第13章 龍神編~炎~

第506話 閑話 補助魔法使い達、獣化する

 「ユアン様、大丈夫かー?」

 「こやっ!」

 「きついようでしたらペースを落としますので、いつでも言ってください」

 「こややっ!」


 大丈夫です!

 心配はいりません!

 僕はアラン様とチヨリさんにそう伝え、僕の前を走る二人を追いかけます。


 「うむ……ユアンも意外とやるのぉ」

 「こやぁ……」

 

 正直、かなりきついですけどね。それでも、何故か凄く楽しく感じます!

 なので、きつくても頑張れるような気がするのです。


 「わぅ」

 「こややん、こやぁ?」

 「わふん」

 「こややぁ~」


 それに、こうやってシアさんも僕を励ますように一緒に走ってくれてますからね!

 それにしても、森の中を駆けるって意外と大変ですね。

 それが、獣化しているのなら尚更です。

 それで、何故僕たちが獣化して森の中を走っているかと言うと、話は二時間ほど前に遡ります。


 「チヨリさんの獣化って凄いですよね」

 「んー? いきなりどうしたんだー?」

 「いえ、こうして一次的かもしれませんが、平和を取り戻したのですが、改めてあの時を思い返すと、チヨリさんとアラン様達の活躍は凄かったと思ったのです」


 鼬国との戦争が終わり、僕たちは再びナナシキで日常を送る事になりました。

 ですが、あの時の事はとても印象に残っていてふとした瞬間に色んなことを思い出す事が時々あるのです。


 「そんな事ないぞー。最終的にはユアン達がケリをつけたからなー」

 「最後はそうかもしれませんが、あそこまで辿り着くにはチヨリさん達の力がなかったら無理だったと思いますよ」

 「まぁ、それがわっち達の役目だからなー」

 「なので、改めて僕たちを手伝ってくれてありがとうございました」

 「うむー。だけどなー、それがわっち達の喜びでもあるからなー。これからも頼ってくれると嬉しいなー」

 「はい! その時はお願いします……それで、お願いがあるのですがいいですか?」

 「お願いかー? いいぞー」

 「えっ、まだ何も言ってませんよ?」

 「ユアンのお願いなら何でも聞くぞー。アンリの首をとれとか言うのなら流石に断るけどなー」

 「そんな事はいいませんよ!」


 アンリ様にもかなりお世話になっていますからね。

 そもそも誰かの命を狙うようなお願いなんてするつもりはありません。

 まぁ、チヨリさんが笑っているので冗談だとわかりますが、それでも焦るような冗談は本当に困ります。


 「それで、お願いって何だー?」

 「はい。また獣化を教えて欲しいです!」

 「獣化かー? どうしてだー?」

 「この前のチヨリさん達がかっこよかったからです!」


 僕も大きな体で獣化できるようになりましたが、それでもまだ完璧とは言えず、未だに獣化すると喋る事は出来ません。

 なので、時間がある時に練習をしたいと思ったのです。

 

 「ふむー。構わないぞー」

 「本当ですか?」

 「うむー。獣化は体で覚えるのが手っ取り早いからなー」

 「ありがとうございます!」


 という訳で、僕とチヨリさんはナナシキの北にある森へとやってきました。

 街で獣化するとまた大きな騒ぎになりそうですし、仕事を放りだしてしまう人が居そうですからね。

 誰とは言いませんけど。

 しかし……。


 「えっと、どうしてアラン様とアリア様……それにシアさんまで居るのですか?」


 何故か、予定外の人も増えてました。


 「ユアン様が獣化をすると聞きましたので、お供しようかと思いまして」

 「アランが行くなら私も行くに決まっておろう」


 まぁ、そういう事なら仕方ありませんね。

 ですが……。


 「シアさんは何してるのですか?」

 「嫁の安全を護るのは私の仕事。ダメ?」

 「ダメではありませんけど、仕事はいいのですか?」

 「平気。ラディに任せてある」


 あー……いつものパターンでしたか。

 ラディくんには後で謝らないといけませんね。

 ですが、こうやって来てしまった以上は仕方ありませんね。

 僕としてはこっそりと練習して後で驚かせたかったですけどね。


 「それなら折角じゃしシアも獣化を練習したらどうじゃ?」

 「私も? 私は魔族。獣化はできない」

 「そうなのですか?」

 「うん。おかーさんからそう教わった」


 影狼族は影狼という魔物から進化したらしいので獣化できそうなものですが、違うのですかね?


 「普通はそうかもなー」

 「普通はですか?」

 「うむー。リンシアなら出来ると思うぞー?」

 「どうして?」

 「シアが普通じゃないからじゃよ」


 シアさんが普通ではない?

 そう言われても、僕は首を傾げるばかりでした。

 そして、それはシアさんも同じのようで、僕と一緒になって首を傾げています。


 「何が違うの?」

 「お主がユアンの従者だからじゃよ」

 「違いますよ。シアさんは僕のお嫁さんです!」

 「そういう意味ではなくてな……まぁよい。シアからはユアンの魔力を感じる。その理由は単に影狼族としての能力なのか、それとも別の要因かわからぬがな。しかし、そのお陰でシアも獣化できるだろうと言っているのじゃ」


 シアさんから僕の魔力を感じるですか。

 アリア様は魔力の色や形を見る事が出来ると言っていましたので、それでわかったのですかね?

 確かに、僕とシアさんとの繋がりは凄いです。もう無敵と思えるほどに仲良しです。

 ですが、それだけでシアさんから僕の魔力を感じるというのは、ちょっと理解できませんね。

 あくまで魔力はその人のものであって、例えシアさんと僕が繋がっていても、僕の魔力がシアさんに存在しているのはあり得ない事だと思います。

 まぁ、僕が魔力の元を作って、シアさんがそれを使えば別ですけどね。

 ですが、普段からそういう事をしている訳ではないので、今はその状態ではないと思います。

 ちなみにですが、防御魔法は体を覆っているので僕の魔力を感じ取ってもそれは外側だけで内側には影響はないはずです。

 

 「なるほど。理解した」

 「えっ、シアさんはわかったのですか?」

 「うん。ユアンの魔力が私の中にある理由は一つしかない」

 

 むむむ?

 シアさんはその理由がわかったみたいです。

 という事は、そういうきっかけがあったという事ですかね?

 

 「わからない?」

 「はい、わからないです」

 「そう……」


 シアさんが少しだけシュンとなってしまいました。

 えっと、シアさんが落ち込むという事はそれだけ大きな事があったという事ですかね?

 そうでなければ、僕が忘れている事に落ち込まない理由がない筈です。

 なので、今まで起きた事を僕は必死に思い出します。

 そして、思い当たる事が一つだけありました。


 「もしかして、口移しですかね?」

 「うん。多分それだと思う」


 どうやら正解のようでした。

 いえ、本当にそれが正解なのかはわかりませんが、シアさんもあの時の事がきっかけだと思っているようです。

 

 「口移しってなんじゃ?」

 「ふぇっ!? え、えっと~……それは内緒です!」


 流石に言えません!

 シアさんが血の契約で操られていたので、それを助けるために自分の血をシアさんに口移しで飲ませたなんて恥ずかしくて言えません!


 「と、とにかく……シアさんも獣化できるって事でいいのですか?」

 「うむー。出来ると思うぞー?」

 「そうなのですね。シアさん、どうしますか?」

 「する。楽しそう」

 

 即答でした。

 確かに獣化は楽しいですからね。

 普段では出来ない事が出来るようになりますからね。

 まぁ、逆に普段出来る事が出来なくもなりますけどね。


 「どうすればいい?」

 「これを使えばいいぞー」

 「わかった」


 チヨリさんから獣化石をシアさんが受け取りました。


 「後は己の本能と向き合うだけですね」

 「うん。やってみる」


 シアさんから魔力が溢れるのがわかりました。

 凄いですね。

 何が凄いって、全く躊躇いがない事が凄いと思います。

 シアさんは僕が獣化した時の事をよく知っていると思いますが、失敗すると大変な事になるのです。

 何せ、僕が初めて獣化した時は小さい姿になって一日元に戻る事が出来ませんでしたからね。

 それでもシアさんは迷いませんでした。

 それで、これは直感ですが、少なくとも失敗はしないと思います。

 あ、でも……ちっちゃい狼のシアさんを抱っこするのもいいですよね!

 なので、失敗しても僕は全然かまわない。

 そう思いながらシアさんを眺めていると、シアさんの姿が一瞬光に包まれました。

 そして、そこには……。


 「うわぁ……凄く、かっこいいです!」


 黒と灰色の毛に覆われた狼が居ました!

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