第442話 弓月の刻と五属性魔法

 「よし、出来ました!」

 「それは何?」

 「これは、チヨリさんやっていた魔法を解析して、僕が改良したものですよ」

 「あー、鼬国の国境で門を吹き飛ばした奴だね」

 「私達がいない間に、そんなことをやっていたのですね」

 「僕じゃなくてチヨリさんがですけどね」


 あの魔法を見た時はびっくりしました。

 僕達もみんなで力を合わせて一つの魔法を創った事があります。

 懐かしいですね。

 ダンジョンを進んでいる時に、砂漠が暑すぎてどうにかして快適に進む為に考えたのが懐かしく思えます。

 ですが、チヨリさんがやっていたこの魔法はみんなで魔法を創るのではなく、みんなの魔法を集めて一つにして、魔法を混ぜて放つ事を目的にしていました。

 純粋な火力だけを求めた魔法なのです。

 そして、実はそれはかなり難しかったりします。

 魔法陣に魔力を集める事。

 それは、人が持っている魔力の器に魔力を集める事に似ています。

 つまりは、魔法陣の器に魔力を注いでいるのと同じことなのです。

 ですが、ここで問題が発生します。

 もし、魔法陣の器以上に魔力を注いでしまったらどうなるかという事です。

 人であれば魔力酔いという形で現れ、限界に達すれば倒れます。

 倒れた後にどうなるのかはわかりませんが、もしかしたら死んでしまう事もありえるかもしれません。

 まぁ、魔素が濃い場所には魔物が生息している事が多いので、そんな場所で倒れてしまったらどちらにしても、気を失っている間に魔物に襲われておしまいでしょうけどね。

 では、魔法陣の場合はどうなるでしょうか?

 それは簡単です。

 魔法陣が壊れ、そこに集まった魔力が暴発してしまうのです。

 しかも、ただ魔力を集めた魔法陣ではなく、色んな魔法を集めた魔法陣なので、色々と危険です。

 色々な魔法が合わさるという事は、色々な組み合わせにより、複合魔法が出来上がっているという事にも繋がりますからね。

 何が起こるかは暴発した時のお楽しみって訳なのです。

 絶対に楽しめない事になると思いますけど。


 「ユアンさん。その魔法を使うのは初めてなのですよね?」

 「はい、そうですよ?」

 「大丈夫なのですか?」

 「多分、大丈夫だと思いますよ?」


 気になったので空いた時間にチヨリさんに教えて貰いましたからね。

 解析はちゃんと出来ています。

 問題は、改良をした事がいい方向に向かっているかが問題です。


 「どんな改良をしたの? ユアンの事だからヤバい事してそうだけど」

 「そんな事ないですよ? ただ、収納魔法と同じような原理で魔法を集める量を増やして、フェアリーウィンドで集めた魔力を増幅しているくらいですからね」

 「ユアン、それがヤバいって話」

 「そうですかね? でも、チヨリさんの部隊の人よりも僕達の方が数が少ないので同じくらいの力を引き出そうとしたらこれくらい必要だと思います」


 そもそも、僕達は化物になってしまった鼬王を倒すために準備していますからね。

 あれだけの大きな敵を倒すにはそれなりの火力が必要だと思うのです。


 「という訳で、この魔法陣に魔法を好きに放って下さい」

 「わかった」

 「不安なんだけど」

 「うん。本当に大丈夫なのかな?」

 「大丈夫ですよ。僕が制御をしますので」


 欠陥があるとすれば、魔法陣の制御がちょっと大変なくらいです。

 それも変な話ですけどね。

 魔法陣というのは魔法陣に書きこんだ魔法文字の組み合わせなどによって魔法を使う為の手段なのに、それを制御しなければいけないとなると魔法陣の意味があまりないですからね。

 まぁ、中には術者の魔法効果を高める為に設置される魔法陣もあるのである意味そのタイプと考えればおかしくはないですけどね。

 それでも、術者の為の魔法陣の筈が魔法陣の為の術者になってしまっているので、違和感はありますけどね。


 「私はユアンを信じてる。受け取る」

 「ま、なるようになるし、私もユアンの事を信じてるから頼んだよ……みぞれ」

 「そうですね。迷う必要はないと思うの。ルーク、力を貸して」


 シアさんの影狼が魔法陣へと飛び込み、手を繋いだスノーさんとみぞれさんが突き出した手から飛び出た水魔法とキアラちゃんとルークくんが帯びていた風が魔法陣に向かって強く吹き込みました。

 いい感じに集まっているのがわかりますね。

 魔法陣は魔法が発動できる時には発光します。

 というよりも、一目見てわかるようにそうしました。

 でも、少し物足りない気がします。

 魔法陣は発光をしていますが、完璧ではないようで、まだ光っているくらいです。

 僕の予想では満タンになれば眩しいほどに光輝くと思うのです。


 「なー。それなら、私も手伝うー」

 「ありがとうござい……え、サンドラちゃん!?」

 「いくぞー」

 「あ、ちょっと待って……」


 ください。

 そう言い終わる前に、サンドラちゃんが炎の塊を魔法陣へと打ち込んでしまいました。


 「なー。もっとかー?」

 「十分ですよ」


 魔法陣が強く輝いています。

 あとは、僕も魔法を注ぎこめばいい感じだと思います。

 それよりも。


 「サンドラちゃん、ダメじゃないですか」

 「なー。私だって弓月の刻だからなー。協力するならしたいぞー」

 「そうかもしれませんけど、サンドラちゃんが加担したとバレたら大変です」

 「平気ー。直接戦争に加担したらダメだけど、裏で協力するくらいなら問題ないぞー。多分なー」

 「多分、ですか」


 まぁ、やってしまった事には仕方ありません。


 「ユアン。論点が違う」

 「何がですか?」

 「サンドラがどうやって来たかの方が普通は気になると思うけど」

 「あ、そういえばそうですね。サンドラちゃんはどうやってここまで来たのですか?」

 「淋しかったからきたぞー?」

 「どうして、ではなくてどうやって来たかですよ」


 シアさん達に言われて気付きましたが、サンドラちゃんが僕達の居場所を知っている訳がありません。

 だって、ずっとサンドラちゃんはナナシキで大人しくしてくれていましたからね。


 「飛んできたー」

 「え、飛んできちゃったのですか?」

 「違うー。転移魔法でだぞー?」

 「サンドラちゃんも使えたのですか?」

 「使えそうだから使ってみたぞー」

 「使えそうだからですか……」


 誰から教わったという訳でもないのに、使えそうだからというのは凄いですよね。


 「私達の子供だから当然」

 「というかユアンも普段から似たような事してるしね」

 「そもそもサンドラちゃんは龍人族ですし、驚くこともないと思うの」


 確かにそれもそうですね。

 ちなみに、僕はちゃんと教わってから覚えているのでサンドラちゃんみたく感覚で覚えている訳ではないです。

 何せ、魔法は論理の突き詰めだと思っていますからね。

 勉強の賜物だと思います。


 「ユアン」

 「あ、はいそうでした。後は僕の魔力を注いで、上手く混ぜ合わせれば完成ですね」

 「混ぜるってどうやるの?」

 「それはですね……」


 何となくですかね?

 

 「結局は感覚なのですね」

 「し、仕方ないじゃないですか。魔法陣の中に魔力が組み込まれてしまっているので、目に見えませんからね」

 

 これが目に見えれば、上手く混ぜる事が出来るかもしれません。

 やり方としては、右手に炎、左手に水。

 そんな感じで各属性の魔力の元を集め、一つずつ合わせていけると思います。

 しかし、目には見えない以上、魔法陣の中に流れる魔力を上手く合わせる必要があります。

 簡単に説明するのならば、色んな果実水を混ぜ合わせる為にシェイカーの中に入れて味が均等になる感じで振る感じです。


 「魔力でそれをやるって想像もつかないんだけど」

 「んー……なら、料理をする時に、調味料をどんどんといれて、味付けしていく感じですかね?」

 「料理はあまりしないからわからない」

 「そういえばそうでしたね。ま、細かい事は気にせずに、魔法陣の中で魔法が混ざっていると考えてくれればいいと思います」

 「という事は、その魔法陣の中では魔力が混ざっている状態ですよね? 属性はどうなるのですか?」

 

 そこまで気にしていませんでしたね。


 「えっと、シアさんの闇、スノーさん達の水、キアラちゃん達の風、サンドラちゃんの炎」

 

 これだけで四属性ですね。

 ここに僕の光魔法が加われば……。


 「五大魔法が合わさってますね」

 

 改めて僕達のパーティは凄いですね。

 見事に得意な魔法が分かれ、各属性にわかれています。

 

 「これって、五龍神と同じだよね」

 「うん」

 「そこから生み出されるのはもしかしますと……」

 「次元魔法?」


 サンドラちゃんとクジャ様の話から知りました。

 五つの龍神が生み出したのは次元龍。次元龍から生み出されたのが五龍神と教えて頂きました。

 順番はどちらかが先なのかはわかりませんが、どちらにしても五つの属性が合わさると次元属性? といっていいのかわかりませんが、それが生まれます。


 「ちょっと、怖くなってきました」

 「けど、今更引けない」

 「やるしかないね。ユアン頑張って」

 「応援していますよ!」

 「楽しみだなー」


 魔法陣を操る事が出来るのが僕だけなので、みんな好き勝手言いますね。

 まぁ、僕がやり始めたので仕方ないですけど。


 「仕方ありません。どうなるかわかりませんので、みんなも気をつけてくださいね」


 しかし、問題が一つあります。

 チヨリさんとアラン様が部隊を率いて鼬王を惹きつけるように戦ってくれています。

 範囲がどうなるのかわからないので、まずはみんなを避難させる事が先決です。


 「それなら僕達に任せて」

 「わっ もぉ、みんなしていきなり現れるのはやめてください」

 「すみません。だけど、ここが最後の僕達の見せ場になりそうですから」


 本当にみんなして僕を驚かせようとしているのか、いきなり現れる人ばかりで困ります。

 しかし、ラディくん達が協力してくれるのは助かりますね。


 「でも、相手はあの大きさですよ? 大丈夫なのですか?」

 「むしろ、大きい方が助かります。あの大きさならば死角は沢山できると思うから」

 「それに私達もラディ殿の援護を致しますので、ご心配はいりませんよ」


 頼もしいですね。

 ですが、少しだけ不安もあります。

 チヨリさん達は鼬王の攻撃を避けながらも、攻撃を加えています。

 そのお陰もあって、鼬王はチヨリさん達を脅威とみなし、先に排除する為に動いているようにみえるのです。

 しかし、ラディくん達が脅威とみなされずに無視をされたら、標的が移ってしまう可能性があります。


 「大丈夫。僕達を信じて」

 「もし、私達が足止めを出来ないようでしたら、構わずに魔法を放ってください」

 「わかりました。その時はみんな逃げてくださいね」


 本人たちがやる気があるというのなら任せてみるしかないですね。


 「ユアン」

 「はい、何ですか?」

 「コボルト達も行きたいって、連絡が入った」

 「コボルトさん達もですか……わかりました」

 

 ラディくんとキティさん達だけが活躍するのをただ見ているのが嫌みたいですね。

 気持ちはわかります。

 なので、とりあえずコボルトさん達をシアさんが召喚しました。


 「御主人様、ありがとうございます!」

 「いえ。だけど、無茶してはダメですよ?」

 「はい! 精一杯頑張ります!」


 凄く心配です!

 無茶するなと言ったのに、精一杯頑張るとリオンちゃんは言いました。

 それに他のコボルトさん達も張り切っています。

 みんな怖くないのですかね?

 ラディくんは元々Gランク相応の魔物で、コボルトさんはFランク相応。キティさんに関してはランク外の魔力をもった動物でしかありません。

 それに比べ、鼬王は僕の防御魔法を壊した事から攻撃だけみればAランクはあってもおかしくはありません。

 むしろ、攻撃だけならばそれ以上はあるかもしれません。


 「大丈夫。僕達には勇気がある」

 「そして、知恵もあります」

 「えっと、何かがあります!」


 リオンちゃんだけ漠然としていますが、自信はあるみたいですね。

 それならば任せて見る価値は十分にありますよね。

 ラディくん達だって、僕達を支えてくれている大事な仲間です。

 信じない訳にはいきません。


 「行ってきます」

 「はい、頑張ってくださいね」


 ラディくんとリオンちゃん達が駆け出し、キティさんが力強く羽ばたきました。


 「後は僕が仕留めるだけですね」

 「うん。怖くない?」

 「大丈夫ですよ。みんなから力は貰いましたからね」


 鼬王を倒すという事は、また人を傷つけるのと同じことです。

 シアさんはそれを心配してくれたみたいです。

 ですが、これが鼬国との最後の戦いとなるならば、迷ってはいられません。

 ここで鼬王を止められないという事は、色んな人が死んでしまう事に繋がるかもしれません。


 「頃合いを見て、打ち込みます。もし、それで倒せなかったら、僕達も直接鼬王と戦いましょう」


 けど、この魔法には自信があります。

 みんなの想いが詰まっているのです。

 絶対に鼬王を止める事ができると思うのです。

 そして、その時はすぐにやってきました。

 ラディくん達と入れ替わるようにしてチヨリさん達が戻ってくると、鼬王が急に暴れだしたのです。

 まるで体に纏わりつく何かを振るい落とそうとしているのがわかります。


 「キアラちゃんはラディくん達に撤退の指示をお願いします」

 「わかりました!」

 「シアさんはリオンちゃん達に指示を!」

 「任せる」

 「私とサンドラは?」

 「何かする事あるかー?」

 「えっと……僕の応援をお願いします!」

 「わかった。ユアン頑張れ!」

 「頑張れー」

 「はい、頑張ります!」


 では、行きますよ!

 魔法の名前はありません。

 何せ、即席の魔法ですからね。

 もし、かっこよかったらその時に名前を考えようと思います!

 

 「魔法陣……展開!」


 魔法陣から膨大な魔力が溢れだします。

 

 「発射!」


 僕は魔法陣から溢れだした魔力を鼬王へ向けて放つのでした。

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