第465話 補助魔法使い達、トレンティアの調査を始める

 「ようやく今日からトレンティアを調査ですね」

 

 転移魔法陣を使い、僕達はトレンティアへとやってきました。

 僕たちと言っても、やってきたのは僕とシアさんとサンドラちゃんだけですけどね。

 

 「なーなー?」

 「はい、どうしましたか?」

 「スノーとキアラはいいのかー?」

 「はい。二人は現在大忙しですからね」


 サンドラちゃんはスノーさん達が居ない事に疑問を持ったみたいですが、こればかりは仕方ありません。

 これからエルフの村との交流が始まるので、現在二人は手を離すことはできません。

 流石に代表者を決めたからと言って、全てを丸投げにする訳にはいかないのです。

 それに、トレンティアは危険な場所ではないので、調査だけなら僕達だけでも出来ますからね。

 二人が合流するのは、調査がある程度進んでからでも遅くはないと思います。


 「ねーねー」

 「はい、どうしましたか? シアさん?」

 「釣りしちゃダメー?」

 「今はダメですよ。それと、サンドラちゃんの真似して遊んでもダメですよ」

 「残念」


 シュンと耳が垂れました。

 尻尾が垂れないあたり、シアさんの冗談とわかりますけどね。

 まぁ、調査に支障がないのなら、日が暮れた後になら多少はいいと思いますけど。

 

 「なーなー?」

 「はい、どうしましたか?」

 「まずは何をするんだ?」

 「そうですね。まずは、調査の許可を頂かないとですね」

 「うん。流石に勝手に調査するのはマズい」

 「そうなのかー」

 「はい、親しき仲にもって奴ですね」


 トレンティアを治めるローゼさんとは親密な関係にあるとはいえ、好き勝手に何をしていいという訳ではありません。

 それに、湖の中央に反応があった赤い点が本当に龍神様という保証もありません。

 僕たちが調査した結果、赤い点は実は危険な魔物で、それが活動しだしてトレンティアに被害が及んだとなったら今まで積み上げた関係が崩れる可能性だって十分にありえますから。


 「という事なのですが、どうでしょうか……フルールさん?」

 「気付いていたのね」

 「はい。今日は意識していたので、気づきましたよ」


 何度も驚かされていましたからね。

 今日はちゃんと警戒していました。

 

 「そうね。話は以前から聞いていたから、別に構わないわよ。ローゼからも許可も頂いているから」

 「ありがとうございます」

 

 という事で、許可は頂けましたね。

 まぁ、トレンティアにはお仕事で頻繁に訪れているので、前もって伝えてあったお陰でもありますけどね。

 今日から調査を開始しますという報告だけで済みました。


 「何か手伝う事はある?」

 「手伝ってくれるのですか?」

 「いいわよ。ユアン達の手伝いをするのは当然だし、面白そうだから」

 「有難いです。ですが、正直どこから手をつけていいのか困っているのですよね」


 湖の赤い点を調査するというのは簡単です。

 ですが、問題はその赤い点をどうやって調査するかです。


 「ユアンの防御魔法で水を弾きつつ潜るのは?」

 「それは最終手段ですね。出来る事ならばもっと安全に調査を進めたいです」

 「どうしてだー?」

 「不安だからですよ」


 これが陸であれば、何も気にすることはありませんでした。

 ですが水の中となると話が変わってきます。

 流石に、防御魔法の中でしか身動きできないとなると、動きも制限され、防御魔法が壊れた時に溺れてしまう事になりますからね。


 「なるほどなー」

 「確かに、防御魔法が破れたら水の中で戦うのは厳しい」

 

 その理由を説明すると二人は納得し、頷いてくれました。


 「それじゃ、どうやって調査をするつもりなのかしら?」

 「まずは魔法道具マジックアイテムですね」


 正確には魔法機械ですけどね。


 「懐かしい」

 「そうですね。これを使うのは一年振りくらいですからね」

 

 収納魔法から取り出した魚型の機械を見て、僕も懐かしい気持ちになりました。


 「なーなー!」

 「はい、どうしましたか?」

 「それは、なんだー?」


 サンドラちゃんに見せるのは初めてでしたね。

 どうやら、取り出した機械に興味を持ったみたいです。


 「言葉で説明するよりも、実演した方が早いですね。フルールさん、早速調査を始めてもいいですか?」

 「構わないわよ。私もソレに興味があるし」


 フルールさんも見るのは初めてだったみたいですね。

 という訳で、フルールさんの許可も頂けたので、僕たちは湖へと移動をしました。


 「なー……いつ見てもこの湖は凄いなー」


 サンドラちゃんがここに来るのは二度目ですが、やはり湖の大きさ、美しさに目を奪われたみたいです。

 その気持ちはわかります。

 僕だって何度もここへと訪れましたが、未だにこの湖は凄いと思いますからね。

 季節が変われば森の景色も代わり、美しさもその都度変化しますからね。


 「そうですね。特にこの時期はお魚さんも活発ですからね」

 「釣り、したくなる……」

 「今は我慢ですよ。魔法機械の操作はシアさんがこの中で一番うまいと思うので頼りにしています」

 「わかった」

 

 ちょうど水面から魚が飛びあがったのを見て、シアさんが残念そうに呟きますが、頼りにしていると伝えると、シアさんは頑張ると魔法機械の映し出した映像に集中しはじめました。


 「へぇ……そういう仕組みなんだ」

 「技術は進んでいるなー」


 二人も覗き込むように映像に見入っています。

 それだけ珍しい物みたいですね。

 そう考えると、これを譲ってくれたザックさんには感謝の念に尽きませんね。

 いつか改めてお礼をしないといけません。ザックさんとも一年ほどお会いしていませんし。


 「っと、今はそうじゃありませんでしたね。シアさん、どうですか?」

 「今の所、何もない」

 「魚はいるなー」

 

 僕もみんなの隙間から画面を覗きました。

 まだ浅い部分を見ているみたいで、ちらほらと魚が映るのが見えました。


 「もっと、奥に進んでみる」

 「はい、慎重にお願いします」

 

 浅瀬を見終わり、次は奥に向かいました。

 奥と言っても、まだ潜る訳ではなく、湖の中央に向けてですね。


 「リンシア、その辺で一度止まりなさい」

 「どうして?」

 「その先に流れがある。引きずり込まれるわよ」

 「わかった」


 フルールさんの注意を聞き、シアさんは湖の途中で機械を止めました。


 「流れがあるってどういう事ですか?」

 「湖の中央には渦が出来ていて、そこに行くと小さな船くらいなら呑みこんでしまうの」


 怖い事を聞いてしまいました。

 上空から見た事がないのでまさかそんなものが湖にあるとは思いませんでした。

 

 「まぁ、それはこの時期限定だけどね」

 「この時期だけなのですか?」

 「えぇ。寒くなれば湖面が凍ったりするでしょ? 流れが急だったら湖面は凍ったりしないわよね?」

 「あ、そうですね。でも、その話は今は……」

 「どうして?」

 「えっと、シアさんのスイッチが入ってしまいますので」

 

 シアさんと恋人になったのはこの湖の傍でしたからね。

 その時の事を意識すると、シアさんはすぐにそういった気分になってしまうみたいです。

 ついこの間もそうでしたから。


 「仲を深める事はいい事よ」

 「そうですけどね。それよりも、原因は何なのですか?」


 話を逸らす為にも、フルールさんに質問をすると、フルールさんは首を横に振りました。


 「そこまではわからないわ」

 「そうなのですね」

 「えぇ。だから、ついででいいから、それについても調べてくれると助かるわね」


 フルールさんでもわからない事があるのですね。

 となると、僕たちが調べるしかないですね。

 もしかしたら、赤い点と関係があるかもしれませんし。

 

 「なーなー?」

 「はい、どうしましたか?」

 「私もやってみたいぞー」

 「何をですか?」

 「シアがやってるやつー」


 機械が映し出す映像を見ていたサンドラちゃんがシアさんの手に握られた操作する機械を指さしています。


 「やってみる?」

 「いいのかー?」

 「うん。安全な場所へと移動するから、やってみるといい」

 「わかったぞー!」


 サンドラちゃんが座って機械を操作するシアさんの足の上に座りました。

 むむむ……ずるいです。


 「ふふっ、若いのね」

 「何がですか?」

 「嫉妬してる顔をしてるわよ」

 「そんな事ないですよ」


 えぇ……そんな事はありません。

 僕のシアさんですけど、サンドラちゃんだって大事な仲間で子供みたいなものですからね。

 シアさんに甘えるように足の上に座った所で、嫉妬なんかしませんよ?


 「その割にはうずうずしてるように見えるけど?」

 「気のせいですよ」


 それに、サンドラちゃんだって可愛いですからね!

 ほら、見てください。

 機械を操作しながら左右に揺れてます。

 機械を右に動かせば右に傾いて、左に動かせば左に傾いているのです。

 まるで機械に自ら乗って、操作しているように頑張っているのですから。


 「シアさん、サンドラちゃんはどうですか?」

 「上手。任せても問題ない」

 「シアさんが言うのなら大丈夫そうですね」

 「うん。だから、私は釣りしてていい?」

 

 まだ諦めていなかったみたいですね。

 まぁ、サンドラちゃんには僕がついているので大丈夫ですかね?

 

 「わかりました。ですが、何かあったら直ぐに交代できるようにしておいてくださいね?」

 「わかった」

 

 魔法鞄マジックポーチからシアさんは釣り竿を取り出しました。

 自前の釣り竿とは本格的になってきましたね。


 「ユアンー」

 「はい、どうしましたか?」

 「一緒にみてー?」

 「わかりました、一緒にやりましょうね」

 「うんー」


 シアさんが釣りを始めたので、僕はサンドラちゃんと一緒に調査に戻りました。


 「それじゃ、私は戻るわね。何かわかったら呼びなさい」

 「わかりました。ありがとうございます」

 「いいのよ。それと、色々と準備しておくから、夜になったらスノー達も呼びなさい」

 「スノーさん達もですか?」

 「えぇ、折角だしたまにはみんなで食事でもとりましょう。ローゼもローラも喜ぶから」

 「わかりました。よろしくお願いします」

 「それじゃ、また後でね」


 フルールさんの姿と気配がスッと消えました。

 それにしても平和ですね。

 隣でシアさんが釣りをして、僕に寄りかかりながら楽しそうにサンドラちゃんは機械を操作しています。

 こんな姿をキアラちゃんに見られたら真面目にやってくださいと怒られそうですけど、それほどに平和です。

 こんな感じで、僕たちの初日の調査は進みました。

 結果はあまり進展はありませんでしたが、一つだけわかった事がありました。

 その夜、合流したスノーさんとキアラちゃんに今日の調査結果を伝え、明日以降の方針を決めました。

 明日からはスノーさんとキアラちゃんも一緒に調査できるという事なので、本格的な調査は明日からになりそうですね。

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