第452話 補助魔法使い、戦争の報告を聞く

 「遅れてすみません」

 「問題ありませんよ。まだ始まったばかりですから」

 「それに、君たちが遅れるのはいつもの事だしね? どうせ、何かまた面倒ごとに巻き込まれていたんでしょ?」

 「そうですね……」


 簡単に遅れた理由を話すと、みんなから呆れられたように見られてしまいました。

 でも、仕方ないですよね。

 相手にしないと何をしでかすかわからない人が来ていたのですから。

 

 「では、ユアン殿達も揃ったようですので、これから今後についての話し合いを致します」


 そう言って、アンリ様が話し合いの進行を始めました。

 

 「では、まずは僕達の方からの方がいいかな? ユアン達の方は何やら問題をまた持ってきたみたいだし」

 「そうですね。まずは状況の確認を先に済まし、その後にユアン殿達の話を聞きましょう」


 何だか僕がまたトラブルを持ってきたみたいな言い方をされている気がしますね。

 まぁ、実際にその通りなのですけどね。


 「では、まずは僕の方からだね。こっちの方は予定通りリアビラ軍が進軍してきたね」

 「被害の方はどうなのですか?」

 「街にも人にも被害はないかな」


 心配でしたが、心配は杞憂でしたね。

 ですが、やったことは凄い事をしたみたいです。

 少人数でリアビラ軍の半数と海を使い攻めてきた軍を全滅させたみたいですから。


 「ま、相手が相手だしね」

 「相手は最初から死んでいて、全員操られていたんだよっ!」

 「という事は、死霊術死ネクロマンサーが居たという事ですね」

 「そうなるね。逃げられた、というよりも最初から軍には居なかったみたいだけどね」


 しかも、遠くで死体を操る事の出来る程の術者がリアビラには居るという事ですか。

 今後はその人にも気をつけなければいけませんね。


 「僕の方はそんな所かな。他に報告するような事はないし」

 「わかりました。では、ナナシキの方はどうでしたか?」

 「その報告は私ですね。こちらの方も被害はなし。ただ、侵入者が居たみたいですけどね」

 「侵入者ですか?」

 「はい。恐らくはそれがリアビラ軍の目的だったと思われるのですが、私がナナシキを離れ、迎撃をしている時に、捕らえていた魔族と接触を果たした者がいるようです」

 「捕えていた魔族というと、オメガさんですかね?」

 「そうなりますね」


 オルフェさんの報告から推測すると、リアビラ軍が動いた理由はオメガさんの奪還といった所でしょうか?

 ですが、それだと少しばかり理由が弱いですね。


 「後は、ナナシキの様子を確かめに来たとかかな?」

 「何の為にですか?」

 「簡単だよ。リアビラは奴隷を輸送するルートを失っている。ルード帝国の国境の監視が厳しくなった以上は他のルートを使う以外に方法はないという事さ」


 つまりはリアビラとの国境を安全に通れるのか確認しに来たという事ですかね?

 

 「ま、他にも理由はあるかもしれないけど、あまりにもリアビラに関しては情報が少なすぎるし、考えるだけ無駄かな」

 「対策はしておいた方がいいと思いますけどね」

 「一応は応急処置は施してありますので問題ありませんよ。フォクシアの兵士を国境へと派遣しましたから」


 対応が早いですね。

 リアビラとの国境に居た兵士は大半がリアビラの手のかかった者ばかりだと判明しました。

 アンリ様はその対応を急いだようですね。


 「それに、オルフェの方でも対策をしてくれているみたいだしね」

 「オルフェさんがですか?」

 「うん。ユアンはアーリィへと続く街道に森が出来たことを知っているかい?」

 「そうなのですか?」


 それは初耳でした。

 というか森が出来たってどういう事でしょうか。


 「リアビラ軍を誘い込む為に私が創りました」

 「え、そんな事が出来るのですか?」

 「出来るから森が出来たのですよ」


 まぁ、そうですけどとても信じられる内容ではありませんよね?

 ですが、その森がリアビラの対策にどう繋がるのでしょうか?


 「あの森は迷宮となっているからです」

 「迷宮ですか? ですが、そんなものがあったら、一般人が入ってしまったら困りますよね?」


 迷宮というくらいですからね。

 ダンジョンとまではいかないかもしれませんが、それでも一度入ってしまったら出るのは大変だと思います。


 「そこは問題ありませんよ。一般人が入っても迷う事はありませんから」

 「そうなのですね?」


 理屈はわかりません。

 ですが、オルフェさんが大丈夫と言うのならばきっと大丈夫なのですよね。

 しかも、さらっと一般人がと言った事からそれ以外の人……まぁ、悪い人が入ったら大丈夫じゃないという意味にもなりそうです。

 後で確認してみないといけないですね。


 「となると、リアビラの関係者がナナシキに来ようとしても国境とオルフェさんの森で阻む事が出来るという事ですね」

 「そうなりますね」


 他にもルートはありますけどね。

 例えば、ナナシキの北側にある山と森を通るルートなどもあります。

 ですが、そっちはラディくん達が見張っていますし問題はなさそうですね。

 

 「それで、オメガさんはどうなったのですか?」


 正直、そこまで気を回している余裕はなかったので、オメガさんが今どういう状態なのかは知りませんでした。


 「そちらも問題ありませんよ。連れ去られてもいませんし、危害を与えられてもいませんから」

 「それは良かったです」


 良かったですけど、それもまた疑問が残りますね。

 オメガさんを奪還しに来たのに、オメガさんはそのままというのは変です。

 魔鼠さん達の目をかいくぐり、ナナシキへと侵入を成功させたくらいですし、侵入者はそれなりの腕があってもおかしくないと思います。

 そんな人ならオメガさんを捕えている場所なら簡単に突破できそうですよね。


 「侵入者にいち早く気付き、対処した者がいたのですよ」

 「それは誰ですか?」

 

 真っ先に思いついたのはユージンさん達でした。

 その為にユージンさん達には残って貰いましたからね。

 ですが、帰ってきたのは予想外の言葉でした。


 「それは秘密です」

 「え、秘密ですか?」

 「はい。本人から内緒にして欲しいと言われましたので」

 「どうしてですか?」

 「どうしてでしょうね? ですが、本人が言いたくないと言うならばそれなりの理由があるのでしょう」


 むむむ……。

 そう言われてしまったら聞くことは出来ませんね。

 ですが、ユージンさん達以外となると、誰なのでしょうか?

 思い当たる節はありませんよね。


 「でも、どうしてオルフェさんはその事を知っているのですか?」


 侵入者が居た事を知っているのは、オメガさんと対処したその人だけですよね?

 外に出ていたオルフェさんが知っている筈がありません。


 「いえ、私も侵入者がいる事は気付いていました」

 「そうなのですか? なら、どうしてオルフェさんが対処をしなかったのですか?」

 「その必要がないと判断したからです。それに、その者の力を知っておきたかったというのが理由です」


 つまりはオルフェさんはわざと侵入者を泳がせて、その人に対処させたという事ですかね?

 

 「でも、どうしてそんな危険を冒してまで試すような事をしたのですか?」


 もし、その対処した人が失敗したのであれば、オメガさんが脱走し、ナナシキが大変な事になっていたかもしれません。

 

 「確信があったからです。その者に任せれば問題ないと」

 「それ程の人なのですか?」

 「はい。それ程のお方ですよ」


 むむむ……。

 オルフェさんがそう言うって事はかなり凄い人という事になりますね。

 そうなると余計に気になります!

 

 「コホンッ……そろそろ次の話題に移ってもよろしいですか?」

 「あ、すみません。どうぞ……」


 そうでした。

 今の話し合いはそれだけではなかったですね。

 気になる気持ちを抑え、話は次の話題へと移りました。


 「では、次は私から。今後の鼬国についてお話させて頂きます」


 そして、話は鼬族の事に移りました。

 僕達の話も重要かもしれませんが、アルティカ共和国にとっては一番重要な話といえますからね。

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