第444話 補助魔法使い、次元魔法を放つ
力を合わせて発動した魔法陣による攻撃を改めて見ると、僕は少しワクワクした気持ちになりました。
それと同時に恐ろしさも感じます。
今まで発動する僕の魔法の中で、最大級ともいえる魔法だからです。
この魔法を放ったらどうなるのか。
複雑な気持ちです。
しかし、迷ってはいられません。
僕がこうしている間にも、チヨリさんやアラン様は身を挺して戦ってくれましたし、チヨリさん達と入れ替わったラディくん達も命懸けで戦ってくれています。
だから、僕は魔法陣から魔法を放ちました。
この戦いを終わらせるために。
「発射!」
狙いをさだめて、僕は鼬王を狙います。
鼬王までの距離はかなりあります。
外せばみんなの頑張りを無駄にすることになりますが、外す心配はありませんでした。
僕は補助魔法使い。
攻撃魔法は苦手ですが、苦手なのはあくまで攻撃魔法を使った途端に魔法の威力が下がってしまうからです。
ですが、魔法を当てるという技術に関しては自信があります。
魔法自体の扱いには誰にも負けないという自信があるのです!
放たれた魔法は僕達に相応しい七色の光を帯びていました。
「光が、天へと昇って行く……」
「失敗ですか?」
「いえ、大丈夫です。ここからです」
キアラちゃんとスノーさんが心配そうに魔法の行方を見守っています。
鼬王へと真っすぐに向かっていかなかったので心配だったみたいですね。
ですが、大丈夫です。
これは感覚ですが、こうするのが一番効果的なのだとわかったのです。
そして、僕の感覚は正しかったみたいですね。
「綺麗だなー」
「うん。幻想的」
鼬王の頭上に魔法陣が浮かび上がりました。
七色に輝く魔法陣がその場で回転し始めたのです。
その事に鼬王も気付いたのか、空を見上げています。
気付いたのなら逃げれば助かったかもしれませんけどね。
もちろん、逃がすつもりはありませんけどね。
「これで、終わりです」
僕の頭上に展開した魔法陣と鼬王の頭上に展開されている魔法陣は連動しています。
仕上げとなる術式を魔法陣に加えると、ついにその時は訪れました。
連動した魔法陣が、まるで夜空に輝く無数の星のように輝きだしたのです。
そして、輝いた光から数え切れないほどの光が鼬王へと降り注ぎました。
炎、水、風、光、闇、氷、雷
複合魔法の属性も含めた光でしょうか。
魔法陣と同じ七色の光が鼬王へと降り注いだのです。
「あれは、凄い」
「そうですね。ですが、まだ終わりじゃないですよ」
あれではまだ次元魔法へと至っていません。
あくまで五大魔法とそれを混ぜ合わせた複合魔法の段階にしか至っていません。
しかし、それでも効果は十分みたいです。
降り注がれた光に身体を抑えられるように、鼬王は地面へと倒れ、身を起こそうと必死になっています。
それに加え、七色の光が降り注ぎ、鼬王の体を次々に貫き、血しぶきが上がっています。
ですが、鼬王も運がいいようです。
いえ、この場合は悪いのでしょうか?
流石に魔法陣を動かすことは出来ても、降り注ぐ光のコントロールまでは出来ないので、致命傷となる場所……頭や心臓には当たっていないようです。
まぁ、それも時間の問題です。
このまま待っていればその時は訪れるでしょうからね。
でも、どうせなら僕はその先が見たいと思ってしまいます。
なので、僕は仕上げの段階に移ります。
「光が止まった?」
「はい。最終段階ですからね」
「どういう事ですか?」
「こういう事ですよ……光は一つに」
魔法陣の中に浮かんでいた数多の星が一つへと合わさっていきます。
先ほどの攻撃は集団攻撃に使えそうですね。
では、こちらはどうでしょうか?
もちろん決まっています。
たった一撃に想いを込めた、敵を滅ぼすための攻撃です。
「鼬王、あなたのせいで沢山の人が苦しみ、傷つき、そして死んでいきました。その罪はあなたの死をもって、償ってください」
これは僕達だけの想いだけではありません。
自分勝手なのは僕も一緒かもしれませんが、今まで苦しんできた人に代わり、鼬王に最後の時を与えます。
「これが、次元魔法です」
魔法の名前はありません。
ただ、次元魔法という事だけがわかっています。
効果もわかりませんけどね。
ただ一つだけわかります。
これで、本当に鼬王は最後なのだと。
「発射」
七色の光の柱が天へと伸びました。
鼬王の頭上にあった魔法陣を掻き消すほどの光の柱が僕達の目では届かない程の高さまで伸びていったのです。
空の向こう、遥か彼方まで。
「鼬王は?」
「消えた?」
「わかりません」
「どうなったんだろうなー?」
「終わりましたよ。鼬王は」
徐々に光が治まっていきます。
キラキラとまるで精霊さんが飛び交うように光が散っていったのです。
そこに残っているものはありませんでした。
「なんだか、終わってみると虚しいね」
「そうですね。あれが最後だなんて悲しく思えるの」
「仕方ない。それが戦争。敗者は責任をとる必要がある」
「いつの時代も変わらないなー」
ほんの数十秒前まで鼬王がいた場所をみて、みんなが黄昏ています。
仕方ありませんよね。
最後が呆気なく終わってしまいましたから。
そして、居なくなってから思う事もあります。
あれが本当に正しかったのかどうかと。
「ユアン」
「大丈夫ですよ。後悔はしていませんから。それに……」
命を奪う覚悟は出来ていました。
あの魔法を使ったらどうなるかを考えれば覚悟なしに使えませんでしたから。
でも、そうは言っていられないのですよね。
「それに、どうしたの?」
「まだ、本当の意味でこの戦いは終わっていませんよ」
「え? どういう事ですか?」
みんなは気付いていなかったみたいですね。
まぁ、それも仕方ありません。
凄い光でしたし、あの魔法に目を奪われるのは仕方ありませんから。
ですが、僕は見逃しませんでした。
鼬王の体から逃げるように飛び立つ存在を。
「あれですよ」
「どれ?」
「スノー、下じゃない。上」
シアさんも気付いたみたいですね。
そして、シアさんの指摘を受けて、スノーさんがシアさんが指さした先を目で追いました。
「人が、浮いてる?」
「違いますよ。あれは、人ではありません」
「人じゃないのですか? なら、一体……」
もしかしたら人かもしれません。
ですが、どうしても僕にはそうは見えませんでした。
人の形をした何か特別な存在なのだと思ってしまったのです。
「なー……」
「大丈夫ですか?」
「怖いぞー」
サンドラちゃんが怯えたように僕にしがみついてきました。
サンドラちゃんも感じ取ったみたいですね。
あの嫌な感じを。
「何なのあれは?」
純粋な疑問がスノーさんからこぼれました。
「女神。人は私の事をそう呼ぶ」
すると、その問いに答えた人がいたのです。
静かに、ですが確かに僕達の耳に届く透き通るような声が僕達に届いたのです。
「え? 今の声は?」
「あの人からですよ」
僕は真っすぐに、宙に浮いた存在を見据えます。
それは向こうも同じでした。
僕達の方を見て……いえ、僕の事を真っすぐに見据え、笑みをこぼしていたのです。
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