第508話 補助魔法使い、ドワーフの国を知る
「ドワーフの国ってそんな場所にあったのですね」
「そんなで悪かったなっ!」
「あ、いえ……そう意味ではなくてですね?」
「がははっ! 冗談だ、気にしなくていい」
「はい……ですが、すみませんでした」
よ、良かったです。
本気でロイさんを怒らせてしまったと思いましたが、ロイさんはいつものように豪快に笑ってくれました。
まぁ、本当に一瞬怖かったですけどね。
ですが、ユージンさん達、火龍の翼の皆さんが僕が焦ってしまった所を見て笑っているくらいなので、本当に冗談のようで安心しました。
「でも、意外とドワーフの国の位置って知られていないのですね」
「まぁ、知っている人は知っているだろうがな」
「そうなのですね?」
「あぁ……俺は当て嵌まらないが、あいつらは職人という肩書を大事にして基本的には国から出ようとしねぇからな」
「確かに、ロイさん以外にドワーフの人と出会った事がありませんでしたが、そういう理由があったのですね」
んー……どうやらロイさんは同郷の人の事をよく思っていないのが伝わってきますね。
僕はロイさんの事情が気になるものの、そこには触れずに話を戻します。
「どうしてドワーフの国の事はあまり広まっていないのですか? ドワーフの人が作った武器などは流通していますよね?」
僕はそこが不思議なのですよね。
ドワーフの人が打った剣などはとても品質が良く、冒険者からも愛されていて、大きな街に行けば初心者用からベテランまで武器屋に幅広く取り揃えてあるくらいに有名なのです。
ですが、その品が並べられているのにも関わらず、ドワーフの国をみんな知らないというのはおかしいですよね?
もしかして、お店に並んでいる武器は本当は偽物なのかと思う程に不思議なのです。
「別におかしくはないんじゃない?」
「どうしてですか?」
「ドワーフの国の位置を考えてみて」
「ドワーフの国の位置ですか? えっと、狼族の北側に広がる山脈ですよね?」
まさかそんな場所にドワーフがあるとは思いもしませんよね?
なので僕はさっき、そんな場所って言ってしまったのですよね。
ですが、ルカさんとエルさんに国の位置を考えろと言われてもピンとはきませんでした。
「ユアン。ナナシキとトレンティアと一緒」
「ナナシキとトレンティアですか?」
「うん。ルード帝国に売られているポーションはトレンティアから広まっている」
「あぁ……そういう事ですね!
シアさんにそこまで言われてようやく理解しました。
トレンティアからポーションが各地に売られていますが、作っているのはナナシキです。
ですが、作られている場所は公表していないという事なので、世間はナナシキでポーションが作られている事はあまり知られていません。
なので、トレンティアがルード帝国ではポーションを独占販売が出来ている状況になっているのです。
それに似た状況になっているのが、ドワーフの国と狼族なのですね。
「そういう事だな。ドワーフの国で作られた剣は狼族の商人が売りさばいている」
「でも、それだと狼族が主に販売していれば、みんなドワーフの国の場所を知っていそうじゃないですか?」
「そうね。だから、知っている人は知っているの。だけど、大概の人はそこまで気にしないわよ」
「欲しいものが目の前にあるのならば、わざわざそこまで調べたりしないわよね?」
「それもそうですね」
これがドワーフの国まで行かないと手に入れられないとなれば別ですが、そうしなくても欲しいものが手に入るならいちいち気にしないですよね。
そんな事よりも、目の前で売られている剣が本物かどうかの方が気になりますからね。
「まぁ、これでロイの国が何処にあるかはわかったな?」
「はい。ですが、本当にいいのですか?」
「気にするなっ! 俺達が決めた事だからなっ!」
「えぇ。ロイが決めたのなら私達も付き合うだけよ」
「馬鹿の子守は私達の役目だから」
「馬鹿は余計だけどなっ!」
子守は否定しないのですね。
「そういう事だ。嬢ちゃんが気にする事ではないから安心してくれ。どうせ、いつかは通らなければいけない道だった事には変わりないからな」
「通らないければいけない道ですか?」
「いや、気にしないでくれ。これは俺達の問題だからな」
「そういう事だ」
むむむ?
どうやらユージンさん達はユージンさん達で何かあるみたいですね。
「それより、出発はどうするの?」
「リンシアちゃんの武器を早めに治したいのなら出発は早い方がいいと思うよ」
「それは聞いてみない事にはわかりませんね」
今更ですが、僕はまだユージンさん達のお家に居ます。
火龍の翼の皆さんがこうして集まっているのは、みんなでドワーフの国に行く事が決まり、その打ち合わせをしているからです。
「聞くって誰に聞くつもりだ?」
「ラシオス様ですよ」
「誰だそいつは?」
あれ?
もしかして知らないのですかね?
「ロイは少しは勉強するべき」
「エルの言う通りね。ラシオス様は狼王よ」
「あぁ……あいつか!」
良かったです。
エルさん達はちゃんと知っていたようですね。
詳しく説明する手間が省けそうです。
「もしかしてだが、そこまで移動するつもりか?」
「そのつもりですよ。普通に移動したら凄く時間がかかりますからね!」
狼族の国とナナシキがどれほど離れているのかはわかりませんが、普通に向かったら一か月以上かかってしまうかもしれません。
そうなると、シアさんはその間ずっとへこんだままなってしまいます。
そんな姿を見てはいられませんからね。
「はぁ……相変わらずだな」
「そう言われても困ります。それに、凄いのは僕ではなくて、ラディくん達ですからね」
僕はまだ狼族の国へと行った事はないので、、転移魔法で飛ぶことは出来ません。
なので、狼族の国へと行くにはラディくんの配下を頼るしかないのです。
「一つ聞いていいか?」
「なんですか?」
「どうして嬢ちゃん達がまだBランクの冒険者なんだ?」
「んー……単純に依頼を受けないからじゃないですか?」
なんだかんだ言って、パーティーを組んでからは冒険者といいながら冒険者ギルドで依頼を受けたのって数えるほどしかありませんからね。
逆にそれでBランク迄あがった事の方が驚きです。
「そうかもしれないが実力はとっくに……いや、考えるのはよそう。悲しくなる」
「そうね。私達みたいな凡人とユアンちゃん達を比べる事が間違っているのだから」
「不条理」
「だなっ!」
凡人って言いますけど、十分にユージンさん達は凄い人達ですけどね。
戦闘能力だけを見れば、今の僕たちならユージンさん達を上回れるかもしれませんが、冒険者の知識などは圧倒的にユージンさん達の方が上ですしね。
「まぁ、その話は置いておいて、出発は狼王の返事を頂いてからって事でいいのか?」
「はい。そのつもりでいます」
そうじゃないと、流石に怒られてしまいそうですからね。
もちろん、いきなり狼族の国の中へと移動をしたりなんかしませんが、それでも僕たちが訪問するならば事前に伝えておいた方がいいと思うのです。
万が一、攻め込んできたと勘違いされたら困りますからね。
「という事は、国へと寄って行くつもりか?」
「一応はそのつもりでいますよ。あれからどうなったのかを確認しておきたいですからね」
戦争の賠償として、ラシオス様とクドー様には鼠族の難民を受け入れて貰っていますので、上手くいっているのか確認するのは大事です。
一応は問題ないとアンリ様からは聞いていますが、手助け出来る事があればしてあげたいですからね。
フォクシアではなくて、ナナシキからの援助として。
「そういう事なら俺達も構わない」
「ありがとうございます。では、出発が決まりましたらまた連絡するという事でいいですか?」
「構わない。といっても、明日にでも出発する事になる予感がするがな」
「奇遇ね。私もそう思うわ」
「同じく」
「準備はしておくぜっ!」
流石にそんな都合よくいかないと思いますけどね。
ラシオス様だって忙しいでしょうし、いつか国に来るときは歓迎すると言ってくれたので、そうだとしたら準備する時間だって必要だと思います。
そう考えると、お邪魔するのは迷惑ですかね?
近くを通る事だけ伝えれば良かったのかもしれません。
だけど、もう手紙は送ってしまいましたし今更撤回は出来ませんね。
という事で、僕たちはラシオス様の返事が届き次第出発する事に決まりました。
そして、次の日のお昼頃。
僕たち弓月の刻と火龍の翼の皆さんで狼族の国へと向かう事になりました。
随分と早い対応でしたね。
何かあったのでしょうか?
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