第503話 補助魔法使い、お昼寝をする

 「チヨリさん、昨日はすみませんでした」

 「問題ないぞー。ユアンが忙しいのは知ってるからなー」

 「そう言って頂けると助かります」

 「うむー。それよりも、眠そうだなー」

 「そうですね。昨日は大変でしたし、朝から色々あって疲れました」

 「大丈夫かー?」

 「はい、問題ありませんよ。とりあえず、魔力水は置いておきますね」

 「ありがとうなー。そういえば、ローラは居ないのかー?」

 「はい。今日はトレンティアでやる事があるらしく、おやすみするそうですよ」

 「そうかー。なら、今日はのんびりできそうだなー」

 「午前中は忙しいと思いますけどね」

 

 昨日、補充出来なかった魔力水を補充し、今日もチヨリさんのお店でお仕事をします。

 

 「それで、龍神様を探すのは順調なのかー?」

 「はい、一応は順調と言えると思います」

 「既に二人と会えたぞー」

 「そうなんだなー」

 「でも、ここからが大変かもしれませんね」

 「どうしてだー?」

 「残りの龍神様の居場所が見当もつかないからですよ」


 水と風の龍神様の居場所はある程度予想はついていました。

 ですが、残りの、火、光、闇を司る龍神様の居場所は今の所さっぱりなのですよね。

 なので、まずはその情報を集めるのが今の目標になっていたりします。

 

 「早く見つかるといいなー」

 「そうですね。ですが、出来る事ならチヨリさんとサンドラちゃんとこうしてお店をやって、街の人と触れ合うのが一番楽しいですけどね」


 僕がアルティカ共和国に移住してきた理由はのんびりと暮らすためでしたからね。

 チヨリさんのお店で働いていると、その夢が叶ったと思えるのです。


 「そうだなー。ユアンが居ると私も楽しいからなー」

 「なー! 私はいらないのかー?」

 「もちろん、サンドラも居てくれると嬉しいぞー」

 「それならいいぞー」

 

 この三人でお店をするのが一番ですからね。

 最近はローラちゃんが勉強のために混ざっていますけど、やっぱりこの三人が仕事をするうえで一番しっくりくると思うのです。


 「それじゃ、今日も頼むなー」

 「はい。サンドラちゃん、開店の準備をしちゃいましょうか」

 「わかったぞー」


 こうして、今日も僕たちのお仕事が始まりましたが……。


 「今日はユアンちゃんが居ると聞いてたけど、本当に居るのね」

 「はい、昨日帰ってきたので、今日から暫くはお仕事をしますよ」

 「それなら、明日も来るわね」

 「はい! ですが、無理に怪我してこないでくださいね?」

 「サンドラちゃん、ポーションを貰っていいかい?」

 「うんー。銀貨一枚なー」


 朝から長蛇の列が出来ました。

 チヨリさんのお店に向かう時にすれ違う人に挨拶をしていたので、それが広まったのかもしれません。

 

 「やっぱり、ユアンとサンドラが居ると儲かるなー」

 「僕たちが居ないと暇なのですか?」

 「当然だなー。ポーションを買う理由はないだろうし、私にわざわざ会いに来る理由は街の者達にはないだろうからなー」

 

 流石に僕たちが居ない時の状況は詳しくは知りませんからね。

 僕たちにとってはこれが当たり前ですが、どうやら普段は違うみたいです。

 まぁ、予想はしていましたけどね。

 それでも、やっぱりみんながこうして会いに来てくれるのは嬉しいものです。

 最初の頃は驚いて慌てて対応しましたけど、今では随分と慣れましたね。


 「ですが、やっぱり疲れますね」

 「疲れたなー」

 「お疲れ様なー」


 お昼近くになり、ようやくお店の前に人はいなくなりました。

 いつもの事ですが、やっぱり沢山の人とお話するのは疲れますね。


 「それじゃー、少し早いけどお昼にするかー?」

 「いいのですか?」

 「うむー。ユアンとサンドラは昨日帰ってきたばかりで、疲れも溜まっているだろうしなー」

 「私は平気だぞー?」

 「そうかー? でも、休むのも大事だぞー。私もローラの相手を毎日していてゆっくり出来なかったからなー」


 よくよく考えるとそうですね。

 ローラちゃんの事をチヨリさんにお任せしていたので、午前中はポーションの販売、午後にはローラちゃんにポーション制作を教えるのが日課になっていたらしいです。

 いつもなら午後からその時の気分で休んだりしていたのに、それがなかったとなれば、チヨリさんも疲れているに決まってますね。

 

 「それなら、午後は僕がポーションを作りますので、たまにはチヨリさんが休んでください」

 「なら、午後はおやすみにするかー」

 「私は賛成ー」

 「いいのですか?」

 「うむー。ユアン達とゆっくりできる日は少ないからなー。ユアンは寝不足みたいだし、お昼寝でもするかー」


 ず、ずるいです。

 そんな提案されたら断れませんよね?

 という事で、昼食を終えた僕たちはお昼寝できる場所に移動をしました。


 「ここならゆっくりとお昼寝出来ますね」

 「邪魔は入らないなー」

 「そうだなー」


 移動してきた場所は僕たちのお家の庭でした。

 ここならば、決まった人しか基本的に入ってきませんし、邪魔される事はないと思いますからね。

 ですが、それでも人が増えていくのは仕方ないと思います。


 「あ、あの……僕も本当にいいのですか?」

 「構いませんよ。約束していて、ずっと出来ていませんでしたからね」

 「嬉しいです! でも、ラディくんに後で怒られないかな?」

 「大丈夫。私が口添えする。文句は言わせない」

 「だけど、こんなに沢山連れてきちゃいましたよ?」

 「「「くぅ~ん」」」


 コボルトさん達が不安そうに鳴いています。

 その数、実に十五匹ほど。

 この街で働くコボルトさんの半数がここに集まってしまった訳です。


 「問題ない。それに、これも立派な仕事。ユアン達を護るのは私達の役目でもある」


 少し無理のある説明でシアさんがリオンちゃんを説得しています。

 そうなんですよね。

 お昼寝する為に、お家に移動している途中で、シアさんとリオンちゃんと出会いここまで人数が増えてしまったのです。


 「まぁ、怒られたらその時はその時って事で、折角なのでみんなでのんびりしましょうか」

 「わかりました……えっと、ご主人様の間に挟まってもいいですか?」

 「はい、構いませんよ。これは約束でしたからね」

 「嬉しいですっ!」


 約束というかご褒美ですかね?

 鼬国との戦争で、リオンちゃん達は頑張ってくれましたが、今日まで労ってあげる事ができなかったので、その埋め合わせも含まれています。


 「でも、どうやってみんなでお昼寝しましょうか?」

 「私を枕に使っていいぞー」


 そう言って、チヨリさんは獣化すると、木の傍に寝転がりました。

 

 「それなら、そうさせて頂きますね」


 獣化したチヨリさんに触れるのは初めてではないので、その気持ちよさは知っています。

 なので、僕はその提案を断る事が出来ずに、ふわふわした毛に包まれたお腹へと横たわり頭を乗せました。


 「なら、私はここ」

 「僕は間に失礼します!」


 シアさんが僕の隣に横たわり、リオンちゃんが僕とシアさんの間に身体を滑り込ませました。

 それに釣られる様にコボルトさん達が僕とシアさんの足の間など、空いている場所に集まってきます。


 「なー! 私が寝る場所がないぞー!」

 「それなら、サンドラちゃんは私と一緒に寝ましょうか」

 「私は……うーん、どこも魅力的で困るんだけど!」

 「あれ、スノーさん達も来たのですか?」

 「うん。ラディからユアン達とコボルトが集まってるって聞いたからさ。私達も参加しようかなって」


 まぁ、ラディくんの配下は街の至る所にいるので、僕たちの状況は一瞬で伝わったみたいですね。

 それで、スノーさんが我慢できなかったと。

 まぁ、モフモフが大好きなスノーさんがこの状況を我慢できるはずがありませんよね。

 という事で、スノーさん達も加わりみんなでお昼寝タイムとなりました。


 「こういうのっていいですよね」

 「うん。平和な証拠」

 「これを守らないとなー」

 「そうですね。世界では色々と大変な事が起きているのが嘘みたいです」

 「まぁ、英気を養うって事で今はね?」


 スノーさんの言う通り、常に戦いに身を置くのは無理ですからね。

 大変な事ばかりでは心が荒んでしまいます。

 なので、たまにはこういう日も大事だと僕たちは知っています。

 まぁ、戦ってる時よりもこうしてのんびりしている事の方が多いですけどね。

 そして、目を覚ますと驚くことになりました。

 気が付くと、アラン様やアリア様など色んな人が僕たちの周りで一緒になってお昼寝していたのです。

 結果的には、最初の倍以上人数がみんなしてお昼寝をしていたのです。

 流石にフウさんやレンさんまで寝ていたのは少しだけゾッとしましたが、それでもこうして寝ていてくれる分には平和に思えました。

 出来る事なら、レンさんもフウさんもお互いの事に気付かずに仲良くしてくれるといいのですがね。

 今はそう願うばかりです。

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