第502話 補助魔法使い、朝から頑張る

 「ユアン、ちゃんと寝れた?」

 「はい、一応は寝れましたよ」

 「それならいい。だけど、無理はしちゃダメ。きつかったらお昼寝するといい」

 「はい。だけど、シアさんと一緒だったから本当に大丈夫ですよ」


 翌朝、いつものようにジーアさんに起こして頂いた僕は、朝からシアさんに心配される事になりました。

 睡眠はいつもの通りしっかりととったつもりですが、少しだけボーっとする気がしますし、まだ眠い気もします。

 だけど、その眠気は朝食をとるためにリビングへと入ると、一瞬で冷める事になりました。

 

 「おはようございます」

 「あ、おはよ~」


 リビングへと入ると、いつもの通りリコさんが朝食を用意してくれました。

 これはいつもの通りですね。

 ですが……。


 「おはよーさん。眠そうだな」

 「はい、おはようございます。朝ですからね」


 何故か、風の龍神様がリビングに座っていたのです。

 

 「えっと、それで……風の龍神様は何をしているのですか?」

 「見ての通り。朝食を頂きに来ただけさ」

 「見ればわかりますけど……龍神様もご飯を食べるのですね」

 「生きていれば当然だろう」


 それはそうですけどね。

 ですが、ずっと眠っていたくらいですし、その必要が本当にあるのかは謎ですよね。

 まぁ、そこは気にしてもしょうがないですね。

 それに、好きに過ごしてくださいと言ったのは僕たちですし、追い出す訳にもいきませんからね。


 「それで、昨日は何処に泊まったのですか?」

 「昨日は別館を借りたよ」

 「そうだったのですね」


 昨日は勉強をして疲れていたのか、帰ってきてから夕食だけ軽く取り、直ぐに寝てしまったのでそこまでは知りませんでしたが、どうやら本当に別館へと泊ったみたいですね。

 

 「よく眠れましたか?」

 「おう。私は何処でも寝れるからな。ゆっくりと休ませて貰ったよ」


 あんな場所でずっと寝ているくらいですし、何処でも寝れるというのは本当かもしれませんね。

 まぁ、それも強大な力を持ち、風の龍神様に仇成すものがいないから出来る事であって、普通の人はあんな場所で眠るのは無理でしょうけどね。

 と、そんな他愛のない話をしている時でした。

 事件はいきなり起きたのです。


 「おはようございます。今日も朝食を頂きに参りました」


 突然、リビングの扉が開き…………来てはならない人がやってきたのです。


 「どうなさりましたか? 慌てたような顔をして?」

 「あ、いえ。何でもないですよ」


 何と、入ってきたのはレンさんでした。

 

 「そうですか? あら?」


 レンさんは僕の反応に首を傾げましたが、それも束の間、今度は風の龍神様へと顔を向けました。

 ま、まずいです……。

 これは頭が働いていなかった証拠かもしれません。

 レンさんが毎日朝食をとりにくるのは日課になっているのに、その事を忘れてしまっていたのです。

 そのせいで、合わせてはいけない人達を合わせる事になってしまいました。

 

 「どうやら、今日は私以外にお客人がいらっしゃるようですね」

 「おう。暫くの間、お邪魔する事になった。よろしくな」

 「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」


 あ、あれ?

 もしかして、二人とも気付いていないのですかね?

 レンさんは風の龍神様が居る事を気にした素振りもなく、いつものように席へと座りました。


 「リコさん、今日の朝食は何ですか?」

 「今日は倭食だよ~。パンの方がいいかい? そっちも直ぐに用意できるけど?」

 「いえ、そちらで構いません」

 「ほいほい、直ぐに用意するから待っててね~」


 今日の朝食はご飯みたいですね。

 僕としてもそっちの方が力が入るような気がするので、朝はご飯の方が好きだったりします。

 ただ、お腹に溜まるので沢山食べると後で辛いので余りたくさん食べはしませんけど……ってそうじゃありませんでした!


 「えっと、レンさん」

 「どうなさりましたか?」

 「いえ……もし、気まずいようなら別室に朝食を運びますけど、どうしますか?」

 「問題ありません。こうして初対面の方と食事をとることも一つの醍醐味ではありませんか。一人の食事は淋しいので」

 「そ、そうですか。それならいいのですけど……」


 やっぱり、気づいていないみたいですね。

 レンさんは風の龍神様の事を初対面と言いました。

 ですが、困りましたね。

 僕としてはお互いが気づく前に離れて欲しい所ですが、レンさんはこのまま食事をとるつもりでいるみたいです。

 なので、今度は風の龍神様に同じ質問をする事にしました。

 ですが、帰ってきた答えは……。


 「私も気にしないから平気だ。それに、私はお邪魔している身だから、気を遣わなくていいぞ」

 「わ、わかりました」


 どうやらこちらも失敗に終わったみたいです。

 そうなると、このまま何事もなく終わってくれる事を祈るばかりですね。

 ですが、そうはいかないみたいです。


 「そういえば、申し遅れましたが、私はレンと申します。これでも、皆からめが……」

 「わー! えっと、折角ですので、僕から紹介させて頂きますね! こちらの方はレンさんといって、見ての通り、目が綺麗な方です!」

 「まぁ、目が綺麗だなんて……照れます」


 違いますよ!

 レンさんが女神と名乗ろうとしたから、無理やり繋げただけです!

 まぁ、本当に全体的に綺麗なので目も綺麗なのは本当ですけどね。


 「レンさんね。ならば、こちらも自己紹介をしておこうか。私は風ーー……」

 「あっ! レンさん! こちらの方……は風の噂を聞き、世に伝える吟遊詩人の方です!」

 「吟遊詩人の方ですか。素晴らしい職業ですね」

 「まぁな?」


 少し無理があるかと思いましたが、どうにか誤魔化せたみたいです。

 

 「ですが、吟遊詩人殿とお呼びする訳にはいきませんよね? よろしければ、お名前を伺ってもよろしいですか?」


 しかし、安心する暇はありませんでした。

 レンさんは風の龍神様に名前を尋ねました。

 ま、マズいです。

 先ほど、風の龍神様を吟遊詩人と紹介したのには訳があります。

 僕は、風の龍神様のお名前を知らないのです!

 ですが、救世主がいました!


 「お待たせ~。足りなかったらお代わりはあるから、レンちゃんもフウちゃんも気軽に言ってね~」


 食事を運んできてくれたリコさんが強調するように二人の名前を呼び、僕にウインクをしてくれました。

 これは手助けに違いありません!

 なので、僕はそれに乗っかり、レンさんに風の龍神様の事を紹介させて頂きます。


 「今、名前があがりましたが、こちらの方は吟遊詩人のフウさんです」

 「フウさんですね。改めまして、レンです。どうか仲良くしてください」

 「おう! こちらこそ、仲良くしてくれな」


 互いに軽く頭をさげ挨拶を交わしています。

 一応は、どうにかなったみたいですね。


 「それで、よろしければ、食事をしながら色々とお話を聞かせて頂けませんか? 私は世間の事にはまだ疎いもので、今の世界がどうなっているのかを知りたいのです」

 「構わないよ。まぁ、風の噂ばかりでよければだけどな」

 「はい、是非ともお願いします」


 しかし、ここからが更に大変でした。

 レンさんは本当にフウさんの事を吟遊詩人だと思ったのか、色んなことを質問したりしていました。

 それに対し、フウさんはレンさんの質問に答えるのですが、お互いの正体がバレそうなことを平気で話そうとするのです!

 なので、僕はそれの間に入り、危ない話があれば訂正するように努める事になりました。

 結果的には二人は意気投合したようで、会話が弾んでいましたが、まぁ親子のようなものなので意気投合するのは当然かもしれませんね。

 しかし、その代わり、僕は朝から精神が削られる事になりました。

 無事に朝食も終わり、レンさんは帰宅し、フウさんは街を見て回る事になり、事なきを得ましたが。

 本当に疲れました。

 この調子だと一日持つかわかりませんね。

 もしかしたら、シアさんに言われた通り、お昼寝をしないと一日持たないかもしれません。

 そんな事を思いつつ、今日も一日が始まりました。

 ナナシキの平和は僕が守ったと言ってもいいですよね?

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