第441話 ナナシキ軍、鼬族の都へと到着する
「凄いですね……鼬族の都は」
前日から続いていた不思議な霧はすっかりと晴れ、朝から進軍を再開した僕達はついに鼬国の都が見える位置までやってきました。
「シアさんみてください、あの大きな建物!」
「うん。立派」
「凄いですよね」
「うん。あんな塔はみたことない」
どんな場所なのかはラディくんやキティさんが送った偵察により何となく聞いていましたが、いざ目にしてみると想像以上でとても驚く事になりました。
「なんじゃ、あれは……」
流石にアリア様は今回ばかりは驚いてるみたいですね。
でも、それはそれで不思議ですけどね。
何せ、アリア様は鼬国の都へといった事がある筈なのです。
それなのにあの驚き方はちょっと変です。
「あ、なんか飛んでますね」
「人みたいなのが飛んでる」
「もしかして、鳥族の方ですかね?」
鼬国の都まではまだ遠く、はっきりと姿を確認する事は出来ませんでしたが、塔の周りをくるくると回るように飛んでいる人らしき姿を確認できました。
「ユアンさん違いますよ!」
「え、何がですか?」
「あれは鳥族ではなくて……ガーゴイルです」
「ガーゴイル……あ!」
そういえばそんな魔物がいましたね。
僕は見た事はありませんが、そういう名前の魔物が存在しているのは僕も知っています。
確か、魔族領に生息していてCランク相応の魔物でしたよね。
「ってガーゴイルですか?」
「そうだよ。みんなには遠くて見えないかもしれないですが、あの姿は間違いなくガーゴイルだと思うの」
思わず聞き返してしまいましたが、どうやら塔の周りを飛んでいるのは鳥族ではなく、ガーゴイルのようです。
「ですが、ガーゴイルって魔族領に生息していて、魔素の薄いアルティカ共和国には生息しない筈じゃなかったですか?」
「そう聞きますけど、現にああやって飛んでいるし……」
むむむ?
どういう事でしょうか?
どうして鼬国の都にガーゴイルが居るのかが僕には理解できません。
それにですよ?
鼬国の都には魔物が侵入できないように結界のようなものが張られているみたいです。
なのに、塔の周りを飛んでいるという事は、結界の中という事になりますよね?
「鼬国が魔物に攻められたった事かな?」
「そうなりますよね」
となると、鼬王はそれをいち早く察して、先に兵士や街の人を逃がした……って事になるのですかね?
「ポックルがそんな事をする筈がない。あ奴の事をそれなりに知ってはおるが、あ奴は自分の物が奪われる事を酷く嫌う。もし、魔物が攻めてきたのであれば、兵士だけでなく、街の者も利用して全力で侵攻を阻止するじゃろう」
「アリア様がそういうのならそうなのですよね。それじゃ、この状況はどう説明すればいいのですか?」
ようやく驚いて固まっていたアリア様が我に返ったみたいで、鼬王の性格を改めて教えてくれました。
確かに、そう言われると今までの経緯から考えれば鼬王がそんな事をする筈がないとわかります。
ですが、今の状況を説明するのに情報が少なすぎます。
「それにじゃ。あの塔を見て何も思わぬのか?」
「塔をですか? 確かに立派ですけど」
天にも届く……は言い過ぎですね。
ですが、そう例えたくなるほど高くそびえ立っていますね。
アリア様が住んでいたお城よりも、ルード帝国のお城よりもずっと高く伸びているのです。
「確かに立派じゃ。しかし、あれを人の手で簡単に造れると思うか?」
「大変だと思います。ですが、時間をかければ作れる可能性もありますよね」
「確かにな。じゃが、たった一年ちょっとであの塔を造れると思うか?」
「それは無理だと思います……え、もしかして?」
「うむ。私が最後に鼬国の国を訪問した時にはあの塔は存在していなかった」
「冗談、ですよね?」
思わずそう聞き返してしまいましたが、アリア様は静かに首を振りました。
そしてようやくアリア様が驚いた理由がわかったのです。
「ちなみにだけど、僕がエヴァを連れ出した時にもあの塔はなかったよ」
「え、ラディくんがエヴァちゃんを連れ出したのってつい最近ですよね」
「うん。ひと月も経ってない」
ラディくんの報告に言葉を失いました。
あの高さの塔をたったひと月もかからずに?
冗談と思ってしまいますよね。
ですが、二人が嘘を言っているようにはとても見えません。何よりも情報を得ようとしている僕達に嘘を言う理由がありません。
となると、二人の話は本当で、あの塔が造られたのは最近……って事になりますよね。
そんな時でした。
「わっ!」
突然地面が激しく揺れだしました。
立っているのも困難なほどの今までに体験した事のないほどの揺れが僕達を襲ったのです。
「ユアン、見る」
「な、何をですか!?」
「塔が……」
「伸びてます」
「ふぇ?」
揺れる視界が原因の気のせいかと思いましたが、気のせいではありませんでした。
みんなが言う通り、塔の高さがぐん、ぐんと高くなっているのです。
「それだけじゃない」
「都の地面も盛り上がっていますね」」
よく見るとわかります。
塔だけでなく、鼬国の都も地面が膨れるようにして高くなっているのがみてわかります。
こんな事がありえるのでしょうか?
これがもし、都全体が浮くように高くなっていくのなら、自然現象として受け入れられたかもしれません。
ですが、それだけではなく塔も更に高くなっているのです。
まるでタケノコが伸びるようにしてスクスクと高くなっていくのです。
目の前で起きている出来事はとても人間の仕業には思えません。
むしろ、あんなことが出来る人間がいるとは思えません。
それじゃ、誰の仕業でしょうか?
そう考えた時、自然と答えは導きだせました。
「神様ですか?」
人知を超えた存在。
あんなことが出来るとしたら人ではない何か。
そうとしか考えられませんでした。
「御名答」
そして、僕の答えを肯定するように、声が響きました。
この声には少しだけ覚えがあります。
それを証明するように、いち早くその声に反応したのがアリア様でした。
「この声……ポックルか」
「そうだよ。よく来たね、アリア? それと僕の邪魔を散々邪魔してくれたみなさん?」
覚えがある筈です。
僕だって鼬王には会った事がありますからね。
ですが、声は響くもののその姿は見えません。
「ここだよ、ここ」
「どこじゃ!」
「居るじゃないか……君たちの視線の先にね」
その瞬間、今度はゴゴゴゴゴッといった感じで地面が揺れ始めました。
地震とは違い、横に揺れるのではなく縦に振動するように地面が跳ねだしたのです。
「何か、出てきましたよ」
あれは頭、でしょうか?
都の前に丸くて大きな物体が地面から生えてきました。
「それだけじゃない」
「手と足も出てきたね」
「背中には甲羅が見えるの」
「亀……ですかね?」
「違う。いたち?」
地面から這い上がるように、遠くからでもわかるほど大きな生物は、背中に甲羅みたいなものを背負ってはいるものの、見た目は鼬みたいな姿をしていました。
「ようこそ、王の住む都へ」
「お主、もしかしてポックルか?」
「そうだよ。どう見ても僕だよね?」
どう見ても違うと思います。
ですが、声は紛れもなく鼬王の声だとわかりました。
そして、その声はどうやらあの大きな生物から発せられているみたいです。
となると、あの生物が鼬王ってことになるのですかね?
ですが、どうしてあんな姿に……。
「まぁ、驚くのも無理はないよ。これが本来の僕の力……いや、新たな僕の力だから」
「それがお主の力? 笑わせるでない」
「笑わせるつもりはないよ。尤も、笑っている余裕があればだけどさ」
どうやら何が起きているのかを考えている暇はないようです。
鼬王だと思われる生き物がゆっくりと口を開きました。
それと同時に、僕の背筋がゾクゾクと震えました。
危険察知が知らせているのです。
あれはマズいと。
「みなさん! 僕の後ろに急いで下がってください!」
「え? いきなりどうしたの?」
「説明している暇は……くっ! 防御魔法!」
全開です!
出来る限りの魔力を込めて、僕はドーム型の防御魔法を展開します。
その瞬間、今までに感じた事のないほどの衝撃を受けました。
「ユアン!」
「だ、大丈夫です。シアさん助かりました」
気づいたら僕はシアさんに抱えられていました。
どうやら僕は鼬王の攻撃は防いだものの、衝撃で吹き飛ばされたみたいです。
「やるじゃないか。そうじゃないとつまらない」
鼬王が狂ったように笑っています。
「ユアン、どうする?」
「どうもこうもありませんよ。アレを止めないときっと大変な事になります」
さっきの攻撃でわかりました。
あれは世に放っていい存在ではないのは間違いありません。
ここでどうにかしないと、アルティカ共和国だけではなく、ルード帝国も大変な事になりかねません。
「けど、あの敵にどうやって戦うの?」
「それは考え中です」
「考えてどうにかなりそうなのですか?」
「わかりません!」
いきなり想定外の状況ですからね!
すぐに思い浮かぶような案がでたら苦労はしません!
「なら、全力で戦うしかないんじゃない?」
「うん。それが単純でわかりやすい」
「そうですけど、危険ですよ?」
「大丈夫です! あの攻撃は凄かったですけど当たらなければどうにかなります!」
シアさんとスノーさんは何となくそう言う気がしていましたが、まさかキアラちゃんまでそんな事を言うのですね。
でも、それはそれで僕達らしいですね。
いつでも行き当たりばったりでどうにかしてきましたからね!
「なら、私達が敵を引き付けるかー」
「それしかないな」
「大丈夫なのですか? 僕達が倒せる保証はありませんけど」
「その時はその時だなー。ユアン様には悪いが、わっちらが手柄を貰うぞー?」
「この戦争の一番の見せ場を頂くことになりそうですね」
アラン様もチヨリさんも僕に笑ってみせました。
頼もしいですね。
「わかりました。暫くの間、僕達で倒す方法を考えますので、鼬王を引き付けてください」
「うむー。じゃが、本当に遅かったらわっちらで手柄を貰うからなー?」
「え? 本気なのですか?」
「えぇ。あの程度の相手なら問題ありませんよ」
どうやら本気であの化物ともいえる存在を倒せるつもりでいるみたいです。
「それが嫌だったら頑張る事じゃな」
「わかりました、頑張ります!」
「うむー。それじゃ、ちょっとばかし遊んでくるかー。行くぞー」
「俺達も行くぞ。では、ユアン様また後ほど」
アラン様とチヨリさんがそれぞれの部隊を率いて走り出しました。
当然、その中にはアリア様も含まれています。
「ユアン。手柄をとられる前にどうにかする」
「そうですね!」
「負けてらんないね」
「弓月の刻の力を発揮する時が来ましたね!」
きっと、アラン様もチヨリさんも僕達を信じ、僕達が安心して戦えるように無茶をしてくれているのだと思います。
その期待を裏切る訳にはいきません。
そして、何よりもこの戦いを終わらせ、戦争に終止符を打つ時が来たのです。
「では、作戦会議です!」
長い時間をかけずとも、僕達のやる事は直ぐに決まりました。
むしろ最初から決まっていました。
「僕達のもてる全力をぶつけましょう」
単純でいいのです。
力には力をぶつける。
ただそれだけです。
問題はその力をどうやってぶつけるのか。
僕達は力を最大限に発揮するために準備に取り掛かりました。
たった一発の想いを込めるために。
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