第418話 スノーとユアン
「鼬軍はまだみたいですね」
「そうだね」
シアさんとキアラちゃんと別行動をし、僕はスノーさんと一緒にアンリ様の軍と合流を果たしました。
「なんだか、居心地が悪いですね」
「仕方ないかな。みんな気を張っているだろうし」
みんなどんな心境なのでしょうか?
僕達のほうは緊張感がありながらも、会話する余裕はあるようで比較的落ち着いているようにも見えます。
ですが、アンリ様の軍の方はあれだけの人がいながらも凄く静かなのです。
「ユアン殿、スノー殿」
フォクシア軍から少し離れた場所で僕たちも戦闘が始まる時を待っていると、フォクシア軍の中から僕達に気付いたアンリ様が近づいてきました。
「鼬軍の様子はどんな感じですか?」
「今の所は何も。常駐している国境の兵士が慌ただしくしているくらいです。しかし、それも後少しです。すぐに状況は変わって来るでしょう」
どうやら、鼬軍本隊の合流はまだのようですが、先遣隊が少しずつ合流しているみたいですね。
「どうしますか? 本隊が到着する前に国境を攻撃しますか?」
「いや、ここは大人しく本隊の到着を待ちましょう。本隊が合流すれば、大軍の鼬軍はそれだけ動きが鈍くなります。そして、私達がここで勝利する事が出来れば、鼬軍は撤退するでしょう。狙うのはそこです」
作戦の変更はないようですね。
「わかりました。今のうちにみんなに防御魔法をかけに回ってきます」
「助かります。ですが、あまり無理はなさらないようにお願いします。お二人の力を頼りにしていますので」
「大丈夫ですよ。これが僕の役割ですので」
アンリ様が率いている軍はフォクシア軍の半数ほどなので、ざっと五千くらいはいると思います。
それだけの数に防御魔法をかけて回るのは少し大変ですけど、やらないよりはやったほうがいいに決まっています。
話したことがない人が大半ですけど、みんなは僕の事を知っている人ばかりですからね。
「スノーさんはどうしますか?」
「ユアンと一緒に行動するよ」
「いいのですか? 鼬軍が到着するまで休んでいてくれても大丈夫ですけど」
「平気だよ。それに、ユアンと二人きりなんて珍しいからさ。たまにはそれも楽しまないとね」
「わかりました。なら、お話しながらフォクシア軍を回りましょう……アラン様、チヨリさんちょっと行ってきますね」
「シエン、私も少し離れる。兵士達の事は暫く任せた」
という訳で、僕達はフォクシア軍の兵士達の間をおしゃべりしながら歩きます。
けど、ちょっとだけやりづらいですね。
アンリ様にみんなに防御魔法をかけて回ると伝え、アンリ様が伝令兵を使い、それを伝えてくれたとはいえ、防御魔法をかけても反応が薄いのです。
「みんな、静かですね」
「そうだね。だけど、それだけ規律が守られているって事でもあるかな」
防御魔法をかけると、お礼が返ってきます。
しかし、それ以上の会話はなし。
また直ぐに兵士さん達は直立不動で国境をジッと見据える状態に戻ってしまいます。
「ですが、どうして兵士同士で固まっていたり、離れていたりするのですか?」
「あの集まりが一つ一つ部隊に分かれているからだよ」
「そういう事でしたか」
五十人ほどでしょうか?
あの集まりが一つとなり、アンリ様の指示やその集まりの隊長の指示に従い一つとなり戦うのですね。
冒険者みたく、個人で役割を果たすのではなく、一つの部隊でそれぞれの役割を果たすのが軍の戦い方のようですね。
「それで、最近はシアとはどうなの?」
「はい、相変わらず仲良しですよ」
「具体的には?」
「具体的にですか?」
難しい質問ですね。
具体的にと言われても、仲が良いとしか答えようがありませんよね?
「それじゃ、質問を変えるよ……シアとはどこまでしたの?」
「どこまで?」
「うん。ほら……夜の関係はどこまで進んでいるのかなってさ」
「そ、それは秘密です……」
こ、こんな時に聞かなくてもいいじゃないですか!
僕達は兵士さん達の間を歩いているのです。
しかも、みんな静かで僕達の会話だけが聞こえる状態なのです。
もちろん、ヒソヒソと話すようにしていますよ?
ですが、みんな狐の獣人です。
スノーさんはわからないみたいですが、スノーさんが思っている以上にみんなの耳はいいのです。
ヒソヒソ声が聞こえている可能性だって十分にありえます。
「いいじゃん。折角だし教えてよ」
「嫌ですよ。恥ずかしいですからね」
「恥ずかしいって事は……進んでいるって事でいいんだよね? わからないならわからないっていうはずだしさ」
「し、知りません!」
もぉ、変な探りはしないで欲しいですよね。
「それで? ユアンの初めてはいつ?」
「もういいじゃないですか……ほら、聞こえちゃっていますよ」
とても女の子がする会話じゃないですよね?
これじゃ、酔っ払いのおじさんがする会話と変わらないと思います。
そして、僕達の会話が聞こえちゃっているのか、兵士さんが反応しています。
若干前かがみになっちゃってる人がいるのです。
「あれ、なんでユアンがそんな事を知っているのかな?」
「なんでって、シアさんが……って何でもありません!」
危ないです。
危うく口が滑りそうになりました。
ですが、誤魔化しきれなかったようで、スノーさんがにやにやと更に訪ねてきます。
「何? シアが何だって?」
「なんでもないですよ! ほら、ちゃんと仕事をしますよ」
「仕事って言われても、私はすることないし」
「ありますよ。僕の護衛がスノーさんのお仕事です!」
「ちゃんと守ってるよ。総大将」
むー……これじゃ、逆に動きが制限されて困ります。
スノーさんが僕の手を握ってきたのです。
「後でキアラちゃんとシアさんに言いつけますよ?」
「大丈夫だよ。キアラが一番だけど、ユアンとシアの事だって私は好きだしさ」
だからといって、手を繋ぐのは……んー、でも仲間ですし別に悪い事ではないですね。
でも、スノーさんがこんな行動をとるとは思いませんでした。
何かあったのでしょうか?
「別に何もないよ。ただ、最近思うんだよね」
「何をですか?」
「何となくだけど、ユアンとシア、私とキアラが少しだけ距離が遠くなったのかなって」
「そんな事……ないと思いますよ」
ないとは思います。
ですが、強くそれを否定する事が出来ませんでした。
一緒の家に住み、一緒の時間を過ごす事もありますが、昼間はそれぞれの仕事をし、夜はシアさんと一緒の時間を過ごしているので、スノーさんとキアラちゃんと過ごす時間は減っている気は僕もしていました。
「だからさ、私はもっとみんなと一緒の時間を過ごしたいと思うんだよね」
「確かにそうですね」
「だから、今くらいはいいよね?」
ギュっとスノーさんが僕の手を握ってきます。
シアさんと違って、力加減が少し強いですが、それもスノーさんらしさですね。
「ヂュッ…………」
「あ……」
そんな時でした、スノーさんについている魔鼠さんが少し怒ったように鳴いたのです。
「大丈夫ですか? キアラちゃんが少し怒っていますよ」
「はははっ、大丈夫だよ。多分」
やってしまいましたね。
僕が報告するまでもなく、魔鼠さんからこの状況の事はちゃんと伝わっていたみたいです。
「ヂュッ、ヂュヂュ?」
「え? まぁ、それは構わないですけど」
「なんだって?」
そして、僕の方にもキアラちゃんから連絡を受けました。
「えっと、スノーさんばかりズルいです。なので、今度私とも手を繋いで歩いてくださいね、お姉ちゃん? だそうです」
どうやら、キアラちゃんが怒っていたのはスノーさんが僕と手を繋いだことに対してではなくて、スノーさんだけが僕と手を繋いで仲良くしていた事に対してだったようですね。
「ま、キアラも多少はそう感じていたって事かもだね」
「そうですね。もっとみんなとの時間をとらなければいけませんね……となると」
僕もやらなければいけない事がありますね。
『シアさん』
『…………なに?』
あ、あれ?
シアさんに念話を繋ぐと、シアさんから少し不機嫌そうな返事が返ってきました。
『えっと、今の状況ですが……』
『知ってる。スノーと手を繋いでる』
どうやらシアさんの方にも報告がいってしまったみたいですね。
『あ、あの怒ってますか?』
『別に』
うー、シアさんがちょっと拗ねてます。
『シア、そんなに拗ねないでよ』
『スノー?』
『そうそう。みぞれに頼んで、ユアンを介してだけど、私も念話に加わらせて貰ったんだ』
へぇ、そんな事も出来るのですね!
『それで? 何?』
『だから、そんなに拗ねないでって話だよ』
『別に拗ねてない』
『拗ねてるし。大丈夫、シアのユアンをとったりはしないよ。それにちゃんと埋め合わせはするしさ』
『別に必要ない』
『えー……そう言わないでさ、ごにょごにょ』
ん?
何か、妨害されたようにスノーさんの言葉が聞こえませんでした。
『それはダメ。ユア……ンを……」
『でもさ、ユア……の……見たくない?』
『みたい』
んー?
二人はどうやら会話が出来ているみたいですね。
どうやら僕だけが上手く聞こえていないみたいです。
『だからさ、お願い。たまには四人でさ』
『……わかった。キアラにも伝えておく』
『ふふっ、よろしくね』
『あの、上手く聞こえないかったのですが、何の話ですか?』
『なんでもない。それよりもユアン、気をつけて? 危なくなったら私の事を呼ぶといい』
あ、どうやらシアさんの機嫌が治ったようで、僕の事を心配してくれました!
『はい! シアさんの方も何かあったら直ぐに呼んでくださいね?」
『うん。それじゃ、また後で』
「良かったです。スノーさんありがとうございます」
「大丈夫だよ」
「ですが、どうやってシアさんの機嫌を直したのですか? それと、シアさんと何の会話をしていたのですか?」
本気で拗ねていた訳ではないですが、簡単にスノーさんはシアさんの機嫌を直しました。
「それは秘密だよ」
「えー……教えてくださいよ!」
「ふふっ、そのうちわかるよ? ほら、私達のやることを今はやらないとね?」
そういって、スノーさんが僕の手を引き、歩みを速めます。
まぁ、そのうちわかると言いますし、今は気にする事ではないですかね?
それから僕達はフォクシア軍に防御魔法をかけて回りました。
やはり結構な人数が居たという事もあり、時間が掛かってしまいましたね。
そして、僕達がナナシキ軍に戻り暫くすると、ついに鼬軍本隊が国境へと到着したという知らせを受けました。
いよいよのようですね。
僕達は最後の打ち合わせをアンリ様とするのでした。
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