第446話 弓月の刻、女神と対面する2
「ねぇ、そろそろそのローブをくれない?」
化物となってしまった鼬王を倒し、そこからいきなり現れた女神を名乗る存在に色々と僕は質問しました。
そこでわかった事は、どうやら目の前にいる葉っぱを身につけた存在は本物の女神らしいという事でした。
そして、僕達の敵に限りなく近い存在になりえる事がわかったのです。
「もう少しだけ、質問に答えてくれたらいいですよ」
「これ以上聞く事あるの?」
「はい。最後に一つだけ聞きたい事があります。レンさんと龍神様の関係って何なのですか?」
そして、色々と質問した結果、この世界を造り上げたといわれる五龍神と次元龍というのは存在する事がわかったのです。
「関係ですか。簡単な事です、私を裏切り、私を封印したのが彼らです」
「封印? どうして、レンさんは封印されたのですか?」
ちなみにですけど、レンというのは目の前の女神の名前です。
アーレン教会の名前の由来はそこから来ているのかもしれませんね。
「その辺りは複雑な事情がある為に、簡単には答えられません。ただ、言えるの事は、彼らもまた滅ぼす存在であるという事」
「その意志は変わらないのですか?」
「いえ、別に無理に滅ぼそうとは思いません。彼らが正しき道に進み、正しき世界を導く存在となるのであれば、手出しは無用と考えております」
女神と龍神様は仲が悪いみたいですが、どうやら滅ぼしても滅ぼさなくてもどちらでもいいようです。
ですが、さっきから話が噛み合わなかったりするのですよね。
今の話もそうですが、龍神様を滅ぼす存在といったばかりなのに、無理に滅ぼさなくてもいいと言ったり、どうやら女神がこうして封印から解き放たれたのは魔力至上主義によって解放されたからみたいなのですが、その仲間ではないと言ってみたりするのです。
どうも考えが一つに纏まっていない。
そんな感じがしてなりません。
「では、どうすればレンさんは大人しくしてくれるのですか?」
「正しい記憶。それを私に提示しなさい」
「正しい記憶? どういう事ですか?」
「この世界の本来の姿。私が封印されなかった時に訪れただろう世界の形。それを私に示すのです」
難しい事をいいますね。
「レンさんが封印されたなった世界とは、どんな世界なのですか?」
「それは自分で考えなさい。答えなどありませんから」
「答えがないのにそれを見せろと言われても難しいですよ」
「ならば、この世界を滅ぼすだけです」
んー……。
難しい課題を与えられてしまいましたね。
「わかりました。出来る限り頑張ってみますので、暫くは大人しくしていて貰えますか?」
「いいでしょう。私が力を取り戻すまで、猶予を与えます」
「どれくらいですか?」
「三年……もしかしたら、五年くらいかかるかも」
「曖昧ですね」
「仕方ありません。まさか、あんな者を使って私を復活させるとは思わなかったから。もし、貴女みたいな存在を使って復活できたのであれば、本来の姿を取り戻すまでは時間は掛からなかったと思うけど」
それは幸運だったと捉えるべきですかね?
「でも、どうして鼬王を選んだのですか?」
「あの男には王族の血が流れていた。条件としては当て嵌まっていたのでしょう」
「いたのでしょうという事は、レンさんが選んだという訳ではないのですね?」
「そうです」
流れからすると、魔力至上主義が選んだのが鼬王だったという事になりそうですね。
「わかりました」
「質問はもういいの?」
「はい。他にも聞きたい事がありますけど、多すぎて何を質問していいのかわかりませんからね」
「そう……」
なんか悲しそうな顔をしてますけど、どうしたのでしょうか?
「どうしたのですか?」
「どうもしません。決して、もう少しお話したいと思ってなどいませんよ」
あ、悲しそうな顔をしたのはもっとお話ししたかったからみたいですね。
それにしても、女神というわりに随分と人間らしい考えや仕草をしますね。
「淋しいのですか?」
「淋しくなどありません。それよりも、そのローブをそろそろ頂けますか?」
「あ、そうでしたね……はい、どうぞ」
ローブを差し出すと、レンさんは降りてきて、僕からローブを受け取り、羽織りました。
「小さい……」
「仕方ないじゃないですか。僕と身長が全然違いますし」
身長はスノーさんと同じくらいですね。
僕と頭一つ分以上は違います。
「今はこれでいいでしょう。貴女からの捧げもの、確かに受け取りました」
「捧げていませんけどね」
レンさんが受け取ったローブを腰に巻きました。
これで大分マシになりましたね。
相変わらず、胸を隠しているのは葉っぱですけど。
「では、見返りとして私の加護を貴女に与えましょう」
「いや、それは遠慮しておきます」
「どうして?」
「いや、だってレンさんは一応は敵ですよね? そんな人の加護は受け取れませんよ」
「敵ではありません。私はあくまで中立的な立場ですから。龍神とは違い、誰かに加担するような真似は致しません」
という割に、僕に加護を与えようとしていますよね。
やっぱり、言っている事とやっている事がちぐはぐで違和感があります。
「でも、世界を滅ぼすのですよね」
「はい。このままであれば確実に」
「なら、ダメですよ。もしレンさんがそのつもりなら僕は止めなければなりませんからね」
「そうですか……。なら、貴女のいる街は狙わないようにするけど、どう?」
どう?
と言われても困ります。
「ダメですよ。僕達だけ無事でも、僕達には大事な友人が色んな場所にいますからね。その人達を護るために、レンさんが世界を滅ぼすのなら止めなければいけません」
だから、レンさんから加護を受け取る訳にはいかないのです。
「場所は?」
「いろんな場所ですよ。数えたらきりがありません」
お世話になった人は本当にたくさんいますからね。
「そもそも、どうして僕にそんなに加護を与えようとするのですか?」
「簡単な事です。貴女が……その、友達だから」
「友達、ですか?」
「はい。この世に戻ってきた私に最初に捧げものをし、最初に私に話しかけてくれたのは貴女です。これって、友達ですよね?」
どうやら、レンさんの中で僕は友達になってしまったみたいです。
なんだか、凄くやりづらくなってしまいましたね。
「まぁ、レンさんが友達になりたいというのなら、友達になりましょう」
「嬉しい……。ですが、私は偉大なる女神。あまり馴れ馴れしくされても困ります」
「わかりました。なら、友達を辞めます!」
面倒くさい人ですね。
友達になったと思ったら、馴れ馴れしくはするなと言ってきました。
「ど、どうして?」
「だって、そんなの友達じゃないからですよ。本当の友達というのは、お互いに言いたい事を言えて、わかりあえるものだと思います」
そうじゃなければ、友達としてやっていけませんよね?
まぁ、色んな形があると思いますが、僕は友達とはそういうものだと思っています。
お互いに協力したりして、様々な困難を共に乗り越えていく事が出来る関係が友達だと思うのです。
それなのに、馴れ馴れしくはするなと言われ壁があったら、それを友達と呼ぶことは僕は出来ません。
「そうだよね。友達ってそういうものですよね。わかりました、私に敬語は不要、だからこれからも仲良くしてくれる?」
「はい! レンさんがそう言ってくれるのであれば、仲良くしましょう!」
「ありがとうございます。では、私はそろそろ戻ります。まだこの体には慣れていませんので、休む必要があります」
「どこでですか?」
「私の居城はあの塔。いつでも遊びに来てくださいね」
そう言って指さしたのは、天まで届く勢いで伸びた塔でした。
「わかりました。そのうち、遊びにいきますね」
「はい。お待ちしております。またね」
スッとレンさんの姿が消えました。
あんなですけど、本当に女神なのですね。
転移魔法を使った形跡はなく、別の力でこの場から消えたのがわかります。
「とりあえず、どうにかなりましたね」
「そうだね。だけどさ、ユアンってやっぱり凄いよね」
「何がですか?」
「だって、女神様を簡単に手懐けて、友達にまでなってしまいましたよね?」
「まぁ、成り行きでそうなってしまいましたね」
「なー……私は女神よりもユアンの方が怖いと思ったぞー」
「そんな事ありませんよ。何だかんだで悪い人ではなかった気がしますからね」
身に纏った雰囲気というかオーラというのは禍々しくて不気味ではありましたが、話してみるとイメージと全然違いましたからね。
まぁ、女神のイメージも同時に崩れましたけど。
「仕方ない。あれは鼬王から生まれた存在」
「なるほど。だからちょっと変わっていたのですかね」
そう考えれば少し納得できますね。
もしかしたら、レンさんは鼬王から生まれたというのが影響している可能性もあります。
となると、鼬王の思考が残っているとしたら危険な部分もありますね。
「それで、これからどうする?」
「帰りましょう。今はその時ではないと思いますので」
スノーさんの言いたい事はわかります。
目の前にはレンさんが帰って行った、敵の本拠地とも呼べる場所があります。
レンさんを倒すのであれば、力が戻っていない今が好機と言いたいのだと思います。
しかし、僕達も万全ではありませんし、何よりも相手は女神。
今の力でどうにかなるとも思えません。
なので、僕達は戻る事にしました。
みんなが待っているナナシキへと全員で。
シノさん達の方も終わったと連絡は貰っていますからね。
「長い戦いでしたね」
「うん。けど終わってみたら呆気なかった」
「だけど、大変なのはこれからだよ」
「そうですね。これからやらなければならない事が沢山あると思うの」
「そうだなー」
そうですよね。
戦争が終わり、この戦いは僕達の勝利とはいえ、やらなければいけない事が山ほどある筈です。
鼬族もそうですし、レンさん達の事もあります。
何よりも便乗してきたリアビラの事も話を進めていかなければいけないです。
ですが今は……。
「家でゆっくりしたいです」
「うん。久々にユアンとゆっくりする」
「シア、あの話は忘れていないよね?」
「そうですよ! 約束しましたからね?」
「大丈夫忘れてない」
「何の話ですか?」
「それは帰ってからのお楽しみだよ」
むー。
また僕に内緒で話が進んでいるみたいです。
ですが、その内緒話の中には僕も含まれているみたいなので、そのうちわかりますかね?
ともあれ、長居は無用という事で、僕達は戻ってきたチヨリさん達と共に、ナナシキへと戻りました。
これから大変な事になるとは知らずに。
まさか、シアさん達がそんな事を企んでいるとはこの時はまだ知らなかったのです。
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