第478話 補助魔法使い、魔族と話をする2
トレンティアから戻り、ラインハルトさんから報告を受けた時は驚きました。
まさか、オメガさんから僕たちに話があるとは思いもしませんでしたからね。
だって、オメガさんから僕たちに話があるというのは捕えてから初めてでしたから。
「悪いわね。こんな時間に来てもらって」
「いえ、遅くなったのは僕たちが原因ですので、オメガさんは悪くないですよ」
「それより、早く話す。この後、ユアンと仲良くする時間がなくなる」
もぉ、大事な話なのに……。
これもスノーさんが煽るからいけないと思います!
ですが、オメガさんから話を聞きたいのは確かなので、僕とシアさん、そして先に待っていたラインハルトさんと三人でオメガさんが話してくれるのを待ちました。
そして、少しだけ。
オメガさんが静かに深呼吸をし、小さくうなずいた後、オメガさんが沈黙を破り、口を開きました。
「私の立場は貴女の敵なのは十分に理解しているわ。だけど、お願いがあるの」
「何ですか?」
「私をここから出して欲しい」
「理由を言う。その理由次第では出すことは出来ない」
こればかりは仕方ありませんね。
オメガさんが心を入れ替え、世界を壊すという気持ちがもうないのであれば、外に出してあげてもいいと思います。
しかし、その気持ちが少しでも残っているのであれば、外に出すことは出来ません。
オメガさんは悪い人ではない。
何となくですけど、僕はそう感じていますが、信頼関係というのは築けていませんからね。
「魔力至上主義の奴が私と接触したのは知っているかしら?」
「はい。その事は聞いています」
「理由はそれよ」
理由は魔力至上主義がオメガさんの所にやってきたからでしたか。
そうなると、外に出すのは許可できそうにありません……と言いたいところですが、何となくですけど、魔力至上主義と協力する為ではないような気もしますね。
だって、オメガさんならここから脱出しようと思えば不可能ではないですからね。
それなのに、敢えて僕に頼むくらいですから、別の理由があるのではないかと思いました。
「詳しく理由を聞かせて貰える事は出来ますか?」
「……あまり、話したくないわ。今までの事を思い出してしまうから」
オメガさんの目には怒りや恨みといった、感情は見えないです。
その代わりに、悲しみや苦しみといった複雑な感情が籠っているように見えます。
前と全然違いますね。
「姉上。苦しいと思うが、姉上の目的を果たすのであれば、ここは話した方がいい」
「でも……」
「ならば、姉上が話さないのであれば、私が話してもいいだろうか?」
ラインハルトさんは内容を知っているみたいですね。
僕としては、内容を教えて頂けるのならばどちらでも構いませんが、オメガさんはラインハルトさんの言葉に首を横に小さく振りました。
「…………いえ、私が話すわ」
覚悟を決めたといった感じですね。
オメガさんは立ち上がり、僕とオメガさんとの間を隔てるガラスの直ぐ近くまでやってきました。
「私が世界を恨んでいた理由は、知っているわよね?」
「えっと、オメガさんは元々、アルファード王国の女王で、そこを滅ぼされたから……でしたっけ?」
「大体はそんな感じね」
詳しい話は聞いていなかったので、半分は僕の予想もありましたが間違いではないみたいですね。
「でも、どうして国を滅ぼされたから世界を憎んだのですか?」
憎む理由はわかりますよ?
僕だってナナシキが誰かに襲われたらきっとその主犯となる人を憎むかもしれません。
ですが、その人を憎むのであって、世界を憎む事はないと思うのです。
「恥ずかしい話、そうなるように使い魔から吹き込まれたのよ。原因は龍神にあるって」
「どうしてですか?」
「アルファード王国は大きくなりすぎた。世界のバランスがそのせいで崩れるのを防ぐためにアルファード王国は狙われたって言われたのよ」
嘘か誠かわからないそれを信じてしまった訳ですね。
それだけオメガさんは追い込まれ、心に深い傷を負っていたという事でもありますかね?
そして、魔力至上主義はそこに目をつけたと。
「でも、どうしてそれが外に出たい理由になるのですか?」
「私の本当の敵がわかったから」
「本当の敵ですか?」
「えぇ。あの日、私に協力を求めた男がいた。知っての通り、魔力至上主義の男よ。そして、その男こそが、アルファード王国を滅ぼすことに繋がった主犯者だったの」
まさかの展開ですね。
オメガさんとアルファード王国、そして魔力至上主義の男にそんな繋がりがあるとは思いもしませんでした。
それならば外に出たい理由もわかりますね。
ですが、問題がありますね。
「オメガさんの気持ちはわかりました。外に出る事は問題ないと思います」
「有難いわね」
「でも、一ついいですか?」
「何かしら?」
期待させるようで申し訳ないですけど、オメガさんの目的は直ぐには叶いません。
何故なら……。
「魔力至上主義の人は後一年は姿を現しませんよ。もしかしたら一生」
「…………どういう事?」
んー……。
伝えても大丈夫ですかね?
もし、この事を伝え、オメガさんに生きる目的がなくなってしまったら悲しい事になるような気がします。
「ラインハルトさん?」
「大丈夫だ。姉上の事は私に任せて欲しい」
「わかりました」
ラインハルトさんがそう言ってくれるなら、伝えても大丈夫そうですね。
なので、僕は女神が引き起こしたことをそのまま伝える事にしました。
「……ふふっ、そうなのね」
「はい。それに、仮に一年後に再び姿を現したとしても、今のオメガさんでは手も足も出ない存在になっているかもしれません」
魔力至上主義の人はレンさんの創りあげた別世界みたいなところで過酷な試練を受けていますからね。
そこを無事に生き残れば冒険者ランクでいえば一段階、更に祝福を与えると二段階ほど強くなって帰ってくるみたいです。
そんな相手に僕たちに勝てないオメガさんが勝てるはずがありませんよね。
「それでも、私はやらなければならない。それが、滅んでいった国と民への手向けだから」
ですが、オメガさんも諦めるつもりはないみたいですね。
まぁ、諦めろといって諦めるくらいならその程度の気持ちしかない訳ですし、ここまで大きな話にはなっていませんよね。
「では、此処から出たらどうするつもりですか?」
「それは……」
「考えていなかったのですね」
わかります。
気持ちだけが先行する事ってありますよね。
ですが、それはいい事ではないと思います。
このままではオメガさんは無意味に命を散らすことになるのは目に見えていますね。
なので、僕は一つの提案をオメガさんにしました。
「オメガさん、僕たちは今、魔力至上主義をどうにかする為に頑張っています」
「それは知っているわ。私達が前は敵として向かい合っていたのだから」
「はい。だから、魔力至上主義の事は僕たちに預けてくれませんか?」
「貴女達に?」
「はい。必ず僕たちが魔力至上主義を潰します」
「出来るの?」
「出来るかどうかではありません。必ずやるのです」
その道は過酷かもしれません。
ですが、誰かがやらなければいけない事だとは理解しています。
その誰かが僕たちで、色んな人から想いを託されてしまっていますから。
「それじゃ、私はどうすれば……」
「どうもしないですよ。オメガさんは僕たちを信じて、普通に生きればいいのです」
「普通に? 普通がわからないわ」
失ったものが多すぎる弊害ですね。
まぁ、僕も普通が何かはよくわかりませんけどね。
だって、何故か最近、みんなして僕の事を非常識と言って来たりしますからね。
ですが、ハッキリとわかる事はありますよ。
「自然と笑える事。これが普通じゃないですか?」
辛い時や苦しい時、大変な時は生きていれば誰だってあります。
その中で、友人、仲間、恋人、お嫁さん、色んな人と交わって些細な事で笑いあえるのが普通なのだと思います。
当然、誰かを憎む事があるのも普通だと思いますが、それでは幸せを掴みとる事は出来ないのです。
「私にそんな資格はないわ」
「資格は必要ないと思いますよ。そもそも、オメガさんだって被害者ですからね。当然、悪い事をしてきたとは思いますが、罪って償う事はできます。これからそれを償い、その先で幸せになるのであれば、僕は責めたりしませんよ」
まぁ、それはオメガさんの気持ち次第なので、僕が言えるのはここまでですけどね。
ですが、オメガさんが幸せを望むのであれば、僕はいいと思います。
何よりも、前にシアさんに話した通り、これはオメガさんが望んでいなかった未来であり、僕の仕返しでもありますから。
「私の、幸せね。だけど、そんな幸せは私にはもう……」
「ありますよ? それを望んでいる人が僕以外にもいるじゃないですか。ね、ラインハルトさん?」
「あぁ。妹として、私も姉上には幸せになって貰えると嬉しく思う」
「ハルちゃん……ありがとう」
心のつっかえがとれたみたいですね。
オメガさんが両手で顔を覆い、ラインハルトさんにお礼を言う声が震えていました。
「では、ラインハルトさんに鍵を渡しておきますので、後はお任せしますね。その代わり、ちゃんと面倒は見てあげてくださいね?」
「任せてくれ」
「はい。それじゃ、シアさん帰りましょう?」
「うん」
ここまでくれば僕はもう不要ですからね。
言うべきことは全て言ったつもりです。
その上で、オメガさんにまだ復讐の心が残っていて、勝手に魔力至上主義の人を倒すために行動するのであれば僕は止めません。
同時に、再び僕たちと敵対するような事があるのならば、その時も容赦しないつもりです。
僕だって大事なものを失うのは嫌ですからね。
ですが、きっとその心配はいらないと思います。
だって、オメガさんにだって大事な人がいるのですから。
妹のラインハルトさんは大変かもしれませんが、きっとそれが支えになってくれる筈ですからね。
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