第511話 弓月の刻と火龍の翼、ドワーフの街に入る

 「なんか、凄い場所ですねここは」

 「落ちたら危険」

 「まず助からないだろうね」

 「それに、やたらと暑いです」

 「私はちょうどいいなー」


 ロイさんの案内で僕たちはドワーフの街へと辿り着くと、そこには目を疑う光景が広がっていました。

 

 「えっと、ここはどうなっているのですか?」

 「ここは元々は火山だった場所らしいな」

 「そんな場所に街を作って大丈夫なのですか?」

 「問題ないぜ。火山としてはもう死んでいる状態らしいからな」

 「という事は、噴火はもうしないという事ですかね?」

 「そうなるな」


 それなら安心なのですかね?

 それにしてもすごい場所ですね。

 僕たちは今、街を見下ろす形でドワーフの街を観察しています。

 ですが、街といっても家屋などは見当たらず、これは昔は火山だったという名残でしょうか?

 中央に底が見えないほどの深くて大きな穴があり、それを囲むように柵が建てられ、人が移動できる道がありました。

 

 「街の人はどこで生活しているのですか?」

 「崖沿いに横穴があるだろ? その先だ」


 それでさっきから人が横穴を出入りしているのですね。

 どうやらここは街の中心となるようで、横穴を通り、居住区や商業区などを行き来するみたいですね。

 

 「不便じゃないですか?」

 「まぁ、生活は不便だろうな」

 「それじゃ、どうしてこんな場所で生活をしているのですか?」

 「便利だからだろうな」

 「どっちですか?」

 「両方だな。生活は確かに不便かもしれねぇが、ドワーフの生活の基盤は鍛冶だろ? 鍛冶をするのならこの場所は便利なんだぜ。鍛冶に使う鉱石が山ほど採れるからな」


 生活の為に選んだのではなく、仕事の為にこの地を選んだという事なのですかね?


 「それに、住む場所はここではねぇからな。横穴を抜けた先には外に繋がってる」

 「では、そこにドワーフの方々は住んでいるのですね?」

 「そうだな……それじゃ、エル。後は任せた。嬢ちゃん達を案内してやってくれ。俺はいく所がある」

 「わかった」

 「おぅ、夕方には戻れたら戻る」


 そう言って、ロイさんは僕たちが出てきた横穴に戻っていってしまいました。

 んー……。

 やっぱり少しだけピリピリしているような感じがしますね。


 「それじゃ、まずは宿でもとりましょうか」

 「わかりました」

 「こっちよ」


 エルさんが先導するように歩き出したので、僕たちはそれに続きます。

 

 「こっちだったかな。正直、うろ覚えで自信がない。迷ったらごめんね」

 「構いませんよ。僕たちは全くわかりませんからね」

 「でも、どうしてエルがここの案内できる?」

 「あ、そういえばそうですね。エルさんって此処に来たことがあるのですか?」

 「昔に一度だけね」

 「そうなのですね。もしかして、それってロイさんに関係する事ですか?」

 「するといえばするかな?」

 「もしかして、あの時の話か?」

 「そんな所ね……良かった、こっちであってるみたい」


 この感じですと、ユージンさんとルカさんも詳しくは知らないみたいですね。

 ですが、それを追求する訳にもいきませんね。

 誰にだって詮索されたくない過去はあると思いますからね。

 話す気があるのなら、とっくにロイさんが話していると思いますので。


 「それにしても、本当に迷いそうですね」

 「そういう造りだからね。特にこちら側は」

 「こちら側?」

 「ロイが言っていたでしょ? 私達が入ってきたのは秘密の入り口だって。だから、あっちは複雑な造りになっているの」


 それだけ重要な場所でもあるって事ですかね?

 それならさっきから兵士さんとすれ違う理由にも納得がいきますね。

 でも、そんな場所を僕たちが歩いていて大丈夫なのですかね?

 今の所は兵士さん達に呼び止められる事はありませんので、大丈夫だとは思いますけど、少し不安になります。

 ですが、その心配は杞憂だったようで、横穴に入り、降るように坂を下りているとついに一般のドワーフの人達が歩く場所へと辿り着く事が出来ました。

 まぁ、そこに辿り着くまでに色々とありましたけどね。

 検問のような場所を通ったりして、エルさんが事情を説明したりとか、固く閉ざされた扉を兵士さんに開けてもらったりなどね。


 「下に降りると余計に暑い」

 「大丈夫ですか?」

 「まだ平気。だけど、やっぱり暑いのは苦手」


 影狼族ですからね。

 寒いのは得意でもやっぱり暑いのは苦手みたいです。

 その割に夜は暑くても引っ付いてきますけどね。

 でも、どうしてこんなに暑いのでしょうか?


 「穴を覗けばわかるよ」

 「穴ですか?」


 エルさんに言われ、僕は中央に空いた深い穴を覗き込みました。


 「煙が出てますね。もしかして、この下は……きゃっ!」

 

 柵に手をかけ、穴を覗いた瞬間でした。

 誰かが後ろから僕を押しました!


 「きゃっ! だって」

 「もぉ……エルさん! 驚くからやめてくださいよ!」

 

 その犯人はエルさんでした。

 どうやら僕を驚かせようとしてやったみたいです!

 正直、かなりびっくりしました。

 柵のお陰で落ちる事はないとは思いますが、それでも落ちるかもしれない場所で後ろから押されれば誰でもびっくりしますよね?

 それに、つい最近に怖い思いをしたばかりですからね。

 まぁ、あれは蜘蛛が原因でしたけど。


 「ごめんね。だけど、可愛かったよ?」

 「そういう問題じゃありませんよ! 次にやったら怒りますからね?」

 「わかった。次は別の方法を考える」

 「考えなくていいです!」

 

 エルさんとかなり打ち解けられたからでしょうか?

 最近、エルさんに悪戯されてばかりいる気がしますね。


 「それで、暑い原因はなんですか?」

 「多分だけど、蒸気が原因かな」

 「湯気って事ですか?」

 「そういう事ね。確か、この穴の底には温泉の元が流れているって聞いた事があるよ」


 あー……それでムシムシするのですね。

 空気が湿っているような気がしましたが、それが原因のようです。

 

 「それって大丈夫なのか?」

 「何が?」

 「いや、温泉の元が流れてるんだろ? 蒸気には有毒な成分とか含まれているんじゃないか?」

 「そこまではわからないわね。私も聞いただけだから」 

 「大丈夫だと思いますよ。温泉に有毒成分があるかはわかりませんが、そんな感じはしませんからね。それに、空気が上に流れているので、例えそうだとしても空気は循環してますからね」


 それに、もし大丈夫じゃなかったら街の人が暮らせる筈がありませんからね。

 恐らくですけど、穴の底から魔力を感じますので、それが吹き上げるなどのを影響して…………。


 「え?」

 「ユアン、何かあった?」

 「あ、はい…………凄い事に気付いてしまいました」

 「凄い事?」

 

 まさか、こんな事があるのですかね?

 …………うん。やっぱり見間違えではないようです。

 

 「えっと、僕はここまで探知魔法を使ってませんでしたよね?」

 「うん。これだけのメンバーが揃ってるから途中から使わなくなった」


 そうなのですよね。

 途中から探知魔法を使わずに僕たちはここまできました。

 ハウンズからガンディアまで魔物はほとんどいませんでしたし、ユージンさん達からのアドバイスで、僕の探知魔法を頼るのではなく、冒険者ならば各々で魔物の気配を察知できたほうがいいという事で、敢えて使ってこなかったのです。

 

 「ですが、今使ってみたのですよ」

 「どうして?」

 「この穴の中から魔力が流れているからです」


 なので、僕はもしかして何かあるのかなと軽い気持ちで探知魔法を使いました。

 もしかしたら、魔物が生息している可能性がありますからね。

 何せ、ここは元は火山だったらしいですからね。十分にあり得ると思ったのです。

 

 「結果は?」

 「反応がありました」


 しかもです。


 「大きな赤い点。恐らくですが……龍神様です」

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