第440話 補助魔法使い、選択を強いられる

 「ん、眩しいです」

 

 何かに照らされるようなあまりの眩しさに僕は目を覚ましました。

 しかし、目を開けると不思議な事に辺りはまだ真っ暗でした。

 

 「おはよう」

 「おはようございます?」

 「どうしたの?」

 「いえ、まだ暗いのにおはようは変だと思って」

 

 朝なのですかね?

 それにしては暗すぎます。

 いえ、むしろ何も見えない。

 目の前にいる筈のシアさんの姿が見えない程に真っ暗なのです。

 まるで闇に包まれていると思う程に。


 「それじゃ、行こうか」

 「何処にですか?」

 「私達の目的地にですよ」

 「目的地?」

 「うむー。私達には行く場所があるからなー」

 「どこでしたっけ?」

 「待ってる人がいるじゃろ?」

 「誰がですか?」

 「行けばわかりますよ。さぁ、出発しましょう」


 訳のわからないまま、僕は歩きだします。

 しかし、行けばわかると言われたように自然と僕も向かう場所がわかる気がします。

 足が勝手に誘われるように動くのです。

 

 「それにしても暗いですね」

 「仕方ない。そういう場所だから」

 「そうなのですね」


 そういう場所なら仕方ありませんね。

 

 「灯りが見えてきましたね」

 「うん。もう少しで着く」

 「あそこが僕達の目的地ですか」

 「うん」


 どれくらい歩いたでしょうか。

 五分ほどかそれとも一時間か、はたまた一日か。

 ふわふわとした足取りで歩いていると、ゆらゆらと揺れる赤い光の元へとたどり着きました。

 いえ、あれは違います。

 光ではなく……炎?


 「あ……」


 そして、その炎へと近づいて行くと、その正体がわかりました。


 「街が……燃えている」


 視界が一気に広がるように僕の周りは炎が広がりました。

 そして、その炎に包まれた街の中に沢山の人が倒れているのが見えました。

 人族、獣人族、魔族。

 そして、龍人族と思われる人が沢山倒れていたのです。

 

 「あれは……?」


 そんな中、たった一人だけ、包まれる炎に立ち尽くす人がいました。


 「僕?」


 いえ、違います。

 似ていると思いましたが、全然違いました。

 背丈は僕と同じくらいで、黒い髪も同じでしたが、決定的に違う所があります。

 サンドラちゃんと同じように頭に小さな翼を生やし、鱗に覆われた尻尾を垂らしているのです。

 あの人も龍人族。

 

 「やっと会えたわね。私の事、覚えているかしら?」

 

 炎の中で立ち尽くす龍人族の女性はゆっくりと振り向くと、真っすぐに僕を見据え、僕に話しかけてきました。


 「すみません。初対面だと思います」

 「そう。覚えていないのね」

 「申し訳ありませんけど、覚えていません」


 龍人族の女性は僕の返事にフッと笑みを零しました。

 しかし、その笑みはとても悲しく見えます。


 「貴女は誰ですか?」

 「私は……貴女の味方よ」

 「僕の?」

 「えぇ。だから共に行きましょう」

 「何処にですか?」

 「世界を壊しに。希望のない未来を変えましょう」


 龍人族の女性が僕に向かって手を差し出しました。


 「すみません。僕は一緒には行けないです」

 「どうして?」

 「僕は世界を壊す事なんて興味がないからです」

 「おかしな話ね」

 「そんな事ないですよ」

 「そう? 世界はこんなに貴女に冷たいのに」


 龍人族の女性が手を払うように振りました。

 すると、女性の周りに人が現れました。

 その現れた人達には覚えがあります。


 「……どういうつもりですか?」

 

 現れた人達は睨みつけるように僕の事を見ています。

 そして、僕をみて口を揃えてこう言うのです。


 「忌み子、お前のせいで」


 そうです。

 僕がまだ孤児院で暮らしていた頃に、僕に暴力を振るった人達です。

 あの街にいた領主やその付き人。

 だからその顔に見覚えがあったのです。


 「ね?」

 「ね? と言われても過ぎた事です。もう、僕は忌み子ではありません」

 「そうね。だけど、貴女の存在はこれかも否定され続ける」

 「そんな事ありませんよ。だって、僕の事を認めてくれている人がいますから」


 確かにあの頃は辛い記憶が沢山あります。

 しかし、今は違います。

 沢山の人が僕の事を認め、僕に協力し、共に歩んでくれますから。


 「それは貴女の本当の姿を理解していないから」

 「本当の姿?」

 「えぇ……これが貴女の本当の姿」


 そういって、現れたのは刀を持った紅目の僕でした。

 そして、それと同時にシアさん、スノーさん、キアラちゃんが現れました。

 そして、赤目の僕は刀を振りかざし、みんなに……。


 「やめてください!」

 

 僕が仲間を斬る瞬間、僕はそれから目を逸らしました。


 「どう理解した?」

 「しませんよ! 僕はそんな事をしたりはしません!」

 「どうかしら? 貴女自身も自分の事を理解していないだけで、こちら側の人間」

 「そんな事、ないです」

 「今はね。だけど、近い将来きっと貴女は気付く事になる。やっぱりあの時の話は本当だったのだと。それは歴史が物語っているから」

 「歴史、ですか?」

 「そう」


 訳がわかりません。

 この人が何を言っているのかが理解できないのです。


 「いずれはわかる。しかし、その時には全てが手遅れとなる。そして後悔するでしょう。あの時に、私の誘いに乗っていれば、こんな事にはならなかったと」

 「……貴女は、何者なのですか?」

 「龍姫」

 「え?」

 「あの子から聞いているでしょう? 私の事は。そして、何よりも貴女自身が良く知っている筈」


 この人が、龍姫?

 サンドラちゃんが言っていた、サンドラちゃんのお姉さん?


 「もう一度だけ聞いておくわ。私と共に世界を変えましょう。貴女にはその資格がある」

 「申し訳ないですが、僕は貴女の誘いには乗れません」

 「そう。この先に悲劇が繰り広げられるとしても?」

 「それでもです。もし、未来が決まっているとしても、きっと未来は変えられますから」

 「本当にそう思うのかしら?」

 「思いますよ。だって、龍姫さんが見せた僕の姿が仮に本当だとしたら、この選択で変わるという事ですよね? なら、未来は変えられる証明になる筈です」


 だって、そうですよね?

 龍姫さんが見せた赤目の僕は仲間を傷つけようとしました。

 しかし、龍姫さんについて行けば、その未来は違うものとなる筈です。

 という事はですよ?

 この選択肢一つで未来は変わるという事。

 未来は変えられる証明になるのです。


 「ふふっ、面白い発想をするのね」

 「はい。なので、僕は貴女とは行けません。だって、僕はこの世界が好きですからね」


 この世界が嫌いだったことはあります。

 ですが、この一年ちょっとでそれは変わりました。

 僕はみんなと過ごす時間がとても楽しくて、幸せで、大事にしたいと思うのです。


 「だけど、その時間が奪われるかもしれないわよ?」

 「それは困ります。だけど、その時は精一杯頑張りますよ」

 「そう。残念ね。貴女となら分かり合えると思ったのだけど」

 「そう思うのなら、悪い事はやめて仲良くしませんか?」

 「それはできないわ。私はこの世界を壊すと決めているから」

 

 お互いの意志がある以上は仕方ありませんね。

 

 「という事は、貴女は僕達の敵になるのですか?」

 「えぇ。貴女達が私の前に立ちはだかるのなら確実に」

 「どうしてもですか?」

 「えぇ。どうしても」


 残念ですね。

 龍姫さんが敵になるのは避けられそうにないみたいです。

 だって、僕達の幸せを壊すというのならば、僕達は戦ってそれを止めなければいけませんからね。


 「それじゃ、いずれまた会いましょう」

 「はい。それまでに考えを改めてくれたら嬉しいです」

 「優しいのね」

 「そんな事ないですよ。本当に悪い人には容赦はしないですからね。だけど、龍姫さんは本当は悪い人ではないと思うのです」

 「甘い考えは捨てる事ね。私は貴女が敵となったら容赦はしない」

 「んー……僕もその時は全力で当たらせて貰いますよ」


 それが戦いですからね。

 大事なものがある以上は、やらなければいけない事があるのはわかっています。


 「それでいいわ。それじゃ、また……その前に一つだけ教えといてあげる。さっきのは嘘だから」

 「ふぇ?」

 「貴女は貴女。味方想いの貴女はあんなことをしないのは保証してあげる」

 「ど、どういう事ですか?」

 「ふふっ、本当に敵になるのが勿体ないくらい貴女は可愛いわね。あれは私が貴女をこちら側に引き入れる為の罠。信じてくれたら儲けものだったけどね」


 むー……。

 やっぱりこの人は悪い人かもしれません!


 「それじゃ、僕は帰りますからね!」

 「えぇ。さようなら、我が子よ」

 「え? 今、何て……」


 龍姫さんが悲しそうな笑みを浮かべました。

 そして、その瞬間に姿が消えていきます、いえ姿だけではありません。

 周りの風景もぼやけるようにして……。






 「……あん」

 「ん……」

 「ユアン」

 「んー?」

 「ユアン、起きる。朝」

 

 眩しい光が僕の顔にあたりました。

 

 「あ……おはよう、ございます」

 「うん。おはよう」


 そして、目を開けると目の前にシアさんの顔がありました。


 「シアさん、ちゅー」

 「うん。ちゅー」


 それが何故だか嬉しくて、僕の事を覗き込むシアさんの首へと腕を回し、引き寄せるようにおはようの挨拶を交わしました。


 「朝から仲良しだなー」

 「羨ましい限りですね」

 「アラン、私達もしよ?」

 「ふぇ?」


 チヨリさん達の声にシアさんとの挨拶を終え辺りを見渡すと、僕達の事をみんなが見ていました。


 「み、見てましたか!?」

 「うむー。みんな見てたぞー?」


 あ……やっちゃいました。


 「気にする事ない。それよりも、大丈夫?」

 「な、何がですか?」

 「ユアン、うなされてた。変な夢でもみた?」

 「んー……そういえば、変な夢を見た気がします」


 けど、何の夢をみたのかは正直覚えていません。


 「そういえば、私も変な夢を見た気がする」

 「私もです」

 「キアラちゃんとスノーさんもですか?」

 「うん。実家に帰るかどうかを迫られた気がするんだよね」

 「あ、私もお父さんたちが出てきた気がします」


 そこで何かの選択肢を与えられたらしいですね。

 んー……そういえば僕もそんな記憶があります。


 「シアさんは平気だったのですか?」

 「うん。私は平気」


 という事は、僕達だけですかね?


 「気にしても仕方ないですね。それにしても昨日が嘘のように今日は晴れましたね!」


 眩しい訳ですね。

 今日は太陽がハッキリと見えるくらいの晴天です!

 ずっと出ていた昨日の霧はすっかりとなくなっています。


 「それじゃ、今日こそ鼬国の都へと進みましょうか」


 その前にピコフリ体操をしなければいけませんけどね。

 それにしても、昨日の夢は何だったんでしょうか?

 よく覚えていませんけど、変な夢だったのは覚えています。

 まぁ、夢は夢です。

 きっと、昨日の夜は色々と不安があったのでそんな夢を見ただけだと思いますし、何よりも僕達にはやる事があります。

 

 「では、出発です!」


 今日で戦争を終わらせるために僕達は鼬国の都へと進みました。

 願わくばすんなりと終わって欲しい所ですが、どうやらそうも行かないみたいで、鼬国の都が近づくと僕達は驚きに包まれました。

 まさか、都があんなことになっているとは思いもしなかったのです。

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