第445話 弓月の刻、女神と対面する
「あれが女神?」
「想像していたのと違う」
「私もです」
「けど、凄く嫌な感じがするぞー……」
みんなの言う通りですね。
女神と名乗った存在を見た瞬間、すごく嫌な感じがしました。
具体的には説明できませんが、魔法で例えるのならば闇魔法に包まれたような不気味な存在と言えばいいでしょうか。
もちろん闇魔法が悪い訳ではありません。
ですが、あの人の纏っている雰囲気はとても不気味に思えるのです。
しかし、あの人の形をした存在は、自らを女神と名乗りました。
ですが、どうしても僕の想像する女神とはかけ離れていたのです。
それはみんなも同じようで、女神と名乗られてもピンと来ないようで、胡散臭そうに宙に浮かぶ存在を見ています。
「本当に、貴女は女神なのですか?」
「そうです。私は女神。この世界の頂点に立つ存在です」
「本当に本当ですか?」
「本当です」
んー……どうやら本人曰く、本物の女神みたいですね。
でも、どうしても信じられません。
いえ……女神という存在は居てもおかしくないと思いますよ?
色んな本に登場するくらいですし、実際に見た事がある人も居てもおかしくありません。
ですが、目の前の存在を見ても今一信じられないのですよね。
僕のイメージの女神は、とても色白で金髪の長い髪のとても美しい人を想像していました。
ですが、目の前の人はどうでしょうか?
改めてじっくりと……観察したくはありませんね。
「シアさん、どうしましょうか?」
「困る」
「そうですよね……」
女神と名乗った存在は、凄く綺麗な人です。
僕が出会った中でも指折りの美人さんだと思います。
ですが、僕のイメージした女神と決定的に違う所があるのです。
何故か、肌が褐色なのです。
まるで、日焼けしたような浅黒い肌がどうしても女神にみえないのです。
もちろん、美人さんなので褐色でも綺麗です。
もし、これが女神ではなくて普通の人だったらとても綺麗な人で終わったのに、女神と名乗ったせいで残念な感じがしてならないのです。
そして、何よりも困った事があります。
「えっと、すみませんけど、色々と聞きたい事があるのですが、その前に服はないのですか?」
困った事に、女神と名乗った存在は裸だったのです。
まぁ、鼬王から飛び出すように出てきた事を考えれば、生まれたてと捉える事も出来るかもしれません。
ですが、それでも女神と名乗るくらいですし、肌に身につけるものを一つくらいつけていてもいいと思うのです。
「ありません」
「ないのですか?」
「はい。必要あり、ません」
あ、ちょっと言葉に詰まりましたね。
どうやら僕に指摘されて、ちょっと気になったのかもしれません。
その証拠に、自分の体をちらっと確認しましたからね。
「でも、女神さんはすっぽんぽんですよ? 恥ずかしくないのですか?」
「恥ずかしくなどありません。生まれる時は皆一緒。最初から服を着て生まれる生物などいませんから」
「でも、自我が芽生えれば自然と人は服を着ますよ。女神さんは自我がありそうなのに、服を着ないのですか?」
「着ますよ……そのうちに」
「いや、着るものを用意できるのなら今すぐ着てくれませんか?」
目のやり場に困りますからね。
女神と名乗るだけあって、顔だけでなくスタイルもとてもいい人です。
なので、同じ女性とはいえ、裸のままいられると、見ているこっちが恥ずかしい気持ちになってきます。
そもそも、僕は女神の裸を見たいとは思いませんしね。
見るのはシアさんだけで十分です!
「ユアン。仕方ない。あれは痴女」
「なるほど。性癖なら仕方ないって事ですね」
世界は広いですからね。
そういう趣味の人が居てもおかしくないと思います。
ですが、それは直ぐに否定されました。
「違います。私は痴女ではありません」
女神は痴女ではないと言い切ったのです。
「違うのなら服を着てくれませんか?」
「お断りします。私は矮小な存在の指図など受けたりしませんから」
むむむ?
それだと僕が服を着てくれと言っているから服を着ないという事ですかね?
でも、だからといって逆の事を言うのも嫌ですよね。
それだと僕が女神の裸を見たいと思っているみたいになりますので。
「わかりました。なら、そのままでいいです」
まぁ、そもそもあの人は敵となる可能性が高い存在ですし、気にしても仕方ないですからね。
なので、僕はそう女神に伝えました。
するとどうでしょう。
女神はそのまま静かに黙ってしまいました。
そのせいで変な沈黙が流れます。
「どうしたのですか?」
「あ、いえ……そのままでいいと言われても困ります」
色々と隠すように女神が宙に浮きながら体勢変えました。
椅子に座るように片足を組み、腕を組んだ状態になったのです。
どうやら、恥ずかしい気持ちはあるみたいですね。
ですが、引くに引けないといった状態でもあるみたいです。
けど、困ると言われても僕達も困るのですよね。
何よりも話が進まないのが困ります。
見た所、いきなり襲い掛かって来ないですし、僕達と会話をするつもりはあるみたいですからね。
「仕方ありませんね。キアラちゃん、これを女神さんに飛ばしてあげてください」
「わかりました……え、これでいいのですか?」
「はい。とりあえずは応急処置という事で」
「えっと……ユアンさんがいいと言うのなら飛ばしますね?」
応急処置として体の大事な部分を隠す為の物をキアラちゃんに渡します。
「では、受け取ってください……」
キアラちゃんは迷いながらも僕からソレを受け取り、風魔法で女神へとソレを飛ばします。
ひらひらと舞うように女神へと飛んで行ったそれを女神は掴みました。
「え。これなの? くっ……仕方ありません。これは、貴女達から私への捧げ物として受け取って、おきます……」
「捧げものではないですけどね。とりあえず、つけといてくださいね」
「言われなくても……」
女神は僕達から受け取ったそれをつけ始めました。
とりあえず、大事な所は隠せたみたいですね。
まだ色々と露出していますけど。
ですが、そのせいで……。
「ぷふーっ!」
「し、シアさん笑っちゃダメですよ」
「む、無理。あれは、酷い」
そのせいでシアさんのツボに入っちゃいました。
確かに、酷い格好です。
だけど、笑う事はないと思います。
というか、笑っちゃダメな場面ですよね。
でも……。
「ユアンって、時々……鬼畜だよね」
「そうですね。さ、流石にあれはないと思うの……ふふっ」
「なんか一気に怖くなくなったなー……」
スノーさん達まで笑い始めてしまい、女神の存在に怯えていたサンドラちゃんまで呆れてしまっています。
「仕方ないじゃないですか。あれが一番節約になると思いますからね」
「いらない布とかある、でしょ」
「ありますよ。ですが、女神さんは敵でしょうから、勿体ないと思います」
「だからって、大きな葉っぱを渡す事はないと、思うの……ふふっ」
他に無料の代用品があれば良かったですけどね。
ですが、代わりなるような物はありません!
なので、女神にはあれで十分だと思います。
「それで、女神さんは……ぷっ」
だ、だめです。
女神に僕達の前に現れた理由を聞こうと思ったのですが、マジマジと見てしまいました!
僕がやった事とはいえ、みんなが笑っているせいもあり、僕も笑いを堪える事ができなかったのです!
「わ、笑わないでよ!」
「だ、だって……面白すぎますよ。その格好……ぷっ」
「くっ……もう少し、力を取り戻せていたらこんな事には……」
先ほどの威厳を保った姿が嘘のように女神は顔を赤くし、涙目になっているのがわかります。
どうやら、こっちが本性のようですね。
そうとわかれば、やりやすくなりましたね。
「えっと、それでしたら、ローブでもあげましょうか?」
「いいの? あ、いえ……貴女が私に捧げたいというのであれば、受け取りましょう」
「いえ、捧げるつもりはありませんよ。ただ、欲しいならあげると言っているだけです」
「…………」
女神が悩んでいますね。
自分の今の格好と僕の手に持つローブを交互に見て、どうするべきが考えているみたいです。
「欲しい」
女神が小さな声で呟くように言いました。
どうやら、悩んだ挙句、今の格好はマズいと悟ったみたいですね。
「わかりました。ですが、条件があります」
「女神である私に条件とは、おこがましいにも程が……」
「ならあげませんよ?」
「聞くだけ聞いてあげましょう」
この人、いえこの女神は意外とちょろいかもしれません。
ローブを餌にしたら簡単に掌を返してきました。
「えっと、女神さんの目的は何ですか?」
「簡単な事。この世界の秩序を正し、本来の姿に戻す事です」
「もっとわかりやすく何をするつもりか教えて貰えませんか?」
秩序を正すとか、本来の姿に戻すと言われても何をするかはわかりませんからね。
もしかしたら、この世界をよりいい方向へと導いてくれる可能性もあります。
「この世界を一度滅ぼし、新たな世界を一から造りあげる。ただ、それだけの事ですよ」
あ……やっぱり駄目な方向だったみたいです。
これで、女神は敵と決まってしまいました。
出来る事なら争わないのが一番でしたが、そうは言っていられない事になりそうです。
ならば、今できる事は一つ。
女神から出来るだけ情報を引き出す事ですね!
この場で倒せるのならそれが一番ですけど、女神と名乗るだけあります。
戦いになった時、どうなるかが想像できない程に強いと肌で感じるのです。
鼬王へ使った魔法の影響もあり、僕達は万全ではないので無理は出来ない。
僕はそう判断しました。
なので、僕は女神へと色々と質問をしていきます。
その答えによっては、僕達がやらなければならない事が明確になるはずです。
僕はローブを餌に女神へと色々と質問をしていくのでした。
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