第509話 弓月の刻と火龍の翼、ドワーフの国へと向かう
「暑いと聞いていましたが……本当に暑いですね」
狼族の国に立ち寄り、ラシオス様からの好意で一泊させて頂いた僕たちは、ドワーフの国へと向けて朝から出発をしました。
「うん。もわっとしてる」
時期的な問題もあると思いますが、山なのにここまで暑いのは驚きました。
ナナシキの北側にも山はありますが、そこは未だに雪が積もり寒かったからですからね。
「火山が原因かもね」
「火山ですか。ちょっと怖いですね」
「大丈夫だよ。噴火する時は前兆があるみたいだし、ここ数十年は安定しているみたいだよ」
「けど、地震は頻繁に起きているのですよね?」
「まぁ、マグマは動いているからね」
自然現象とはいえ、不思議ですよね。
僕たちは何度か大きな地震を体験した事がありますが、それは全て魔物や女神などが原因だったので、自然現象で地震を体験するのは初めてだったりします。
「しかし、嬢ちゃん達は良かったのか?」
「何がですか?」
「狼王の護衛よ。つけてもらえば案内もしてもらえて楽だったんじゃない?」
狼族の国に立ち寄り、ラシオス様と対談をしたのですが、その時に、ラシオス様から兵士を護衛につけると提案をして頂きました。 僕たちはそれを丁重にお断りしたのですよね。
「そうかもしれませんが、知らない人と一緒なのは緊張しますからね。それに、火龍の翼の皆さんが一緒ですので危ない事はないですよね?」
「それを言ったらこっちも一緒だけどな」
「ユアンちゃん達と一緒なら危険な事に巻き込まれる事はあっても危険はないわよね」
巻き込まれるって……もしかして、それが僕たちの印象ですかね?
まぁ、間違いではありませんけど、毎回毎回トラブルに巻き込まれる訳ではないと思いますので、流石に否定はさせてもらいました。
それに、ユージンさん達と初めて会った時は、ユージンさん達が大きなトラブル巻き込まれていた側ですからね。
「国境での戦い。ユージン達が魔物に囲まれてた。ユージン達も同じようなもの」
「そういえば、そんな事もありましたね。そう考えると、ユージンさん達もトラブル体質なのかもしれませんね」
「それを言われちゃ反論は出来ないな」
「だけど、私達だって毎回あんな目に合っている訳ではないのよ?」
「嬢ちゃん達と関わった時くらいだなっ」
「もしかして、私達って相性悪いのかな?」
「そんな事ないですよ。例えそうだとしても、僕たちにとっては大事な繋がりですからね」
火龍の翼の皆さんとの出来事を考えればいつも大きな事が起きているのは確かですけどね。
約一年の間で起きた出来事ですが、どれも内容が濃かったですが、それがあったからこそ今の関係を築けているとも考えられます。
「そう言って貰えると嬉しいな」
「私達もユアンちゃん達に出会えて良かったと思ってるわよ」
そんな他愛のない話をしながら、僕たちは山を進みました。
「そういえば、今更ですけどドワーフの国ってどんな所なのですか?」
「何もない所だな」
「何もないのですか?」
「あぁ。職人の国だからな。特に面白い物はないと思うぜ」
「特産品とかはないの?」
「特にないな。敢えてあげるとすれば金属や鉱石だが、嬢ちゃん達がそれを見ても楽しめないだろ?」
綺麗な鉱石とかだったら興味を持つかもしれませんが、基本的にはそうかもしれませんね。
「まぁ、後は温泉があるくらいだろうな」
「温泉?」
「自然に出来たお風呂の事よ」
お風呂が自然に出来るのですか?
むむむ……それはちょっと興味がありますね。
「でも、どうしてお風呂が自然に出来るのですか?」
「科学者によれば、地中奥底に溜まったマグマによって地下水が暖められ、それが噴出して温泉になっていると言われているわね」
そんな事が起きるのですね。
改めて思いますが、自然って本当にすごいですね。
まぁ、それを調べて証明する科学者の人も凄いと思いますけどね。
「ユアン、興味ある?」
「はい! なんだか楽しそうです!」
前にシアさんと一緒に色んな種類があるお風呂に入った事がありましたが、色んな体験が出来て楽しかったですからね!
「けど、お風呂はお風呂じゃない?」
「どれも同じだと思うの」
「温まれれば同じだなー」
それは、体験した事がないからそう思うだけだと思います!
「俺も同意見だが、実際に入ってみるとかなり違うと思うぜ?」
「そうなの?」
「おぅ。なんでも、体の疲れを癒したり、傷を早く治す効果があったりするらしいな」
「そうなんですね。それなら、ちょっと興味があるかも」
「まぁ、俺は風呂なんて面倒だから嫌いだけどなっ!」
「ダメですよ。お風呂はちゃんと入らないと、汚れは落ちませんからね」
「そうは言ってもなぁ……」
「冒険者をしているといつでもお風呂に入れるわけではないからな」
「ユアンちゃん達みたく転移魔法を使える訳ではないからね」
「改めてずるいと思う」
流石に、僕たちだってお風呂の為に家に帰ったりはしませんけどね。
まぁ、これまでにトイレで何回も家に戻っているので説得力はないかもしれませんけどね。
「でも、ユアンは私と出会うまでお風呂に入った事なかった」
「な、なんでそれを言うのですか!」
「って事は、嬢ちゃんはずっと汚れてたのか?」
「ち、違いますよ! 僕は
それに、あの頃は凄く貧乏でしたからね。
というよりも、お金は多少はありましたが、お金を貯める為に節約をしていたので、高い宿屋に泊まる機会がなかっただけです。
「それでお風呂の良さを語られてもなぁ」
「いいじゃないですか。実際に入ってみると気持ちいですよね?」
「入ればな。だけど、入るまでがめんどくせぇ!」
「でも、折角温泉というのがあるのなら、入りましょうね?」
「なんだ、嬢ちゃん誘ってるのか?」
「いえ、流石に別々ですよ?」
「ユージンの変態」
「冗談でもあり得ないわね」
当然ですよね。
流石に気を許しているからといって、男性と一緒にお風呂にはいるのは遠慮させて貰います。
でも、温泉ですか……。
これで楽しみが一つ増えましたね!
「ユアン、目的が違う……」
「わかっていますよ。目的はシアさんの剣を治す事です。だけど、折角なので楽しんだ方がいいと思いますよ。それとも、一緒に入るのは嫌ですか?」
「嫌じゃない。それは楽しみ」
「良かったです。シアさんが楽しい方が僕も嬉しいですからね!」
シアさんがずっと剣の事を気にしているのを忘れてはいません。
一番の目的はシアさんの剣が無事に治り、シアさんが元気になる事です。
ですが、その他の事でもシアさんが元気になれるならそれも大事だと思うのです。
同時にそれが僕の役目でもあると思います。
お嫁さんを一番元気づけられるのは僕ですからね!
「では、温泉を目指して進みましょう!」
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