第510話 弓月の刻と火龍の翼、ドワーフの国へたどり着く
「見えてきたな」
狼族の国、【ハウンズ】から出発してから三日目、僕たちはようやくドワーフの国へとたどり着きましたが……。
「何処ですか?」
ロイさんの言葉に僕は首を傾げました。
「あそこだよ、あそこ」
「何処なのよ」
どうやらわからないのは僕だけではないみたいですね。
ロイさんが指さす方を見たルカさんも首を傾げています。
「あそこに崖に沢山の穴があるだろ? ガンディアはあの中にあるぜ」
「わかる訳ない」
エルさんが呆れたようにロイさんを見ていますね。
その気持ちはわかります。
何も知らずにみたらただの穴の開いた崖にしか見えませんからね。
「でも、どうしてあんな場所に住んでいるのですか?」
「色々と理由があるらしいが詳しい事は知らんっ!」
ロイさんも理由までは知らないみたいですね。
「それで、どうやってあの崖を登るつもりだ?」
「登る必要はねぇよ。こっちだ」
登る必要がない?
もしかして、どこかに入口があるのですかね?
理由はわかりませんが、僕たちはロイさんに先導され、ドワーフの国【ガンディア】に入国する為に崖へと向かいました。
そして、ロイさんについて行った先には、兵士でしょうか?
剣や槍を持った筋肉モリモリの小柄で長い髭を蓄えた男性達が待っていました。
もしかして、あれがドワーフなのですかね?
見た目だけは小さいのに凄く強そうに見えますね。
「止まれ」
ロイさんを先頭に、僕たちはドワーフの兵士さん達に近づくと、僕たちに気付いた兵士さんが行く手を阻むように武器を構えました。
見た所、行き止まりに見えますが、何を守っているのでしょうか?
「何用だ?」
「中に入りたい。いいか?」
「目的は?」
「武器の修理だ」
どうやら歓迎されている感じはしませんね。
ロイさんを見て、兵士さんが凄く警戒をしています。
まぁ、それも仕方ないですかね?
僕はロイさんの事を知っているからこうやって仲良く接する事が出来ていますが、見た目は体の大きい怖い人にみえます。
初対面の人からしたらヤバい人が来たと思うと思います。
それに、今のロイさんはいつもと違い、少しだけピリピリしているようにも見えますし、警戒されても仕方ないですよね。
「どうやってこの場所を知った?」
「なんだ、お前達は新人か?」
「お前には関係ない。質問しているのはこっちだ」
「話になんねぇな。責任者を呼べ」
「断る」
んー……今にも戦いが起きそうな雰囲気ですね。
お互いに一歩も引かないといった感じで、ロイさんと兵士さんがにらみ合い、周りの兵士も鋭い視線をロイさんと僕たちに向けていますね。
このままではマズい。
そう思った時でした。
「何かあったのか?」
突然、上の方から声が聞こえました。
その声に釣られる様に上を見上げると、崖の穴から別の兵士さんが出てきました。
「隊長、不審者です!」
「不審者じゃねぇ! ったく……おいっ、こいつらをどうにかしろ!」
ロイさんが穴から出てきた兵士に向かって大きな声で叫びました。
「…………っ! おい、てめぇら、その方達を早く通せっ!」
隊長と呼ばれた人の目がロイさんを見た瞬間、大きく見開かれ、怒鳴りつけるように僕たちを睨んでいた兵士さん達に指示を出しました。
「よろしいのですか?」
「俺がいいって言ってんだろっ! 早くしろっ!」
「は、はいっ!」
隊長と呼ばれているだけありますね。
再び兵士さん達を怒鳴りつけると、僕たちを睨んでいた兵士さん達が一斉に動き出し、壁に向かい走り出すと、大きな岩の前で止まりました。
「「「せーのっ!!!」」」
そして、兵士さん達が大きな岩を全員で押し始めると、岩がゆっくりと動き出し、通路となっているのでしょうか?
人が通れる穴が見えてきました。
「どうぞ、お通りください」
「おぅ」
どうやら身分証の確認とかはいらないみたいですね。
未だに納得していないような表情で見送られながら僕たちはロイさんに続いて穴の中に入っていきます。
「あ、閉められちゃいましたよ?」
「それでいい。その為の穴だからな」
「でも、どうしてあんなに警戒されてたのですか?」
「あの場所は秘密の入り口だからな」
という事は、本来ならばあの場所から入国する訳ではないって事ですかね?
だからあんなに警戒されていたと。
「もしかしてロイって偉いの?」
「いや、俺はただの冒険者だぜ? 偉くはねぇよ」
と言いますけど、この場所から入った事と隊長さんの態度からはそうは見えませんけどね。
そして、それを証明するように、先ほどの隊長さんでしょうか?
暫く進むと、その人が行く手を阻むように通路の真ん中で待っていました。
「お久しぶりです。ロイ様」
「おぅ」
やっぱりロイさんは偉い人みたいですね。
隊長さんがロイさんの事をロイ様と呼び、頭を下げると、ロイさんは片手をあげてそれに応えました。
「先ほどは大変失礼いたしました」
「構わねぇよ。だが、ガキを見張りに立たせるのはいいが、躾だけはしっかりとしとけ」
「肝に銘じておきます」
「それじゃ、俺はいくぜ?」
「はいっ! 兵士達には伝えておきます」
「おぅ。頼んだぜ」
隊長さんがロイさんに頭を下げると、走り出しました。
どうやら本当に兵士さん達に伝えに行ってくれたようですね。
「やっぱりロイは偉い?」
「そんな事ねぇよ」
「でも、隊長さんが畏まってましたよ?」
「そこは色々と事情があってな。それに、嬢ちゃん達だって同じようなもんだろ?」
確かにそうかもしれませんね。
僕たちだって別に偉い訳ではありませんが、ナナシキでは色んな人が丁寧に接してくれます。
それと同じような感じですかね?
でも、それは僕達はナナシキではそれなりの立場があるからであって理由があります。
それと同じだとすると……?
まぁ、詮索はしない方がいいですよね。
ロイさんは事情があると言っていました。
それってあまり触れられたくない事だと思います。
それでも、気になる事が一つありますね。
どうしてもこれだけは聞きたい事があったのです!
「えっと、ロイさんって何歳なのですか?」
「ん? いきなりどうした?」
「いえ、さっきの隊長さんとの話で、ガキの躾がどうこういっていましたので、実はロイさんの年齢って僕たちが思っているよりも上なのかなと思いまして」
だってそうですよね?
あれだけ立派な髭を生やした人をガキ呼ばわりですからね。
まぁ、比喩表現かもしれませんけど、それが少し気になりました。
「俺は二十五だ……ん? 今年、二十六になるんだっけか?」
「そうだな。俺と同い年だから今年二十六だな」
「だそうだ」
「僕と十歳も離れているのですね」
僕は今年十六歳になりましたからね。
「逆に俺からしたらたった十しか離れてないのかと思うけどなっ!」
「むー……それだと僕がもっと幼く見えるって言ってるみたいじゃないですか」
「実際に、初めて会った時は十二歳くらいだと思ったからな!」
流石に失礼です!
確かに同年代に比べれば背も小さくてちんちくりかもしれませんが、これでも立派に成人してますからね!
「そう怒んなって。どうしても、あいつらと比べると嬢ちゃんが幼く見えてな」
「あいつら?」
「おぅ、入口で会ったあいつらだよ」
もしかして、さっきの兵士さん達の事ですかね?
「えっと、さっきの人達とどうして僕を比べるのですか?」
「どうしてって……嬢ちゃんと同い年くらいだろ、あいつら」
「冗談ですよね?」
「いや、それくらいだと思うぜ?」
どうやら冗談ではないみたいです。
あれだけ立派な髭を生やしていたので、てっきりおじさんだと思っていましたが、あれで僕と同い年くらいみたいなのです。
てっきりロイさんの比喩表現かと思いましたが、本当にロイさんからしたら子供だったのですね。
「何だか、ドワーフって不思議な人なのですね」
「嬢ちゃんに言われたくないけどなっ! 逆にエルだってこう見えて……」
「ロイ。弓で撃っていい?」
「今更だろ? みんなエルの年齢くらい知ってるぞ。隠しても無駄だ!」
そういう問題ではないと思いますけどね。
ですが、年齢の事で不思議に思っても仕方ないですね。
こう見えてキアラちゃんだって……。
「ユアンさん、どうか、しましたか?」
「ナンデモナイデス」
うん。キアラちゃんが怖いので年齢の事は触れないのが一番だと思います!
僕にはロイさんのように年齢に触れるのは出来そうにありませんからね。
これは精霊族の不思議として片付けるのが一番ですね!
ともあれ、こうして僕たちはドワーフの国へと辿り着く事が出来ました。
後は温泉……ではなく、シアさんの武器を治せる鍛冶師を探すだけですね!
そして、ロイさんに案内され暫く進むと、僕たちは街の中へとたどり着き、驚く事になりました。
エルフ国とはまた違った風景が広がっていたのです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます