第487話 弓月の刻、エルフの王と対談する2
「そういう事なのですね」
エルジェ様からエルフ国の状態を聞き、エルジェ様がお飾りの王だという理由に納得がいきました。
どうやら、エルジェ様には弟がいるようで、その弟が実権を握っているらしいです。
しかも、面倒な事に弟は父親は同じですが、母親が違うみたいなのですよね。
そのせいもあってか、弟とはあまり仲が良くないらしく、エルジェ様に協力する気は全くないみたいなのです。
「でも、国民はエルジェ様を応援しているのですよね?」
「今の所は……ですけどね」
それも面倒な話です。
国民はエルジェ様を応援しているのですが、貴族などの有権者は弟を応援しているというのが現状のようです。
ですが、それも時間の問題とエルジェ様は言います。
何せ、ここ最近はお城に監禁されるような形で公の場に姿を現す事は出来ていないみたいですからね。
「でも、どうしてそんなに弟と仲が悪いのですか?」
「それは、母親が違うからでしょう」
「え? でも、エルジェ様と弟さんは双子、なのですよね?」
「はい。弟は二つ下の双子ですよ」
「二つ下の?」
何を言っているのか理解できませんでした。
母親も違くて、年も二つも違うのに双子なんて聞いた事がありません。
僕の認識がおかしいのでしょうか?
そう思い僕は周りを見渡すと、シアさんとスノーさんも同じことを思ったのか、首を傾げています。
ですが、オルフェさんとキアラちゃんは普通にその話を受け入れているようにも見えますね。
「えっと、キアラ? 説明して貰える?」
「あ、うん。スノーさん達は変な風習だとは思うかもしれないけど、私達の年の数え方は覚えていますか?」
「確か、四年に一度に年をとるでしたっけ?」
「あー……エルフ年か」
「はい。なので、四年の間に同じ父親、または母親を持つ子供は同じゼロ歳なので、双子として扱われるのです」
僕たちは毎年一つずつ年を重ねるのに対して、エルフは四年に一度しか年を重ねない為、二年経とうがゼロ歳のままなので、双子という事なのですね。
ややこし過ぎますね。
「といっても、これは凄く珍しいケースだと思うの」
「そうなのですか?」
「はい。私達種族は長命です。なので、子供を積極的に作る事はあまりありませんから」
確か、エルさんとキアラちゃんは五つほど年が離れていましたね。
ですが、実際には五年違うのではなくて、四年を五回なので……僕たちで言えば二十歳も離れている事になります。
まぁ、歳の話はキアラちゃんが嫌がるのでしませんけど、二十年に一人を生むと考えると確かに積極的ではないですね。
なので、二年の間に子供が生まれるのは珍しいとキアラちゃんは言います。
「そこは理解しました。ですが、どうして同じ父親を持っているのにも関わらず、弟さんとは仲が悪いのですか?」
「それは、私の母親がハイエルフの血を引いているからです。弟はそれが気に入らないようなのです」
それもまたややこしい話ですね。
どうやらエルジェ様の母親はエルジェ様を生んだ翌年に亡くなってしまったみたいです。その為、先代の王様は新しいお妃様を娶り、その間に子供を作ったみたいです。
亡くなってしまった方を悪くいう訳ではありませんが、ややこしい事になったのはそれが原因みたいですね。
ですが、話は見えてきましたね。
僕は頭の中でエルジェ様の話を纏めました。
まず、エルジェ様には双子の腹違いの弟が居る事。
そして、その弟とは仲が良くなく、その結果派閥が出来てしまった事。
国民からの支持はあるものの、貴族などは弟の味方をしていて、弟の派閥の方が力があるようで、エルジェ様の行動は制限されているとの事。
とりあえずはそれがわかりました。
「ちなみにですが、どうしてエルジェ様が王様なのですか?」
「それは私に流れる血のお陰でしょう」
「ハイエルフの血って事ですか?」
「そうなりますね」
「でも、どうして弟さんは認めてくれないのですか?」
「王は男性が務めるものと思っているからでしょう」
それが誇りなのですね。
ハイエルフの血を持つエルジェ様。
男性だから王になるべきと思っている弟さん。
その二つの誇りがぶつかりあっているという事になるようです。
んー……とても面倒な話に聞こえますね。
「それで、エルジェ様はどうしたいのですか? 王の座は譲りたくないのですよね?」
「いえ、王の座には実際の所は興味はありません。譲れと言われれば、弟に譲っても構いません。ですが……これからの事を考えるとそうはいかないのです」
「どうしてですか?」
「弟は他種族の方々を見下しております。故に他種族との交流は必要ないと考えているのです」
嫌な考え方ですね。
僕たちの街とは正反対の考え方と言っても過言ではないような気がします。
そして、エルジェ様の言葉に僕は一つピンときました。
「もしかしてですけど、ハーフエルフを追い出したのって、弟さんだったりしますか?」
「ユアン様がどうしてそれを? 確かに、ハーフエルフを追い出したのは弟が原因ですが……?」
「僕の知り合いにハーフエルフの方達がいます。その事はその方達から聞きました」
「そうでしたか……」
やっぱりそうでしたか。
そういう事なら、少なくともエルジェ様の弟さんとは相容れぬ事はできませんね。
かといって、エルジェ様に肩入れするのも現段階ではできそうにありませんね。
理由はかんたんです。謂わばこれはクリスティアの政治問題です。
この問題にクリスティアの住民でも貴族でも無いにも関わらず、僕たちが首を突っ込む事は出来ないからです。
それこそ今後のエルフ族との関係に影響が出てしまう可能性が高いですからね。
かといって、このままいけば確実に弟さんが全ての実権を握る事になりそうなので、交流も途絶えてしまいそうな予感がしますけどね。
「それで、エルジェは私達に何をさせていのですか?」
黙って話を聞いていたオルフェさんがついに口を開きました。
ようやく本題ですね。
「どうか、私に協力し、私を公の場に出させてほしいと考えております」
「何の為にですか?」
「私はこの国の女王です。しかし、国民の前に姿すら見せる事も現状できません。月日の流れは残酷で、このままですと私の存在自体が国民に忘れ去られてしまいます」
「それは貴女個人の問題ではないですか?」
僕もそう思いました。
自分の事が忘れられそうだからそれが怖いと言っているように聞こえましたからね。
「違います。私は他種族の方達との交流を閉ざしてはいけないと考えております。このままではエルフ族は時代に取り残される事になると思うのです」
「その通りだなー。このままなら龍人族の二の舞になるだろうなー」
サンドラちゃんがエルジェ様の言葉に同意をしている事は、このままなら同じ末路になるのは濃厚という事ですね。
何せ、サンドラちゃんも自分の目で龍人族が衰退していくのを見てきましたからね。
実際に滅んだところは見ていないようですけど。
「なるほど。貴女の気持ちはわかりました」
「では!」
「いえ、直ぐに答えは出せません。むしろ、私達に何をしてほしいのかをまずは明確に提示するべきでしょう」
オルフェさんの言う通りですね。
僕たちはエルジェ様に招待されてましたが、何の目的で呼ばれたのかはまだわかりません。
それなのに、僕たちに協力して欲しいと言われても素直に頷く事は出来ませんよね。
「そこは十分に理解しております」
「では、その答えも決まっているのですね?」
「はい……オルフェ様、ユアン様にお願いしたい事はーー……」
エルジェ様からとんでもないお願いをされました。
その結果、まさかあんな事になるとは思いもしませんでした。
まさか、スノーさんとオルフェさんがあのような行動にでるとは僕も予想できませんでした。
まぁ、僕も……いえ、みんなも同じ気持ちですね。
結局の所、それが原因で今日の話はお開きとなりました。
そして、僕たちは部屋へと戻り、その事について話し合う事になったのです。
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