第466話 弓月の刻、調査結果を話合う

 「なるほど。流石にその先を調べるのは無理だね」

 「申し訳ないです」

 「湖の中央に渦があるだなんて私達も知らなかったので、調査が出来なかったのは仕方ないと思うの」

 「そうだね。だから謝る事ではないかな」


 スノーさん達が合流し、ローゼさん達との食事会も終わった僕は今日の調査結果をスノーさんとキアラちゃんに伝えました。

 

 「だけど、そうとなると今日の成果はなしか……」


 ですが、その事を伝えると、進展がなかった事に、スノーさんが肩を落としました。

 当然ですよね。

 スノーさんがダンジョンの管理者へとなる為の一歩目に繋がるかもしれない情報を得られなかったとなれば、落胆するのも仕方ありません。

 

 「そんな事ない、成果はあった」


 そんな中、落ち込むスノーさんに声をかけたのはシアさんでした。


 「そうなの?」

 「うん、みてみて」

 「大きな魚だね……ってシアは一日何をやってたの?」

 「釣り」

 「美味しそうだけどさー……」


 釣った魚をシアさんが嬉しそうにスノーさんに見せるも、スノーさんの顔はしかめるばかりでした。

 むしろ、ちょっと呆れているようにも見えますね。


 「シアさん?」

 「ごめん、冗談」

 

 そんなスノーさんを見て、僕はシアさんを叱ります。

 流石に、何もしていなかったとシアさんが疑われるのも嫌ですし、スノーさんがこれ以上ガッカリする姿も見たくないですからね。


 「冗談って事は何かしら情報は得られたのですか?」

 「はい。先ほど伝えた通り、湖の中央には渦があって魔法機械では近づけませんでしたが、その渦の原因が湖の底にある事はわかりましたよ」


 その先に何があるのかまではわかりませんけどね。

 ですが、その渦の位置は僕が探知魔法で感じ取っていた大きな赤い点とほぼ一致する事はわかったのです。

 という事は、渦と赤い点には何らかの繋がりがあるとみて間違いないと思います。


 「それで、シアは?」

 「うん。私は影狼で湖以外を探ってた」

 「どうだったのですか?」

 「変な入り口をみつけた」

 「入口?」

 「そう。洞窟があった。奥までは探ってないけど、そこが怪しい」


 そうなんですよね。

 シアさんは釣りをしながらも、ちゃんと影狼で色んな場所を探してくれていたのです。

 そして、シアさんは洞窟を見つけたのです。

 しかも、自然にできた洞窟ではなく、人工的に作られたような不自然な洞窟をです。

 

 「それは怪しいかもね」

 「そうだね。だけど、その洞窟はローゼ様達が作った洞窟という可能性はないのかな?」

 「それはないと思いますよ。ローゼさんもその洞窟の事は知らないと言っていましたからね」

 「となると、ローゼ様以外が造った洞窟という事になるのかな?」

 「ですが、トレンティアはローゼ様達が興した街だったよね?」

 「そうなんですよね。なのに、知らないというのはおかしいですよね?」


 トレンティアの歴史を振り返ればわかりますよね。

 トレンティアは元々、エルフ族に追い出されたハーフエルフの人達がローゼさんを中心に興した村です。

 その前は、ただの森でしかなく、精霊であるフルールさん達しか住んでいなかったのです。

 それなのに、ローゼさんが知らないとなると誰が造ったのかという話しになってしまいます。 

 まぁ、精霊さんが住んでいるのでただの森という訳ではないですけどね。

 それでもローゼさんが開拓した場所なのにローゼさんが知らないというのは少しばかり疑問が残ります。


 「別におかしくない。ローゼ達が知らないという事は、ローゼ達が住む前からあったと考えられる」


 あ、確かにその可能性は十分にありえますね。

 ローゼさんが住む前からあったとなれば、ローゼさんが知らなかった事にも頷けます。

 とすれば、誰が造ったのかが焦点になってきますね。

 その可能性を追っていると、僕にとある可能性が浮かびました。


 「サンドラちゃん、昔この場所に龍人族の街が存在していたりしますか?」

 「なー? 流石に他の龍人族の事はわかんないー」


 サンドラちゃんはもう眠たいみたいで、頭を左右に揺らしながらもどうにか答えてくれました。

 しかし、サンドラちゃんは違う意味で首を左右に振りました。

 んー、龍人族が関係しているかと思いましたが、わからないのですね。

 まぁ、龍人族は各地に散っていったと聞きますので、全てを把握していないのは仕方ないですね。


 「ま、その洞窟に行ってみれば何かわかるんじゃないかな?」

 「そうですね。そこに龍人族の街があるのであれば、龍神様に繋がる事がわかるかもしれませんね」

 「だけど、そこがダンジョンという可能性もあると思うの」

 「あり得る。準備はしっかりした方がいい」

 

 確かに準備は必要ですね。

 龍人族の街だからといって、安全という訳ではありません。

 僕たちが知っている龍人族の街がたまたま安全だったというだけで、もしかしたらその街の管理者が残っていて、その人が悪人という可能性も十分に考えられます。


 「その可能性は低いぞー?」

 「そうなんですか?」

 「うんー。危害は加えてこないと思うー」


 とサンドラちゃんが言いますけど、何か根拠があっての事ですかね?

 ですが、用心する事に越したことはありませんね。


 「それで、その洞窟は何処にあるの?」


 あ、そういえば場所をまだ聞いていませんでしたね。

 それを聞かない事には明日の出発時間も変わってきます。

 何せ、トレンティアはトレントの森も含めれば結構広いですからね。

 場所によっては数時間かかってしまってもおかしくないかもしれません。


 「近くだから出発は焦らなくていい」

 「そんなに近くなのですか?」

 「うん。ほぼ目の前」

 「え、目の前なのですか?」


 シアさんの言葉に耳を疑いました。

 まさかそんな近くに洞窟があるとは思わなかったのです。

 ですが、そんな洞窟があれば気付いてもおかしくないと思いますけど、一体どこにあったのでしょうか?


 「目の前に滝がある。洞窟はそこにある」

 「そんな所にあったのですね」


 僕たちは今、ローゼさんから頂いた洞窟タイプのお家に泊まっています。

 そして、その前には泉と小川、そして滝があったのです。

 どうやらシアさんが見つけた洞窟はその滝の向こう側に隠されていたみたいです。


 「どうしてこんなに近くにあるのに気づかなかったんだろう……」

 「簡単。隠蔽されてたから」

 「隠蔽ですか?」

 「うん。私もユアンのお陰で魔力はかなり増えた。だから、魔力を感じる事はできる。それで気付いた」

 

 ですが、僕は気づきませんでしたけどね。


 「それは仕方ない。その場所だけ限定的に隠されていたから。実際にそこまでいかないとわからないと思う」

 「そうだったのですね」


 それでも気付かないのは悔しいです。

 そういった事を見つけるのは僕の役割でしたからね。

 目の前にあっても気付かないのは不甲斐ないと思います!

 ですが、同時に嬉しくもありますけどね。

 僕との繋がりでシアさんが成長している証拠でもありますからね。

 

 「それじゃ、明日は朝からその洞窟に潜ってみようか」

 「そうですね。サンドラちゃんも限界みたいですし」

 「うんー……みんな、一緒にねよー?」


 大丈夫と言わない辺り、本当に限界みたいですね。

 それも仕方ありません。

 魔法機械を操りながら、サンドラちゃんは一日はしゃいでいましたからね。

 という訳で、明日の予定も決まったので、僕たちは明日に備えて今日は早めに眠る事にしました。

 




次の日の朝。

 僕たちはその洞窟へと向かいました。

 そこで、僕達は一つの事実を知る事になりました。

 僕たちの予想しない出来事がそこで待ち受けていたのです。

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