第479話 補助魔法使い、ローラを案内する
「ユアンさん、あっちには何があるのですか?」
「あっちは農業区と呼んでいて、狐族の人達や影狼族の人達が暮らし、農作物を作っていますよ」
「そうなんですね! あっちはどうなっているのですか?」
「あっちは魔族の人達が暮らしていますね」
「凄いですね!」
ローラちゃんはナナシキへと来るのは二度目ですけど、こっちの方を案内した事はありませんでしたね。
そうそう、どうして僕がナナシキの案内をローラちゃんにしているかというと、結局の所、ローゼさんに頼みを断る訳にもいかず、アカネさんとオルフェさんに相談した結果、僕たちは暫くの間ですけどローラちゃんの社会勉強のためにローラちゃんを預かる事になったのですよね。
まぁ、ずっとこっちにいる訳ではありませんけどね。
夜には転移魔法陣で誰かがトレンティアへと送る事になっていますからね。
でも、本当にこれでいいのか不安になります。
僕がこの街を案内をしているのですが、正直言って、僕はこの街を説明するほど知識はなかったりします。
いえ、何がどこにあるのかはわかりますよ?
ですが、ローラちゃんの勉強になるような事を教えられるかと聞かれると……無理ですよね。
「ユアンさんどうしたのですか?」
「あ、いえ……何から説明したらいいのかと悩みまして」
「大丈夫ですよ。私はこうしてユアンさんと歩けるだけでとても勉強になりますから!」
子供に心配されて、フォローまでされてしまうのは少し情けないですね。
やはり、僕も色々と勉強しなければいけないみたいです。
これから僕がこの街の、国の代表になるかもしれないというのに、何も知らないというのは代表者として恥ですからね。
「では、まずは何処から見たいですか?」
「えっと、まずはユアンさんの職場から見たいです。トレンティアに届くポーションがどのように作られているのか興味があります」
「わかりました。まずはそこに向かいましょうか」
農業区から回っているのでチヨリさんのお店はすぐ近くですし、ちょうどいいかもしれませんね。
という訳で、僕とローラちゃんはチヨリさんのお店へとやってきました。
「チヨリさん、おはようございます」
「うむー。おはよー」
「おはよーなー」
サンドラちゃんのお手伝いも板についてきましたね。
こうして僕が居ない間も、ちゃんとチヨリさんのお手伝いをし、開店の準備が整っていますからね。
「お、おはようございます。私はローラ・アルカナと申します」
「ローラ様なー。私はチヨリと申しますー。みんなからチョリ婆と呼ばれてるなー」
「チョリ婆ですか?」
「うむー。ローゼ様より年上だからなー」
「とてもそうは見えません……驚きです」
ローラちゃんを初めてナナシキへと案内した時に会ったと思いましたが、二人は初対面みたいですね。
「うむー。あの時はローラ様は夜も遅くなり寝たからなー」
そういえばそうでしたね。
チヨリさんとローゼさん達は飲み会をしていましたが、子供のローラちゃんをその場にいさせる訳にもいかずに、
「それで、ユアンは今日どうするんだー?」
「そうですね……ローラちゃんがポーションの販売までの流れとかを見たいと言うので、チヨリさんが良ければ少しお仕事をしていきたいと思っています」
「うむー。なら、ローラ様もポーションを作ってみるかー?」
「いいのですか?」
「うむー。作ろうと思えば誰でも作れるからなー」
実際には誰でもという訳ではありませんけどね。
技術だって必要ですし、何よりも知識が大事になってきますし、魔力の扱いに長けていれば長けているほどポーションの品質も安定していきますからね。
でもいいのでしょうか?
ここでローラちゃんにポーションの造り方を教えてしまうと、トレンティアでポーションを作るようになり、チヨリさんのポーションが売れなくなってしまうかもしれません。
「問題ないぞー? そしたらわっちは高品質のポーションを作るのに専念できるからなー」
「なるほど。通常のポーションを作るのは誰かに任せるって事ですね」
「うむー。高品質のポーションの方が高く売れるからなー」
需要としては通常のポーションの方が需要はありますが、高品質のポーションも十分に需要はあるみたいですね。
特に騎士団や高ランクの冒険者などに。
「お店は任せたぞー」
「はい。ローラちゃんは頑張って教わってくださいね」
「頑張ります!」
「私もお店頑張るぞー!」
そういう訳で、僕とサンドラちゃんがポーションの販売、チヨリさんとローラちゃんがポーションの製作に分かれる事になりました。
ローラちゃんは一時ですが、こうやって四人でやっていると随分と賑やかに思えますね。
「でも……」
「平和だなー」
開店をすると、いつもの通り僕とサンドラちゃんに会いにみんなが訪れてくれましたが、それが終わると、一気に暇になりました。
これもいつもの通りですけどね。
「なーなー?」
「はい、どうしましたか?」
「次の龍神様の元にはいつ出かけるんだー?」
「そうですね。出来る事なら明日か明後日には向かいたいですけどね」
「早い方がいいよなー」
そうなんですよね。
本当なら、こうしている時間も惜しいくらいです。
ですが、みんなの都合もありますし、たまにはこうして各自の仕事をしなければいけません。
「あら、黒天狐さん何をやってるのかしら?」
「あ、オメガさん。外に出てきたのですね」
「あぁ。今日の朝、一緒に出てきたよ」
他愛のない話をサンドラちゃんとしながらボーっとしていると、オメガさんとラインハルトさんがやってきました。
「それで、生活はどうですか?」
「今朝出てきたばかりだから、何とも……。だけど、こうして陽の光を浴びるのは悪くないわね。それに、魔素もいい感じにあって過ごしやすいわ」
やっぱり、ラインハルトさんの影響というのは大きいみたいですね。
ちょっと前のオメガさんはそんな事をいう感じはしませんでしたからね。
「それなら良かったです」
「でも、どうしてこんなに魔素が溢れているのかしら?」
「えっと……何ででしょうね?」
流石にナナシキがダンジョン化しているからとは言えませんよね?
なので、僕はそれを笑って誤魔化しました。
「ふふっ、聞かないでおいた方がよさそうね」
ですが、何かを察したみたいですね。
何かまではわかっていないと思いますが、僕たちが関係しているという事には気づいてしまったみたいです。
「それで、黒天狐さんはこんな所で何をしているのかしら?」
「僕とサンドラちゃんはポーションの販売と診療所をやっていますよ。それと、僕の名前はユアンです。出来る事なら名前で呼んで貰えると嬉しいです」
黒天狐と呼ばれるのは恥ずかしい気がしますし、何よりも他人行儀なので嫌ですからね。
「わかったわ。ユアン様、でいいかしら?」
「んー……別に敬う必要はないのですよ?」
「なら、ユアンちゃんと呼ばしてもらうわね」
「はい! えっと、僕もフレイヤさんと呼んだ方がいいですか?」
「…………まだ、オメガでいいわ」
ちょっとだけ、オメガさんの顔が曇ったように見えます。
オメガさんの本当の名前はフレイヤさんですが、アルファード王国が滅亡した時に、その名前を捨てたみたいです。
そして、魔力至上主義の人に与えられた名前がオメガ。
魔力至上主義を抜けたので元の名前を名乗るかと思いましたが、まだフレイヤという名前を名乗るつもりはないみたいですね。
っと、オメガさんが暗い顔になってしまいましたので、話題を変えなければいけませんね。
「それで、オメガさんはこれからどうするのですか?」
「そうね……私も一緒にハルちゃんとメイドさんをしようかしら?」
「え、オメガさんがですか?」
「何か問題でも?」
「いえ、問題はありませんけど……」
問題はありませんよ?
ですが、オメガさんのメイド服の姿はちょっと想像できませんね。
見慣れてしまったせいか、オメガさんが露出の少ない格好をしているのが想像できないのです。
「ふふっ、ユアンちゃんって意外とえっちなのね?」
「ふぇ? ど、どうしてそうなるのですか!?」
「だって、さっきから私の体ばかり見てるじゃない?」
「べ、別に見ていませんよ?」
ただ、オメガさんがメイド服を着たらどうなのかなと思っていたくらいですからね。
まぁ、オメガさんはラインハルトさんと違って凄い女性的に特徴のある体をしているので、同じ女性として憧れますけどね。
「なんだか、失礼な事を考えていないか?」
「気のせいですよ。それよりも、これからオメガさんがどうするかですよ。住むところとかはどうしますか?」
「そうね……。家でも買おうかしら?」
「家をですか?」
「えぇ、これでもお金だけはあるからね」
オメガさんも収納魔法を使えたみたいですね。
収納からパンパンに膨れた小袋を取り出すと、更にその中からお金を取り出しました。
「白金貨……もしかして、それ全部そうですか?」
「そうよ?」
「オメガさんってお金持ちだったのですね。ラインハルトさんと違って」
「ど、どうせ私は貧乏だよぉ!」
あ、ちょっとラインハルトさんを傷つけてしまったみたいですね。
で、でも……ラインハルトさんは僕たちのお家で働いてくれているので、ちゃんとお金は稼げている筈です。
それに、この前の戦争で防衛都市を攻めるのに手伝ってくれたので、別に稼いでいたりもしますからね。
ですが、これなら安心ですね。
オメガさんがお金を持っているのであれば、とりあえずは生活に困る事はなさそうです。
というか、あれだけのお金があれば一生暮らしていけると思います。
「でも、どうしてそんなにお金を持っているのですか?」
「稼いだからよ?」
「どうやってですか?」
「秘密」
秘密といったオメガさんが妖艶な笑みを浮かべました。
どうやら、真っ当に稼いだお金ではないように思えるのは僕だけでしょうか?
まぁ、そこは触れない方が良さそうですね。
「おーい、ユアンちゃ~ん」
そんな時でした。
遠くから僕の名前を呼び、手を振りながら走ってくる人が居たのです。
「いや~、久しぶりに走ると疲れるねぇ~」
本当に走ってきたのか、僕たちの元へとやってきたリコさんは暑そうに手をパタパタとさせ、風を顔に当てました。
「たまには運動もしないとダメですよ?」
「そうかもしれないねぇ~、っとオメガさんじゃないか。調子はどうだい?」
「え、えぇ……お陰様で、いい感じ、よ?」
あれ、二人は知り合いだったのですかね?
「うんうん。時々、私が料理を運んであげたりしてたからねぇ」
「あぁ、そういう事でしたか」
それなら納得ですね。
ですが、リコさんが来てからオメガさんが緊張しているように見えるのは気のせいでしょうか?
まぁ、きっと気のせいですよね。
「それで、リコさん慌てたみたいなのですがどうしたのですか?」
「あ、そうだったねぇ。ユアンちゃんにお客様が見えてるよ~」
「僕にですか?」
「そうそう。手は空いているかな?」
手は空いていますけど……。
「わっちらの事は気にしなくていいぞー」
「チヨリ様から色々学んでいますので、ユアンさんは気にしなくて大丈夫です!」
そう言って頂けたのなら、チヨリさんにローラちゃんを暫くお任せしても大丈夫ですね。
「なーなー。私はどうするー?」
「サンドラちゃんも一緒に行った方がいいかもねー」
「わかったぞー」
という事は、僕に用ではなく、弓月の刻に関わる人が来ている可能性高いですね。
「では、片付けして向かいましょうか」
「うんー。お片付けだなー」
時間もお客さんがもう来ない時間になるので、今日の営業は終わりで、大丈夫そうですからね。
「それじゃ、私はラインハルトさんとオメガさんを連れて先に戻ってるねー」
「え、私も……?」
「うんうん。ラインハルトさんにはやって貰う事はあるし、折角だしオメガさんにも手伝って貰おうと思ってね~」
「嘘……。もしかして、ハルちゃんの働く場所って貴女もいるの?」
「あれ、言ってなかったけ? まぁ、仲良くしようよ、ね?」
リコさんがオメガさんを連れていこうとしているという事は、オメガさんも僕達のお家で働く事になりそうな感じですかね?
まぁ、リコさんが誘うのなら止めはしませんけどね。
それに、オメガさんがお家に居てくれるのならば、あまり意味はないと思いますが、監視も出来ますからね。
目の届かない外で何かをされるよりはいいと思います。
魔鼠さん達で抑えられれば、ですけどね?
「それじゃ、なるべく急いでね~」
「あ、ちょっと、待ちなさい」
「待たないよ?」
「あ、あぁ……どうしてこんな事に……」
という訳で、オメガさんはリコさんに連れられて先に行ってしまいました。
「では、僕たちも急ぎましょうか」
「うんー。いつもユアンが最後だからなー。急ぐー」
いつもではないですけどね!
それに、大体が何かに巻き込まれている事が多いのでわざと遅刻している訳ではありませんよ?
「でも、お客さんって誰でしょうね?」
「いけばわかるー」
「それもそうですね」
お店のお片付けも終わり、チヨリさんとローラちゃんに一言謝り、僕たちはお家へと向かいました。
そして、家に辿り着くと驚きの人物がそこには居ました。
そして、その人から話を聞くことになったのです。
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