第462話 補助魔法使い、エルフの長と対話をする
「お見苦しい姿をお見せして申し訳ありませぬ」
「いえ、こちらこそ急にお邪魔した挙句、あのような事をしてしまいまして……」
リット様と僕が互いに頭を下げ、ようやく対話が出来そうな状況になりました。
ようやくですよ?
あれから大変だったのですから。
シアさんがリット様を抑えても暴れますし、みんなは混乱していますしで、中々収集がつかなかったのです。
「では、改めまして……ユアン様はどのようなご用件で、リーンへと?」
ようやく落ち着いたリット様と対話できるようになった僕はリット様と向かい合うように座り、対談をする事ができました。
もちろん、僕は失礼のないように正座をしています。
そして、何故かリット様まで僕に合わせて正座をしました。
「それはですね……」
それでいて、いきなりこの質問です。
僕は頭を悩ませました。
何と答えていいのか、凄く迷ったのです。
思い返せば、エルフの村へとたどり着いたのは偶然です。
いつかは来る予定ではありましたが、今回は魔物の調査でしたので、ここに来る予定はなかったのです。
なので、困った挙句に僕は素直にその事を伝えました。
「なるほど、ユアン様は魔物の調査をしていたと」
「はい。その通りです」
良かったです。
リーンに用があった訳ではないと伝えましたが、その事に対して怒った様子はありません。
もしかしたら用もないのに勝手に領地を侵略し、騒ぎまで起こしたと言われるかと思いましたが、杞憂だったみたいです。
「そういう事でしたら、ユアン様に出来る限りの協力を致しましょう」
「ありがとうございます。ですがその前に……ユアン様はやめて頂けませんか? リット様に比べると若輩者ですのでどうしても変な感じがしますので」
そして、ついでにその事に対してもお願いしをしてみました。
だって、エルフ族のお爺さんという事は、かなり長い間生きていても不思議ではありませんからね。
キアラちゃんは正確な年を教えてくれませんが、僕の予想では五十年以上は既に生きていると思っています。
キアラちゃんで五十年ですよ?
という事は、キアラちゃんのお爺さんならばその三倍以上は生きていてもおかしくないのです。
それに比べ、僕はまだ十数年しか生きていないのですから、リット様から見れば赤ん坊と変わりないと思います。
そんなお方に様をつけられるとどうしても違和感しかありませんよね?
「いえいえ、尊敬に値するお方に年は関係ございませんぞ」
「えっと、尊敬される存在でもないと思うのですが……」
「そんな事ありませぬ。ユアン様の事は孫娘から聞いておりましたから」
孫娘というと、エルさんの方って事ですかね?
キアラちゃんはずっと僕達と一緒に行動をしていて、村に帰っていませんからね。
ですが、問題はエルさんが僕達の事をどう伝えたのかです。
この様子ですと、悪いようには伝えていないみたいですが、逆に丁寧すぎて何と伝えたのかが不安になります。
「ハイエルフ様の元で育ち、世界を救うお方だと聞き及んでおりますぞ」
「世界を救う……ですか?」
確かに実はハイエルフだったオルフェさんの元で育ったのは間違いではありませんが、世界を救うというのはちょっとどころか、かなり違いますよね?
なので、僕はそれを否定させて頂きました。
ですが、リット様は僕が否定をするものの、笑顔で更に続けたのです。
「流石ですな! やはり世界を救うお方は器が違う! 謙虚で慎ましいと聞いておりましたが、リカから聞いた通りのお方よ!」
「あ、あの……本当に勘違いですよ?」
エルさんがとんでもない情報をリット様に伝えていたみたいです。
「間違いじゃないと思う。ユアンちゃんは、私達どころか、ルカの事も救ったのに、それを当たり前の事だとし、誇ったりえばったりしない」
「人を救うのに理由はいりませんからね」
それに、どちらも僕が勝手にやった事ですし、そこで偉そうにするのは違うと思います。
「そういう所。それが自然に出来る人は少ないよ。人は少なからず、自分の利益を考える生き物だから」
中にはそういう人は居ますけどね。
ですが、そういう人ばかりではない事を僕は知っています。
僕の仲間だってそうです。
シアさんは困っている人にさりげなく手を差し伸べますし、スノーさんは身を粉にして人の暮らしを良くするために働いています。
キアラちゃんだってサンドラちゃんだってそうです。
「なので、僕はそんなに立派ではありませんよ。それに、慎ましくなんてないですからね」
慎ましいって、思慮深いとか大人しいって意味ですよね?
それなら僕とは正反対だと思います。
みんなから考えなしに行動すると言われる事もありますし、楽しそうだと思ったらつい色々とやってみたくなってしまいますからね。
「そんな事ないよ。ユアンちゃんは慎ましい」
「えっと、何処を見て言っているのですか?」
エルさんの視線が僕の体の一部で止まりました。
そしてその視線が止まった先には僕の胸があるような気がします。
というか、絶対に僕の胸を見て言っていますよね?
確かに、僕はぺったんこですけど、これでもちょっとだけ膨らんでいます。
慎ましいというのはラインハルトさんみたいに背の高いのに、ぺったんこの人を言うのだと思います!
「なら、謙虚?」
「べ、別に言い換えなくてもいいですよ!」
そんな事を言わなくてもいいですよね?
それに、それを言ったらエルさんだって凄く謙虚な胸をしていると思います!
「ユアン、話が逸れてる」
「あ、そうでした。すみません」
「いえいえ、構いませぬぞ! むしろもっとやってください」
「それは、遠慮します!」
僕とエルさんのやりとりを楽しんでいるようだったので良かったですが、本当に話が変わってしまいましたね。
まぁ、このやり取りをみて、僕が謙虚で慎ましい訳ではないと思ってくれた筈です。
ですが、相変わらず僕の立場と言うか、存在と言うのは変わらないみたいです。
「まぁ、ユアン様はユアン様でございますし、このまま話を進めさせて頂きますね?」
「わかりました……」
仕方ありません。
そこはお互い様って事にしましょう。
僕もリット様から気軽に呼んで欲しいと言われたのに、様をつけさせて頂いていますからね。
そんな事よりも、僕には色々と聞きたい事があります。
僕が世界を救う存在だとまだ勘違いしているみたいですが、いずれは勘違いだったと気付いてくれると思いますので、僕は話を進める事にしました。
「では、話を戻しますね。この辺りには魔物が出没するみたいなのですが、どのような魔物が出没するのかとかはわかりますか?」
まずはこれについて聞くことにしました。
本当はエルフ族の村の事などを聞きたかったのですが、いきなり村の事を尋ねるのも失礼かと思い、僕達の目的である魔物について聞くことにしたのです。
「申し訳ありませんが、儂はここ暫く村から出ていないので、現在の魔物の様子は存じておりませぬ」
「そうだったのですね」
村の警備や農作業などを主に担っているのは若者という話しをエルさんから聞きましたし、知らないのは仕方ないかもしれませんね。
ナナシキならば、スノーさんやキアラちゃんが報告を聞き、それを纏めるという仕事をしていますが、エルフ族は違うみたいです。
なら、質問を変えてみますか。
「リット様が知っている頃と今を比べますと魔物の出没の頻度とかは変わったりしていますか?」
「以前に比べ、魔物の数が増えたとは聞き及んでおりますぞ」
「そうなのですね。具体的にはどんな感じで増えたとか聞いたりはしていますか?」
「そうですな……南の方から魔物が流れてきているようだとは聞いておりますぞ」
南の方といいますと、ナナシキがある方角でもありますね。
これは貴重な情報かもしれませんよ!
だって、もしかしたら魔素の薄いナナシキの領土から魔素の濃いこちらへと魔物が移り住んでいるという仮説が立てられますからね!
まぁ、それを確かめるにはもっと詳しい調査をしなければいけませんけどね。
ですが、そこまでわかれば、ギルドの方で対応してくれる可能性もありますし、冒険者への依頼になるかもしれません。
ですが、問題もあります。
僕はその問題を解決する為にも、リット様に質問とお願いをしました。
これからナナシキの発展にも繋がるであろう重要な事を。
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