第505話 補助魔法使い達、ユージン宅に向かう

 「……あん」

 「ん……?」

 「ユアン、朝になった。起きる」

 「んー……もう、朝ですか」


 目を覚ますと、仰向けになって眠っている僕の上でシアさんが四つん這いになって、尻尾をブンブンと振っていました。


 「うん。朝。ロイの所に行く」

 「そうですねー」

 「うん。早く、早く」

 「わかりましたー……って、まだ六の所を回ったばかりですよ?」

 「うん。だけど、朝だよ?」

 「そうかもしれないですけど、こんな早朝から尋ねたら失礼ですよ。なので、もう少しだけ我慢してくださいね」

 「むー……わかった」


 そこはシアさんも理解しているみたいですね。ただ、気持ちを抑えられなかったという感じですかね?

 まぁ、仕方ありませんね。

 昨夜はずっとぐずっていましたし、不安からか僕にくっつきながら震えていましたからね。


 「それじゃ、直ぐに出かけられるように準備だけしましょうか」

 「うん」

 「その前に……シアさん、おはようございます」

 「おはよう。ユアン」


 恒例となった朝の挨拶を済ませ、僕は寝間着からいつものローブに着替え、部屋から出ました。

 もちろん、ピコフリ体操は忘れていませんよ?

 ちゃんと、シアさんと一緒に体操をして、リビングへと向かいました。

 すると、起こされずに起きた事にリコさんに驚かれ、少しだけジーアさんが残念そうされましたけどね。

 ジーアさんの日課を奪ってしまい申し訳なかったですが、いつも感謝している事を伝えると嬉しそうにしてくれたので良かったです。

 そして、朝食を終え、部屋の中を歩き回るシアさんを宥めつつ、時計の針が八を回った所で、僕はシアさんとサンドラちゃんと共に、家を出発しました。

 まぁ、サンドラちゃんとは直ぐにお別れですけどね。


 「チヨリには伝えとくなー」

 「はい。早く終わるようでしたらお店に向かいますが、あまり期待はしないで貰えると助かります」

 「うんー。ちゃんとシアの事を頼むなー」

 「はい。では、気をつけて行ってきてくださいね」

 「うんー。ユアンとシアもなー」


 お家の前でサンドラちゃんをお見送りし、僕たちもユージンさんとロイさんが暮らすお家へと向かいました。

 といっても、直ぐ近くですけどね。


 「ユージンさん達のお家に来るのは久しぶりですね」

 「私は初めて」

 「そういえばそうでしたね」


 あの時はシアさんがイリアルさんに攫われた時でしたので、僕とシノさんだけで来たのを思い出しました。

 

 「改めて見ても、立派なお家ですよね」

 「うん。お金持ちの家」

 

 僕たちの比べるのはおかしいですが、お庭もあって、二階建てのお家にユージンさん達は暮らしています。

 僕の暮らしていた村にも貴族が暮らすお家がありましたが、外観だけをみればそこに引けを取らない程に綺麗なお家です。

 それを二軒も購入してしまうのですから、改めてユージンさん達火龍の翼は凄いと思います。


 「あ、長! おはようございます」

 

 僕とシアさんが庭に入ると、庭ではユージンさんと契約を交わした影狼族の女の子が剣を振っていて、僕たちに気付いた女の子が駆け寄ってきて、頭をさげて挨拶をしてくれました。


 「おはよう。ユージンとロイは居る?」

 「主様達ですね。少し待っていてください」


 影狼族の女の子は、急いで家の中に入って行き、直ぐに戻ってきました。


 「主様から通すように申し付けられました。どうぞ、こちらに」 

 

 偉いですね。

 十歳を過ぎたくらいだと思うのですが、しっかりと僕たちの案内をしてくれています。

 ユージンさんがその辺りを教えてるのかもしれないですね。


 「嬢ちゃん達が俺達の元に来るなんて珍しいな」

 「もしかして、また問題でもあったのか? 俺としては大歓迎なんだがっ!」

 「そんな感じです」

 「そうか。まぁ、嬢ちゃん達の頼みじゃ仕方ないな。まぁ、座ってくれ」


 前にも一度来たことがありますが、やっぱり綺麗ですね。

 男性二人が暮らしているので、もう少し散らかっているかと思いましたが、きちんと整理整頓されている事に少しだけ驚きました。

 そして、僕とシアさんは机を挟む形でユージンさんとロイさんの向かい側に並んで座りました。


 「どうぞ」

 「ありがとうございます」


 椅子に座ると、影狼族の女の子がお茶を運んできてくれました。


 「それで、今回もまたトラブルか?」

 「まぁ、そんな感じですけど、ユージンさんが思っているような事ではないので安心してください」

 「本当か? また何処かの国が戦争をしかけてきたり、ドラゴンが現れたとこではないんだな?」

 「えっと、僕たちを何だと思っているのですか?」

 「嬢ちゃんは嬢ちゃんだなっ! いつも面白い事に巻き込まれてるだろっ!」


 まぁ、否定は出来ませんけどね。

 ですが、これだけは言わせて貰いたいです。

 僕だって好き好んでトラブルに巻き込まれている訳ではないです。


 「まぁ、冗談はそこまでにして、一体どうしたんだ?」

 「はい。今回はロイさんにお願いがあってきました」

 「ユージンじゃなくて、俺か……珍しいなっ!」


 ロイさんの眉間に一瞬だけ皺が寄ったように見えましたが、直ぐにいつもの豪快に笑っている笑顔へと戻りました。

 その事に若干の違和感を覚えつつも話を続けさせて貰います。

 

 「シアさんいいですか?」

 「うん。ロイ、これを見て欲しい」


 そう言って、シアさんは机の上に白い剣を静かに起きました。


 「見てもいいか?」

 「うん」


 ロイさんの言葉にシアさんは頷き、ロイさんは鞘に収まっていた剣をとりだすと、顔をあからさまにしかめました。


 「こりゃ、ひでぇな」

 「そんなにですか?」

 「そんなにだ。完全に使い物にならないだろう」

 

 ドワーフだからなのか、それともAランク冒険者だからなのかわかりませんが、ロイさんは剣の状態が悪い事に気付きました。


 「だけど、剣の一部が欠けただけですよね?」

 「人に例えるとわかるだろ。骨折なら治るかもしれねぇが、部位欠損だったら治しようもないだろ」

 「確かに、普通はそうですね」


 わかりやすい例えでした。

 骨が折れたりしても、ちゃんと安静にして正しい治療をすれば元通りに治っていきます。

 しかし、根本的に、腕や脚などを失ってしまえば治したくても治せないですよね。

 根本的に治すべきパーツがないのですから。


 「ロイ、治らない?」

 「打ち直ししない限りは無理だろうな」


 逆に考えれば打ち直しすればどうにかなるって事ですかね?


 「そういう問題でもないけどな」

 「そうなのですか?」

 「まぁ、これは嬢ちゃん次第になるな」

 「私次第?」

 「当然だ。打ち直しすれば、治るには治るかもしれない。だがな、混ぜる鉱石によって重量も変わるし、それをやる鍛冶師によっても変わってくる。それで元通りなったとは言えねぇよな?」


 確かに見た目は同じだから元通りというのは違いますね。

 特にシアさんなんかは力よりも早さを重視して戦うタイプです。

 剣の重量が重くなったりしたら、それだけで影響が出ますし、長年使ってきた剣の感覚だってあると思います。

 

 「でも、この剣には愛着がある。だから、この剣は手放せない」


 あそこまで落ち込むくらいですからね。


 「そうは言ってもなぁ……悪いが、そっちの剣も見せて貰っていいか?」

 「うん」

 「すまねぇな…………やっぱりか。そっちの剣を見て思ったが、こりゃかなりの業物だな。これを打つとなると、かなりの腕が必要になるぜ」

 「ロイじゃどうにかならない?」

 「…………知ってると思うが、俺は冒険者だぜ。生業が違う」


 ドワーフの人が全員鍛冶を出来るという訳ではないですよね。

 ですが、シアさんの剣を軽く見ただけで状態がわかったり、業物だと言い切ったくらいですし目利きは出来るのですね。

 もしかして、ドワーフの人ってそういう能力があるのですかね?

 

 「それじゃ、どうしたらいい?」

 「腕のいい鍛冶師を探すか、新しく剣を買うかになるだろうな」

 「買うのは無理。この剣をどうにかしたい」

 「となると、腕のいい鍛冶師を探すしかないな…………」


 そこまで言うと、ロイさんの表情が曇りました。


 「えっと、その感じからすると、もしかして直せそうな人は居ないのですか?」

 「ん……あぁ、そんな事はないが……」

 「居るなら教えて欲しい」

 「教えるのは構わないが……」


 ロイさんが珍しく悩んでいます。

 魔物に囲まれても豪快に笑っているような方なのに、凄く悩んでいるように見えるのです。


 「ロイ。お前の気持ちはわかる。だがな、悩むのはお前らしくない。借りを返さないままで納得できるのなら俺からは何も言わないけどな」

 

 その辺りの事情をユージンさんは知っているのですかね?

 悩んでいるロイさんの肩をポンポンと叩きました。


 「そうだな……すまねぇな」

 「いえ。謝る事ではないですよ。それに、僕たちは十分に皆さんから助けて頂きましたし、貸しなんてありませんよ」


 そもそも、僕達の方が助けられてばかりですからね。

 逆にもっとお礼をしなければいけないと思う程です。


 「いや、これは俺の問題でもあった。だが、ユージンの言葉で目が覚めた。この件だが、俺が責任を持つ。だから、任せてくれねぇか?」

 「本当ですか? ですが、ロイさんは大丈夫なのですか? 事情は知りませんが、ロイさんが辛いのであれば僕たちの為に無理はしないで欲しいです」


 ロイさんがここまで静かになるくらいです。

 きっと、ロイさんの中で僕たちでは測れないほどに大きな問題があるのかもしれません。


 「大丈夫だ。だから俺に任せろ」

 「わかりました。ロイさんがそこまで言ってくれるのであれば、是非ともお願いします」

 「私からもお願いする。ロイ、ありがとう」

 「礼はいらねぇよ。まだ、何も出来ていないからな」

 「それでも。私はロイしか頼る相手が居なかった。だから、可能性が生まれただけでも感謝してる」

 「なら、その気持ちに応えてやらねぇとなっ! ユージン、ルカとエルを呼んでくれ!」

 「わかった。嬢ちゃん達、少しだけあいつらとも話がしたいから待ってて貰えるか?」

 「わかりました……けど、エルさんとルカさんも関係するのですか?」

 「まぁ、一応話をしておかないとな。後で嬢ちゃん達が来たことを知られると教えなかった俺が怒られる」

 

 そういうものなのですかね?

 まぁ、仲間に内緒ごとをされるのは嫌なので気持ちはわかりますね。

 

 「シアさん、どうにかなりそうで良かったですね」

 「うん。少しだけ楽になった」

 

 その後、エルさんとルカさんを連れてユージンさんが戻ってきて、これからどうするのかを話合う事になりました。

 その結果、僕たちはとある場所へと向かう事が決まりました。

 そこでならシアさんの剣が治せる可能性があるというのです。

 まぁ、その時にユージンさんとロイさんが怒られていましたけどね。

 僕たちが訪ねてきた事を直ぐに伝えないと二人から責められていたのです。

 それも場を和ます冗談だと思いますけどね。

 ロイさんの雰囲気がいつもと違う事に二人は直ぐに気づいていましたから。

 なので改めて僕は思いました。

 火龍の翼のみなさんは本当に頼りになると

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