第507話 閑話 補助魔法使い達、獣化する2
チヨリさんとアリア様からシアさんも獣化できると言われ、シアさんが獣化を躊躇わずに試すと、僕の前に黒と灰色の毛に覆われ、シアさんの特徴と一致する金色の瞳を持った大きな狼が現れました。
体調は一メートル半くらいで、僕が獣化したよりも小さいですが、それでも細身ですらっとした体型は、僕が知っている狼よりも大きいと思います!
まぁ、実際に狼は見た事ありませんけどね。
「シアさん、獣化はどうですか?」
「がう!」
シアさんから面白いと返事がありました。
ですが……。
「もしかして、喋れないのですか?」
「ぁう……」
そうみたい……とシアさんが少しだけ悲しそうに答えます。
「もしかして失敗ですかね?」
「そうみたいだなー」
「んー……でも、喋れない以外は立派なので問題はないですよね?」
「がうっ!」
実際にこうやってシアさんと会話が出来ますし、喋れないのは何の問題にはなりませんし、シアさんも問題ないと言っていますしね。
「がうっ!」
「ふぇっ? い、いきなりどうしたのですか?」
そして、暫くの間、獣化したシアさんをマジマジと眺めていると、シアさんがいきなり僕の周りを歩きだしました。
しかも、体を擦りつけるようにして僕の周りをぐるぐると回り始めたのです。
「シアさん?」
「がう?」
「何? じゃないですよ。むしろ、僕が聞きたいくらいです」
「あぅあぅ」
「んー……それが本能なのですかね?」
シアさんが言うには、特に意味はないといいます。
ただ何となく、こうしたかったと言っているのです。
「マーキングだなー」
「マーキングですか?」
「うむー。リンシアはユアンは私のって主張してるのだと思うぞー」
「そういう事なのですね」
「がう」
そうかもしれないと、シアさんも納得しているので、チヨリさんの言う事が正解かもしれませんね。
恐らくですが、シアさんは影狼の本能に従って行動をしているのだと思います。
「わふっ」
「わっ! もぉ、シアさん!」
すると、今度はシアさんがいきなり僕に飛び掛かってきました。
もちろん襲う訳ではなく、僕に抱き着くように前足を僕の肩へとかけてきたのです。
「もぉ……重いですよ!」
「はふはふ!」
女性に対して重いと言うのは失礼かもしれませんが、今のシアさんは実際に重いです!
まぁ、それも当然ですよね。
シアさんの全長は僕とほぼ同じくらいなのに、僕に寄りかかるようにしてくれば重いに決まってます。
人と違って、後ろ足に体重を残す事は出来ませんからね。
「ひゃぅっ! し、シアさんくすぐったいです……」
「すんすん……はふぅ~」
シアさんに重いと抗議すると、今度は僕の首へと鼻を寄せて、匂いを嗅ぎ始めました。
そして、いい匂いとか言い始めるのです!
「シアさん、ちょっと離れて……わっ!」
流石に耐えきれませんでした。
シアさんに体重をかけられ、首を鼻息でくすぐられて、力が抜けた僕はシアさんに押し倒される形で、地面へと転がりました。
幸いな事に下が地面ではなく、芝生のようになっていたので、そこまで汚れはしませんが、お尻をぶつけたようで少しだけ痛いです。
「あうあうっ!」
しかし、それでもシアさんはお構いなしに、僕の上へと覆いかぶさり、顔や首をペロペロと舐め始めました。
「く、くすぐったいですから、やめてくださいよ~」
「はふぅ~」
美味しいじゃないですよ!
僕は食べ物じゃないですからね!
まぁ、流石にそれはシアさんも理解しているようで、舐めてくるばかりで噛みはしませんけどね。
だけど、僕が何度もダメと言っているのに、シアさんは舐めるのをやめてくれません!
なので、僕も流石に我慢の限界が訪れました!
「シアさん? 僕はやめてくださいって言ってますよ?」
「あう…………」
これも本能ですかね?
僕がシアさんを怒ると、シアさんは尻尾を股の間に挟み、耳をペタンとさせ、後ずさるように僕から離れました。
えっと、確かこれは怯えている合図でしたっけ?
「がうん……」
「何ですか?」
「あうん……」
ユアン、ごめんとシアさんが謝りました。
「はい。わかってくれればいいです」
「わふわふっ?」
「もう怒ってませんよ。それに…………シアさんにこういう事をされるのは嫌ではありませんからね。なので、こういうのは二人きりの時にお願いします」
あまり大きな声で言えないので、シアさんの耳元で囁くようにそう伝えました。
「がうっ!」
なんだか、影狼になったシアさんの方が感情豊かですね。
僕がそう伝えると、狼の姿でも嬉しそうにしているのがよくわかりました。
何せ、尻尾がブンブンと取れてしまわないかと心配になるほど振られていますし、へっへっっと舌を出して笑っていますからね。
「それで、二人でイチャついてるのはいいけど、ユアンは獣化せぬのか?」
「あ、そうでした」
シアさんとのやり取りですっかりと忘れていましたが、本来の目的は獣化の練習でしたね。
その為にチヨリさんに付き合ってもらったのに、その時間を無駄にする訳にはいきません。
「がうっ!」
「はいっ! 頑張ります!」
こうしてシアさんも応援してくれますしね。
では、早速挑戦してしまいましょうか。
「では、行きますよ」
獣化石を収納魔法から取り出して両手で包み込むように握り、意識を胸の奥底……本能に語り掛けるように目を閉じて集中します。
いい感じですね。
ポカポカとした暖かさが身体全体に広がっていくのがわかります。
そして、それが体に広がった頃を見計らい、獣化石に魔力を注ぎ……。
「獣化」
その言葉と共に体が変化していくのが分かりました。
一度目よりも二度目。
二度目よりも今回と、その変化がわかるような気がします。
それを証明するように、森の匂い、遠くから聞こえる鳥の声、前足から伝わる草の感覚。
全ての感覚が研ぎ澄まされていったのです。
「見事に変化したなー……」
「そうじゃな。体は立派になったのぉ」
「そうですね。体の方は成功といえるでしょう」
そうですよね!
僕もそう思います!
何となくですが、今までで一番大きな体に変化できたような気がします!
「わうっ! わうっ~!」
それを証明するように、シアさんが僕のお腹へと頭をすり寄せてきます。
これでわかりますよね?
シアさんの頭が僕のお腹辺りにあるのです!
つまりは僕の方が体が大きいって事です!
「だがなー……」
「がう?」
「いやなー。完全な成功とは言えないなー」
「がうう?」
「うむー。まぁ、直ぐにわかると思うぞー」
しかし、今回こそ成功したと思ったのに、チヨリさんは完全な成功ではないと言い切りました。
なので僕は、チヨリさんに何がダメなのかを尋ねる事にしました。
「こやや……こやっ!?」
しかし、ダメな理由は直ぐにわかりました!
「ほらなー?」
「こやぁ~……」
残念な事に、僕は人の言葉を話す事が出来なかったのです。
「がうがうっ」
ユアン、気にする事はない。
「こややん……こや、こーやっ!」
シアさん……うん、そうですよね!
そうでした。
僕はいつか成功する為に獣化の練習をしているのでした!
なので、例え失敗しても気にする事はないのですし、体の方は成功と言って頂けましたので、前よりも成長していると考える事も出来ます!
それに、獣化を解く方法をサンドラちゃんから教わっていますし、失敗したのならまた挑戦すればいいまでです!
なので、僕はもう一度獣化にするために、人の姿に戻ろうとしました。
ですが……。
「ユアン、やめておいた方がよいぞ」
「こやや?」
どうしてですか?
「獣化は体に負担がかかります。慣れてないうちは一日に一度にしておいた方が良いでしょう」
「こやー。こやぁ?」
そうなのですね。なら、このままの方がいいですか?
「そうだなー。体の方は上手くいっているからなー、まずは体に慣れる方がいいと思うぞー」
「そうですな。それを繰り返しているうちに、いずれ完全な成功へと近づける事になるでしょう」
「こやっ!」
そういう事ならチヨリさん達に従った方がいいですね。
「がうがう。わぅん?」
ユアン、私も体に慣れたい。森の中走ろ?と、僕の足元を飛び跳ねるようにしながら、シアさんが誘ってきます。
「こやんっ!」
そうですね!
「なら、わっち達もお供するぞー」
「その為に来ましたからな」
「うむ。存分に楽しませて貰おうかのぉ」
チヨリさん、アラン様、アリア様と順番に獣化をしていきます。
「こややー!」
「あぉーん!」
そして、僕とシアさんの出発の掛け声で僕たちは森の中へと駆け出しました。
目的地は特にありません。
ただ、森の中を自由に走り回るだけです。
ですが、それがとても楽しく思えたのです!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます