第435話 最終決戦に向けて
「向こうは本当に大丈夫ですかね?」
「信じればいい。向こうもこっちを信じて待ってる」
「そうですよね」
ナナシキに残ってもらったシノさんやオルフェさん達も間もなくリアビラ軍と交戦するという情報が入り、僕は心配になりました。
シノさんの方はあまり心配はいりませんが、オルフェさんの方がどうしても気になるのです。
凄い人というのはわかりますけど、どれほどの実力を持っているのかというのは未知数ですからね。
僕を育ててくれた人なので、オルフェさんの事を良く知っている身としては、とてもではありませんが、戦いに身を投じる人ではありませんでしたから。
「キアラちゃん、エルフとハイエルフってどう違うのですか?」
「私もよくわからないです。だけど、竜人族と龍人族みたいな差はあると思うの」
「その差もよくわかりませんけどね」
だけどガロさんは前に言っていましたね。
そこには格の差があると。
そう考えると、一概には言えませんがオルフェさんはキアラちゃんよりも上って事になるのでしょうか?
「不安ならサクッと鼬王を倒してナナシキへと戻ればいいんじゃない?」
「そう簡単にいきませんよ。流石に次に向かうのは鼬国の都ですからね」
防衛都市を落とすのは簡単でした。
ですが、鼬国の都も同じように落とせるかどうかは別だと思います。
何せ都には住民も住んでいますからね。
その住民に危害を与えるのは禁止されているのです。
まぁ、危害を与えるつもりは最初からありませんけど。
「けど、もし都で籠城されたらどうしましょうか?」
「それは困るよね」
住民に危害を与えてはならない、しかも都に籠城されるという状態になった場合は凄く厄介ですよね。
都を攻めれば住民に危害を与えてしまうかもしれませんからね。
ですが、都を攻めなければ鼬国を倒せない。
つまりは住民を盾に使われて攻められないようにされてしまう可能性があるのです。
「アリア様、そうなったらどうすればいいのですか?」
「問題ないぞ。その場合は各王が立ち合いの元、ポックルへと降伏勧告を行う予定じゃ。それでも引き籠るようであれば、この戦争は鼬国の敗戦として扱われる」
「そうなのですね。ですが、僕達が包囲を解いた後に再び攻め込んでくるという可能性もありますよね?」
「あるだろうな。じゃが、その時は自身の首を絞める事になるじゃろう」
「どうしてですか?」
「その時は最初から全ての国が敵に回るからじゃよ。そして、それは戦争ではなく反乱として扱われる。正当な理由がないからな」
どうやら、その時には鼬王の発言力はなくなり、王として扱わないみたいですね。
そこで兵士を動かせば反乱軍として処理する事になるみたいです。
当然ながら、戦争ではないので住民も関係なしに都を攻める事もできるといいます。
そうはなって欲しくはありませんけどね。
まぁ、その状態で兵士も住民も言う事を聞くとは思いませんけど。
「となると、この後は最終決戦か鼬王の降伏で終戦を迎える訳ですね」
「そうなるじゃろうな。じゃが、ポックルは人一倍の自信家じゃ。必ずや最後まで戦う事を選ぶじゃろう。自分が勝つ事を信じてな」
「それは勘弁してほしい所ですけどね」
出来る事ならこれ以上は血が流れないで欲しいです。
鼬王にこれ以上振り回されて人が死ぬのは見ていられません。
「なに。そこまで行けば鼬兵も本気で戦わぬじゃろう。何せ、私達は七万の兵士を無傷で突破してきておるからな。そんな相手と戦ったらどうなるかは兵士が一番理解しているじゃろう」
そうですよね。
更にはクドー様とラシオス様の兵士達も鼬国へと進軍をしています。
数だけみても同等まではいきませんが、決して引けをとらない数にはなっている筈です。
「とりあえずは進むしかありませんね」
「うん。暫くはゆっくりできる」
「ここから十日くらいだったよね?」
「確かそれくらいだったと思うの」
鼬国の都までは十日ですか。
遠いようで近いですね。
その前に残った鼬軍が進軍してくるかもしれませんが、その動きもキティさんの配下が常に見張っていますので問題ありません。
僕達はフォクシア軍に合わせながらのんびりと鼬国の都へと進軍するのでした。
「ポックル様、狐族の兵士達が都へと進軍しているとの報告が……」
「国境に送った兵士達は?」
「敗戦した模様です」
「そうなのね。相手に与えた被害は?」
「それが……狐族の被害はないみたいです」
「それで、防衛都市も落とされたと」
「ご、ご存知でしたか」
「当然よ。私は全てが見えているから」
正直、全てが僕の予想を裏切っている。
僕の予想では狐族は僕の軍を恐れ、早々に降伏する予定だった。
しかし、そうはならなかった。
逆に僕の軍は敗れ、狐族に都近くまで進軍を許している。
「ポックル様、これから私達はどうすればよろしいのでしょうか?」
「邪魔」
「え?」
「邪魔だから出ていってくれる?」
「この部屋からですか?」
「違う」
「ならば……」
「お前を含め、大臣、兵士、住民、全てが邪魔。都から出ていけ」
「え、それでは……」
「いいから出てってくれる?」
「わ、わかりました……」
ここまでくれば僕の敗戦という事は明らか。
だけど、私の目的は十分に達成された。
あとは、邪魔者さえいなくなれば完成する。
「ごほっ、ごほっ……」
「我が敬愛なる主様。ご気分の方は如何ですか?」
「お前か……後少しよ」
宰相が居なくなった部屋で煙草に火をつけると、骨と皮の男が現れた。
今更何の用だ。
僕の事を馬鹿にしにきたのかな。
しかし、それとは裏腹に僕は笑みを浮かべた。
「ドレイク、準備はどう?」
「えぇ、こちらの方も順当に進んでおります」
ドレイクというのがこの男の名前だったのか。
しかし、どうしてその名前が僕の口から?
「よくやったわ。後は仕上げね」
「えぇ、邪魔者が都から居なくなりましたら決行致します」
「頼んだわよ。あ、そうそう愚かな鼬王さん、聞こえている?」
「な、んだ……」
「よかった。まだ意識は残っているみたいね」
「だれ、だ」
「私? 私は名乗るほどの者ではないわよ。死にゆくものにね?」
「かえ、せ」
「返す? 何を返せというのかしら?」
どういう事だ。
ドレイクという男が現れてから、僕の体がいう事を効かなくなった。
むしろ、何かに支配される様に体が勝手に動く。
「無駄よ。貴方の存在はもう残りカスに過ぎない。これからはこの体は私のもの」
「ぁ……」
「もう黙りなさい。貴方の役目はほぼ終わり。よくやってくれたわ」
やめろ。
煙草から口を離せ。
「どう? 意識がどんどんと薄れていくでしょう。最後に教えておいてあげる。貴方が吸っていたこの煙草はね、呪いみたいなものなのよ」
のろ、い?
「気分が高まり、気持ちよかったでしょう? 何でも出来ると錯覚してしまう程にね?」
知らない。
僕は、そんなものは知らない。
「だけど安心して。私は無駄な犠牲を嫌うから。全てを解放してあげる。その後に奪うけどね。けどそれは犠牲ではなく、過程なだけ」
何の話だ。
「お馬鹿さんにはわからない話。だから、安心して後の事は私に任せなさい。貴方の望みは叶えてあげるから」
僕の、望み?
「だから、最後の役目をあなたにあげる。それまでは少しだけ、貴方に力を貸してあげるわ」
なんだ、これは。
力が、溢れて……。
「ごふっ……」
口から血の塊が溢れ、床を赤く染める。
「さぁ、最後の見せ場よ。その力を存分に発揮しなさい」
「う、うるさい! 僕の体から……ごふっ」
「無理しないで。感情的になればなるほど貴方は貴方でなくなるわよ? 怒りをぶつける相手を間違えないようにね?」
「うるさいっ! 全てはお前たちが……」
「違うわよ。こうなったのは愚かな王が原因。貴方の言う事さえ聞いていれば、アルティカ共和国は安泰だった。違う?」
「……そうだ。僕という絶対的な王さえいれば……」
「そうよ。世界は安泰だった。しかし、それを邪魔した者達がいる。それが全ての原因」
そうだ。
憎い。
僕の事を認めなかった王が憎い。
「だけど、その世界がこうなったのは龍神が原因。あれさえいなければね?」
そうだ。
もし、この世界の神が僕ならば、もっとまともな世界になっていた筈だ。
「そして、その世界を造り変えるのが私」
「そして……僕が、王になる」
「そういう事よ。さぁ、怒りをぶつけなさい。この世界の理不尽を壊すために」
世界を造りかえる為には一度、壊さなければいけない。
ならば、壊そう。
何もかも、全てを壊そう。
まずは、僕に逆らったあいつらから……。
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