となりえる質問をしてみましょう。


 「この症状って、皇子様だけではなかったりしませんか? 主に鉱石を採取したりする人ばかりかかっていたりしますよね?」

 「その通りだ」


 良かったです。

 これでほぼ決定しましたね。


 「何かわかったのか?」

 「はい。あまり有名ではないので聞いた事ないと思いますが、これは魔石粉塵病と呼ばれる症状です」

 「聞いた事ないな……」

 「一部しか知られていない病気なので仕方ありませんよ」


 ですが、僕は知っていました。

 僕はチヨリさんのお店で働いているのですが、ポーションの制作以外にも色んなことを学んでいますからね。

 なので、色々な病気や怪我などの知識も少しずつ増えています。

 今回の病気もチヨリさんから珍しい病気として教わっていました。


 「それで、どんな病気なんだ?」

 「この症状を発症しているという事は、この辺りでは鉱石以外にも魔石がとれますよね?」

 「そうだな」

 「この症状はその魔石が関係しています」


 魔石というのは不思議な事に、鉱石が魔石に変化する事もありますし、魔物の体内にも存在します。

 その辺りはどうして発生するのかはわかりませんが、わかっている事はあります。

 一つは魔石は人の体には適さない事。

 もう一つは魔石は砕け散ってもただの石にはならないという事です。

 つまりは、魔石は砕けても粉になっても魔力は失わないという事になるのです。


 「魔石粉塵病とはその粉を吸い込み、体の中に魔石があるような状態なのです」


 恐らくは第一皇子様も鉱山のどこかで作業をしていた事があるのではないでしょうか?

 

 「その話なら聞いた事があるな。兄上は昔、新たな鉱山の開拓に携わっていた事がある」

 「そうなのですね。となると、その時期から体調を崩したのではないでしょうか?」

 「後で調べてみる」

 「その方がいいと思いますよ。他にも同じ症状に苦しんでいる人の助けにもなると思いますからね」

 「わかった……それで、治るのか?」

 「僕なら簡単ですよ」


 体内の異物を取り除いてしまえばいいだけですからね。

 もちろん、最初から存在しているものは無理ですよ?

 魔物の体内にある魔石や生まれた時から患っている病気などは体内に癒着してしまっている為に取り除くことは出来ません。

 しかし、この病気は後天性のものです。


 「なので、これだけで終わりです……リカバリー!」


 この魔法は傷を治すと同時に、体内の異物を取り除きます。

 弓が刺さったりして、その矢じりが体内に残ってしまった時にも使える魔法ですね。

 もしかしたら、これで治らないかもしれませんが、その場合は状態異常回復トリートメントを使えばどうにかなると思います。

 その場合は毒のようなものという認識になりますけどね。

 ですが、やはり魔石の粉塵は異物として認識だったようです。


 「ん……?」


 リカバリーかけてから数秒後、第一皇子様の目がゆっくりと開きました。


 「兄貴!」

 「どうした、そんなに大きな声を出して」

 「身体は、身体はどうなんだ?」

 「いつも通り……じゃ、ないな? いつもより息苦しくない」

 「そうか……良かった」


 どうやら無事に治ったみたいですね。

 ですが安心はできませんよ。


 「ロイさん、嬉しいのはわかりますが、あまり騒いでは駄目ですよ。失った体力は直ぐには戻りませんからね」

 「そうだな。だが、先に礼を言わせてくれ。兄貴を治してくれてありがとうっ!」


 ロイさんの瞳が潤んでいます。

 第一皇子様が良くなって本当に喜んでいるみたいですね。

 

 「君が、私を治してくれたのか?」

 「そうなりますね」

 「そうか……ありがとう。そして、ロイ、リリーナ、長い間迷惑をかけたな」


 第一皇子様が僕とロイさん、そしてメイドさんに頭を下げました。

 

 「わたしくしはソティス様のお元気を再び見られただけで十分でございます」

 「その通りだ。兄貴がこうして元気になってくれたのなら、俺はこれからも冒険者を続けられるからなっ!」

 

 という事は、ロイさんはまだ冒険者を続けるつもりですかね?

 冒険者になったのは第一皇子様、ソティス様の病気を治すためだったので、それが達成された今、冒険者を続ける理由はないと思いますよね?

 まぁ、それはロイさんの人生なので僕がどうこう言う問題ではありませんね。

 それに、ロイさんはガンディアの事をよく思っていないみたいですからね。


 「それにしても、よくユアン殿は兄上の病気がわかったな」


 ソティス様を治した後、僕とロイさんは部屋を出ました。

 まだソティス様の体力が戻っていないからですね。

 今はゆっくり休んで頂く事にしたのです。

 その時に、後日正式にお礼をすると言われましたけど、お断りしました。

 僕がここに来たのはロイさんが居たからですね。

 ロイさんが鍛冶師を紹介し、ガンディアまで僕たちを案内してくれた時点でお礼は済んでいると思っています。

 なので、お礼ならばロイさんにお願いしますと伝え、僕たちは部屋を後にしました。

 その途中、部屋を出て皆の元に戻っていると、改めてロイさんから魔石粉塵病について聞かれました。


 「症状がハッキリしていたからですよ。特に食事をとって寝ているのに太らない事に気づけば症状を知っている人ならば誰でも気づく事です」


 この辺りは魔力枯渇に似ていますからね。

 魔石を維持するには魔素が必要となります。

 ですが、この辺りは魔素が薄いので魔石が魔素を吸収できない状態です。

 では、魔素がなかったら魔石はどうするでしょうか?

 簡単です。

 人の魔力の器は人によって大きさは違います。

 ですが、魔力の器は誰にでもあるのです。

 なので、そこから魔石は魔素ではなく、魔力を吸って補おうとするのです。

 そうなるとどうなるか……人は魔力を使い過ぎた状態になりますよね?

 それがソティス様が眠ってしまう原因でした。

 体が体力と魔力を回復する為に自然と眠りについてしまうのです。

 そして、食事をとっても太らないのは、その循環が目まぐるしく行われているからです。

 ソティス様は無自覚のまま常に魔法を使用している状態です。

 しかも、使用しているのは魔力ではなく体力です。

 そんな状態で太れと言うのは無理がありますよね。


 「兄上はずっとそんな状態だったんだな……俺がその症状を知れていれば、もっと早く治ったのだろうか?」

 「どうですかね? 症状を知る機会があったとしても、治せる人が居なかったらどうしようもありませんからね」


 この症状を治せる人は世の中を探せばいると思います。

 ですが、この場所までその人を連れてくるとなるとかなり難しいように思えます。

 少なくとも聖魔法を使える人でなけれいけませんし、聖魔法を使える人は僕が知っている限りではアーレン教会の人しか……。

 そこまで考えると、ふと僕の頭に別の解決策が浮かびました。

 

 「あれ、そう考えれば……ユージンさんの繋がりで連れてくる事も出来たのですかね?」

 「それは無理だなっ。ユージンとルカはアーレン教会と関わりたくないのは知っていたからな」

 「それもそうですね」


 アーレン教会がまともになったのは、ナナシキに移住してきたからですしね。

 その当時にアーレン教会を頼っていたら、どれだけ足元を見られたのかはわかりません。

 そう考えれば、その時にユージンさん達がアーレン教会を紹介しなくて良かったと思えます。

 結果的にはこうして僕が治す事ができましたからね。


 「それで、ユアン殿……もう一つ頼みがあるんだがいいか?」

 「何ですか? それと、もうユアン殿はやめませんか? 何か、変な感じがします」

 「けど、ユアン殿は恩人だからな」

 「違いますよ。僕はロイさんの気持ちに応えただけです。なので、今まで通りに接して貰えませんか?」


 畏まられても困りますからね。

 それに、ロイさんはロイさんらしくあってくれた方が、僕も接しやすいですからね。


 「そうだな。それじゃ、改めて礼はさせて貰うが、今まで通りに付き合わせてもらうぜ?」

 「はい! それで、頼みってなんですか?」

 「ついでに街の奴らも治して貰えねぇか? 面倒だと思うが、治す方法がわかったのであれば、どうにかしてやりたい」

 「構いませんよ。僕もそのつもりでいましたからね!」


 他にも苦しんでいる人がいるのならば、治さないという選択肢はありませんからね!


 「ありがてぇ! それじゃ、今日中に病気の奴らを調べておくから明日から頼むぜ?」

 「任せてください!」


 こうして、明日から僕のやる事が増えました。

 僕としてもただシアさんの剣が直るのを待つのは退屈でしたのでありがたいですからね。

 暇つぶし……ではありませんが、僕の役割がある事は嬉しく思えます。

 改めて補助魔法使いとして生きてきた甲斐があったと思えますからね。

 ですが、ロイさんはロイさんでこれから大変そうですね。

 ソティス様の病気が治ったとしても、直ぐに復帰できるとは限りませんし、王様への説明もあると思いますからね。

 まぁ、そこは上手くやってくれる事を願うばかりですね!

 そして、僕とロイさんはみんなの待つ部屋へと戻り、今起きていた事を説明するのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る