第425話 ナナシキ軍、初日の戦闘を終えた夜
side:リンシア
「「「かんぱーい!」」」
私達は今、今日の戦いを振り返りながら食事をしている。
アンリとアリアはフォクシア軍の方で何かやる事があるようで居ないけど、それ以外の主要たるメンバーはみんな集まっている。
「凄いですね! 今日は大勝だったみたいですよ!」
「思った以上の戦果はあげれなかったけどなー」
「そんな事ないですよ! チヨリさんの門を吹き飛ばした魔法なんか凄かったですし、アラン様達の突破力も凄まじかったですからね!」
「ユアン様に褒めて頂けるのなら、張り切った甲斐がありましたな」
私のいない所で何があったのかをユアンが振り返りながら教えてくれる。
「それにですよ? フォクシア軍にもナナシキ軍にも死者どころか負傷者もいないみたいじゃないですか。これって凄い事ですよね!」
「ユアンの防御魔法のお陰だけどね」
「あ、そういえばそうでしたね。それでも、僕の防御魔法も完璧ではありませんので、単純にみんなが凄かったとも言えますよね?」
今日の戦いが終わり、今日の被害を確認したけど、私達の軍に被害は何もなかった。
ユアンが居るからわかっていた事だけど、単純に凄いと思う。
鼬軍が絶望するほどに。
「そういえば、キアラちゃんの横にいる子は誰ですか?」
いつになく饒舌なユアンが次の話題へと話を振った。
その視線の先にはエルフ族にみえる子供がニコニコしながら立っていた。
「この子は私が契約している精霊さんだよ」
「精霊さんですか……という事は、キアラちゃんも?」
「そうですよ……ほら、みんなに挨拶して?」
「はーい! 僕の名前はルーク! キアラお姉ちゃんの弟だよ!」
元気いっぱいに挨拶する子供はルークという名前になったらしい。
ルークを見ていると、ルリの事を不思議と思い出した。
元気が有り余っている感じが少し似ている。
「ルークくんですね! よろしくお願いします!」
「こちらこそ! 気軽にルー君って呼んでいいからね!
「わかりました、ルー君ですね!」
ユアンはルークの事をそう呼ぶと決めたらしい。
「それでさ、キアラの方は大丈夫だったの? いきなり精霊さんに名前をつけたりしたみたいだけどさ」
「それ何だけどね」
スノーはキアラの事がやはり心配なのか、精霊に名前をつけた経緯を聞いている。
当然だと思う。
私もキアラと合流をして驚いたから。
キアラの事だから心配をしていなかったけど、実際は少し危なかったらしい。
実際にキアラの率いる軍の直ぐ近くまで敵は来ていた事は私も後になり知った。
結局は接近される前に殲滅したみたいだけど、そこは私の配慮不足。
もう少し気を配らなければいけない。
「シアちゃ~ん、私の話も聞いてよー」
「おかーさん、お酒臭い。イル姉、どうにかする」
キアラとスノーの話に耳を傾けていると、突然後ろからおかーさんが抱きついてきた。
おかーさんが頑張っていたのは知っている。
だけど、今は鬱陶しい。
だから、おかーさんの事はイル姉にお願いをした。
「はいはい。酔っ払いは邪魔だから消えましょうね」
「えー、私もシアちゃんとお話するのー」
おかーさんにお酒を与えたのは誰?
正直、めんどくさい。
おかーさんはお酒に弱いみたいだから直ぐにこうなる。
「ほら、いくわよ!」
「シアちゃ~ん」
みんなに見られながらおかーさんがイル姉に引きずられて行った。
「えへへっ、イルミナさんも楽しそうですね」
「うん。久しぶりに本気で戦ったみたい」
「それで気分が良くなってしまったのですね」
「うん。だけど、迷惑だから困る」
「そんな事ないですよ。笑っていられるのが一番ですからね!」
「確かに。それよりもユアン、ちゃんとご飯を食べる」
ユアンはみんなと話す事に重点に置いているのか、さっきから箸が止まっている。
「食べてますよ?」
「嘘。さっきから料理が全然減っていない。もしかして、食欲ない?」
その証拠に、ユアンに分けられたお皿には料理がほとんど残っている。
理由はわかる。
だけど、私は踏み込めなかった。
「食欲はありますよ。ですが……この後、見張りがありますよね? 今食べてしまうと眠くなってしまいそうなので後で食べようかと思いまして」
「私達は見張りはしない。フォクシア軍がやる事になっている」
「え、そうなのですか?」
「うん。その為に軍を三つに分けたとアンリが言ってた」
アンリのやり方は賢いと思った。
一つ目の軍は昼間の戦いをする軍。
二つ目の軍は夜の見張りをする軍。
三つ目は仕事を与えず、休ませる軍。
この三つで役割を回しつつ運用するらしい。
「なるほどです……それじゃ、僕の計画が崩れてしまいますね」
「計画?」
「はい。実は折角こうやって夜を過ごすことになったので、見張りの最中に干し肉様を堪能しようと思っていたのです。こういった機会でもないと中々食べる事が出来ませんからね!」
ユアンの言いたい事はわかる。
私達が今食べているのはリコとジーアが作ってくれた食事。
それをユアンが収納魔法でとりだして食べている。
こんな中でも暖かくて美味しい食事に手をつけれるのは恵まれていると思う。
だけど、雰囲気は大事。
気分だけなら今の私達は冒険者みたいなもの。
たまにはそういった食事も悪くない。
今だからこそ食べたいと思える食事がある。
「なので、後で僕は干肉様を食べるので気にしなくても大丈夫ですよ!」
「わかった」
「後でシアさんも一緒に食べますか?」
「食べる」
「はい! では、見張りには僕も後で参加するつもりなので僕は先に休みますね」
そう言って、ユアンは立ち上がった。
「何かあったらテントにいますので呼んでくださいね!」
おやすみとみんなに一言残し、ユアンは休む為に一人私達の元から離れていった。
「シア」
「わかってる」
「わかってるならいいけど、ユアンから目を離しちゃだめだよ」
「平気。そんな事はしない」
「ユアンさんを頼みますね」
「任せる」
任せられなくても最初からそのつもり。
私もみんなから離れ、ユアンを追いかけた。
予想通り、ユアンはテントへ行くと言ったのにも関わらず、一人で野営地から離れていった。
私はそれを静かに追いかける。
「ユアン」
「はい、どうしましたか?」
野営地の近くには森がある。
森といっても、魔物も大型の動物も生息しないような小さな森。
そこで、ユアンが足を止めたので、私はユアンの名前を呼んだ。
「辛いなら言えばいい。一人で抱え込む事はない」
「大丈夫です、一人では抱え込みませんよ」
「でもユアンは一人でこんな場所に……」
「一人じゃありませんよ。シアさんがいます。シアさんなら絶対に来てくれると思いましたから」
私の事を信じてくれているのがわかる。
「シアさん、ここに足を伸ばして座ってください」
「うん」
ユアンが指示したのは木の根元だった。
私はユアンの言う通り、木に寄りかかるようにそこに座る。
「重かったら言ってくださいね?」
「平気。ユアンは軽い」
「えへへっ、ありがとうございます」
ユアンが向かい合うように私の足の上に座り、身を寄せてきた。
「シアさん、頭撫でてください」
「うん」
「もっと……」
「うん」
ユアンは震えていた。
何かを堪えるように、小さな体を震わせている。
「うぐっ……ひっく」
「ユアン……」
ユアンの感情くらい簡単にわかる。
みんなの前でいつも以上に明るく振舞ってしゃべっていたのは辛い気持ちを隠す為。
それが私と二人きりになり、抑えられなくなりユアンは泣いてしまった。
森の中に、私の胸の中で静かに嗚咽を漏らす鳴き声が響く。
「ぼく……いっぱい人を殺しちゃいました」
「知ってる」
スノーから戦いの様子は聞いていたから知ってる。
「これって、仕方ない事、なのですか?」
「仕方ない事。やらなければやられるから」
「そうですよね……。だけど、どうしてあの人達と戦わなければいけないのですか?」
「敵だから」
戦う理由はそれで十分。
「殺す理由もですか?」
「うん」
ユアンもそれを理解している。
だから戦った。
そして、殺した。
だけど、心がまだその事に追い付いていないみたい。
「ぼく、聞いちゃったんです。鼬兵たちが撤退する時に」
「何を?」
「笑いながら、明日は生き残れるかなーって言っていたのを」
「そう」
「多分ですが、鼬兵たちは気付いているのです。僕達には勝てない事を」
今日の戦いでどっちが強いのかは明白となった。
圧倒的に私達の方が強い。
誰がどうみてもそう映る筈。
「それでも、明日もきっと僕達に向かってきます」
「うん」
「それを、また……ぼくは」
「辛いならやめればいい。無理にユアンが戦う必要はない」
ユアンは悩んでいる。
人が死ぬところを見るのが嫌。
だけど、仲間が傷つくのも嫌。
それを任せるのも嫌。
どうしたいいのかわからなくて悩んでいる。
「シアさんなら、どうしますか?」
「どうもしない。今の状態はユアンと一緒。ただ、躊躇いがあるかないかの違い」
「そうでしたね。人を殺しているのは僕だけではありませんでした」
当然ながら、スノーもキアラも大勢の人を殺した。
「悩む事、ではないのですかね?」
「それは違う。ユアンはユアン。悩むなら悩めばいい」
「けど、悩んだところで答えが……」
「答えはない。あるのは結果だけ」
どうするかを選んでもあるのは結果だけ。
ユアンが戦おうが戦わなかろうが、鼬軍と交戦は続く。
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