第429話 ナナシキ軍、防衛都市に迫る

 「あれが鼬国の誇る防衛都市ですか」

 

 鼬軍が国境から撤退しはじめ、それを機に鼠兵達が一斉に亡命を果たし、すっかり軍の数が減ってしまった鼬軍を追うと、辿り着いた先は立派な外壁に囲まれた街でした。

 ちなみにですけど、数は減ったとはいいましたが、未だに僕達の数倍は兵士の数を残しています。


 「その軍があの街で待ち構えているとなると恐ろしいですね」

 「そうでもない」

 「シアの言う通りだね」

 「どうしてですか?」

 「もう逃げ場がないからだよ。四方を囲んでしまえば鼬軍はもう終わりかな」


 そんな単純にいきますかね?

 確かに、鼬軍に逃げ場はもうありません。

 ですが、その間に援軍が向かってくるとなるとその包囲を解かなければなりません。

 となると、僕達は平野での戦いを強いられる事になります。

 僕たちが居る場所は先日まで戦っていた国境から数日移動した場所にいますからね。

 まぁ、それでも負ける気はしませんし、援軍が来るようならば狼族と鳥族が攻める手筈になっているので、どうにかなると思いますけど。


 「それにしても、あの壁って何なのですか?」

 「鉄……ではないようには見えるけど」

 「そうですよね」


 何となくですが、あの街を見た僕達の感想は不気味でした。

 何せ、高い外壁が黒く染まっているのです。

 それに、遠めなのでよくわかりませんが、とても頑丈そうに見え、外壁の上には敵を迎撃する為に色々と乗っかっているのがわかります。


 「あれはバリスタってやつだね」

 「あ、知ってますよ! 大きな弓みたいなのですよね!」

 「まぁ、簡単に言うとね。発射できるのはそれだけではないみたいだけどね」

 

 防衛都市と呼ばれるだけありますね。

 遠目から見た目大きいとわかるくらいです、あんな物から見降ろされる形で攻撃されたら普通の軍だったら一溜りもなさそうです。

 いえ、僕達の軍でも苦戦する可能性はありますね。

 防御魔法で防げてもあまりにも重かったりしたら吹き飛ばされたり、傷はなくとも下敷きになったりしてしまう可能性もあります。


 「ドーム型で近づいたらどうかな?」

 「なんとも言えませんね。大丈夫だと思いたい所ですけど……」


 僕のドーム型の防御魔法の弱点は一点突破に弱い事です。

 それに加え、一斉に狙われたら修復が追い付かない可能性もあります。


 「なら、前みたいに私と協力する?」

 「前と言うと……魔の森の時みたいにですか?」

 「そうそう。あれなら、私とみぞれの水魔法で勢いを殺せると思うけど」

 「それなら大丈夫だと思います。問題はスノーさんの体力ですけど……」

 「大丈夫だよ。みぞれと協力すれば前ほど消耗しないとは思うからさ」


 頼もしいですね。

 スノーさんの課題だった精霊魔法も克服しつつあるみたいです。

 これは僕もうかうかしていられませんね。

 あっという間に差が開いてしまうかもしれません。


 「むー……私の出番がない」

 「私もです……」

 「仕方ないですよ。個人で出来る事が少ないのが戦争ですから」


 といいつつも、初日から個人技で鼬軍を圧倒していましたけどね。


 「ふふっ、私はまた乗り込んじゃおうかな」

 「おかーさん。ずるい」

 「シアちゃんも一緒に行く?」

 「行く!」

 「いや、行っちゃダメですからね?」


 気づけばイリアルさんが話に参加していました。

 困りますよね。

 もうちょっと慎重になって貰いたいものです。

 それを訴える為にも僕はイリアルさんと一緒に来ていたイルミナさんを見ました。

 

 「そんな目で見ないで頂戴。私だって止めるつもりだったのよ」

 「そうなのですか? 僕の聞いた話によると、従業員の方たちと一緒にイルミナさんも暴れまわっていたと聞きましたけど」

 「気のせいよ」


 どんな戦いをしたのかはわかりませんが、シアさんの軍に参加していたイルミナさん達の部隊はちょっと有名になっていました。

 何でも、僕達と違う門を打ち破り、打ち破った先の鼬兵を次々とぶっ飛ばしていたらしいですからね。


 「イルミナさんの面倒は本当に頼みましたからね?」

 「えぇ、任せて頂戴」

 「酷い……私だって頑張ってるのに」


 そんなにしょんぼりとされても困ります。

 しかもシアさんも一緒になってしているから更に困ります!

 本当にこの人達は戦う事ばかり考えていて大変ですよね。

 やっぱり影狼族は戦闘民族だとよくわかります。


 「それで、イルミナさん達はどうしたのですか?」

 「ちょっと報告があってね」

 「報告? もしかして、シノさん達の事ですか」

 「なんだ、知ってたんだね」

 「当然ですよ。一応ですが、連絡はちゃんと取っていますからね」


 どうやら、シノさん達の事で話があったみたいですね。


 「もしかして、そっちの援軍を頼まれたとかですか?」

 「一応ね。だから、もしかしたら向こうに行くかもしれないって事だけ伝えておこうと思ってね」


 やっぱりさっきのやり取りは冗談だったようで、本題はこっちのようでした。

 そうですよね。

 流石に単身でまた乗り込む訳がないですよね?

 信じたい所です。


 「わかりました。その時は遠慮せずに行ってくださいね」


 そして、ついに向こうにも動きがあったと聞いたのは昨日の夜の事でした。

 どうやら、リアビラの軍? といっていいのかわかりませんが、とにかくリアビラがついにフォクシアとの国境に辿り着いたみたいです。

 数は五千程度らしいのですが、残してきたメンバーを考えるととてつもない数の差がありますよね。


 「しかも、変な魔物を連れているという噂もありますよね?」

 「砂漠に住み着く土竜サンドドラゴンの事かしら?」

 「名前は知りませんけど、上手くらい大きなトカゲとは聞きましたね」

 「なら間違いないわね」


 そんな魔物を操っているくらいですし、相手に召喚士サモナー、または調教師テイマーが居てもおかしくないのでそれもちょっと心配の種ですね。

 何せ、帝都ではそのせいで大変な事になりましたからね。


 「まぁ、シノさんなら二度も同じ手には引っ掛からないと思いますけどね」

 

 それでも心配なものは心配なので、イルミナさんがいざとなったら行ってくれるとなると助かります。

 僕が居なくても転移魔法を使える人の存在は大きいですからね。


 「イル姉はどうする?」

 「一緒に行くわよ。お母さんを一人で行かせるのは不安だから」

 「そんなに心配されなくても大丈夫なんだけどなぁ」

 「真面目にやればね」


 そうなんですよね。

 イルミナさんが真面目にやってくれるのならば何も心配はいりません。

 ですが、僕のお母さん達から肩の力を抜けと言われてからずっとこんな調子なのですよね。

 いざとなったら、本来の力を発揮して真面目にやってくれると思いますが、その時は既に手遅れってなりそうでそこが心配なのです。


 「大丈夫。向こうには旦那とルリが居るし、しっかりとやるから」

 「はい。その調子でお願いしますね?」

 

 それにしてもリアビラですか。

 本当によくわからない国なので、ある意味鼬軍よりも怖いですね。

 何せ、魔力至上主義が関わっているくらいですし、数以上に嫌な感じがします。

 きっと、何かを狙っている気がするのです。

 当然、その狙いは見当がつかないので対処しようがありませんが、一度オルフェさんに連絡をとり、気をつけるようにお願いする必要もありますね。


 「それで、私達はどうする?」

 「アンリ様と相談になると思いますけど、とりあえずは様子見ですかね?」

 

 戦いたくて仕方ない人達が沢山いますけど、我慢は大事です。

 もしかしたら、防衛都市から出てきて戦おうとしてくる可能性もありますからね。

 無理に攻める必要もないと思います。


 「本当に攻めないのかー?」

 「はい、その予定ですよ?」

 「そうかー……あの程度の街なら半日も掛からず落とせるのになー」

 「さ、流石に冗談ですよね?」

 「余裕行けると思うぞー? なぁ、アラン?」

 「そうですね。何も問題はないかと」


 やっぱりどうしても戦いたいと思う人がここにいました。

 それにしても、あの街を半日でですか。

 僕にはとても想像はつきませんし、僕達ではとても出来そうもありません。


 「そんな事ないと思うよ?」

 「え? スノーさんまで何を言い出すのですか?」

 「いや、街を落とすだけなら私達だけも出来るかなって」

 「えっと、スノーさん熱でもあるのですか?」

 「ないし!」


 本当になさそうですね。

 いきなりスノーさんまで落とせると言い始めたので驚きました。

 流石に冗談だったみたいです。


 「いや、冗談じゃないよ?」

 「いやいや、流石に無理ですよね?」

 「出来るとは思うよ。やってみないとわからないけどね。もちろん、色んな人に協力してもらう必要はあるけどさ」


 何やら考えがあるみたいですね。


 「危険な方法はダメですよ?」

 「大丈夫かな。私達は安全な場所で見ているだけになるだろうし」

 「それなら試してみる価値はあるかもしれませんね」


 という訳で、僕達はスノーさんの作戦を聞くことにしました。


 「スノー。それはずるい」

 「けど、安全に勝つためならいい方法だと思いますよ?」

 「私もそう思います。ただ、準備が少し大変そうですけど」

 「まぁね。だけど、ユアンの力を借りれれば大丈夫だと思うよ」

 「そうですね。ちょっと探してみましょうか」


 スノーさんの作戦は面白い発想だと思いました。

 そして、やられた相手は一溜りもない作戦だと思います。

 もちろん成功すればの話ですけどね。

 そして、僕達は早速その準備に取り掛かりました。

 この作戦に必要不可欠なある物を探す事にしたのです。

 それにしても、この作戦を聞いた時には驚きましたね。

 まさか鼬族を狙うのではなく、街そのものを狙うとは思いませんでした。

 そして、僕達はその夜、その作戦を決行したのです。

 鼬族に見つからないようにこっそりと。

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