第486話 弓月の刻、エルフの王と対談する
「では、こちらでお待ちくだしゃい。女王陛下は直ぐに参られます!」
「わかりました」
そう言い残し、カミラさんは部屋から出ていきました。
そして、大人しく待つ事十分ほどでしょうか。
「皆さま、お待たせしてしまい、申し訳ございません」
煌びやかな服から着替えたエルジェ様とまるで付き人のようにカミラさんが入ってきました。
「そのままで結構です。どうか、私にお気を使わずに……どうかそのままで」
立ち上がろうとしたエルジェ様が手で僕たちを制したので、僕たちはその言葉に甘え、再び椅子へと腰を降ろします。
んー……こうみると、キアラちゃんよりは背は高いですが、普通の少女にしか見えませんね。
「この度は遠路はるばるクリスティアへと赴いて頂き誠にありがとうございます」
「いえ、こちらこそお招きいただき、誠に光栄ですわ」
どうですか?
二度目の挨拶ともあって、自分でも自然に出来たと思います。
「ふふっ、そんなに固くならなくても構いませんよ。この場所には私とカミラしかおりませんから」
「そ、そうですか?」
ですが、どうやら見破られてしまったみたいですね。
貴族の挨拶、かーてしーと言うらしいのですが、ドレスの裾を持ち上げ、背筋を伸ばし片膝を曲げて挨拶する方法を華麗に決めたと思いましたが、笑われてしまいました。
まぁ、ローブでやるものではないですし、笑われても仕方ありませんかね?
「えぇ、それよりも皆様とは有意義な時間を過ごしたいと思っておりますので、良ければ普段通りに過ごして頂けると、こちらとしても助かります」
「そうは言われましても……」
困りますよね。
逆にエルジェ様の言葉を断るのも失礼かもしれませんが、かといって普段通りに接するのも失礼にあたると思います。
「問題ありませんよ。そうですよね、カミラ?」
「は、はい! 女王陛下がこう仰っていますので、是非とも普段通りにお過ごしください!」
「我が国の宰相もこう仰っています。よろしいですね?」
ん……王様なだけありますね。
僕たちに圧をかけるような視線は流石に威圧感がありますね。
その圧に負けるように、僕は小さく頷き意志を伝えました。
「ありがとうございます」
まるで魔眼みたいですね。
実際には魔眼ではないのは直ぐにわかりましたが、エルジェ様の目元が緩まるとそれだけ圧は消えました。
「ふぅ、少し驚かせてしまいましたか?」
「いえ、そんな事はありませんよ」
「流石は巫女様とそのお連れ様ですね」
「仲間ですけどね」
今度は僕の番となりました。
エルジェ様は僕の仲間たちを連れと呼びました。なので、そこだけは訂正させて頂きます。
王様相手に不敬かもしれませんが、僕の大事な仲間を連れ呼ばわりは許せませんからね!
みんなは仲間であり、家族です。
そんな薄っぺらい関係だと僕は思っていませんので。
「ん……これは失言でしたね」
「いえ、こちらこそ申し訳ありません」
エルジェ様が驚いた顔をしてしまったので、少しきつく言いすぎてしまったでしょうか?
「問題ありませんよ」
「それならよかったです。それで、僕たちを招待した理由をそろそろ伺ってもよろしいですか?」
「そうですね。時間は何時でも限られています。ここからはお互いの身分は関係なしに包み隠さずにお話致しましょう……カミラ、皆さまにお茶を」
「は、はひ!」
ぎこちない動きでカミラさんがエルジェ様と僕たちにお茶を用意してくれました。
傍からみると挙動不審で怪しく見えますが、ポットから注がれるお茶はエルジェ様にも配っているので、その中に毒が含まれている事はなさそうですね。
ですが、一応念のためにみんなにお茶を回すふりをして、
先にそっちに毒が盛られている可能性もありますからね。
「意外と用心深いのですね」
「念のためです。エルジェ様の事を信頼できるかどうかはまだ判断できませんので」
「それもそうですね。しかし、その判断は正しいです。この国では常に疑う事をお勧め致します」
どうやら、僕が
それだけで、ある程度は魔法を読み取る力はあるのだと判断できます。
素人ではそういった所まではわかりませんからね。
ですが、気になる事を早速言われましたね。
僕はその事についてまずは尋ねる事にしました。
「まずはそこからですね……先に言っておきます。私はこの国の女王です」
それは知っています。
あ、でも本当かどうかはわかりませんよね?
僕たちはあくまで紹介されただけですからね。
「えっと、女王陛下であるエルジェ様がどうしてあんな場所に居たのですか?」
「それが政務ですから」
それはそうかもしれませんけどね。
王様だからっていつも玉座に座っているわけではありません。
仕事をする時は仕事をする場所があるに決まっています。
ですが、それはそれでおかしいのですよね。
「失礼な言い方になりますが、どうしてあの場所なのですか?」
だって、言ってしまえば僕たちはエルジェ様が招待した客人です。
しかも、一応ですが僕たちは他国の貴族でもあります。そんな人物と会うのであればもっとちゃんとした場所……それこそ玉座の間で対談するのが普通だと思います。
僕たちはその為に練習をしましたからね。
まぁ、これがエルフ族の常識と言われてしまえば納得するしかありませんけどね。
「その答えは先ほどの続きにあります……私はこの国の女王ではありますが、それは表向きの姿でしかなく、実権は他の派閥に握られているのです」
出ました……また派閥問題です。
どうしてどこの国も派閥をつくり、上に立とうとするのですかね?
まぁ、僕たちも一歩間違えればそうなり兼ねないので悪くは言えませんけどね。
何せ、ナナシキはある意味五つの派閥があるといっても過言ではありませんから。
っと、僕たちの街の事は今はいいですね。
「となると、エルジェ様は女王ですが、実の所はお飾りでしかないという事になりますか?」
「ユアン、言い方」
「あ……すみません」
「構いませんよ。ユアン様の仰ることは的を得ておりますので」
自嘲気味にエルジェ様は笑いました。
「ですが、どうしてそんな事になっているのですか?」
「エルフ族が誇り高い種族だからです。馬鹿馬鹿しいほどに」
吐き捨てるようにエルジェ様が毒づきました。自分の種族の事をそういうくらいなので、本音だという事が直ぐにわかりました。
「相変わらずなのですね」
「はい……申し訳ございません。お見苦しい姿をお見せ致しました」
「構いません。私にも責任がありますから」
「そんな事は……」
「あります。私があの時に貴女達を正しい道へと導いていればこんな事にはならなかった筈ですから」
やはり、オルフェさんとエルジェ様には繋がりがあるのですね。
最初にお会いした時にエルジェ様があのような行動をとったので察してはいましたが、ここにきて確信へと変わりました。
「えっと、その話は僕たちが聞いてもいい事なのですか?」
「問題ありません。むしろ、これから先の事を考えればユアン様にも聞いておいて頂きたく思います」
大丈夫みたいですね。
ですが、僕たちに聞いておいて貰いたいというのはどういう事でしょうか?
僕たちが聞いた所で、何かできるとは思いませんし、それと同時に必然的に今から話す事に巻き込まれるような予感がします。
「わかりました」
それでも僕はエルジェ様のお話を聞く事にしました。
オルフェさんは既にエルジェ様のお話を聞くつもりでいるみたいですからね。
それなのに僕たちが話を聞かなかったらオルフェさん一人でエルジェ様の話を聞くことになることになります。
それに、今回ばかりはトラブルに巻き込まれても僕の責任ではなさそうですからね!
何せ、僕は招待されただけで、エルフ国の情勢は何も知りませんから。
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