第489話 補助魔法使い、お酒を飲む

 「こうやってみんなで飲むのは初めてだね」

 「そうですね。ですが、サンドラちゃんまでですか? 大丈夫ですかね?」

 「大丈夫だぞー。前は飲んでたからなー」

 「そうなのですね。でも、体調が悪くなったりしたら直ぐに言ってくださいね。直ぐに治しますから」

 「わかったぞー」

 「逆にユアンが心配」

 「そうですね。ユアンさんが酔ってしまったら大変だと思うの」


 みんなでお酒を飲む事になり、サンドラちゃんの心配をしていると、何故か僕が心配される事になりました。

 まぁ、こればかりは飲んでみない事にはわかりませんので何とも言えませんが、僕は沢山飲むつもりはないので多分大丈夫だと思います。

 何せ、スノーさんが酔っぱらって面倒な事になっているのを何回も見ていますからね。僕はあのような失態を冒さないと心に誓っていますから。


 「ねーねー、早く飲もうよ~」

 

 スノーさんがみんなを急かすようにお酒の注がれたグラスを持っています。

 うん。飲む前からちょっと面倒かもしれませんね。あまり羽目を外さなければいいですけど……一番心配すべきはやはりスノーさんなのかもしれません。

 

 「では、飲みましょうか……乾杯」

 「「「かんぱーい」」」


 何かの記念にこじつけて乾杯の音頭をとろうかと思いましたが、特に思い浮かばなかったので、飲み会は普通に始まりました。


 「んー……あまり、美味しくはないですね」

 「それはユアンがお子ちゃまだからだよ」

 「味は好み。それは仕方ない」

 「そうですね。私もこのお酒は得意じゃないかも」


 僕はお酒を飲むのが初めてだったので、まずは味を確かめるためにちょっとだけ飲んでみましたが、口の中に残る後味に顔をしかめる事になりました。

 何というか、口の中にモワーっとしたのが残る感覚が変な感じがしたのです。


 「ならば、こちらを飲んでみますか? これならばユアンでも飲めると思いますよ」


 そういって、オルフェさんが違うお酒を僕に勧めてくれます。

 

 「どう違うのですか?」

 「先ほどユアンが飲んでいたのは麦から造られたお酒ですが、こちらは果実から造られています。甘みもあって飲みやすいですよ」

 「それなら頂きます」


 お酒にも色々と種類があるみたいですね。

 というか、オルフェさんがお酒を持っているとは思いませんでした。

 飲む機会はあまりないと言っていましたが、もしかしたら日ごろから飲んでいたりするのですかね?

 まぁ、だからといってそれが悪い訳ではありませんけどね。オルフェさんだって自由に生きる権利はありますし、出来る事ならみんなの為にだけ生きるのではなく、自分の楽しみがあって欲しいですからね。

 

 「では、どうぞ」

 「ありがとうございます」


 僕の飲んでいたお酒をスノーさんへと渡し、僕は新しいグラスにオルフェさんから違うお酒を注いで頂き、味を確かめるように一口だけ口の中に含みます。


 「あ、これなら飲めそうです!」

 

 果実から造られているだけありますね。

 葡萄でしょうか?

 甘くて少しだけ酸味のある味が口の中に広がりました。

 後味にモワーっとしたのがありますが、さっきのお酒に比べれば全然気にならないで飲む事ができそうです!

 

 「私もそっちがいいー」

 「えぇ、お酒なら色々とありますので、好きなのを飲んでください」

 「ありがとうー」

 「あの、私も頂いてもいいですか?」

 「私も」

 「なら、私も飲んでみたいな」


 みんな楽しんでいるみたいですね。

 僕が飲みやすいと言ったとたん、みんなもオルフェさんが持参したお酒を飲みたがっています。

 他国で飲む事に対して遠慮をするかと思いましたが、その様子はなさそうです。

 ですが、大丈夫ですかね?

 色んなお酒を飲むと悪酔いすると聞きますけど、そうならなければいいのですが……。

 

 「これ美味しい! オルフェさん、もっと貰ってもいいですか?」

 「構いませんよ。好きなだけ楽しんでください」

 「ありがとうございます! ふふっ、今日は飲み過ぎじゃうかも」

 「スノーさん、適度にしてくださいね。いつも私が大変になるんだから」

 「大丈夫だよ。流石に抑えるつもりだからさ」


 と、スノーさんは言っていましたが……。


 「ねー、ユアン~?」

 「はい、何ですか?」

 「最近シアとはどうなの~?」


 スノーさんが僕の隣に移動をしてきて、僕へと絡みだしました。

 完全に酔っちゃってますね。


 「どうもしませんよ。いつも仲良しです」

 「それは知ってるよ~。どんなことをしてるかって聞きたいの」

 「どんな事って……別にいいじゃないですか」

 「私も聞きたいです!」

 「え、キアラちゃんまでですか?」


 スノーさんほど酔ってはいませんが、ほんのりと顔を赤くしたキアラちゃんが食い入るように身を乗り出し、僕とスノーさんの会話に参加してきます。


 「なー……眠くなってきたぞー」


 その隣ではサンドラちゃんが目を瞑り、頭を左右に小さく振っています。

 サンドラちゃんは一杯しか飲んでいませんが、あまりお酒が得意じゃないかもしれませんね。


 「ねー、ユアン聞いてる~?」

 「聞いてますよ。ですが、そればかりはお答えできません」

 「えー……シア~」

 「な~に?」

 「ユアンさんとは最近どうなのですか?」


 僕が答えないからシアさんに聞くみたいですね。

 ですが、シアさんは大丈夫です。

 そんな質問されても答える筈が……。


 「ユアンと? いっぱいしてる。仲良し」

 「え、シアさん?」

 「そうなんだ!」

 「どんなことをしてるのですか?」

 「どんな事? 私の■■■でユアンの■■■を気持ち良くしてあげてる」

 「わー! 何を言ってるのですか!」


 た、大変です!

 シアさんがとんでもない事を言い始めました!


 「他には他には?」

 「他には? ユアンは私に■■■■されると凄く嬉しそう」

 「きゃー! ユアンさんって凄くエッチなんですね!」

 「ち、違いますよ! シアさん? こんな時に冗談をいうと、本気にされてしまうのでやめましょうね?」

 「冗談じゃないもん。ユアン、あれ好きだもん」

 

 ほっぺたを膨らませてシアさんが拗ねています。

 どうやら、顔には出ていませんがシアさんもかなり酔っぱらっているみたいです!

 ゆっくりと飲んでいたので大丈夫かと思っていましたが、どうやらシアさんもお酒に弱いみたいですね……。

 まだ一杯目だと思うのですが、それでも酔ってしまうみたいです。


 「むー……なんか、ちゅーしたくなってきた、ユアンしよー?」

 「だ、ダメですよ! みんなの前ですからね!」


 更には酔うと口が軽くなるだけではなく、行動もいつもより更に大胆になるようで、シアさんは椅子から立ちあがると、スノーさんを押しのけ、僕の隣へと座りました。


 「どうして? 気にする事ない」

 「気にしますよ。流石に恥ずかしいですからね」


 みんなが酔っているとはいえ、記憶はある筈ですからね。

 明日その事で茶化される事になるのは目に見えています!


 「むー……したいのにー……」

 「なら、私とする?」

 「スノーと?」

 「うん。たまにはいいじゃん」


 えっと、どうしてそうなるのですかね?

 僕がシアさんとのキスを断ると、スノーさんが名乗り出ました。

 まぁ、そんな事を言っても、シアさんがスノーさんとする訳が……。


 「スノーと……するー」

 「ふぇっ!? し、シアさん!」

 「なーに?」

 「スノーとちゅーするのですか?」

 「うん。スノーも好きー」

 「本当? ふふっ、シアがデレてる」


 こんなシアさんは見た事がありません!

 うぅ……これって浮気ですかね?

 まぁ、スノーさんならいいですけど。


 「シアさん、私はどうですか?」

 「キアラ? キアラも好きー」

 「嬉しいです!」

 「なーなー? 私はどうだー」

 「サンドラも好きー」


 なんだか複雑な気分です!

 いや、シアさんがこうやってみんなに気持ちを伝えるのはいいですよ?

 シアさんがみんなの事を大事に思っているのは知っていますからね。

 それでも、みんなに好きと言っているのはちょっとだけ複雑です。

 シアさんは僕のお嫁さんですからね。

 シアさんとのキスを断った僕が悪いですけど、このままではシアさんを奪われてしまいます!


 「えっと、シアさん?」

 「なーに?」

 「僕の事はどうですか?」

 「だーいすき! いっぱいいっぱい好き! 好きじゃ足りないくらい好き! ずっと一緒に居たい」


 全身をつかって表現してくれました。

 良かったです。

 シアさんにとって僕が一番みたいですね。

 そうじゃなきゃ嫌でしたけど、それを改めて知れて良かったと思います。

 

 「ユアンは?」

 「僕もシアさんが一番ですよ。大好きです」

 「えへへっ、嬉しい!」


 ここまでの笑顔を見るのは初めてかもしれません。

 いつも無表情に近いシアさんから想像できない程の笑顔が零れています。


 「なので、ちゅー、しますか?」

 「する!」

 「え、シアさん?」


 何故かシアさんは僕の体を抱えるとそのままベッドへと移動をしていきます。

 そして、僕はベッドへと体を降ろされました。


 「ユアン、我慢できない」

 「だ、だめですよ!」


 ですが、シアさんは尻尾をブンブンと振り回して僕の言う事を聞いてくれません!


 「ふふっ、私は楽しめましたので向こうの部屋で先に休ませていただきますね」

 「なー……おやすみなー……」


 そして、オルフェさんは僕を助けようとはせずに、サンドラちゃんを連れて行ってしまいました!


 「シア、私達もいいよね?」

 「約束ですからね!」


 オルフェさん達が出ていくと、逆にキアラちゃんとスノーさんはベッドへとやってきました。

 

 「えっと、約束ってなんですか?」

 「前に言ったじゃん。たまには四人でしよって」

 「聞いていませんよ! いつの話ですか!?」

 「ほら、鼬族の戦争の時にさ。シアが拗ねてた時」


 シアさんが拗ねてた時?

 あ、もしかしてスノーさんと手を繋いで歩いた時ですかね?


 「そうそう。あの時に念話で話したよね」

 「あ、あの時にですか!」


 あんな時にそんな会話をしていたのですね。僕は念話を妨害されて聞こえませんでしたが、まさかそんな話をしているとは思いませんでした!


 「だから、いいよね?」

 「楽しみです!」

 「みんな仲良し」


 スノーさんとキアラちゃんがベッドへと倒れこんできました!

 

 「あ、ちょっとダメですよ!」


 そこからは大変でした。

 何があったのかは言えませんが、とにかく大変でした。

 そして僕は誓いました。

 シアさんにはもうお酒を飲ませない事とみんなでお酒を飲む時は飲ませ過ぎないようにすると心に強く誓いました。

 まぁ、酔ったシアさんは凄く可愛かったですけどね。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る