第431話 ナナシキ軍、防衛都市の門を壊す

 「あれを壊せばいいんだね」

 「はい。出来そうですか?」

 「出来る出来ないじゃない。ユアン殿に頼まれたからにはやる。任せてくれ」


 有難いですね。

 頑丈そうな門の破壊という難題を僕の連れてきた人は快く引き受けてくれました。


 「ですが、本当に大丈夫ですか?」

 「問題ない。あれくらいなら私に掛かれば壊すことは可能だ」

 「ですけど、あの門は……」

 「多くは語らなくていい。ユアン殿は私を信じて待っていてくれ」

 「あ、ラインハルトさん……行っちゃいました」


 それもかなり張り切っているようで、僕の説明を最後まで聞かずに行ってしまいました。

 大丈夫ですかね?


 「大丈夫じゃないかな。仮にも勇者だし」

 「そうですね」

 「けど、せめて着替えてくればよかったのに、どうしてメイド服のまま連れてきたのですか?」

 「ラインハルトさんはあのままでいいと言っていましたからですよ。何でも、僕達を護る戦うメイドらしいです」


 セーラも同じことを言っていましたね。

 ラインハルトさんの目的は姉を探すことでしたが、オメガさんがお姉さんだったので目的が達成されてしまいました。

 なので、結局の所、そのままメイドとして僕のお家で働くことになりました。

 本人がやりたいのでそのままに好きにさせていますけど、本当はこういった戦いに身を置くのがラインハルトさんらしいと思います。

 まぁ、無理に戦えとはいいませんが、実力があるのにメイドをやっているのは勿体ないからですね。


 「でも、変な光景」

 「わかります。メイドが聖剣を持ってるのは流石に変ですよね」

 

 鼬兵も外壁から見ているでしょうが、困惑するでしょうね。

 ですが、実力は問題ありません。

 シアさんに器用貧乏と言われていましたけど、全体的な水準は高いのは間違いありません。


 「ユアン殿、みててくれ!」

 「はーい。お願いします!」


 門の近くまで歩いていたラインハルトさんは僕にこれから壊すぞと合図を送ってくれましたので、僕もそれに応えて手を振ります。

 

 「いよいよですね」

 「うん」

 「でも、どうしてラインハルトさんを選んだの?」

 「それは転移魔法を使えるからですよ」

 

 この作戦の危険な所は門を壊した際に放出される大量の水とそれと一緒に流れてくるだろう色々な物です。

 それの下敷きになってしまったら転移魔法が使えなければ自力での脱出は困難になります。


 「よく引き受けてくれたね」

 「喜んで来てくれましたよ」

 

 前に僕にいきなり求婚してきたり、僕と一緒に居る時間が欲しいという理由でメイドさんになったりしてくれたくらいなので、お願いすればきっとと思いましたが、その予想は見事に的中しました。

 やりとりを思い返すと。


 『ラインハルトさん、お願いがあるのですが……』

 『任せてくれ!』


 たったこれだけで済みました。

 

 「まぁ、そのせいで説明不足になっちゃいましたけどね」

 「本当にまともに説明してないんだ」

 「はい。ラインハルトさんは早く早くと急かしてきましたので、とりあえず直ぐに戻ってきましたからね」

 

 これは僕の失敗ですね。

 こっちに戻ってから状況などを詳しく説明しようと思ったのですが、結局それも話せぬままラインハルトさんは行ってしまったのです。

 でも、ラインハルトさんなら大丈夫ですよね?

 だって、防衛都市の様子を見て、『水の溢れる街……あれが水の都か』っと呟いていましたので、僕が説明をしなくても状況を理解しているみたいですからね。


 「違うと思うけどね」

 「ただの勘違いだと思うの」

 「そうですかね? なら、説明した方がいいですか?」

 「無理。もう攻撃態勢に入ってる。それに、面白い事になりそうな予感がするから見てる」


 本当ですね。

 ラインハルトさんの聖剣が光を帯びています。

 もう今更間に合いそうにありません。

 

 「いくぞー!」


 それにいつもよりも張り切っているのがわかります。

 どちらかというとラインハルトさんは戦う時はクールなイメージがありますが、今日ばかりは違います。

 あんな掛け声を出して戦うタイプではないのです。

 まぁ、理由はわかりますよ。

 僕達は遠くから見守っているので、僕達に聞こえるようにああやってわかりやすく攻撃する事を見守っているのです。

 そして、ラインハルトさんが門に攻撃を放ちました!

 ……流石に一回で壊せるほど甘くはなかったみたいですね。

 でも、それなりに効果はあったみたいで、門から水が噴き出し始めたのがわかります。

 あれなら、暫く放っておけば自然と壊れそうですね。


 「ラインハルトさーん! もう十分なので戻ってくださーい!」

 「えー、なんだってー?」


 いや、手を振ってる訳じゃないですよ!

 そんな場合でもありません!

 

 「だから一度戻ってきてくださーい!」

 「頑張ってるよー!」


 あぁもう!

 ラインハルトさんにちゃんと声が聞こえていないみたいで、相変わらず手を振り返してきます!


 「あ、やばいかも」

 「隙間から溢れる水が多くなってきたように見えるの」


 本当ですね。

 

 「ラインハルトさん後ろ後ろー!」

 

 頑張って門を見るように声と動作で伝えると、ようやくそこでラインハルトさんは振り返って門を見てくれました。

 そして、慌てた様子でラインハルトさんが門から離れ、こちらへと走り出しました。

 その瞬間。

 門が壊れ、水が勢いよく流れだしました!


 「うわぁぁぁぁ!」


 さ、流石は勇者……足も、速いのですね。

 でも……。


 「ぷふーっ!」

 「し、シアさん、笑っちゃ……ダメです、よ」

 「む、無理。ラインハルト、走り方がおもしろ……ぷふーっ」

 「だ、だからって……」

 「ユアンだって、笑ってる」

 「だってぇ……」


 見れば見るほど面白いです!

 よくあんな走り方で前に進むなって思う程に変な走り方なのです。

 軍隊の行進ってわかりますか?

 背筋を伸ばし、足を高く上げて歩くような感じです。

 ラインハルトさんはその状態で走っているような感じなのです。

 それがふざけている訳ではなく本気でやっているので余計に面白いのです!


 「はぁはぁ、死ぬかと思った」

 「お、お疲れ様です」

 「ラインハルト、おつか……ぷふーっ」

 「どうして笑うんだよぅ!」


 仕方ないじゃないですか。

 あんなに必死になるラインハルトは初めてみましたからね。


 「でも、どうして転移魔法で逃げなかったのですか?」

 「焦り過ぎてそこまで頭は回らなかったよ……頻繁に使う魔法ではないからね。けど、目標は達成されたでいいのかな?」

 「いえ、あと三カ所ありますので、頑張ってください!」

 「もう無理だよっ!」

 「どうしても、ですか?」

 「うっ……頑張るよ」


 良かったです!

 一か所だけ壊しても時間が掛かりますからね。

 効率よく水をなくすのなら水を放出できる場所は大いに越したことはありません。


 「頑張ってくださいね!」

 「任せてくれ!」

 「応援してる。それと、出来る事ならまた転移魔法を使わないでくれると嬉しい」

 「どうしてだ?」

 「面白いから」

 「もうあんな怖い思いはごめんだ。今度は使わせて貰うよ」

 「残念」


 シアさんも鬼畜ですね。

 再び僕のお願いを聞いてくれたラインハルトさんにそんな事を言っています。

 僕ももう一度見て見たいと思いましたが、流石に言えませんでした。

 それを平気で言えてしまうシアさんは流石僕のお嫁さんですね!


 「けど、ラインハルトさんのお陰でどうにかなりそうですね」

 「そうだね。後は鼬兵がどう動くかが問題だけどね」

 「戦いを挑んできたりはしませんよね」

 「多分ね。けど、鼬族だしどうなるかわからないから油断はしない方がいいよ」

 「そうですね」


 全ての鼬族が悪い人ではないとはわかります。

 ですが、あの兵士達の事はわかりません。

 防衛都市に残っている兵士は依然として僕達よりも数が多い状態ですので、楽観視は出来ませんね。

 ですが、まずは水が引くことが前提です。

 僕達はその時を今は待つのでした。

 あ、それと。

 もう一つ。

 あの後、ラインハルトさんが見事に全ての門を壊してくれました。

 そして、四つ目の門の時、どうやら聖剣の魔力が尽きてしまったみたいで、もう一度さっきの光景を見る事が出来ましたよ!

 ラインハルトさんは涙目になってしましたけどね。

 色々と楽しませてくれたラインハルトさんにはご褒美をあげなければいけませんね。

 何か喜んでくれるものがあればいいのですけど、何かありますかね?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る