第416話 弓月の刻、国境周辺を調査する

 「やっぱり、鼬軍が到着する前に調べておいて正解でしたね」

 「そうだね。地図ではわからない事がわかったのは大きいかな」

 

 鼬族の国境から数キロ離れた場所に野営を構え、今日の報告をお互いに共有する為に僕達は集まりました。


 「どこか使えそうな場所はありましたか?」

 「私の調査した場所には小さな森があった。身を隠すには最適」

 「どの辺りですか?」

 「この辺」


 シアさんが広げた地図を指さします。

 

 「僕達が以前に通った国境からだいぶ離れていますね」

 「そうですね。だけど、鼬軍が何処から進軍してくるかわからないから使えるなら使った方がいいと思うの」

 「そうだね。必ずしも数で攻めてくるわけではなくて、部隊をわけて回り込んでくる可能性もあるし」


 十分にあり得ますね。

 地図を見ただけでわかります。

 鼬族の国境は、それぞれの国からの進軍を拒むように半円を描くように続いています。

 この地図には乗ってはいませんが、もしかしたら国境は鼬族の都を囲うように一周続いているかもしれません。

 よくもこれほどの国境を造り上げましたね。

 そこだけは純粋に感心してしまいます。


 「けど、改めてこうみると面倒だね」

 「そうですね。僕達が聞いていた兵の数よりも多くなる可能性が出てきました」


 むしろ、絶対に多いと思います。

 何せ、鼬族の国境は鼬族の兵士が護っているのです。

 国境に配備された兵士を含めれば更に数は膨れ上がる筈です。

 

 「やる事は変わらない」

 「そうですけどね。ですが、作戦は必要ですよ」

 「わかってる。だけど、一緒に戦えないのは残念」

 「まぁね。だけど、そればかりは仕方ないからな。何せ、私達の方が圧倒的に数が少ない訳だしさ」


 このままですと、本当に別々に戦う事になりそうですね。


 「その場合はどうしますか?」

 「アンリに攻めは任せる」

 「数だけでみればそうですね」


 その場合は僕達は国境の至る所から出てくるであろう別部隊の迎撃ですかね。


 「短期決戦なら、アンリ様に防衛を任せて私達で一気に国境を落とすっていう手もあるよ」

 「それもありですけど、落とせても一角だけですよね?」

 「そうなるね。だけど、そこを拠点にして広げていけば効果は十分にあると思うかな」


 その辺の事は僕はわかりませんが、確かに一角を占拠できるのは大きいですね。

 その分、国境を占拠した部隊が包囲される事になりますけど、耐えるだけなら防御魔法があればどうにかなりそうですし、拠点からどんどんと人を送り出すことも可能になりますね。


 「改めてスノーさんが騎士出身で良かったと思います」

 「そうかな?」

 「そうですよ。こういった経験がない僕達では正直どうしていいのかわかりませんからね」

 

 こればかりは経験者やそういった知識がある人ではないとわかりませんからね。

 

 「けど、問題はどうやって鼬族の国境を落とすかですよ?」

 「そうですね。生半可な攻撃では落とせませんよね」


 国境を実際に通った事があるのでわかりますが、鼬族の国境は無駄に高く、通った時に見た門はとても頑丈そうでした。

 しかも、魔法の対策もしてあるのか、通る時に魔力を感じたのですよね。


 「それは簡単だよ。開いているうちに侵入すればいいだけだからね」

 「閉まっていたらどうするのですか?」

 「閉まっていたら開ければいいだけじゃない? こっちには隠密に侵入できる子達がいる訳だからさ」

 「確かに、ラディくん達に侵入して貰えばそれは可能ですね」


 その考えはありませんでした。

 僕は真正面から門を打ち破る事しか頭に思い浮かんでいなかったのです。

 

 「ユアン。意外と脳筋?」

 「そ、そんな事ないと思いますよ?」

 

 脳筋って脳が筋肉で出来ているという例えですよね?

 何事も知力ではなく、武力等で解決する人の事を差す言葉だと思いました。

 ですが、僕は違いますよ?

 今回は思い浮かびませんでしたが、全てを力で解決しようとは思っていません!


 「ま、ユアンが脳筋かどうかは置いておいて、侵入する時の部隊は決めておいた方がいいんじゃない?」


 むー……そこはちゃんと訂正して欲しい所です!

 ですが、スノーさんの言っている事の方が大事なので今は後回しですね。


 「なら、僕とスノーさんの部隊はどうですか?」

 「ユアンとスノー? どうして?」

 「シアさんとスノーさんですと前衛同士ですし、僕とキアラちゃんだと後衛同士の組み合わせになってしまいますよね」


 実際の部隊は色んな兵科がいるので関係はありませんけどね。

 ですが、弓月の刻、つまりは僕達の相性というのもあります。


 「私とユアンじゃダメ?」


 うー……シアさんのダメ? はずるいです。

 ですが、ここは心を鬼にしなければいけません!


 「ダメじゃないですよ。ですが、これはナナシキの戦いでもありますからね。影狼族は魔族ですが見た目は獣人で、魔族という事を知らない人が大半だと思います。

 「なるほどね。それで、私とユアンという訳か」

 「はい。獣人である僕の部隊と人族であるスノーさんの部隊が合わされば、ナナシキが種族にわだかまりのない場所だと知らしめることにも繋がる気がします」


 そうなると、自然と前衛であるスノーさんと一応は後衛である僕たちが行くのがいいと思います。


 「そういう事なら我慢する。スノー、ユアンを任せる」

 「任されたよ。シアはキアラをよろしくね」

 

 どうにかシアさんにも納得して貰えました。

 まぁ、まだこの作戦で行くとは限りませんけどね。

 あくまで選択肢の一つです。


 「それじゃ、その時は私達はどうしますか?」

 「自由にやっていいのなら、私達は森に潜む」

 「伏兵ってやつだね」

 「それなら、私は近くに河がありますので、対岸で敵を引き付けて、シアさんの援護をするのがいいかな? どうしても正面から戦うのは私達の部隊では分が悪いですから」


 キアラちゃんの部隊は魔物で構成されていますので確かに分が悪いですね。

 単純に一対一の戦闘能力でみれば魔鼠さんや魔鳥さんでは人には勝てません。

 数を揃えたとしても、鼬族も数だけは多いので数の優位をとれるとも限りませんからね。

 全ての魔物を連れてくるわけにもいきませんし。


 「後はアンリ様がどう動くかですね」

 「合わせない事には作戦は上手くいかない」

 「アンリ様も含めて一度話合う必要がありそうだね」

 「明日にでもすぐに提案した方がいいと思うの」


 鼬軍が迫ってから作戦を練るのでは遅いですからね。


 「では、次に鼬軍が国境を盾に戦わずそのまま進軍してきたパターンを考えましょうか」


 この後、僕達は色んな事を想定する事にしました。

 ですが、結局の所辿り着くのは同じような答えばかりでした。

 数で劣っているのだから結局は短期決戦で相手に大打撃を与える。

 そういう答えばかりに辿り着くのです。

 それを聞いて僕は思います。

 みんなは僕の事を脳筋と言いましたが、みんなも大差ないですよね?

 そして、僕達の考えをアンリ様に伝えると、どうやらアンリ様も同じような事を考えていたようで、直ぐに了承を得られました。

 どうやらアンリ様も脳筋みたいですね!

 というよりも、これが普通の考えだと思います。

 こちらの被害を出来るだけ出さないようにするには罠に嵌めるか、被害が出る前に終わらせるかのどちらかが重要です。

 そして、その作戦が決まったちょうど一週間後の夜、ラディくんからついに鼬族が国境の目と鼻の先までやってきたという報告を受けました。

 いよいよですね。

 

 そして、翌日朝、僕は総大将としての役割を果たすのでした。

 

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