第463話 弓月の刻、ナナシキへと戻る
「というのが、僕達の仮説になります」
「なるほど。虎族の領土に広がる森に、魔素が多く集まっている……か。その仮説なら、向こうに魔物が多く存在し、こちら側に少ない理由もわからなくはないな」
エルフ族の村から帰還した僕達はエルフ族の村の事を伏せつつ、調査の結果を伝えました。
流石に、エルフ族の村の事は言えませんからね。
それでも、嘘はついていませんし、実際に向こう側に魔素が多いのは確かです。
「では、僕達はこれから忙しくなりそうなのでこの辺で失礼しますね」
「わかった。後ほど、報酬の方は用意させて貰う」
「ありがとうございます」
これで、僕達のちょっとした冒険も終わりですね。
まぁ、魔物ともほとんど遭遇していないので、ちょっと物足りないですけど、サンドラちゃんの経験値を積んだと考えれば十分ですかね?
それよりも、大きな成果もありましたしね!
「それで、どこから決めようか?」
「まずはキアラちゃんとスノーさんの事からじゃないですか?」
「それがいい。早く結婚する」
「いきなりそれ? まぁ、私としては早い方がいいけどさ」
「そうですね……でも、いざこうなってみると少し照れますね」
「羨ましいなー」
領主の館へと戻ってきた僕達は、これからの事について話し合いを始めました。
「でも、まさかその場で認められるとは思いませんでしたね」
そして、最初の話し合いはスノーさんとキアラちゃんの結婚の話題になりました。
当然ですよね!
こんなにおめでたい話はないですから!
「うん。びっくりした。でも、キアラの両親の言う事もわかる」
「騙しているみたいだけどね」
「そうだね。だけど、スノーさんがこのままだったら、お父さんとお母さんの言う通りになると思うの」
「頑張らないとなー」
そして、どうしてスノーさんとキアラちゃんの結婚について話しているかというと、リット様と対話を終えた後にまで遡ります。
対話を終えた僕達は、そのままキアラちゃんの両親へと挨拶をする事になりました。
僕とシアさんとサンドラちゃんは普段からキアラちゃんにお世話になっている事を伝え、スノーさんはキアラちゃんとの関係を報告する事に決めたのです。
まぁ、いざ家に行ってみたら普通に寝ていたので戸惑いましたけどね。
エルさんから若い人以外は寝ている事が多いと聞いていましたが、本当に寝ていたので驚きました。
っと、そんな話はいいですね。
問題はその後です。
僕とシアさんとサンドラちゃんは、スノーさん達の邪魔になると思い、先に失礼したので聞いた話になるのですが、どうやらキアラちゃんとの関係を認めて頂き、結婚の許しも快く頂けたみたいです。
しかし、その理由が理由でした。
「それでは、次はどうしましょうか? 予定通りトレンティアの湖を調べるか、先にエルフの街へと行ってみるか」
「どっちでもいいよ。 まぁ、調べやすいのはトレンティアかな」
「私はトレンティアに賛成」
「私もかな。トレンティアに龍神様がいるとしたら、水龍様だろうから、スノーさんに加護を与えてくれる可能性があると思うの」
「くれるかはわからないけどなー」
「まずは会ってみてですね。何にせよ、まずはスノーさんが管理者としての資格を手に入れるのが先決です」
そうすれば、スノーさんがダンジョンの管理者となり、不老不死へとなれる筈です。
そうなれば、これでスノーさんとキアラちゃんは永遠とはいきませんが、長い間一緒に生きられる筈です。
まぁ、それが理由なのですけどね。
「ですが、改めて考えると、長命というのも大変ですよね」
スノーさんがキアラちゃんの伴侶に認められた理由は聞いていて少し悲しくなりました。
長く生きるという事は、それだけ別れが沢山あるからです。
「経験だからって簡単には割り切れないよね」
「そうだね。お母さんもお父さんも同じ経験をしてきたっていうけど、私には耐えられないと思うの」
そうですよね。
大好きな人と別れるのは辛い事だと思います。
スノーさんが認められた理由。
それはスノーさんが人族で短命だからです。
エルフ族は知ってのとおり、長命な種族で、生涯をたった一人の伴侶と過ごすというのはあまりないみたいです。
もちろん、最初からエルフ族同士で結婚して、ずっと共に生きていく人もいますけど、大体の人がエルフ族の領土の外で好きな人を見つけ、一度は結婚するみたいです。
ですが、エルフと人族であれば当然ながら先に人族の人が寿命を迎えます。
好きな人を失う悲しみ、苦しみ、命の尊さをそこで知るというのです。
それが、キアラちゃんの両親のいう経験というものらしく、それをキアラちゃんに知って貰うために、スノーさんは認められたみたいです。
キアラちゃん達のお母さんからしたら、最初は自由にさせてあげたいという気持ちと、最終的には同族の人と結婚してくれればいいといった感じだと思います。
長命だからこその考えですね。
「まぁ、認められた以上は好きにやらせてもらうけどね」
「うん。まさかお母さん達はスノーさんが不老不死になるとは思っていないと思うから」
スノーさんが騙しているみたいと言った理由がこれですね。
スノーさんが不老不死になると、キアラちゃんのお母さん達の思惑は外れてしまいます。
まぁ、それはそれで気にしなそうな気もしますけどね。
何せ、キアラちゃんに似てほんわかしていそうな人達でしたからね。
「とりあずは、トレンティアにいこうよ。まずは私が管理者にならないと意味ないしさ」
「結婚は?」
「それも後かな。まだ計画も立てれていないしさ」
「その時は招待してくださいね?」
「当然ですよ。ふふっ、楽しみですね」
「羨ましいなー」
「サンドラちゃんにはまだ早いですよ」
「なー……」
何せ、サンドラちゃんはまだ生まれ変わったばかりですからね。
それに、サンドラちゃんは僕達の子供みたいな存在でもありますし、まだお嫁さんに出すのは早いと思います!
あ、でも生まれ変わる前……まだサンドラちゃんが平和に暮らし、龍人族の巫女として生きていた頃はどうだったんでしょうね?
結婚をしていたとかそういう話しは聞いた事はありませんが、好きな人がいたとかも聞いたことありませんし、サンドラちゃん恋愛事情もちょっと気になりますよね。
「それじゃ、ここからはオルフェさんも交えてエルフ族との交流について進めようか」
「そうですね。特産品とか珍しい物を仕入れる事が出来るのは街の発展に繋がりますからね」
サンドラちゃんの恋愛事情は今度聞くことにして、話は次の話題へと移りました。
ですが、その前に人を集めなければいけませんね。
「それじゃ、私はシノさん達を呼んでくるよ」
「わかりました。僕はラインハルトさんを呼んできます」
「私はアリアを呼んでくる」
「私はラディ達を呼んできますね」
「私はオルフェを呼んでくるー」
僕はリット様にお願いをしました。
それが、さっき話題にあがったエルフ族との交流です。
有難い事に、そのお願いはリット様も望んで頂けました。
本当はダメ元でしたけどね。
まぁ、それも条件次第なので、確定という訳ではありませんので、何とも言えませんけどね。
ですが、その為に僕たちは一度ナナシキへと戻ってきたのです。
こういった話は僕達だけでは決められません。
僕達だけで決めてしまっては、この間、各種族の代表者を決めた意味がなくなってしまうからです。
なので、僕たちはみんなを集めて、今日までの経緯をみんなに説明をしました。
冒険者ギルドから依頼があった事。
エルフ族の村と交流が出来そうなこと、またその条件。
そして、スノーさん達の結婚の事。
それを話合う事にしました。
その結果、オルフェさんが凄く悩む事になりましたけどね。
だって、リット様の条件が、オルフェさんに関係する事でもあったのですから。
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