第414話 弓月の刻、最終確認をする

 「ユアンとシアが居ないと思ったらそんな事があったんだね」

 「そうなんですよ。いきなりの事で大変でした」

 「けど、ガロさんはビャクレンに行っちゃったのですね」

 「うん。だけど、いい顔してた」


 トーマ様とガロさんの愛の戦いを見届けた後、僕達はお家に帰ってきて、今日の出来事をスノーさん達に報告をしました。

 結局の所、あの後二人は目を覚まし、そのまま二人でビャクレンへと帰っていきました。

 当然、傷は癒しましたよ?

 二人は傷は治さなくてもいいと言っていましたけど、流石にあの状態で帰ったらトーマ様の臣下さん達が驚いてしまいますからね。

 ただでさえ竜人族のガロさんを連れていったら驚くのに、二人してそんな顔をして帰ったら更に間違いなく驚いてしまうと思います。


 「けど、虎族と竜人族か……上手くいくのかな?」

 

 性格的な相性はあの感じですと心配はいらなさそうですが、種族の違いというのは実際に大きいですからね。

 正直な所、僕も少し心配です。

 

 「問題ない。子供の事で心配になるのなら、先に私達が見本となればいい」


 シアさんが後ろから僕を包み込むように抱きしめてくれます。

 けど、嬉しいですけど僕たちもまだまだ子供を授かるのは先になりそうですけどね。


 「わかってる。まずは目先の問題から片付ける」

 「そうだね。という事で話は変わるけど、総大将のユアンに質問。私達は、いつ出陣する?」

 「そうですね……」

 「ちなみにですけど、アンリ様達はもう出陣しましたよ」

 「はい、それはもう聞きました」


 アンリ様が出陣したのならば、僕達も合わせるのが良さそうですよね。

 

 「スノーさん的にはどう思いますか?」

 「正直、私達はまだ動かなくてもいいと思うよ。動くとしても色々とちゃんと確認したい所だしね」


 最終確認は確かに必要ですね。

 いざ出発してからアレがないとかコレが足りないとかだとグダグダになり兼ねません。

 まぁ、そこは僕が転移魔法で取りに戻ればいいだけですけどね。

 ですが、毎回そんな事もしていられないのも事実です。

 

 「シアさん、影狼族の方はどうですか?」

 「問題ない。イル姉がみんなに特製の魔法鞄マジックポーチを配ってくれた。携帯食料もポーションもちゃんと持って準備させてある」

 「コボルトさん達はどうですか?」

 「そっちも同じ。ちゃんと準備させてある」


 準備がいいですね。

 どうやら何時でも出陣できる状態であるみたいです。


 「ユアンの方は?」

 「親衛隊の方たちも大丈夫だと思いますよ。みんな収納魔法が使えますので、数日分の食料とポーションを用意してくれています」

 「なら大丈夫そうかな」

 「はい。といっても、僕が指示した訳ではありませんけどね」


 流石と言うべきでしょうか、みんな戦争には慣れているみたいで、既に準備を整えてくれていました。


 「残るはキアラちゃんの魔物部隊とスノーさんの兵士ですね」

 「私の方は問題ないですよ。ラディとキティがしっかりとしてるから」


 まぁ、そこの心配はいりませんね。

 何せラディくんとキティさんは何時でも配下を召喚したり、返したりできますからね。

 必要な時に呼び寄せるだけなので特に準備はいらないみたいです。

 

 「それでも、一応は長期戦になるかもしれないので最低限の食料と水は準備しておいてくださいね?」

 「うん、大丈夫だよ。ラディの報告では補給部隊と戦闘部隊で分けてあるみたいで、ナナシキ軍に配るくらいは用意してあるみたいなの」

 「そ、そうなのですね」


 なんだか一番しっかりしている部隊な気がするのは気のせいでしょうか?

 

 「スノーの方は?」

 「私の方も問題ないよ。私の部隊は主に補給等の部隊になるから準備させてあるよ」

 

 そこは事前に決めてあった事なので、心配はいらなさそうですね。

 自分でも思うのですが、僕達の軍はちょっと異質です。

 そこに普通の兵士さん達も同じように動くことを求めるのはちょっと酷です。

 デインさんが合間をみて鍛えているとはいえ、何かに突出した強さがあるとは言えませんからね。


 「という事は、いつでも出陣は出来るという事ですね」

 「そうなるね。けど、焦る必要もないのは確かだよ」

 「うん。鼬族がフォクシアとの国境に辿り着くのはまだ時間がかかる」

 「昨日のサイラスさんの工作で軍の機能が麻痺してしまっているみたいだね」


 それに加えて、今日は今日で魔物部隊が何かするみたいですし、進軍がどんどんと遅れそうですね。


 「なら、もう暫くナナシキで様子を見ましょうか」

 「そうだね。もしかしたら鼬族が一度撤退する事も考えられるしね」

 「普通に考えれば攻めれる状態ではない」

 「だけど、この状態でも進んでくるのが鼬族みたいですよ」


 今更止まる訳にはいかないでしょうからね。

 それだけのお金を投資していますし、僕達に絶対に勝てるつもりでいるみたいですからね。


 「それに、シノさんの方も何かやるつもりでいるみたいだから、その報告も聞きたいしね」

 「え、シノさんがですか?」

 「うん。先日、ルリが影狼族の手を借りたいと言ってきた」

 「私の方もです。魔鼠と魔鳥さんを貸し出してあるよ」

 「そうなのですね……全然知りませんでした」


 むー……。

 また僕だけ知らない状態みたいです。

 また僕にだけ黙って何かをやろうとしています!

 一応これでも総大将を任されているのに、酷いですよね!


 「仕方ない。シノはユアンに心配させたくないだけ」

 「わかっていますけど、一応は知っておきたいじゃないですか」

 「大丈夫だよ。シノさんからユアンに伝言を預かってるからね」

 「あ、そうなのですね!」


 良かったです。

 どうやらいつもみたいに僕を驚かすためではなかったみたいですね。

 ですが、スノーさんは何故か笑っていますよ?


 「はい、これがシノさんからの伝言」

 「手紙ですか?」


 笑っているスノーさんから手紙を受け取り、僕はそれを開きます。


 「えっと、総大将はどっしりと構えていればいいよ……もぉ、絶対に馬鹿にしているじゃないですか!」


 スノーさんが笑っている理由がわかりました!

 どうやらスノーさんは内容をしっていたみたいで、僕がどんな反応をするのか楽しみにしていたに違いありません!


 「まぁね。だけど、シノさんが心配かけたくないのは本当だろうし、気にしなくていいと思うよ」

 「その気持ちはわかりますけど、帝都の一件があるので心配するに決まっているじゃないですか。しかも、今回はルリちゃんが動くみたいなので余計に心配です!」


 何せ、ルリちゃんは僕の義理の妹になりますからね。

 ルリちゃんが凄いのは知っていますが、心配するのは当然です!

 

 「シノが敢えてこういう伝え方するのは自信があるから。ルリの事は心配ない。おとーさんもフォローに動いてる」

 「むぅ……それでもですよ」


 心配なものは心配です。

 もし、ルリちゃんやカミネロさんに何かあったら責任は総大将である僕にあるので、ちゃんと事前に教えて貰いたいものです。


 「明日、シノさんに文句を言ってきますね!」

 「ユアンさん、逆に返り討ちにあうと思うからやめた方がいいと思うの……」

 「わかってます! でも、言わなきゃいけない事もあると思いますからね」


 負けるとわかっていても挑まないといけない戦いはありますからね。

 それに、もしかしたらシノさんに口で勝てる可能性も少しはあります。


 「なー……ユアンー」


 そんな時でした、僕達がリビングで話合っていると、サンドラちゃんが枕を抱えて中に入ってきました。


 「どうしたのですか?」

 「なー……」


 サンドラちゃんはリビングへと入って来ると、そのまま僕の元にやってきて、ソファーに座る僕の膝の上に座りました。


 「さびしいー」

 「あ、すみません。もうこんな時間でしたか」


 時計をみると、気づけば日付が変わるまであと一時間を切っていました。

 

 「ねよー?」

 「そうですね。すみません、最近遅い時間まで一人にさせてしまって」


 この話題にはサンドラちゃんは加われませんからね。

 加わってもいいですが、戦争に関する事にはあまり口出しできないのが現状です。

 もし、サンドラちゃんが助言している事がどこからか洩れてしまったら、龍人族が戦争に加担していると思われてしまうかもしれませんから。

 まぁ、こうやって一緒に住んでいる時点で疑われても仕方ありませんけどね。

 

 「それじゃ、今日の所はここで解散しましょうか。戦争が近づいているとはいえ、みんなも仕事がありますし」

 「そうだね。だけど、サンドラが淋しいみたいだし、たまには一緒に寝ない?」


 あ、それはいい提案ですね。


 「スノーも一緒に寝てくれるのかー?」

 「私もですよ」

 「私も」

 「嬉しいなー」


 サンドラちゃんの表情が変わりました。

 そうですよね。

 実際の年は僕達よりも遥かに上だとはいえ、その分一人の時間も長かったのです。

 ようやく、こうやってまた人と触れ合えるのにまた一人の時間を過ごさせるのは可哀想です。

 「おやすみ」

 「はい、おやすみなさいです」

 「おやすみなー」

 「おやすみなさい」

 「おやすみー」

 

 やっぱりこうやってみんなで寝るのはいいものですよね。

 仲間であり、家族であるのです。

 シアさんと二人で寝る時間とはまた違った良さがあるのです。

 この瞬間を僕は護らなければいけない。

 総大将として何ができるかわかりませんが、僕はそれを考えつつ眠りに落ちるのでした

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