第453話 補助魔法使い、戦争の報告を聞く2
「まずは移民について、各王との話し合いの結果を伝えさせていただきます」
そう言って、アンリ様はみんなに資料を配りました。
「ほぉ、そうなったか」
「如何でしょうか?」
「うむ。それでよい。アンリも成長したのぉ」
「母上のお陰です」
資料を見たアリア様は満足そうに頷いています。
ですが、僕は資料をみてもアリア様が満足する理由がわかりませんでした。
「アンリ。ユアンが理解できていない。説明する」
むー……。
シアさんが意地悪です。
まるで僕だけがわかっていないみたいな言い方をしています!
まぁ、みんなは納得しているような顔をしているので、間違いじゃないかもしれませんが、それでも酷いと思います!
「ごめん。だけど、ユアンの今後を考えると、こういう事はちゃんと理解した方がいい」
「まぁ、そうですけどね」
「うん。だから、わからない事は素直に聞く。そうじゃないと、成長は出来ない」
「わかりました」
シアさんの言う通りですね。
知らない事を聞くのは無知を晒すようで恥ずかしいですが、知らないままでいると、そのうちもっと恥ずかしい事になるかもしれません。
なので、僕を成長させるためにも、敢えてああ言ってくれたのですね。
「よろしいですか?」
「あ、はい。お願いします」
「わかりました。まずは、鼬族についてです」
そう言って、アンリ様は狼族と鳥族の領土を指さしました。
そこには鼬族を表す青いマークが多く記載されています。
「これは、どういう事ですか?」
わからない事は素直に聞く。
早速僕はシアさんに言われた事を実践しました。
「わかりやすく説明すると、戦争の代価です」
「戦争の代価……?」
そう言われてもいまいちピンと来なかったので、僕は聞き返しました。
「えぇ。今回、鼬族は国を失いましたね」
「そうですね」
女神であるレンさんが原因で、鼬国は無くなり、代わりにレンさんが住む塔が立ちました。
「では、国を失った鼬族はどうすれば良いでしょうか?」
「それは……あ、他の国に住むしかないって事ですね!」
「そういう事です」
それで狼族と鳥族の領土に鼬族が沢山いる事になっているのですね。
「ですが、流石に全ての鼬族を受け入れる事は無理ですよね?」
だって、鼬族の兵士は鼠族も含めると十万くらい居ましたからね。
流石にそれだけの数の移住を受け入れるのは不可能に思えます。
「全ては無理です。しかし、鼬国は都こそ失いましたが、各地には街が残されています」
「そういう事ですか。街に戻れる人は戻し、都に住んでいた人達だけを受け入れるという事なのですね」
「正解です」
それなら納得いきます。
えっと、鼬国の都をレンさんによって追い出された人は一万くらいでしたっけ?
都に居た兵士を含めなければですけど、確かそれくらいだったと思います。
「でも、どうしてそれが戦争の対価になるのですか?」
「逆にお聞きしますが、ナナシキでこれから一万もの人を受け入れて欲しいと言われたらそれは可能ですか?」
「無理だと思います」
「そうですよね。当然ながらフォクシアでも難しいと考えます。ですが、行き場を失った鼬族はどうにかしなければなりません」
当然ですよね。
鼬国には街があるとはいえ、振り分けたとしても限界があります。
何せ、鼬国は鼬王の政策のせいで、色々と貧しい場所です。
その日暮らしをしている人が多くみられました。
まぁ、貴族は除きますけどね。
「それはわかりますが、どうして狼族と鳥族が受け入れる事に繋がるのですか?」
「それは、その二カ国が敗戦国だからですよ」
「なるほど。わかってきましたよ!」
そこまで聞いてようやく納得できました。
僕達も万が一戦争に敗れた時の事を考えたりもしましたが、そこで必要になってくるのは賠償でした。
土地を明け渡したり、お金を渡したりと、戦争に掛かった費用や人的保障などを要求される事を想定していたのです。
そして、アンリ様が今話している事こそが賠償となるみたいです。
中身的には賠償ではありませんけどね。
それでも鼬族の面倒は誰かが見なければいけません。
そこにかかる費用や手間などは計り知れず、国を再建するとなればとてつもないお金や人が必要になって来る筈です。
その面倒ごとを誰がやるかとなった時、進んでやろうとする人はいないと思います。
そこで、アンリ様は敗戦した事を理由に狼族と鳥族に面倒を見る事を押し付けたという事になったのだと思います。
「まぁ、全てを丸投げという訳にはいきませんけどね」
「当然じゃ。そんな事をしたら狼族と鳥族が潰れてしまうからのぉ」
「わかっています。出来る限りの援助はフォクシアからも行うつもりです」
鼬国を再建する前に他の二国が潰れてしまっては元も子もありませんからね。
「まぁ、移民の受け入れはそんな感じで進めていきます」
「えっと、ナナシキに移民は今の所いないのですか?」
アンリ様の資料を見た限り、ナナシキは移民を受け入れる予定はないように思えます。
「それはスノー殿との話あって決める予定です。流石にナナシキに関してはこちらで決める訳にはいきませんでしたので」
「一応の管轄はルード帝国になるからだね」
そういう事でしたか。
あくまでアルティカ共和国内でどれだけ移民を受け入れるかって話なのですね。
「ちなみにですが、スノーさんはどう考えているのですか?」
「受け入れるよ。まぁ、兎族に絞ってだけどね」
「どうしてですか?」
「ナナシキを恐れているからですよ」
「え?」
予想外の事をアンリ様から言われました。
「ナナシキが恐いのですか?」
「えぇ。あの戦争には鼠族と鼬族が参加していました。もちろん、兎族も参加していましたが、兎族は主に後方による支援でした。しかし、鼬族と鼠族はどうでしょう?」
「普通に戦いましたね」
「そうですね。そして、ナナシキ軍の力を直に見ている者が多い筈です。恐れない筈がありませんよね?」
どうやら、僕達と戦った人が僕達を怖がってしまっているみたいです。
確かに、アンリ様率いるフォクシア軍は守りに重点を置き、僕達ナナシキ軍がやりたい放題攻めていましたからね。
恐れるのは僕達と思うのは当然かもしれませんけど……。
「なんか、ショックですよね」
ナナシキは色んな種族の人が仲良く暮らす街。
それを目指しているのに、怖がられるのはショックです。
「まぁ、そればかりは仕方ないかな」
「むしろナナシキに手を出すとどうなるかを理解して貰ったと思えばいいと思うの」
「そうですけどね……」
それでも残念に思えます。
「問題ありませんよ。鼬族や鼠族は確かにナナシキを恐れているかもしれませんが、他の種族からみればナナシキは頼りになると思って頂けた筈ですから」
「まぁ、そう思って頂けたならいいですけど」
「はい。それに、これでナナシキの立場も確立できますし、悪い事ばかりではありませんよ」
「そうですね。前向きにとらえた方がいいですよね」
それに、移住したいと思ってくれる人は少なからずいるみたいですし、ゼロじゃないだけマシだと思います。
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