第437話 リアビラ軍

 あれれ?

 

 「シノ様、デインさん囲まれちゃっていますよ?」

 「そのようだね」

 「大丈夫なのですか?」

 「大丈夫だよ」


 シノ様の話だと、デインさんは引き際を間違えない男と聞いていたから安心してたけど、逃げ場がないくらいにリアビラ軍に囲まれちゃってるね。

 けど、シノ様は大丈夫だって。

 本当かなー?

 

 「心配かい?」

 「いいえ、ただデインさんがいたらルリが戦うのは無理かなーって」

 「そっちの心配だったのかい? ま、なら直ぐにルリが戦いやすいようにしてあげるよ」

 

 そう言ってシノ様は右手に魔力を集めだした。

 それと同時に、デインさんもこちらに気付いたようで、大盾に身を隠すように構え、反転すると勢いよく走り出した。

 そうだよね。

 あのままだとデインさんまでシノ様の魔法に巻き込まれちゃうもんね。

 流石にデインさんも少し焦っているように見える。

 なるほどなるほど!

 囲まれているように見えて実際は敵を引き付けているだけだったみたい。

 デインさんは敵を跳ね飛ばしながら、急いで撤退を開始しました。

 凄いね凄いねっ!

 デインさんが通った場所は波が割れるみたいになってるんだよ!

 私とシノ様は空から見てるからその様子がよくわかる。

 

 「デインさん走って走ってー!」

 「言われなくても走りますよっ!」


 あははっ!

 本当にデインさんって凄いんだよ!

 大きな体で、体よりも大きな盾を持っているのにも関わらずすごーく足が速いんだ!

 瞬間速度だけなら馬並みに早いんじゃないかな?

 それだけの努力があったって事だけど、ある意味人間やめてそうなんだよっ!

 けど、人って必死になればそれだけ頑張れるって事かな?

 

 「さて、そろそろいいかな」

 「いいと思いますよっ!

 「それじゃ、デインの好意に甘えて、集まった集団に打ち込ませて貰おうか」


 まだちょっとだけ早いと思うけど、シノ様は避難するデインさんに構わず魔法を放った。


 「降り注ぐ槍」


 シノ様の右手から放たれた魔力の塊は空中で分裂し、分裂した魔力が槍のように細長く形を変えました。

 そして、無数の槍がリアビラ軍へと降り注ぐ。


 「シノ様凄いですね!」

 「そうでもないさ。ちょっと手加減をしたから」

 「どうしてですか?」

 「ルリも見せ場が欲しいでしょ!」

 「はいっ!」


 えへへっ!

 シノ様の攻撃が控えめだと思ったら、ルリの為だったみたいなんだよっ!

 それでも数はかなり減っちゃったみたい。


 「ほら、ルリも行っておいで」

 「はいっ! 頑張ってきますね!」


 シノ様から手を離し、私は空から飛び降ります!

 ちょっと高すぎたかな?

 でも大丈夫なんだよっ!


 「きゃうん」


 大丈夫じゃなかったんだよ……。

 見事に着地に成功したと思ったら、やっぱり高かったみたいで、足が痺れてそのまま尻もち着いちゃいました。

 シノ様が糸を握っていてくれたお陰でこれだけで済んだけど、普通に飛び降りたら足の骨をやっちゃってたかも。

 

 『ルリ、大丈夫かい?』

 『大丈夫です!』

 『それはよかった。だけど、今の声は可愛かったよ』


 はぅぅ。

 シノ様に恥ずかしい所を見れれちゃったんだよ。

 これは汚名を返上するしかないよね?

 だから、私は両手を広げます。

 

 「おじさん達、覚悟はいいですか? って、いきなりはずるいんだよ!」


 もぉ!

 ルリが敵だからっていきなり槍を突きさそうとするのは良くないと思うんだよ!

 敵を敵と認め、これから倒す事を宣言するって大事な事だと思うんだよねっ!

 まぁ、ルリもそんな事は普段はしないけど。

 時には気分というのは大事だと思います!


 「でも、おじさん達がその気で良かったんだよ」


 おじさん達がやる気なら遠慮はいらないよね?

 だから、改めて私は両手から糸を飛ばします!


 「あれれ?」


 なんでかな?

 なんでなのかな?

 おじさん達の反応がありません。

 周りの人が倒れようが、ルリの糸で腕が飛ぼうが全く反応がないんだよ?

 それどころか、仲間がやられようが関係なしにルリへと突撃してくるんだよ!


 「女の子相手に酷いと思うんだよっ!」


 蟻が群がるように私へとおじさんたちが殺到してきます。

 けど、これって私の独壇場だよねっ!

 ルリの戦い方は自分にあたらないように糸を無差別に展開して剣よりも槍よりも広い範囲を攻撃できるんだよ。

 だから、囲まれれば囲まれるほどルリが有利なんだよっ!

 そして、ルリの戦い方はもう一つあります!


 「その死体を踏んだら危ないんだよ?」


 折角教えてあげたのに、私の言葉を無視しておじさんがさっき倒した兵士の体を踏みました。

 それと同時に、踏まれた死体が起き上がり踏んだ兵士を後ろから槍で突き刺します。

 

 「ルリをどうにかしないと、次々に敵が増えていくんだよ?」


 ルリは冒険者として活動する時は罠師トラッパーとして活動をしています。

 珍しい職業だよねっ!

 だって、この職業はルリが考えたんだもん。

 当然なんだよ!


 「これをこうして、こことあそこを繋げて……」


 私の糸は魔力で作られています。

 前にキャッスル・スパイダーと戦った事があるんだけど、ルリの糸はキャッスル・スパイダーと違って手から離れてもちゃんと残ります。

 そして、手から離れた糸を操れば色んな事に使える。


 「だから、死体を操るのだって簡単なんだよっ!」


 時には盾に。

 時には攻撃手段に。

 死体と死体を糸で結べばその間を通った人はバラバラになります!


 「拠点の出来上がり、なんだよっ!」

 「随分と悪趣味だね」

 「ひゃうんっ! し、シノ様ぁ……いきなり現れて変な所を触らないでください!」

 「ごめんごめん、頑張ったルリにご褒美をあげたくてね」

 「それならキスが良かったです!」

 「わかったよ。後で沢山ね?」

 「はいっ!」


 一時的にだけど、死体と死体を糸で結び私達の周りに敵との壁ができました。

 シノ様には悪趣味と言われてしまったけど、仕方ないと思います!

 こうでもしないと、ユアンお姉ちゃんと違って防御魔法で安全を確保できませんから!


 「悪いが、仲良くするのは後にして貰えるか?」

 

 あれれ?

 デインさん戻ってきたの?

 どうやったんだろう?

 って、拠点の一部が壊れてるんだよ!


 「デインさん!」

 「あぁ、すまん。入れそうな場所がなかったから入ってきてしまった」

 「もぉ! そこはデインさんが守ってくださいね!」

 「任せてくれ」


 頼もしいけど、そうじゃないんだよ!

 デインさんのせいでルリの弱点がバレてしまいます!

 

 「大丈夫さ。敵にはデインのような相手はいないよ」

 「わかってます。だけど、今後の参考にされたら困ります!」

 「そうだね。見られているからね」


 シノ様も当然ながら気付いているみたいなんだよっ!


 「どういう事ですか?」

 「敵の目をみればわかるよ。最初から生きちゃいないでしょ?」

 「そういう事でしたか。なるほど、おかしいと思っていましたが、こいつらは最初から操られた兵士だという事か」


 敵も悪い人だよね。

 どおりで仲間がやられても怯まない筈なんだよ。

 だって、最初から死んでいたら今更死ぬ恐怖はない筈だもんね。


 「全く。嫌な相手だね」

 「同感だな」

 「でも戦うのは楽ですよ!」


 これだけの兵士を操っているのは凄いと思います!

 だけど、凄いというだけで何にも怖くはないんだよ!

 だって、見れば見るほど動きが単純で、ルリの張った糸に次々と飛び込んでいきます!


 「しかし、この光景は暫く忘れそうにないな」

 「そうだね」

 「それならやめますか?」

 「いいや。楽だから暫くはこのままでいいよ。それに、どうすれば兵士を無力化させれるかを見極めたい」

 「確かにそうですね。条件が部位欠損なのか、それとも一定の攻撃を加えるか……戦った感じは後者だが」

 「バラバラにしちゃえば同じなんだよ!」

 「俺にはそれはできないからな」

 

 敵との相性があるから仕方ないよね。

 今回はルリの独壇場だったって訳です。

 だって、一対一だったらデインさんに勝てない自信があります!

 条件次第では勝てるかもしれないけど。


 「まぁ、デインには突破してきた敵をお願いするよ」

 「シノ様はどうなさるつもりで?」

 「僕はこの兵士を操っている人を探すよ」

 「ルリはどうすればいいですか?」

 「ルリは……あの新手を頼むよ。僕はあの敵が苦手だ」


 シノ様が空を見上げると、遠くから何かが飛んできました。


 「シノ様は虫が嫌いなのですか?」

 「別に嫌いではないよ?」

 「だけど、虫の敵はルリに押し付けている気がしますよ!」

 「相性だよ相性。頼んだからね?」

 「後でいっぱいご褒美を貰いますからね!」

 「うん。沢山愛してあげるよ」


 シノ様に約束して貰えたなら頑張るしかないよね。

 それに、あの相手はある意味、因縁の相手でもあるんだよ。

 私の視線の先には黄色と黒のまだら模様の生物が耳障りな羽音を鳴らして飛んでいます。

 ルリが参加できなかった帝都の戦いでシノさまに酷い目に合わせたというあの魔物です。


 「デインどうしたんだい?」

 「いや、なんでもありませんよ」

 「そうかい? まぁ、デインも早く良い人見つける事だね」

 「何も言っていませんよ……」

 「顔をみればわかるさ。後でデインが好みそうな女の子を紹介してあげるよ」

 「だから、何も言っていませんよ。ま、少しだけ期待しておきますけど」


 シノ様とルリの事を変な目で見ていたと思ったらデインさんは羨ましかったみたいだね!

 そうだよね。

 デインさんだってそろそろ結婚とか考える年齢だもんね!

 ルリも紹介できそうな人いるかな?

 シノ様を信じてルード帝国から全てを捨てて来てくれたんだもん。

 デインさんにも幸せになって貰いたいもんね!

 だけど今は……。


 「シノ様の恨みを晴らすときなんだよ!」


 あ、でもそのお陰でシノ様の可愛い姿を見れたし、感謝もするべきなのかな?


 「ひゃうんっ! し、シノ様!」

 「ルリ、後でお仕置きも追加だからね?」

 「な、何も言っていませんよっ!」

 「そう? なら、余分な事を考えないで頑張ってね?」

 「わかりました!」


 シノ様は察しが良すぎるから困ります!

 けど、シノ様のお仕置きも……。

 っとそうじゃないんだよ!

 まずは目の前の蜂さん達を倒しちゃわないとね!

 ルリは空に向かって糸を飛ばすのでした。

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