第449話 閑話 補助魔法は苦手だけど、攻撃魔法は任せなさい2

 「嬢ちゃん! 無事だったのか!」


 村へ戻ると、門番をしている警備兵のおじさんが私を見つけ駆け寄ってきた。


 「どうしたの? そんなに慌てて」

 「どうしたって……あれから帰ってこなかったから心配したんだぞ」

 「心配してくれてありがとう。だけど、この通り元気だよ」

 「そうみたいだな。それでも無事で良かったよ。何せ、森にはオークが出没しているらしい。小さい嬢ちゃんが一人で向かって帰ってこなければ、何かあったと思うだろ?」


 そんなに心配される事をした覚えもないけどね。

 これでもEランクとはいえ、れっきとした冒険者だし。


 「それよりも中に入っていい?」

 「あぁ、そうだったな。いいぞ、中に入って」

 「ギルドカードを確認しなくていいの?」

 「いいよ。昨日確認したからな」


 面倒な手続きがないのは助かるけど、それでいいのかな?

 まぁ、おじさんが良いというのなら入らせて貰おうか。


 「あんまり無茶するなよ」

 「大丈夫だよ。やれる事しかやらないから」

 「約束だからな?」

 「はいはい。それじゃ、またね」


 随分と人のいいおじさんだ。

 ああいう人が村の入り口にいてくれると、この村に訪れる人はこの村に親しみをもつだろうね。

 といっても、あのおじさんには私と同い年くらいの娘がいるみたいで、私とその娘が重なってみえて心配しただけかもしれないけどね。


 「依頼はないのか」

 

 リンシアと別れ、薬草と流水草を納品し、ついでに商人のザックを護衛した時に討伐したオークを置いて報酬の金貨を受け取った私は依頼ボードを確認していた。

 しかし、残念な事に目ぼしい依頼は既に誰かが受けてしまったようで、昨日と同様にいい依頼は既に無くなっていた。

 まぁ、Eランクの私が受けれる依頼は大してないけどね。


 「あ、あれ……ユアンさんじゃないっすか」

 「ん? あぁ、オリオとナターシャ……それとデングだっけ?」


 依頼ボードから離れ、仕方なく今日も薬草と流水草を集める事に決め、ギルドから出ようとすると、運が悪い事に昨日ギルドで絡んできた三人組に出くわしてしまった。


 「どうしたの? 依頼でも探してるのかしら?」

 「そんな所ね」

 「そうっすか……よ、よかったら一緒にオークの討伐にいかないか?」

 「オークの討伐?」

 「知らないの? 今、森の中にはオークが繁殖しているらしくて、相当な数がいるみたいなの」

 「それは知ってる。だけど、依頼なんて出ていなかったよ」


 依頼ボードを確認したから知っているけど、そのような依頼は出ていなかった。

 もしかして、この三人組が依頼を受けたとかかな?

 いや、それはないか。

 どうみても、オリオとナターシャがオークを討伐できるような腕は持ち合わせていない。

 デングはそれなりに腕はあるみたいだけどね。


 「依頼がなくても倒して納品すれば報酬が貰えますぜ」

 「それに今ならチャンスだしね」

 「チャンス?」

 「森で高ランクのリンシアさんがオークの調査をしているから、その手伝いをすればきっと報酬を分けてくれると思うんすよ」


 呆れた。

 ようはハイエナをするって事か。

 自分たちだけでは狩るのが難しいから、リンシアの手柄を横取りするような形で自分たちが稼ぐつもりでいるみたい。


 「悪いけど、私は他の依頼を受けたから遠慮しとく」

 「そうっすか……残念だ」

 「悪いわね。それと、一応忠告しとくけど、リンシアの邪魔はしない方がいいよ」

 「どうしてよ。折角の稼ぎ時なのに」


 前に組んだ時と何も変わっていない。

 大した働きもせずに、ちゃっかりと報酬だけはしっかりと受け取り、あわよくば自分の手柄を多く貰おうとする。

 こんな冒険者になりたくないものね。

 

 「冒険者なら自分の実力で稼ぎなさい。いつまでもそんな事をしていると、いつか痛い目にみるよ。それじゃ」


 そう忠告し、私は止めるオリオとナターシャを無視し、ギルドから離れた。

 少し嫌な予感がする。

 ギルドから離れる時に、オリオとナターシャが、『仕方ない俺達だけでやるか』と話しているのが聞こえてしまったから。

 あの様子だと、私の忠告は届いていないみたい。

 きっとリンシアを探して森に行くでしょうね。

 それが心配だった。

 明らかに足手まといとなるだろう人を護りながら戦うのは高ランクの冒険者でも大変な事だから。


 「まぁ、私には関係ないか」


 オリオとナターシャがどうなろうと冒険者である以上は自己責任。

 リンシアの事は気にはなるけど、そこはリンシアの気持ちもあるだろうし、私がどうこう言う問題ではない。

 なので、私は私でやる事をやるだけ。

 そう思い、私は今日も薬草と流水草の採取を始めた。

 しかし、悪い予感はあたるみたい。


 「オークが森の奥に向かっている」


 昨日のうちに採取ポイントに目途をつけていた私はそのポイントへ向かい、採取をしていると、探知魔法で数体のオークが移動をしているのを捉えた。

 探知魔法の情報によると、昨日リンシアが向かっていった方向へと向かっているらしい。


 「新たに合流したオークなのか、それともただ森を歩いているだけ?」


 魔物が森を移動する事は珍しい事ではない。

 しかし、単独ではなく隊列を組むように移動しているとなれば話は別。

 あの様子からすると、目的を持って移動してると思える。

 理由はわからない。

 もしかしたら森で食料を探しているのか、それとも森を警邏しているのか。

 どちらにしてもオークはリンシアの向かった方向へ移動している。

 時刻はお昼過ぎくらいか。

 時間的に考えると、もしオリオとナターシャ達がギルドで話していた通りにリンシアを探していたとすれば合流していてもおかしくはない。


 「私には関係ない」


 と思いたい所だけど……。

 やっぱりリンシアの事は気になるわね。

 それにオークの行動も気になる。

 隊列を組むように移動している事を考えれば統率している上位個体がいる可能性もある。

 そうなると、オリオとナターシャじゃないけど、報酬としてはおいしいだろう。

 別に横取りする訳ではないけどね。

 リンシアが問題なく対処できるのならば譲ればいいし、ダメそうなら協力すればいい。

 

 「行ってみようか」


 何よりも興味があった。

 リンシアはCランク冒険者。

 Aランク冒険者には出会った事があるけど、Cランクの冒険者に出会うのは初めて。

 EランクとCランク、それからAランクの冒険者とどれほどの実力の差があるのか気になる。

 決してリンシアが心配という訳ではないよ?

 これはただ、興味本位だから。

 だから、私はオークの後をつけるようにし、森の奥へと向かう事にした。

 そして、暫くオークの後をつけると、探知魔法に新たな反応があった。


 「青い点が二つ離れていく……それにあの反応は……」


 紫色の点が赤い点に囲まれている。

 紫色の点は私に友好的に接してくれる存在に設定してある事からこの場ではリンシアしかありえない。

 その点が赤い点に囲まれているという事は、交戦状態になっているという事になる。

 

 「急がなきゃ」


 赤い点の数は三十を越えている。

 流石にCランク冒険者とはいえ、それだけのオークを相手にするのは厳しいかな。

 それに、赤い点の中には一回り大きな赤い点が含まれている。

 つまりは通常のオークよりも強い力を持つ上位個体という事。

 そして、その予想は当たってしまった。


 「離せ」


 急いでリンシアの元へと駆け付けると、状況は最悪といっていい状況だった。

 頭から血を流したリンシアが上位個体と思われるオークに腕を掴まれ、宙吊りにされていた。

 しかし、リンシアはまだ諦めていない。

 掴まれていない腕でオークの腹を剣で突き刺し、どうにか逃れようともがいている。

 

 「グォォォォォ!」


 腹を刺された上位個体が怒りの声をあげ、力任せにリンシアを投げ飛ばした。


 「ぐっ……ごほっ!」


 投げ飛ばされたリンシアは背中から木に叩きつけられ、激しく咳き込んだ。

 あの状態じゃ先はないかな。

 仕方ない。


 「幻影に惑え」


 闇の霧ダークミストという対象に幻影をみせる霧を放ち、一時的にリンシアの存在を隠す。

 その間にキョロキョロと辺りを見渡すオークの間をすり抜け、私は苦しみながら立ち上がるリンシアの元に近づいた。


 「リンシア、大丈夫?」

 「ユアン? どうして、ここに……」

 「理由なんてどうでもいいでしょ? それよりも、体を見せなさい」


 良かった。

 致命傷となる傷は負ってはいないみたい。

 頭から流れた血も傷だけで大したことはなさそうだ。

 これなら、苦手な回復魔法でどうにかなる。


 「ユアン、逃げて」

 「逃げる必要はありませんよ。それよりも少し静かにしていてください。僕が傷を治してあげますからね」


 回復魔法が苦手な理由は体が痛むからです。

 どうしてか、この手の魔法を使うと多めに魔力が持っていかれますし、適性がないのか体中が痛みます。


 「どうですか?」

 「身体が、動く。それに痛みも引いた」


 大丈夫みたいね。


 「リンシア、貴女には選択肢がある」

 「選択肢?」

 「えぇ……私と共に戦うか、それとも引くか。選びなさい」

 

 逃げる事は恥ではない。

 生き残る為には時にはそういった選択も必要だから。

 しかし、リンシアには迷いはなかった。

 金色の瞳に意志が宿る。


 「戦う。万全なら負ける気はしない」

 「そう言うと思ったよ。それじゃ、頑張ろうね」


 リンシアが立ちあがり、私の隣にたつ。

 さぁ、やりましょう。

 攻撃魔法の神髄をみせてあげる!

 私とリンシアはオークの群れへと戦いを挑むのであった。

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