第491話 補助魔法使い達、皇子と対談する

 「どうぞお入りください」

 「はい」


 昼食を終え、支度を終えた僕たちは兵士さんの案内の元、僕たちに会いたがっている人の元へと向かいました。

 

 「ナイジェル様、お客様をお連れ致しました」

 「ありがとう」


 案内された場所は玉座の間。

 そこで待っていた若いエルフの男性は兵士の方へと労いの言葉をかけると、直ぐに僕たちへと頭を下げました。


 「お待ちしておりました。オルフェ様、ユアン様」


 一目見ただけで、この方の身分が高いとわかりました。

 そして、それを証明するように、その男性は頭をあげるとこう続けます。


 「私はクリスティアの皇子ナイジェルと申します。皆さまにお会いできた幸運に感謝致します」


 予想通りだったので驚きはしませんでした。

 ですが、少しだけ予想外だったのは、ナイジェル様が僕たちに対して頭を下げた事でしたね。

 話を聞いている限り、ナイジェル様はエルフ族としての誇りが高いと聞いていたので、まさかあのような行動に出るとは思わなかったのです。


 「私もナイジェル様にお会いできた事、嬉しく思いますわ。改めまして、私がユアン。ユアン・ヤオヨロズでございます」

 

 どうですか?

 今回は上手に出来たと思います!

 エルジェ様の時はちょっとぎこちなくて固くならなくても大丈夫と笑われてしまいましたが、今回は逆に驚かれているくらいですからね。

 きっと、僕みたいな子がこんなに上手にかーてしーを出来てびっくりしたのだと思います。


 「ゆ、ユアン様、私にそのような挨拶は不要です。どうか、普段通りに接して頂けますと私としても助かるのですが」

 「そうですか?」

 「はい。偉大なるハイエルフ様と黒天狐様に礼儀を払うのはこちらですので」

 「えっと、わかりました。失礼でなければそうさせて頂きます」

 「助かります」


 どうやら驚いたのは別の理由だったみたいです。

 ですが、ますます聞いていた話と違いますね。

 本心はわかりませんが、僕の印象ですとカミラさんほどではありませんが、とても腰の低い方にみえます。


 「では、どうかおかけになってください」


 それから僕たちは玉座の間に隣接する部屋へと移動をし、ナイジェル様と向かい合う形で話をする事になりました。

 これも意外でしたけどね。

 玉座の間へと移動したので、てっきりナイジェル様が玉座に座り、謁見するような形で話をするかと思いました。


 「改めて、私の為にお時間を割いて頂きましてありがとうございます」

 「問題ありませんよ。僕たちも暇を持て余しておりましたから」

 「そうでしたか……それなら尚更申し訳ございません。客人の皆様に不自由な思いをさせてしまったようで」

 「いえ、気にしないでください」

 「そう言って頂けると助かります」


 緊張しているのでしょうか?

 配られたお茶を口をつけ、ナイジェル様は小さく息を零しました。

 その様子からすると、毒の類は仕込まれていなさそうですね。

 

 「それで、僕たちと話がしたいとの事ですが、早速伺ってもよろしいですか?」

 「はい。まずは、姉上の事からよろしいですか?」

 「エルジェ様の事からですか?」

 「はい。話を聞きだすようで申し訳ありませんが、姉上とどのような話をしたのか聞かせて頂きたいのです」


 僕とエルジェ様が話をしたことは知っているのですね。

 まぁ、当然ですよね。

 何せ、僕たちはエルジェ様より招待状を頂いてクリスティアへとやってきました。そして、盛大なお出迎えも受けています。

 そんな事があって僕たちとエルジェ様が接触していないと思えるはずがないですよね。

 

 「申し訳ありませんが、エルジェ様との信頼関係を崩す事にも繋がりますので、それはお答えできません」

 

 こればかりは仕方ありませんよね?

 ナイジェル様に伝えた通り、エルジェ様との話を勝手に広める訳にはいきません。

 

 「そうですか。ですが、姉上の事です。恐らくは私が姉上の事を王と認めていないなどとお話したのではないでしょうか?」

 「えっ……、ち、違いますよ?」

 「その反応からすると図星なのですね」


 ナイジェル様は目を伏せるとため息を漏らしました。

 どうやら、僕の反応でバレてしまったみたいです。


 「えっと、今のはなかったことにして貰えますか?」

 「安心してください。姉上には伝えません。姉上とユアン様達との関係が崩れてしまうのは私としても避けたい事ですから」

 

 むむむ?

 これまた予想外の言葉が返ってきましたね。

 ナイジェル様は他種族を見下し、他種族との交流は必要ないと考えていると聞いていたので、僕たちとエルジェ様の関係が崩れた方が都合がいいと思っているのかと思いました。


 「どうかなさいましたか?」

 「いえ、エルジェ様から聞いていたナイジェル様の印象がかなり違うので、少し戸惑っただけです」

 「仕方ありません。姉上は私の事をよく思っていないでしょうから」

 「そうみたいですね」

 「ですが、そこは弁明させて頂きます。ユアン様達が信じて頂けるのであればですが、私は他種族を見下したり、交流を閉ざしたいなどとは思っておりません。むしろ、交流を今以上にしていくべきだと考えております」


 んー……そこはエルジェ様と同じ考えなのですね。

 だとすると、色々とわからなくなってきましたね。

 どうしてそんなに意見がすれ違っているのかもそうですし、キアラちゃんがクリスティアの人達から見下されていると感じている事にも辻褄が合わないように思えます。

 なので、僕はその事について素直に尋ねる事にしました。


 「姉上に責任を押し付ける訳ではありませんが、それは姉上が王であるからです」

 「エルジェ様が原因という事ですか?」

 「原因という程ではありませんが、姉上はハイエルフの血を引いております。そして、国民はエルジェ様を支持しているのです。その結果、ハイエルフの血を引くエルジェ様の元で暮らす自分たちが特別だと思ってしまっているのです」


 何となくですけどわかります。

 要は王都に住む人と村で暮らす人との差みたいなものですね。

 

 「ですが、エルジェ様はナイジェル様が他種族との交流をしたくないと明言しているような事を言っていましたが、その辺りはどうですか?」

 「それは現段階での話であり、将来的には交流したいと思っています」

 「では、現段階で他種族と交流をしたくない理由を聞かせて頂いてもよろしいですか?」

 「えぇ。先ほども申しましたが、クリスティアの国民は姉上の元で暮らしている為に、自分たちが特別思っています。それ故に、他種族どころか、別の所で暮らすエルフ族を見下しているのが現状です。そんな状態でクリスティアが他種族と交流を始めたらどうなるでしょうか?」

 「なんか、色々と問題が起きそうな気がします」

 「私も同じ考えです。きっと、訪れた者に不快な思いをさせる事になると予想をしています」


 鼬国を思い出しますね。

 あの街は兎族や鼠族、そして鼬族が暮らしていましたが、あの場所ですと鼬族の立場は高かったのに対し、他の種族の人達は凄く立場低かったのを覚えています。

 全員が全員という訳ではないと思いますが、鼬族の人、特に綺麗な服を着た貴族はとても偉そうにしているように感じました。

 それに当てはめると、もしかしたらこの国でも同じことが起こるかもしれないという事ですね。

 一緒に行動していたアンリ様ですらちゃんとした対応をしてもらえなかったですし。


 「なので、私の考えとしてはまず自国の改善をする事が先決だと思っているのです。そうでなければクリスティアの評判が下がるだけですので」

 「そういう事なら納得できますね」


 失礼な言い方になりますが、エルジェ様と違いナイジェル様の方が色々と周りが見えているように見えますね。

 ですが、それだけでナイジェル様を信用する訳にはいきません。

 何せ、僕にとって一番気になるのはそこではありませんからね。

 これを聞かない事には、ナイジェル様を信用する事ができませんから。

 

 「では、僕からも一つ聞きたい事があるのですが、よろしいですか?」

 「はい。お答え出来る事であれば何なりと」

 「ありがとうございます。僕の大事な知り合いにハーフエルフの方々が居ます。その方について聞きたい事があります」


 龍神様について尋ねたい事もありましたが、それ以上にローゼさん達の事について聞きたい事が沢山あります。

 どうしてあのような事をしたのか知らなくてはナイジェル様を信用する事は絶対に出来ません。


 「ハーフエルフですね……わかりました、納得して頂けないかもしれないですが、お答えさせて頂きます。私もあの方たちがどうなったのかを知りたいですから」

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