第520話 補助魔法使い、ミレディの様子を見に行く
「シアさんシアさん!」
「なぁに?」
「楽しみですね!」
「うんっ!」
ガンディアの第一皇子様であるソティス様の病気を治した翌日、僕とシアさんは剣の修理を依頼したミレディさんの元へ向かいました。
ちなみにですが、今日はスノーさん達とは別行動です。
今日は三人は温泉に浸かったりしてのんびりするみたいですね。
という事で、急ではありますが、僕とシアさんのデートが決まった訳です!
といっても、午後からはロイさんと一緒に魔石粉塵病の治療に回る事になっているので、午前中の間だけですけどね。
ですが、先ほどのシアさんとのやり取りでわかりますよね?
今日のシアさんはいつも異常にテンションが高いです!
なので、僕も自然とウキウキしちゃったりします。
「剣、直ってると嬉しい」
「流石に早いですよ。今日から直すと言っていましたからね」
「うん。だけど、もしかしたら直ってるかもしれない」
「もぉ、少しは落ち着きましょう?」
「大丈夫。落ち着いてる」
んー……少しだけ変な方向に気持ちが傾いてしまっているみたいですね。
シアさんは珍しく僕の手をぐいぐいと引くようにして歩いています。
それもそれで嫌ではないのですけどね?
シアさんにリードして貰っているとも言えますからね。
でも、シアさんにはいつも隣に居て貰って、いつでも顔を見れる方が嬉しいです。
そんな願いも今日は届かず、結局寄り道もせずにミレディさんの工房へとたどり着いてしまいました。
「ミレディさんは起きていますかね?」
「起きてると思う。ユアンと違って職人の朝は早い」
「むー! 僕は朝は弱くないですよ!」
「知ってる。いつも私達よりも早起き、だよね?」
知っているのならからかわないで欲しいですよね!
実際に僕は朝は苦手ではありません。
大体はシアさんやサンドラちゃんよりも早く目を覚ましますからね。
ただ、目を覚ましても起きる事を許してくれない人がいるので、二度寝してしまうだけなのです。
まぁ、二度寝をすると中々目を覚まさない僕も悪いのですけどね。
「おはようございます。ミレディさん、起きていますか?」
「はいですー!」
流石にドアを勝手に開けるのはまずいと思い、ミレディさんの名前を呼びながらドアをノックすると、中から返事と共にドタバタと慌ただしい足音が聞こえてきました。
「おはようございますです!」
「おはよう」
「おはようございます。朝からすみません」
「全然です! それよりもご飯を持ってきてくれたですか!?」
「はい、一応は用意してありますよ」
「嬉しいです! ささっ、どうぞ中に入ってくださいです!」
朝から元気ですね。
ミレディさんに案内され、家の中に入るとミレディさんは行儀よく椅子に座りました。
「えっと、机の上に出していいですか?」
「はいですっ! もうお腹がペコペコです!」
昨日のお昼前から今日の朝まで寝ていれば当然ですよね。
「あぅ……まだです?」
「あ、すみません」
待ちきれない様子でそわそわしているミレディさんが面白くてそれをつい眺めていると、ミレディさんが頬を膨らませました。
まるで、ご飯をお預けさせられているコボルトさんみたいです。
シアさんがたまに躾としてやっている事がありましたが、それにそっくりでした。
まぁ、コボルトさん達は賢いのでそんな事をしなくてもみんないい子にしてくれていますけどね。
シアさんなりのコミュニケーションらしいです。
「美味しいです! こんな豪華な食事は久しぶりなのです!」
「喜んで貰えたのなら良かったです」
「はいです! これなら幾らでも食べられるですっ!」
本当に喜んでいるみたいで、並べたパンを口の中に次々と放り込み、どんどんとパンの数が減っていきます。
まぁ、僕が作った訳ではなく、作ったのはリコさんですけどね。
それでも、僕の知り合いが褒められているので嬉しくなります!
僕のお家で働いてくれている人は凄いのだと自慢したくなっちゃうのです。
「はふー……。お腹いっぱいです!」
結局の所、ミレディさんは用意したパンを全て食べつくしてしまいました。
一つ一つが僕の手のひらくらいあるのに、それを全部食べてしまったのです。
身長は僕と同じくらいなのに、一体どこに消えてしまったのでしょうか?
まぁ、そこは気にする所ではありませんね。
僕の隣にはそれ以上に不思議な胃袋を持った人が居ますからね!
「それで、今日から剣を直して頂けるとの事ですが、取り掛かれそうですか?」
「もちろんです! 沢山寝て、沢山食べたので今日から頑張るです!」
「期待してる」
「任せるです!」
そう言ってミレディさんは自信満々に腕まくりをして、筋肉をみせてくれますが……。
あの細腕で本当に大丈夫なのでしょうか?
少しだけ不安です。
「それで、今日は何をするのですか?」
「まずは剣を研ぐつもりです!」
「それで直るのですか?」
「それだけじゃ直らないです!」
まぁ、それだけで直ったら苦労はしませんね。
「ミレディ。欠けた所まで研ぐつもり?」
「はいです! 少し違いますが、そのつもりでいるです!」
「えっと、それだと剣が細くなっちゃいますよね?」
「当然です! だけど、そうしないと欠けた場所が起点となってどんどんと悪くなっていくです!」
そういうものなのですかね?
んー……僕にはさっぱりです。
それはシアさんも同じようで、シアさんが心配そうにミレディさんを見ているのがわかります。
「あう……本当に大丈夫です。ちゃんと元以上の性能に仕上げるです!」
「うん。期待してる。だけど、剣を研いだら細くなる。それはどうするつもり?」
「土台にするです! 元の剣は凄く良い剣です! それを有効に使わないのは勿体ないです!」
あくまでもシアさんの元の剣をベースにしあげていくみたいですね。
ミレディさんの言葉にシアさんは少しだけ安心した表情を見せました。
「ですが、どうやって元の剣を土台に使うつもりですか?」
「芯です!」
「芯?」
「はいです! 欠けてしまったとはいえ、この剣はとても頑丈なのです! これを芯にしてミスリルをコーティングしてあげれば絶対に折れない剣が完成するです!」
「それは凄いですね!」
「だけど、ミスリルのコーティングはとても大変なのです!」
専門の加工職人がいるくらいですからね。
「ミレディなら出来る」
「はいです! 私なら出来るです!」
「うん。その意気込みで頑張る」
「頑張るです!」
精神論に聞こえますが、大丈夫でしょうか?
自信がなかったらやれるとは言わないと思いますので、信じるしかないですけど、何処か不安です。
「本当に大丈夫です! ロイ様から聞いた話では、ユアン殿は凄腕の魔法使いと聞きます。そのユアン殿であれば私の腕は直ぐにわかるです!」
「そう言われても僕は鍛冶の事は何もわからないですよ?」
そもそも鍛冶に魔法は関係ないですよね?
「いえ! 凄く関係しているです! と言いましても、これは私にしか出来ませんが……とりあえず、見てくれればわかるです!」
そこまで言われたら大人しく見守るしかありませんね。
「では、まずは剣を研ぐところから見るです!」
あれなら僕もわかります!
ミレディさんは砥石を取り出し、砥石に水をかけ、剣を研ぎ始めました。
「いい音がしますね」
「うん。シャッシャッって音が気持ちいい」
「ですが、あれだと相当時間が掛かりますよね?」
砥石って剣の切れ味を元に戻したり、錆をとったりする時に使うのですよね?
流石にそれで欠けた場所まで削っていくのは大変だと思います。
「問題ないです! これくらいなら直ぐ終わるです!」
「そうなのです……ん?」
あれ、気のせいですかね?
研ぎ始めたばかりなのに、剣が少し細くなった気がします。
「気のせいじゃない。欠けた部分が小さくなってる」
「という事は、剣が砥石で削れているって事ですか?」
「そうなる?」
シアさんもそう思うのなら気のせいではないみたいですね。
「これで終わりです!」
「本当ですね。もう欠けた部分がわからなくなるほど細くなりましたね」
驚きました。
どんどんと細くなっていくのが面白くて見ていると、あっという間に剣が細くなりました。
「ユアンが小っちゃくなっちゃった」
「えっと、僕ではありませんからね?」
「知ってる。だけど、刃だった部分がなくなるのはやっぱり少し悲しい」
「大丈夫です! 無くなってはいないです!」
「でも、元の剣より細くなっちゃいましたよ?」
「そう見えるだけです! これと比べれば直ぐわかるです!」
ミレディさんは黒い方の剣を研いでいた白い剣の横に並べました。
「全然幅が違いますね」
「見た目はそうです! でも、リンシア殿、持ってみたくださいです!」
「わかった…………ほぼ同じ重さ?」
「ですです!」
長年使ってきた感覚があるからでしょうか?
シアさんは見た目は全然違うのに、同じ重さだと言いました。
「どういうことですか?」
「簡単です! 剣を圧縮したです!」
「圧縮?」
「はいです! パンで例えるとわかりやすいです! 潰したら小さくなるですよね?」
でも、量は変わりませんよね?
それが圧縮ですと説明を受けました。
なるほど。
全然わかりません!
いえ、言いたい事はわかりますが、どうして砥石で研いだらそうなるのかわからなかったのです。
「ユアン殿は違和感がなかったです?」
「特にはなかったです。ただ、ミレディさんから魔力を感じたくらいですかね?」
「それですそれです! これは私の魔力を込めた結果なのです!」
ミレディさんが魔力を込めるとそうなるのですかね?
しかも、この作業を出来るのはミレディさんしかいないらしく、他にも応用が出来るらしいですね。
そして、これがミレディさんが凄腕と呼ばれる所以でもあるみたいですね。
「ミレディ。見直した」
「あぅ……最初から信用して欲しいです」
「ごめん。だけど、ミレディが凄い事はわかった。引き続き頑張る」
「もちろんです! やるからには常に最高傑作に仕上げるつもりです!」
落ち込んだりやる気を出したりして忙しそうですね。
ですが、これで本当に心配はいりませんね。
ミレディさんは目の前で凄い事をやってのけたのですからね!
何が凄いのかは無知なのでいま一つわかっていませんけどね。
「それでは、そっちの剣も同じようにしていくです!」
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