第419話 スノーとユアン2

 「なんか、凄い光景ですね」

 「数だけ見れば圧倒されるね」


 シアさんとキアラちゃんも何処かでこの光景を見ているのでしょうか?

 ついに鼬軍が国境へとやってきました。

 そして、石造りの国境の上には人が立てる場所があるようで、僕達を威圧するように、沢山の旗と人がずらりと並んでいます。


 「しかも、鼬軍はあれだけではないのですよね?」

 「だろうね。多分……いや、確実に壁の向こうにも軍を展開しているだろうね」


 どれほどの数がいるのかわからないのが少し辛い所ですね。

 地図でもそうでしたが、実際に自分の目で確かめないとわからない事がありますからね。

 

 「そこはどうだろうね。実際に大軍を目の前にしたら意気消沈しちゃうかもしれないし、ただ目の前にいる敵だけに集中するのが正解かもね」

 「そういう考えもあるのですね」


 確かに兵士さん達にとってはその方がいいかもしれませんね。

 だけど、僕は総大将です。

 兵士さん達が目の前に集中できるように補助するのが僕の役目のような気がします。

 なので、ここは……。


 「ちょっとだけ様子を見てきますね」

 「様子を見るって……何をする気?」

 「何もしませんよ。ただ本当にどれだけの敵が何処に軍を展開しているか見てくるだけです」


 そういえば、スノーさんには見せた事がなかったですね。


 「それでは、ちょっと行ってきます!」

 「ユアン、ちょっと待って!」

 「はい?」

 「何をするかわからないけど、私も一緒に行けない?」

 「スノーさんもですか?」

 「うん。どうせなら今はユアンと一緒に行動したいからさ」

 「わかりました。ちょっと怖いかもしれないですけど、大丈夫ですか?」

 「仲間と一緒なら怖い事は何もないから平気だよ」


 スノーさんがそう言うのなら大丈夫そうですね。


 「けど、姿を見られちゃうかもしれませんよ? スノーさんは消失魔法バニッシュを使えませんよね?」

 「それなら大丈夫。みぞれに頼めば同じような事はできると思うかな……みぞれ!」

 「はい。ユアンさん、スノーと手を繋いでください」


 みぞれさんが何かするつもりみたいですね。

 僕はみぞれさんの言う通り、手を繋ぎます。

 その瞬間でした。


 「きれいですね……」


 僕の周りがキラキラと光り始めました。

 

 「私の魔法で二人を包みました。近くで見られてしまえば看破されてしまうでしょうが、遠目なら恐らくは平気です」


 どうやら水魔法で僕たちを包んでくれたみたいです。

 それで陽の光が反射してキラキラして見えたのですね。

 

 「ユアン、解析したい気持ちはわかるけど、今はね?」

 「あ、そうでした。みぞれさんありがとうございます」

 「いいえ。どうか、お気をつけて」

 「はい! では、スノーさんいきますよ?」


 どういう理屈で僕達の姿が隠れているのかを調べたい気持ちを抑え、僕とスノーさんはシノさんから教わった空を飛ぶ魔法で上空へと飛び上がります。


 「わぁー! 本当にすごい数ですね!」

 「本当に多いね」

 

 この光景を見て、敵の数が大体どれくらいと一瞬で判断する事ができる人がいるみたいですが、僕には無理です。

 しかし、僕にもわかる事があります。

 蟻が獲物に集団で群がるように、国境の向こう側には兵士がうじゃうじゃと密集をしていたのです。


 「けど、あれじゃ身動きがとれませんね」


 どうやら、軍を国境の上に出来るだけ展開させようとしているのか、上へと昇る為の階段に兵士が詰まっているのがわかります。

 だけど、もう登れないと思いますよ?

 何せ、僕の目の届く場所は既に埋まってしまっていますからね。


 「けど、どうして門を開いてフォクシア側に兵を展開しないのでしょうね」

 「高所を陣取って弓や魔法で一方的に攻撃するようにするためかな」

 「そういう事なのですね」


 下からでも応戦は出来ますが、下からですと放物線を描くように攻撃しないと当たらないのに対し、上からですと遮るものがないので、弓や魔法を放ちやすいという事ですね。


 「スノーさんからみて、鼬軍はどう思いますか?」

 「んー……お粗末かな」

 「やっぱりそう思いますか」

 

 軍の動かし方を知らない僕からすると、鼬軍の兵士の配置は変に思えました。

 そして、スノーさんも同じ印象を持ったようです。

 そのお陰で少し安心できましたね。

 騎士だったスノーさんが言うのならきっと間違いはない筈です。


 「ですが、具体的に何が変なのですか?」

 「んー……あれだと、身動きがとれないから、攻撃も一部の兵士しか出来ないだろうし、撤退もできないよね」

 「確かに。ぎゅうぎゅう詰めで弓を構える事も出来なさそうですね。どういう意図があるのでしょうか?」

 「何もないんじゃない? ただ、大軍を見せて、私達を脅そうとか安易な考えだと思うよ」

 

 確かにあれだけの数を見せつけられれば驚きはしますけど……。


 「別に怖いとは思いませんよね」

 「私達はね。だけど、こっちの兵士達はどうだろうね」

 「んー……多分ですけど、僕の親衛隊の人達は逆にやる気になっていると思います」

 「だろうね。だけど、私の方はそうも行かないと思うよ」


 となると、それなりに効果はあるという事ですかね?


 「どうしますか? 攻めるのは僕達でやりますか?」

 「ううん。私も行くよ。ユアンの魔法があるから、兵士も大丈夫だとわかれば実力を発揮できると思うし」


 それまでは及び腰になるだろうけどね。

 とスノーさんは言いました。

 それは仕方ないですね。

 ですが、やれると思った時、人は力を発揮します。

 

 「それで、いつ戦闘は開始されるのでしょうか?」

 

 上空へと飛び上がった僕達は暫く様子を見る為に留まっていました。

 しかし、鼬軍は軍を展開したものの、それ以外に動きを見せません。


 「私達が攻めてくるのを待っているとかかな?」

 「攻めてきたのにですか?」

 「あくまで優位に戦闘を進めたいんじゃない?」


 という事は、僕達が動かない限りはこのままの可能性があるって事ですね。

 用は、根競べのようです。


 「けど、いつまでもこのままって訳にはいきませんね」

 「なら、やっちゃおうか?」

 「そうですね、やっちゃいますか!」

 「やるのなら、私もお手伝い致しましょう」

 「わっ! もぉ、フルールさんみたいなことはやめてくださいよ!」


 完全に油断していました。

 スノーさんと二人きりだと思っていたのに、突然後ろにみぞれさんが現れたのです。

 

 「ごめんなさい。前からユアンさんの事を見ていましたが、面白そうだったのでつい」

 

 うー……意外とみぞれさんは真面目そうな感じなのにお茶目な人のようです。


 「それじゃ、気を取り直して……。スノー、よろしくね?」

 「任せて。ユアンの魔力を使わせて貰うよ、みぞれ」

 「はい。私達の敵となった事を後悔させてあげましょう」


 スノーとみぞれは水を扱う事を得意としている。

 それに合わせるのはこの魔法がいいかな。

 分類としては闇魔法になるけど、きっと水魔法とも相性はいい筈。


 「アシッドレイン」


 降り注ぐ、酸の雨。

 流石に人を溶かすような極悪な効果はない。

 しかし、人相手ならば効果は十分に発揮する。

 触れれば、金属で作られた鎧の類は錆びるし、肌に触れれば、ヒリヒリと痛むだろうね。

 

 「みぞれ、ユアンに合わせて」

 「お任せを」


 私の魔法にみぞれが魔力を足してくる。

 珍しい事ね。

 私の魔法が逆に補助されるだなんて。

 酸の雨が徐々に激しさを増す。

 広範囲とはいえないけど、一部の鼬族の兵士達に混乱が起き始めた。

 当然だよね。

 突然、晴天の空から雨が降り注ぎ、その雨に触れると痛みが襲うのだから。


 「ふぅ……」

 「お疲れ」

 「はい、スノーさん達もお疲れ様です」


 助かりますね。

 僕だけの力では魔力を消費している間しかアシッドレインは使えません。

 しかし、みぞれさんが手伝ってくれていますので、僕とみぞれさんの魔力、スノーさんの体力を少しずつ消費する事で継続的に酸の雨を降らせることに成功しています。


 「それにしても……ユアンって時々鬼畜だよね」

 「そうですかね?」

 「そうだよ。ほら……」

 「あー……逃げ場がないので、大変な事になってますね」


 遠目から見ても、鼬軍が混乱しているのがわかります。

 ぎゅぎゅうに詰め込んだのが仇となったようで、逃げ場をなくした鼬族が雨から逃れるために互いを押し合い、押された人が苦しそうにしていたり、上から落ちたりしています。


 「あちらの雨は私に任せ、お二人は先にお戻りください」

 「わかりましたが……みぞれさんは何をするのですか?」

 「私はあの雨を操り、他の場所を回ります」

 

 もっと鬼畜な人がここにいました。

 どうやら、他の場所でも同じことをやろうとしているみたいですね。


 「わかりました。けど、無理はしないでくださいね?」

 「はい。スノーの体力に影響が出ても困りますので、頃合いをみて戻ります」

 「うん。よろしくね。ユアン、戻ろうか」

 「はい!」


 さて、出だしは好調ですね。

 ほんの少しですが、鼬軍に被害を与える事に成功をしました。

 しかも、暫くの間は継続的に被害を与える事も出来そうです。

 ですが、ここからが本番です。

 上空から下の様子を見ていてわかりましたが、アンリ様が軍を動かし始めました。

 僕達もそれに合わせて動かないといけませんね。

 

 「スノーさん、これから激しい戦いになると思います」

 「わかってるよ。何があるかわからないから、私から離れないようにね?」

 「はい! 頼りにしています」

 「私もだよ」


 こうして、僕達の戦いは始まりました。

 そして、僕達の予想通り、国境での戦いはここから激しさを増していくのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る