第413話 補助魔法使い、お嫁さん候補を紹介する
「はい、着きましたよ」
「着いた? 何処にだ」
「それは秘密」
「まぁ、何処でもいいが……目隠しは外していいか?」
「構いませんよ」
トーマ様を連れ、僕達はトーマ様のお嫁さん候補がいる場所へとやってきました。
んー……大丈夫そうですね。
今から会う人と久しぶりにお会いした時は、転移した瞬間に酷い目に合わされましたが、今回は問題なさそうです。
「それで、何処にいるんだ?」
目隠しを外したトーマ様は当たりを見渡しながら僕に目的の人の事を尋ねてきます。
どうやらそっちに夢中で、この場所の事は気にならないみたいですね。
「たぶん、何処かの家を荒らしていると思いますので、探しましょうか」
「荒らす? 随分と物騒な事をする奴なんだな。大丈夫なのか?」
「平気。トーマにぴったりの相手」
「まぁ、会ってみればわかるか」
「そうですね……では、探知魔法で探してみますね……あっちにいるみたいです」
驚きました。
まさか、試しに使ってみた探知魔法で探れるとは思いませんでした。
この場所では僕の探知魔法は妨害されてしまうのですが、今回は使えたのです。
もしかしたら、探知魔法の腕前が上がったのですかね?
探知魔法の効果は変わりませんが、成長していると思えるのは嬉しい事には違いありません。
「それにしても、変な場所だな。街並みは綺麗なのに人の気配がしないぜ」
「そういう場所だからですよ」
「なんか勿体ねぇな」
流石に街の中を歩けば、トーマ様も街の様子が気になるみたいで、街並みを見ながら首を傾げています。
けど、確かにトーマ様の言う通りでもありますね。
現段階でこの場所の使い道はありません。
ですが、ちょっと整備してあげれば人が十分に暮らせる場所になると思うのですよね。
まぁ、それは後々考えるとして、今はトーマ様のお嫁さん候補ですね。
「この中に居ますね」
僕達が足を止めたのは何の変哲もない一軒の家でした。
「こんにちは、ガロさん居ますか?」
「ん……あぁ、ユアンか久しぶりだな」
そうです。
僕達がトーマ様に紹介しようと思ったのは竜人族のガロさんでした……ガロさん、ですよね?
「どうした、そんな変な顔をして」
「いえ……なんか別人みたいだなっと思いまして」
家の中に入ると、ガロさんは椅子に座り、本を開いてそれを読んでいました。
そして、僕が声をかけると、顔をあげてくれたのですが、僕の知っているガロさんではありませんでした。
「ガロ。太った?」
「そうか? だが、そう言われると、最近体が重く、少し動くと息切れをするようになった気がするな」
どうやら僕の気のせいではなかったようです。
そうですよね。
初めて会った時はあんなにふっくらしていなかったと思います。
むしろ不健康そうなくらい、顔は痩せ気味だったのを覚えています。
「何があったのですか?」
「簡単だ。この場所では私は管理者としての加護は受けられない。だから食事は必要だし、睡眠も必要だ。つまりは今の私は人と同じという訳だな」
「そういえばそうでしたね」
「だから、食べれば太るのは当然だろう」
まぁ、食べるだけ食べて運動しなければ太るは当然ですね。
「だからといって、幾ら何でも太り過ぎではないですか?」
「そうか? 自分ではあまり変化がわからなくてな」
「自分の姿を一度確認すればわかると思いますよ」
「気が向いたらな。それで、ユアン達が私の元に訪れるという事はまた何かあったのか? あ、話をするならば先に菓子でも出してくれ」
相変わらずですね。
それだから太るのですよ。
スノーさんも気をつけさせないといけませんね。
「今の所は問題はありませんよ。ただ、ちょっと紹介したい人が居まして……」
お菓子をテーブルに並べると、その瞬間にガロさんがお菓子に手を伸ばし、口に運んでいきます。
「モグモグ……紹介? あぁ、そのデカい虎男か」
「はい。こちらはアルティカ共和国の虎族の王であるトーマ様です」
「ほぉ、王と来たか。どうも、竜人族のガロだ……うむ、この菓子はジーアの手作りだな」
一応トーマ様に挨拶だけはしてくれましたが、依然として興味はお菓子にあるみたいですね。
けど凄いですね。
お菓子を食べただけでジーアさんの手作りだとわかるとは思いませんでした。
まぁ、ガロさんの食事を作ってくれているのはリコさんとジーアさんですし、当然かもしれませんけどね。
「で、用件は?」
「それはですね……」
んー……困りました。
ここから先はトーマ様が話してくれると助かるのですが、トーマ様はガロさんを見たまま動きません。
どうやら、今のガロさんをみて気に入らなかったのかもしれませんね。
どうやら失敗のようですね。
ですが、折角紹介する為にここまで来たのに会話をせずに帰るのも違う気がします。
見た目の好みはあるかもしれませんが、中身は重要です。
もしかしたら、会話をしたら気に入ってくれるかもしれません。
「ガロさんって結婚とかって興味はありますか?」
「ないな。結婚して何になる?」
「幸せになりますよ?」
「あっはっは! 結婚が幸せだと? あんなもん自分の時間を犠牲にするだけだぞ」
むー……。
それは違いますよ。
確かに、人によっては自分の時間が減るかもしれませんが、好きな人と一緒に過ごす時間は幸せです!
「すまんすまん。ユアンとリンシアは結婚したんだったな。今のは私の価値観だ。お前たちを否定する訳ではない」
まぁ、人それぞれの考えがあるので結婚に対するガロさんの考えが間違っているとも言えませんね。
「それじゃ、ガロさんは結婚とか恋人を作ったりはしないのですか?」
「今の所はな。私はそんな事よりも自分の由来を知りたいからな」
「そうなのですよね。でも、ガロさんの由来って魔族じゃないのですか?」
「は? 私が魔族? それはどういう事だ?」
あれ、もしかして知らないのですかね?
「確か、竜人って竜種から進化したとサンドラちゃんが言っていましたよ」
「な、んだと……それは本当なのか?」
「本当かどうかはわかりませんが、サンドラちゃんがそう言っていたと思います」
「龍人様がそう言うのなら本当なのだろうな……そうか、私の仮説は全て間違っていたという事か」
もしかしたら言わない方が良かったのかもしれません。
ガロさんはパクパクと口に運んでいたお菓子を食べるのをやめ、俯いてしまいました。
そうですよね。
ガロさんはずっと自分達の種族が龍人族によって生み出されたと思っていたのです。
その答えを導き出すためにずっと様々な事を研究してきたのです。
そして、その答えを知った今、もしかしたらガロさんの生きる目的が失われてしまった可能性も……。
「ま、仕方ないな。それじゃ、私は別の目的を持って生きることにしよう! どちらにしてもこの研究は楽しいからな!」
心配は杞憂でした!
顔をあげたガロさんはさっきまでの悲壮感漂う雰囲気が嘘のように再びお菓子を食べ始めました!
まぁ、僕としてはそれで良かったですけどね。
「ガロ。いっその事、研究の対象を変えてみるといい」
「それもいいな。しかし、題材がなければ始まらないぞ?」
「題材ならある。恋について」
「恋か……うむ、それも悪くないな。人の感情が動く瞬間に何が変わるか、興味深い」
「うん。だからトーマで色々と実験してみるといい」
「なるほどな……おい、トーマとやら私に付き合え」
シアさんのナイスアシストが入りました!
ついにガロさんの興味がトーマ様に移ったようです。
ですが、問題はトーマ様です。
ガロさんを目にしてからまだ一度も言葉を発していないのです。
「おい、虎! 聞いているのか!」
駄目です!
ガロさんは全く恋というものがわかっていません!
僕もシアさんとこうやって関係を築くまではわかりませんでしたが、それでは駄目だという事くらいはわかります。
「と、トーマ様……えっと、ガロさんはこんな人ですが……」
こんな人ですが悪い人ではない。
いえ、それではフォローになっていない気がします。
この場合はどうやってガロさんを良く見せればいいのか……。
「トーマ」
「ん、あ……あぁ。わりぃ、ちょっと見惚れてた」
「ふぇ?」
トーマ様の言葉に耳を疑いました。
もしかして、ガロさんの見た目が嫌なのではなくて、目を奪われていた、という事ですか?
「トーマ、ガロの事気に入った?」
「あぁ。逞しい尻尾、攻撃的な角。まさに俺の好みだな!」
そこですか!?
もっと他に見る所があると思いますよ。
ほら、ガロさんは太ったかもしれませんが、元々は美人の部類ですし、顔立ちが良いとか……。
人の好みなので僕が口出すする事ではありませんけど。
「お? 虎は見る目があるな。こう見えて私は戦闘もそれなりに得意だ」
「そうなのか? なら、ちょっと付き合えや。お前をぶっ飛ばして、俺の力を見せてやるぜ!」
「いいだろう。ユアンに少しは体を動かせと言われた事だし、お前と遊んでやろうではないか」
あれ……なんか僕の予想とは違う展開になってきましたよ。
「おう、それじゃ表に出ろ」
「いいだろう。拳で語ろうではないか」
ど、どうしましょう!
二人が家から出ていってしまいました!
「し、シアさん……」
「好きにさせとくといい」
「でも、いきなり殴り合いなんて……」
「平気。お互いに実力をみたいだけ。模擬戦と一緒」
「そ、そうですよね」
ですよね。
出会ったばかりで、お互いに悪い印象がある訳でもないのに、流石に本気で戦う訳が……。
ドゴンッ、ガラガラガラ。
と思っていた矢先でした。
突然家の扉が壊れ、人が勢いよく転がってきたのです。
「わっ! と、トーマ様!?」
「痛ってててて……やるな、あの女!」
家の中に転がってきたのはトーマ様でした。
「だ、大丈夫ですか? 直ぐに回復を……」
「いらねぇよ!」
唇を切ったのか、トーマ様の唇から血が流れています。
しかし、トーマ様は僕の回復魔法を断り、再び外へと歩いて行ってしまいました。
「シアさん、あれを見る限り本気みたいですよ?」
「うん。模擬戦は本気でやるもの。間違っていない」
「そうかもしれませんけど……あ、次はあっちで音が」
外の様子を見るのが怖いです。
今度は僕達が居る家の反対側の家あたりから凄い音が聞こえました。
「はっはっは! 面白いではないか、どんどんとやろうではないか!」
「俺の拳に耐えるとは、本当にいい女だなっ!」
そして、外から二人の愉快そうな声が聞こえてきます。
「止めなくて、いいのですよね?」
「うん。二人の愛の形。尊重するべき」
「そうですよね?」
難しいです。
本当に難しいと思います。
シアさんと一緒の時間を過ごし、僕は少しずつ愛というのがどんなものかわかってきた気がします。
ですが、これもどうやら愛の形に含まれるようなのです。
僕はガロさんがトーマ様に付き合えと言った時に、絶対に失敗すると思いました。
しかし、今の二人は凄く仲良さそうなのです。
仲良さげに楽しそうに拳で語っているのです。
「けど、あれって真似しちゃダメな奴ですよね」
「うん。少なくともユアンとはあんなことしたくない」
「僕もです。シアさんとはもっと違う形で仲良くしたいですからね」
「うん。多分、長引きそうだから今から仲良くする?」
「えっと、それは夜にお願いします」
「わかった」
流石に今はダメですからね。
二人の決着がつくのがいつになるのかはわかりません。
その時は流石に傷を癒してあげなければいけませんからね。
「まだまだ、いくぞ!」
「おう……これで終わりだなんて言わせねぇよ!」
外からは相変わらず楽しそうな二人の声が聞こえてきます。
「……いつまで続くのでしょうか」
「……わからない」
「もう、一時間は経過していますよ」
「うん。けど、まだまだやると思う」
結局の所、決着がついたのは数時間後となりました。
騒がしかったのが嘘のように静まり返ったので心配になり、僕達はその様子を確かめに行ったのです。
「なんだか、幸せそうですね」
「うん。そう見えなくもない」
外に出ると、二人は仰向けに倒れていました。
お互いに顔を腫らし、見るからに痛々しいですが、二人とも笑みを浮かべているのが分かります。
そして、何よりも二人は手を繋ぎ倒れていました。
しかも、ただ手を繋ぐのではなく、お互いの仲を確かめるように指と指を絡ませているのです。
恋人繋ぎって奴ですね。
「なんか、腑に落ちませんけど上手くいったという事ですかね?」
「たぶん?」
「どうしますか?」
「目を覚ますまでそっとしておく」
「傷はどうしますか?」
「二人の誇りになるかもしれない。放っておく」
「わかりました」
二人の意志で殴り合って出来た傷ですからね。
もしかしたら勝手に治して後で怒られるかもしれません。
なので、僕達は二人が目を覚ますまで暫くそっとしておく事にしました。
それにしても……愛というのは本当にわかりませんね。
僕は横たわる二人を見て、愛についてもう一度自分なりに考えてみるのでした。
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