第433話 一方その頃、アーリィでは

 「シノ様シノ様?」

 「どうしたんだい?」

 「リアビラ軍がもうすぐ国境を越えてきますよ」

 「うん、予定通りだね」


 リアビラとの領地を隔てる国境で争った形跡はほぼなし。

 多少は抵抗したみたいだけど、あれは抵抗したように見せかけただけで素通りと同じだね。

 つまりは国境に配属されて居た兵士達はあちらの手の者って事だ。


 「シノ君、海の方からも兵は進んでいるみたいだ」

 「そうなんだね」

 「そちらはどうするのですか?」

 「そっちは大丈夫かな。この街の人に任せるつもりだよ」

 「指揮は?」

 「必要ない。海での戦いを指揮できる人は僕達の中にはいない。任せた方が得策かな」


 もちろん、援護はするつもりだけどね。

 でも、出すぎた真似はしない方がいいだろう。

 逆に邪魔になってしまうから。


 「だから、陸で進んでくる軍に僕達は集中しよう」

 

 それにしても、あれだけの数で僕達の相手をしようだなんて、大分甘く見られているみたいだね。

 アーリィへと集まったメンバーは、僕とルリとデイン。そして、カミネロさんとレジスタンス。

 合計三十人程度。

 そこにアーリィに住む住民を合わせれば五百人ほどにはなるだろう。

 うん。十分だね。

 しかし、油断はできないのは確かだ。

 あの軍は少しばかり変だからね。

 

 「ルリ、リアビラ軍の数をもう一度正確に調べてくれるかい?」

 「はいっ! これがそうですよ」

 「ありがとう」


 流石だね。

 僕が指示をださなくても、ルリは調べていてくれたみたいだ。

 僕はルリから受け取った紙に視線を落とす。


 「なるほどね。国境を越えたのは五千程度で、海からは千人くらいか」

 「それに加えて予備軍が国境に千人程度残ったみたいですよ」

 「となると、総数は七千人くらいか」

 

 最初に聞いていた数よりも多少増えたみたいだね。

 だけど、問題はなし。

 これなら予定通り進める事が出来そうだ。


 「シノ君、予定では途中で迎えうつつもりみたいだが、大丈夫なのか?」

 「えぇ、問題ありませんよ。向こうは軍を半分にわけ、半分はナナシキへと進軍させると思いますから」

 「となると、俺達の相手は半分程度か」

 「そうなると思うね」


 そして、迎撃に出撃するメンバーは、僕とルリ、デインとカミネロさんの四人。

 そして、そこにイリアルさんが合流し、五人となる予定だ。

 まぁ、二千五百程度の相手に僕達五人が戦う予定だね。

 実際はもっと増える予定だけどね。

 相手がね。

 何せ、魔力至上主義が関わっているんだ。

 帝都での戦いと同じような事をしてくる可能性は十分に考えられる。


 「作戦とかはありますか?」

 「ないよ。ただ、好きにやればいい」

 「わかりましたっ! えへへっ、楽しみなんだよ!」

 「ルリ、無茶するなよ」

 「おとーさんのほうもね!」


 数だけをみれば大きな差がある。

 これだけの差があるのならば、小細工は意味をなさないだろう。

 もちろん、多少の手はうつけどね。

 しかし、最後に必要なのは戦闘力になるだろう。


 「お待たせ~」

 「あ、お母さん待っていたんだよっ!」

 「早かったな」

 「うん。こっちの方が楽しそうだったからね」

 「楽しい事になると思うよ。それで、その人達は?」


 僕達が話をしていると、イリアルさんが妹の方からこちらに合流をしてきた。

 ついにメンバーが揃った事になるね。

 しかし、イリアルさんと一緒に来ていたのは予定になかった者が含まれている。


 「あれは私の従業員よ」

 「あぁ、あれが噂の人達か」

 「えぇ、あの子達も戦闘に加わらせて貰うわね」


 どうやら、あの人達が向こうの国境で暴れまわった人達みたいだね。

 

 「いいのかい?」

 「いいのよ。鼬族もそうだけど、リアビラにも恨みがあるのだから晴らさせてあげたいから」


 という事は、あの人達は元奴隷かな。

 深くは聞かないけど、それなら納得できる。


 「それで、これからどうするのですか?」

 「先に攻撃を仕掛けるよ」

 「このメンバーでか?」

 「いや、制限はしない。好きに戦っていい。現にデインが一人で先に先行しているからね」


 好きにしていいとは言ったけど、まさか一人で先に迎撃に向かうとは思わなかったな。


 「大丈夫なの?」

 「大丈夫さ。デインは無茶をするけど、引き際を間違えない男だからね」


 それが彼の由縁。

 不死の大盾と呼ばれるのには意味がある。

 どんな攻撃を仕掛けても死なないからではなく、攻め時と引き際を間違えず、死なない立ち回りを出来るから不死なんだよね。


 「だから、僕はその援護に行ってくるよ」

 「ずるいです! 私も行きますよ」

 「それじゃ、ルリも一緒に行こう」

 「わかりましたっ! ルリが戦う時はシノ様とデインさんは下がってくださいねっ!」

 「わかってるよ。ルリが本気でやるのなら僕達は邪魔になるからね」


 本当は空の敵をお願いしたい所だけど、それは終盤になり、リアビラ軍が焦り始めた頃になるだろう。

 ナナシキとアーリィに大した戦力は残されていないと思っているだろうからね。

 だけど、ユアン達が引き連れていった戦力には及ばないものの、こちらに残している戦力は相当なものだからね。

 それを知っているからこそ、ユアン達は今攻めている。

 この状況も時期にユアン達に伝わるだろう。

 だから、僕達はやる。

 妹がこちらを気にしなくてもいいように。


 「さて、始めようか」


 これは僕が魔力至上主義に借りを返す機会でもある。

 あの時の雪辱を晴らさせて貰おうとしようか。

 今回は一人ではない。

 こんなに頼もしい人達がいるからね。


 「いくよ」

 「はいっ!」


 今頃、デインは敵軍に接敵している頃かな。

 僕とルリは転移魔法を使わず、空からリアビラ軍へと向かった。

 一瞬で終わらすのもつまらない。

 僕達に喧嘩を売った事を後悔させてあげるよ。

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