第490話 補助魔法使い達、訪問者の事を伝えられる

 「なーなー?」

 「……はい、どうしましたか?」

 「元気ないぞー」

 「……そんな事、ないですよ」

 「そうかー?」

 「そうですよ」


 みんなでお酒を飲んだ翌朝、僕たちは部屋で食事をとる事になりました。

 僕たちについてくれたメイドさんには朝食はいらない事を伝え、収納魔法にしまってある食べ物で朝食をとることにしたのです。

 理由ですか?

 特にありませんよ。

 昨晩の事を思い出して、顔に出てしまいそうとかそういう理由ではないです。


 「昨晩は楽しかったですね」

 「久しぶりに楽しく飲めたかな」

 「うん。私も凄く楽しかったです」

 

 オルフェさん、スノーさん、キアラちゃんは凄く楽しかったみたいで良かったですね。

 

 「私、覚えてない」

 「シアはお酒が弱いみたいだね」

 「うん。けど、楽しかったような気がする」


 シアさんは記憶にないみたいですね。

 確か、一杯しか飲んでいないと思いましたが、それであの状態と考えると本当に弱そうです。


 「逆にユアンさんはお酒に強いかもしれないですね」

 「そうですかね?」

 「五杯くらい飲んでなかった?」

 「それくらいは飲んだとは思いますよ」

 「そんなに飲んだのかー。普段と変わらなかったぞー」


 それに関しては僕も驚きましたね。

 今もそうですが、記憶もはっきりしていますし、スノーさんみたく朝から気持ち悪いという事もありませんでした。

 出来る事ならシアさんのように昨晩の記憶は消えて欲しいですけどね。


 「それで、あの後はどうなったのですか?」

 「な、なにもありませんよ!」

 「本当ですか?」

 「本当です!」


 口元を緩めながらオルフェさんがとんでもない質問をしてきました!

 その様子から僕をからかおうとしているのが直ぐにわかりました。

 そういえば、オルフェさんも結構飲んでいた気がするので、もしかしたらまだ酔いが抜けていないのかもしれませんね。

 普段ならこんな質問はしてきませんからね。

 でも、オルフェさんですらこうなってしまうくらいですし、お酒って本当に飲み方を間違えると危険な飲み物ですよね。

 ですが、それでも僕は何ともありませんので、もしかしたら僕はお酒に強いのですかね?


 「ユアンはユーリに似ているのかもしれませんね」

 「お父さんにですか?」

 「はい、ユーリもいくら飲んでも酔った所は見た事ありませんでしたから……それにしても、お父さんですか……ふふっ」

 

 オルフェさんが懐かしそうに笑っています。

 ユーリお父さんの事を知っているオルフェさんからしたら確かにおかしいかもしれませんね。

 お父さんと呼んでいますけど、お父さんは女性ですからね。

 っと、昨晩の話はこれくらいにしておきたいですね。これ以上、話を蒸し返されても、僕が恥ずかしいだけなので思い出したくないです。

 なので、僕は話題を無理やり変える事にしました。


 「それで、今日からはどうするのですか?」

 「特にないかな」

 「となると、部屋で大人しくしているしかないのですかね?」

 「そうなるね。それはそれで退屈だけどさ」

 「仕方ありませんよ。勝手に出歩くのはマズいと思うの。本当なら街を案内してあげたい所ですけど」

 

 僕も街の事は気になっていました。

 折角エルフの国へとやってきたのに、見れる場所がお城の一部だけというのは来た意味があまりないように思えます。

 実際にエルジェ様との対談は何も進んでいないので、このままでしたら何のために来たのかわかりませんからね。


 「でも、ユアンとオルフェが街に行ったら騒ぎになる」

 「僕は髪の色を変えれば大丈夫ですよ」

 

 髪の色を変える髪留めは常に持ち歩いていますからね。


 「私の方も姿を変えれば余程の事がなければ問題ないかと思います。ですが、街の方へは行かない方が良いのは確かでしょう」

 「どうして?」

 「エルジェの話が本当ならば、外部の人間が街を歩いている事に良く思わない者がいる可能性があるからです。そこで何かしら問題を起こせば、状況は更に悪化を辿る事になるでしょうから。貴女達が問題を起こすとは思いませんけどね」


 どこまで浸透しているのかわかりませんが、エルジェ様の話では弟さんが実権を握っていて、他種族との交流は必要ないという考えを持っているらしいです。

 そんな中、僕たちが街を歩いていたら街の人がどう思うかって話ですよね。

 

 「でも、僕たちは街の中を歩いてきましたよね? そこで歓迎されたと思いますよ」

 「確かにそうですね。ですが、皆離れていましたし、私達の姿を覚えているという保証もありません。それに加え、姿を変えていたら余計にわからないと思いますよ」


 確かにそうですね。

 フードをとってお会いしただけで僕と気づかない人も居たくらいですし、髪の色を変えたら余計にわかりませんよね。

 それだけ髪の色の特徴は鮮明に記憶に残ります。

 

 「という事は、大人しくしているしかないのですね」

 「問題を起こしたくないならそれしかないかな」

 「退屈」

 「そうだなー……」

 「何かする事があれば良いのですが、思い浮かびませんね」


 いっそのこと、ナナシキに戻って仕事をしたりする事も考えましたが、いつまた呼び出されるかもわかりませんし、そうもいきませんね。

 

 「仕方ありません、今日の所は部屋でゆっくりー……ん。誰か、来ますね」


 自由行動は出来ませんが、本を読んだりお昼寝をしたりして自由に過ごす提案をしようと思った矢先でした。

 探知魔法で人が近づいてい来るのを捉えました。

 捉えた人物は僕たちの部屋の前で止まると、少しだけ間を置いた後、リズムよく部屋をノックしました。


 「おはようございます。皆さま、お揃いでしょうか?」


 この声は、僕たちのお世話をしてくれるメイドさんの声ですね。

 あまり多くは話していませんが、何度かやりとりをしているので声でわかりました。


 「はい、どうしましたか?」

 「皆さまにお会いしたいと申しているお方がいらっしゃいますが、どうなさいますか?」


 僕たちに会いたい人?

 その様子からするとエルジェ様ではなさそうですね。

 エルジェ様だったらカミラさんが来ると思います。そうなると、別の人物だと思うのですが、誰でしょうか?

 

 「えっと、誰が会いたいと言っているのか教えて貰ってもいいですか?」

 「申し訳ございません。それは相手の希望もあり、伏せさせて頂きます」


 んー……困りましたね。

 僕たちに会いたい人がいるけど、素性はわからないとなると直ぐには判断できません。

 

 「少し考えさせて頂く事は出来ますか?」

 「はい。相手方も皆様の都合に合わせるとの事ですので、問題はございません」

 「ありがとうございます。どうするか決まりましたら、また声をかけますね」

 「畏まりました。では、失礼致します」


 扉越しの会話が終わり、メイドさんが去っていくのがわかります。


 「誰だろう」

 「僕たちと話したい人ですよね……んー、商人さんとかですかね?」

 「それはないと思うの。あり得ない話ではないけど、商人がお城の中で他国の客人に接触するなんてあり得ませんから」


 それもそうですね。

 王様と商談するならまだしも、僕達に会いにくるなんて相当肝が据わっているか、頭の足りない人に決まっています。

 下手すれば、僕たちに不敬を働いたとして王様の怒りを買う事だって考えられますからね。


 「そうなると、限られてきますね」

 「うん。一人しか思い浮かばない」

 「面倒な事になりそうだね」

 「けど、断る訳にはいかないと思うの」

 「だろうなー」

 

 みんなも同じ答えに辿り着いたみたいですね。

 まぁ、むしろそれしか考えられませんか。

 

 「仕方ありません。一応ですが、会ってみますか」

 「その方が良いですね。片方の話だけを聞くよりは双方の考えを聞いた方が真実へと近づけます」

 

 オルフェさんも会う事に決めたようですね。


 「わかりました。メイドさんに伝えましょう」


 部屋には呼び鈴がありました。

 それを鳴らすと、直ぐにメイドさんがやってきて、お会いする事を伝えました。

 ただし、時間は指定させて頂きましたよ。

 大丈夫だと思いますが、昨晩はみんなでお酒を飲んでいますので、完全に酔いが抜けてなかったり、相手にお酒の匂いがすると言われても嫌ですからね。

 その結果、僕たちの希望は通り、午後にお会いする事になりました。

 そして、午後になり僕たちはとある場所へと案内をされました。

 そこでお会いした人物は僕たちの予想通りの人物でした。

 やはり、避けては通れないみたいですね。

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