第450話 閑話 補助魔法は苦手だけど、攻撃魔法は任せなさい3

 「リンシア、このまま攻撃してもいいけど、どうする?」

 「どういう事?」

 「オークは私の闇魔法によって私達を見失っている。今なら、一方的に倒すことが出来るって事」


 その証拠にオークたちは幻影の私達を追って、バラバラに動き始めた。

 

 「有難い。だけど、折角なら私の力も見てもらいたい。さっきまでは不覚をとっただけだから。だから、普通に戦う」

 「わかった。それじゃ、いくよ」


 オークにかけていた闇魔法を解く。

 すると、オークたちは追っていた幻影ではなく、私達に気付いたようで一斉に襲い掛かってきた。

 私が登場した事で、どうやら様子見だったオークも動き出したみたいだね。

 

 「ユアン、下がる」

 「わかった。それじゃ、見させて貰おうかな。リンシアの力を」

 「任せる」


 そう言って、リンシアはオークの群れの中に飛び込んでいった。

 私に力を見て欲しいと言っただけあるね。

 さっきまでが本調子ではなかった事がわかる。

 リンシアはオークの攻撃を躱しつつも、的確にオークへと致命傷を与えていく。

 力という点ではオークの方が上なのは一目見てわかるけど、素早さと正確さはリンシアの方がかなり上みたいね。

 流石はCランク冒険者といった所か。

 だけど、見ていて危うい。

 力不足故に一撃で倒しきれないオークが出始めた。

 それに、魔物の血は少し特殊である為、血で濡れた剣が滑っているようにも見える。

 それの所為もあって、オークを仕留め切れていないのであろう。

 それでも十分だけどね。

 一人で戦える相手には限度がある。

 リンシアはこの短時間で半数ほどのオークを倒した事を考えれば十分に私に実力を示したと言えるだろうね。

 なら、今度は私の番。


 「リンシア、後は私に任せなさい」

 「うん!」


 オークの攻撃を躱し、体勢を崩したオークの背中を足場にしてリンシアが私の隣へと飛んでくる。


 「さぁ、終わりにしましょう」


 リンシアが頑張ってくれたお陰もあり、私の準備も整った。

 一人で戦う時はこのように準備する時間はない。

 だから今日は特別。

 いつもよりも二段階ほど威力の増した闇魔法をオークたちに降らせる。


 「シャドーランス」


 闇魔法の中でも初級と呼べる闇の槍。

 発動の速さから闇魔法を使える者が好んで使う魔法を私は発動した。

 並みの魔法使いならば、ゴブリンを一撃で仕留めるほどの威力しかない。

 だけど、私は違う。

 通常状態でも、オークくらいならば簡単に葬る事が出来る。

 そして、今回はリンシアのお陰で十分に準備ができ、魔法を構築する事が出来た。

 敵の残りは二十程か。

 余裕だね。


 「さよなら。豚さん」


 私の頭上で展開した漆黒の槍が次々にオークへと襲い掛かる。

 その数は軽く百を越えているだろう。

 本気を出せばもっと出せる。

 だけど、相手はオークだしこれで十分。

 むしろこれでも多かっただろう。


 「すごい……」

 「ありがとう。だけど、終わりじゃないよ」


 次々と倒れれるオークの中に、一匹だけ無傷で立っているオークが存在した。


 「オマエ、ヤルナ」

 「それはどうも」


 リンシアを掴んでいた一回り大きなオークが喋りだした。

 やっぱり上位個体だったみたいだね。

 そして、上位個体でも人の言葉を話せるのは数少ない。

 故に辿り着く結論は……。


 「将軍ジェネラル。貴方の負けは決まった。無駄死にをしたくなければ、直ぐにここから去りなさい」

 「コトワル。ナカマノカタキウタセテモラウ」


 面倒ね。

 逃げるのであれば、見逃してあげようと思ったけど、その気はないみたい。

 流石に人の言葉を話す魔物を殺めるのは少しだけ気が引ける。

 意思の疎通ができるのであれば、分かり合えると思ったけど、やはり無理か。

 まぁ、それも仕方ない。

 人と人であっても、争いは起きる。

 それが人と魔物となれば、思想が違う故にわかりあえるのは難しいのかもしれない。


 「だってさ。リンシア、どうする?」

 「譲ってくれるの?」

 「いいよ。やられっぱなしじゃ癪でしょう?」

 「うん。借りは返さないと気が済まない」

 「それじゃ、任せたよ。頑張ってね」

 「任せる!」


 リンシアの背中を押し、リンシアを送り出す。


 「将軍ジェネラル。覚悟する」

 「カンタンニマケルワケニハイカナイ。サキニイッタナカマノカタキ、トラセテモラウ」


 勝負あったな。

 リンシアは落ち着きを取り戻し冷静になっている。

 それに比べ、将軍ジェネラルは仲間をやられた事によって大分頭に血が上っているみたいだね。

 結末を見届けるまでもないか。

 それじゃ、私は自分で倒した分のオークを回収でもさせてもらおうかな。

 

 「これで暫くは食いつないでいけそうかな」

 

 解体は苦手だからギルドに任せる事にしても、オークの素材を売った代金とこちらで引き取る肉の事を考えると、向こう一年。ゴブリンの干肉の事も含めれば二年くらいは食料に困る事はなさそうだ。

 うんうん。

 結果的にはリンシアの仕事を横取りするような形になってしまったけど、リンシアも無事だし、私にとってもリンシアにとっても最良の結果になったかな。


 「ユアン」

 「ん? あ、終わったの?」

 「終わった……見てた?」

 「あ、うん。見てたよ。頑張ってたね」

 「むー……。嘘、ユアン見てなかった」


 一応は見てたけどね。

 まぁ、倒した瞬間だけだったけどさ。


 「それよりも……これを、受け取って欲しい」

 

 リンシアは私に向かって片膝をつけ、剣を差し出した。

 二対ある白い剣の方を私に差し出したのだ。


 「どうしたの? いきなり」

 「…………」


 私の質問にリンシアは答えない。

 ただ、真っすぐに金色の瞳でジッと見つめるばかり。


 「まぁ、受け取ればいいのね?」


 理由はわからないけど、リンシアは何かをしたいのだろう。

 そして、差し出された剣を受け取った瞬間だった。

 僕達の足元に魔法陣が展開されました!

 そして、その魔力が僕達を包み、僕とリンシアさんを結びつけるように、僕達の中に染み込んでいったのです。


 「今のは……契約魔法?」


 魔法陣が展開された瞬間に読み取れたのはそれだけだった。


 「これで、契約は成立致しました。私はこれから主の剣となり、盾となり、主へと忠誠を誓います」

 

 リンシアが膝をつけたまま、いきなりそんな事を告げてきた。

 それに対し私は……。


 「悪いけど、断らせて貰うよ」

 「ど、どうしてですか?」


 リンシアが驚いたように目を見開き、理解できないといった感じで目をパチクリとさせた。

 けど、こればかりは仕方ない。


 「どうしてって言われてもね。私は誰かに忠誠を誓われるような立派な人じゃないからだよ。それに、私の目標にリンシアを突き合わせる訳にはいかない」

 「主の目標ですか?」

 「うん。私はね、のんびりと誰にも干渉されずに暮らしたいの。家を買ってね」


 それが私の目標。

 冒険者を選んだのもそれが理由。

 冒険者ならばこの身一つで稼ぐことが出来るから。


 「ならば、その家を私が守ります」

 「そういう問題じゃないんだけど……」

 「ならば、どうしたら一緒に居させて頂けますか?」


 リンシアが必死なのはわかる。

 困ったように、特徴的である耳をピクピクとさせて、金色の瞳が潤んでいる。

 まるで飼い主に見捨てられたくない子犬みたい。

 はぁ……。

 私は心の中でため息をついた。

 そんな目をされたら、流石に放っておくこともできないか。


 「そうだね。ならさ、まずは一緒にパーティーでも組んでみない?」

 「パーティーですか?」

 「うん。まずはお互いの事を知るのが大事だと思うからさ」

 「主がそう仰るのなら……」

 「ありがとう。それともう一つ。私の名前はユアン。ちゃんと名前で呼んでもらえる?」

 「わかりました」

 「後、私に敬語はやめて。堅苦しいのは嫌いだからさ」

 「でも……」

 「でもじゃない。それは条件。それが出来ないならパーティーも組まないから」

 「わ、わかった! こ、これでいい?」


 慌てたように耳と尻尾をパタパタさせ、リンシアは首を傾げた。

 最初の印象とだいぶ違うな。

 無口で不愛想だと思っていたけど、こんな表情も出来るんだ。


 「うん。それじゃ、よろしくね?」

 「うん!」


 子供のようにリンシアが返事をした。

 尻尾もブンブンと振り回し、嬉しそうにみえる。

 

 「それじゃ、片付けをして街に戻ろうか」

 「うん。今日の事、色々と報告する」

 「そうだね。それじゃ、リンシアはオークを一か所に集めて貰える? 私はあっちから回収しとくから」

 「わかった。それと、私の事はシアって呼んで?」

 「どうして?」

 「親しい人は私の事をそう呼ぶ。ユアンにもそう呼んでもらいたい……だめ?」


 恐る恐るといったようにリンシアは上目遣いで私を見つめた。


 「わかった。これからそう呼ばせてもらうね。シア」

 「うん!」


 こうして、私とシアはパーティーを組む事になった。

 そして、色んな繋がりに助けられ、様々な困難を乗り越え、ようやく念願の家を手に入れ、私達は夫婦となり、共に過ごす事になった。

 今も隣で静かにシアは寝息をたて、幸せに包まれたように眠っている。

 

 「可愛い……大好きだよ、シア……」


 私は隣に眠るシアを起こさないようにそっと口づけを……。





 「……あん」

 「ん……」

 「ユアン」

 「ん、なに?」

 「ユアン、朝。起きる」


 目を開けるといつも光景だった。

 隣にシアがいて、眠る私に覆いかぶさるように私を見ていた。

 

 「もう朝なのね……おはよう、シア」

 「う、うん。おはよう」


 シアが驚いたように目を大きく開いた。

 それが可愛くて、私はシアの首に腕を回し、おはようの挨拶を交わす。


 「ユアン……」


 おはようの挨拶を済ますと、シアさんはうっとりとしたような表情で僕を見ていました。


 「どうしたのですか?」

 「どうもしない。だけど、ちょっとムラムラする」

 「ふぇ? あ、朝ですよ?」

 「うん。だけど、愛を確かめるのに、時間は関係ない」

 「あ、ちょっと……」


 こんな事は初めてです!

 シアさんが朝から凄く元気になっています!

 しかも、僕を抱えて転がると、僕の下になって僕を誘うようにしてくるのです。

 これは、僕にしてほしい……って事ですかね?

 仕方ないですね。

 完全にシアさんのスイッチが入ってしまったみたいです。

 どうしてこうなったのかはわかりませんが、シアさんが誘っているので、この状態で一日我慢させる訳にはいきません。

 今日は朝から大変な一日になりそうだなと、思いながら僕とシアさんは肌を重ねました。

 これも、鼬族との戦争が終わり一時かもしれませんが平和が訪れた証拠ですかね?

 そんな感じで僕達の一日がまた始まりました。

 幸せを実感しながら

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