第518話 補助魔法使い、ロイから話を聞く
「皆さんも苦労してきたのですね」
ユージンさん達が冒険者になった理由は知っていましたが、ロイさんが冒険者になった理由を聞いたのは初めてでした。
「それなりにな」
「その経験があったからこそ、今があるのだけどね」
確かに、話を聞いただけで火龍の翼の皆さんが僕たちとは比べ物にならない程の経験をしてきた事がわかります。
まぁ、逆に僕たちが何もせずにここまでランクが上がってしまっただけでもありますけどね。
なので、シノさんさんの策略や運が良くてここまでこれただけだと、ロイさん達の話を聞いて改めて実感しました。
「それで、お兄さんは大丈夫なのですか?」
「相変わらずだ。あの時と何も変わっていない」
「そうなのですね……」
ロイさんのお兄さん……第一皇子様ですね。
このお方はどうやら、重い病を患っているみたいです。
といっても、命に影響するような病ではないようで、長時間起きている事が出来ない病気みたいです。
今の所は原因不明のようで、今でもその病に苦しんでいるみたいです。
そして、それがロイさんが冒険者になった理由でもありました。
ロイさんが冒険者になったのは、お兄さんの病気の原因を探るためであり、各地を周れば、その病気に関する情報や薬などに出会えると考えたらしいです。
実際にそれは間違いではないと思います。
風土病というのがあります。
その土地の気温や生態系などが影響し、その土地でしか流行らない病と言えばいいですかね?
そういった病気は世の中に情報として広まっていないために、研究が遅れていると聞きます。
ですが、冒険者であればそういった病気の事を知れる機会というのは多いです。
冒険者と冒険者の繋がりは馬鹿に出来ませんからね。
噂程度でもどこの村でこんな病気が流行っていると耳にする機会がありますので、ロイさんの考え方は間違っていないと思います。
思いますけど……。
「流石に無茶をしすぎではありませんか?」
「確かにな。まぁ、あの時の俺はまだ若く、世間知らずだったという事だ」
ロイさんが王様であるお父さんの反対を無視し、冒険者になるために鍛錬を始めたばかりの頃でした。
いつもの通り、単独でガンディア周辺の森などの魔物を狩っていると、一匹の魔物と遭遇したみたいです。
「まさかあれがあんなに強いとは思わなくてな」
まぁ、見た目は意外と可愛らしいと聞きますからね。
それに魔物と戦う上で大事な要素として相性というものもあります。
ロイさんは当時から体が大きく、大型の魔物なども初心者ながら倒したりはしていたみたいです。
ですが、その時に出会ってしまった魔物は、悪魔の角を持つと呼ばれる、【デビラビ】と呼ばれる魔物だったみたいです。
見た目は角の生えた兎ですが、その大きさは小型犬くらいあり、角が蛇のように蛇行しているのが特徴的な魔物です。
パッと見た限りでは可愛らしくも見えるのですが、性格はかなり凶暴で、瞬発的な跳躍から繰り出される攻撃は簡単に人を突き殺す事で知られています。
魔物ランクとしては確かDランクで、初心者が出会ったら対処するのは厳しい相手です。
そんな相手とロイさんは出会ってしまい、戦ったのですが、当時はまだ冒険者ですらないロイさんが敵う相手ではなく、案の定お腹を角で刺されてしまったみたいですね。
「あの時は流石に死んだと思ったな」
「実際に死にかけてたから」
「確かになっ! 本当に感謝してるぜっ!」
「もっと感謝するべき」
ロイさんは本当に死を覚悟したみたいですね。
ですが、そうはならなかったのはその場所にたまたまエルさんが遭遇したからみたいです。
まだまだエルさんの過去は知りませんが、その当時からエルさんは既にCランクの冒険者として活動していたらしく、得意の弓でいとも簡単にデビラビを倒したみたいですね。
そして、同時にエルさんは回復魔法の使い手でもあります。
僕には及ばないとエルさんは言っていますが、火龍の翼で
これがロイさんとエルさんの出会いで、エルさんがガンディアの内部を知っていたのも、ここでロイさんとの繋がりがあったからなのですね。
「その後、ロイさんはエルさんと一緒に冒険者として旅立ち、ユージンさん達と出会ったのですね」
「そんな感じだな。まぁ、正確にはロイが護衛として俺達を雇ったのが始まりだな」
少し変な話ではありますが、冒険者のロイさんがユージンさん、ルカさん、エルさんを護衛として雇いつつ、ロイさんはロイさんで力をつけ、ランクをあげていき正式にユージンさん達とパーティーを組んだことで火龍の翼になったみたいです。
「でも、それだけですと特にロイさんがガンディアを嫌いになる要素はありませんよね?」
王様はロイさんの行動を反対したものの、ロイさんに何かをした訳ではありませんからね。
「そうは言うが、親父は兄貴を救おうとすらしなかった。確かに兄貴の病気は不明な事ばかりでどうしていいのかわからないという気持ちはわかる。だがな、だからといって兄貴を見捨て、俺を後継者に選ぶのは絶対に間違っている。確かに兄貴は体が弱いかもしれねぇが、俺よりも遥かに頭がいい。その頭脳を活かす事だって出来る筈だ」
どうやら、ロイさんは王様の考えが許せなかったみたいですね。
ロイさんらしい考えだと思います。
僕が今まで見てきたロイさんの印象は、常に真っすぐな人だと思いました。
裏表のない一番信用できるタイプの人だと僕は思います。
「それで、王様とはわかりあえたのですか?」
「見ての通りだ」
「そうですよね……」
ロイさんの顔を見ればわかりますね。
右の頬が赤く腫れています。
そういえば、解決していないから僕たちに協力して欲しいとも言っていましたね。
「まぁ、話は理解してくれたか? わからないなら足りない部分は細くするが?」
「いえ、何となくは理解できたので大丈夫です」
そもそもロイさんに協力する事に対して難しい理由はいりませんからね。
悪い事に協力しない、それだけわかれば十分です。
「ですが、僕たちは何をすればいいのですか?」
問題は僕たちに出来る事が何があるかという事ですね。
「簡単だ。嬢ちゃん……いや、ユアン殿にしか頼めない事がある」
「僕にしか出来ない事ですか?」
「あぁ。ユアン殿の腕を見込んで、兄上の病を治して欲しい」
ロイさんが僕に向かって頭を下げました。
それに、僕の事を嬢ちゃんからユアン殿と改めました。
それだけ僕に本気でお願いしているという事ですね。
「わかりました。ですが、治せる保証はありませんよ?」
「それでも構わない。だが、今までの旅してきた中で一番可能性を感じたのはユアン殿の回復魔法だ。俺はその可能性を信じたい」
そこまで期待されても困りますけどね。
ですが、期待されているのならば応えたいですよね。
「そこまで言って頂けるのであれば、出来る限りの事はさせて頂きます。ですが、まずはどんな症状なのか見て見ない事には何も出来ませんので、第一皇子様に合わせて頂けますか?」
「そうだな。まずは兄上に会って貰った方がいいか。わかった、直ぐに確認してくる」
そう言って、ロイさんは部屋から出ていきました。
「治ると思う?」
「わかりません。ですが、やるからには全力でやりますよ」
「なら問題ない。きっと治る」
「そうだといいですけどね」
当然ながら不安はあります。
僕の魔法で治らなかったら、どうしようもありませんからね。
それこそ先天性の病とかだったりしたらわかりません。
病気ではありませんが、影狼族の虚ろ人だった人達は流石に僕でも治すのは無理でした。
ですが、治すのは無理でも改善したりできる可能性はあります。
ティロさんだって昔は無表情で何を考えているのかわかりませんが、今ではナグサさんと仲良くお仕事を頑張っているくらいですしね。
そして、暫くするとロイさんが戻ってきて、一緒に来てほしいと言われました。
なので、僕はロイさんと第一皇子様の元へと二人で向かいました。
流石に沢山の人を連れて行くと騒がしくなりそうで失礼にあたりますし、無いとは思いますが、誰かにうつる病気だったら大変ですからね。
「ここだ……兄貴、入るぞ」
中から返事は返ってきませんでした。
しかし、ロイさんはそれに構わず扉を開けました。
「あれが、兄貴だ」
ロイさんに続き、僕も部屋に入らせて頂くと、ベッドに横になっている人物が居ました。
あの人が第一皇子様でロイさんのお兄さんなのですね。
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