第464話 補助魔法使い、ハイエルフと森に向かう
「ユアン、この辺りでいいですか?」
「はい。問題ないと思います」
僕たちはオルフェさんと共に、再びナナシキの北にある森へとやってきました。
「それにしても、無茶な事を言いますね」
「そうですかね?」
「当然です。私に森の造りを変えてくれなんて非常識すぎます」
オルフェさんが珍しくため息をついています。
それでも、僕たちの要望通りに動いてくれるあたりは有難いですけどね。
「そこは申し訳ないです。ですが、オルフェさんにしか頼めない事なので」
「わかっていますよ。ですが、流石にこれだけの規模となると、些か時間はかかります。成果は焦らないようにしてください」
「わかりました」
そう言って、オルフェさんは懐から植物の種のような物を取り出しました。
そして、それを一本の木の根元へと植え、地面に手をあてると、魔力を流し始めました。
「はい、終わりましたよ」
「それだけでいいのですか?」
「はい。あくまで森の質を変えるだけならば、あの種だけで十分です」
「そうなのですね?」
オルフェさんが何をしたのかはわかりませんが、どうやら大丈夫みたいです?
てっきり、オルフェさんがリアビラ軍を迎撃する為に造った森のように、新しくぶわーっと木を沢山生やすかと思いましたが違ったみたいです。
「でも、あの種だけで森が魔素に溢れるようになるなんてすごいですね」
「正確には魔素ではなく、マナですけどね」
「どう違うのですか?」
「魔力の元に邪気が含まれているか、含まれていないかの違いですよ」
「邪気の有無なのですね……」
「わかっていないみたいですね?」
「はい。わからないです」
邪気というのは何となくですがわかります。
あれです。
ゴブリンとかオーガが生まれる原因となるのが邪気と聞きました。
用は、悪意みたいなのがあるかどうかという事だったと思います。
「でも、どうしてそんな違いがあるのですか?」
「魔素とマナの作られ方の違いです」
「そこにも違いがあるのですね」
「そうです。では、ユアンは魔素は何処から生まれるのだと思いますか?」
「魔素ですか? えっと、地面からとかですか?」
「間違いではありませんが、少しだけ違います」
オルフェさんの授業は久しぶりです!
孤児院で暮らしていた頃にもこうして色々と教えてくれることがありました。
凄く懐かしいですね!
「ほら、しっかりと聞くのですよ」
「あ、すみません。それで、何が違うのですか?」
「では、簡単に説明しましょう」
そういって、オルフェさんは木の枝を使い、地面に何かを書き始めました。
「なんですか、これ?」
「これは、私達が暮らす星ですよ」
「星? 星というと、空に輝く星みたいなものですか?」
「そうです」
地面に描かれたのは、綺麗な丸でした。
そして、その中に、見覚えのある形を書きこんでいきます。
「これって、地図ですか?」
「はい。私達が住んでいるのはこの辺りですね」
最近、地図を見る機会が多くなってきたので、地図ということはわかりました。
ですが、大きな丸の中に、小さく描かれているのが不思議ですね。
なので、僕はその事について尋ねました。
「それは、私達の住むこの星が実は丸いからです。そして、海の先には他の大陸が広がっています」
「そうなのですね」
「疑わないのですか?」
「オルフェさんが言うのなら本当だと思いますので。それに、太陽だって丸いですし、月だって丸い時がありますので、丸いこと自体は不思議ではありませんよね?」
それに、そこの疑問を持ってしまうと、もっと色んなことに疑問が出てきてしまいますからね。
それに、僕が知りたいのはこの星が丸い理由ではなくて、魔素とマナの違いですので。
「そうでしたね。では、続きましょう」
そう言って、オルフェさんは描いた丸の中心辺りに小さな丸を描きました。
「これは何ですか?」
「この星の中心部分です。私達の住む大地の遥か地下に存在する核のようなものですね」
「魔物でいう魔石みたいなものですか?」
「その例えがわかりやすいですね……魔素とはこの核から生み出されていると言われています」
魔石で例えたのが正解でした。
魔物は心臓と魔石、どちらかまたは両方で生きている生物です。
ようはその両方から体を動かす為の魔力や血を全身に送っているのです。
そして、星も似たようなもので、核から魔素を星全体に送っているようなものだとオルフェさんはいいました。
まぁ、信じられない程に壮大な話ですけどね。
ですが、それが本当かどうか確かめる術はないので、僕はその説明に頷きました。
ですが、疑問は尽きません。
だって、魔物には魔石があるのに、人間などには魔石がないというのはおかしいですよね?
「そのあたりの事は、研究者に任せればよいでしょう。今以上に
「わかりました。それでは、マナとは何なのですか?」
魔素の事は何となくですがわかりました。
ようは星が生み出している自然の物という事くらいですけどね。
「マナは実際の所、魔素と大して変わりません。ですが、生まれ方が違うのです」
「生まれ方ですか?」
「はい。マナとは命から生まれると言われています」
「命から……」
また壮大な話が出てきました。
「と言っても、マナを生み出せる生き物は限られていますけどね」
「もしかして、さっきの種がそうですか?」
「その通りです。あれは、エルフ族の間で生命の樹と呼ばれています」
「世界樹みたいなものですか?」
その話ならおとぎ話で聞いた事がありました。
エルフ族が長命な理由は世界樹と呼ばれる、世界で一番大きな神聖な樹に護られていているからだといいます。
「違いますよ。そもそも世界樹なんてものは存在しませんから」
「え? しないのですか?」
オルフェさんの言葉に僕は驚きました。
あんなに世界樹とは勇者や魔王など、おとぎ話になら必ずと言っていいほど登場するくらいに有名な樹なのです。
現に勇者も魔王も存在しました。
ラインハルトさんがそうですからね。
なので、世界樹も当然存在すると思ったら、存在しないと言われてしまったのです。
「作り話を鵜呑みにしてはいけませんよ」
「わかりました。でも、ちょっと残念です」
「そういった気持ちを持つ事は大事かもしれませんけどね。ですが、今は現実に目を向けなさい」
「そうですね。えっと、それでマナの話でしたよね」
「はい。先ほど説明しましたが、先ほど撒いた種が成長すれば、マナを生み出し、この森にマナが満たされる事になるでしょう」
マナが満たされれば、そのマナを求めて魔物が寄ってくる事に繋がるみたいです。
しかも、魔素ではなくマナなのでゴブリンやオーガなどの好んで人を襲うような魔物は訪れないらしいです。
「という事はこれで、終わりですか?」
「そうなりますね」
少し味気ないですけどね。
ですが、これでリット様の条件を満たすことは出来ました。
「しかし、リット様はどうしてそんな条件を出したのでしょうね?」
「ハイエルフである私との繋がりを持たせたかったのでしょう」
「どうしてですか?」
「その辺りの意図はわかりません。しかし、歴史を振り返れば、ハイエルフが王族として精霊族を纏めている時代もありました。もしかしたら、その辺りが関係しているのかもしれませんね」
流石に理由まではオルフェさんにもわからないみたいです。
ですが、気になる事をオルフェさんは言っていましたね。
「えっと、もしかして……オルフェさんは王族の末裔だったりしますか?」
「さぁ、どうでしょう? それよりも次に行きますよ。次は魔物の村を作るのですよね」
「あっ、ちょっと、オルフェさん……」
しかし、オルフェさんは誤魔化すように僕に背を向けて歩き始めてしまいました。
こんな事は初めてです。
ですが、それだけ語りたくないという事でもあるかもしれません。
仕方ありませんよね。
誰にだって人に言いたくない事や言えない事はありますからね。
なので、僕もそれ以降はその事について言及はしませんでした。
いつかその事についてオルフェさんから話してくれるのを待つ事にしたのです。
こうして、僕たちは一つの目標を達成する事が出来ました。
まだ本格的に出来上がるのは先になりますが、ナナシキの北の森に魔物を多少呼ぶことが出来て、エルフ族との繋がりを持たせることに成功をしたのです。
まぁ、そのせいでスノーさん達がまた魔物の対策に追われる事になり、リコさん達の村の事も気にしなければいけなくなったので大変な事が増えましたけどね。
それでも、ナナシキでも冒険者の活動が活発になる可能性もありますので、全体でみれば前進と見る事はできます。
そして、僕たち、弓月の刻は再び活動を開始しました。
次の目的地はトレンティア。
ここで赤い大きな点について調べる事にしたのです。
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