第409話 補助魔法使い、カミネロから話を聞く

 「だ、大丈夫ですか!?」

 「あぁ、俺は問題ない」

 「で、でも……そんなに沢山の血が……」

 「平気。おとーさんの血じゃない」

 「本当ですか?」

 「本当だ。心配してくれてありがとう」


 カミネロさんが僕を安心させるように撫でてくれました。

 あ、この撫でかたを僕は知っています。

 シアさんが僕を撫でてくれる時と同じです。

 やっぱり親子なんですね。

 それが、ちょっと嬉しくて、驚いて不安だった気持ちがそれだけで吹き飛びました。

 血は繋がっていませんが、僕もその一員になれたのですから。

 っと、そうじゃありません。

 

 「それで、カミネロさんはどうしてそんな姿になってしまったのですか?」

 「それは中に入って説明するよ。上がってくれ」


 そう言って、僕はカミネロさんに案内されカミネロさんのお家へとお邪魔させて貰いました。

 ここに来るのは二度目ですね。

 まだあの頃は、シアさんとはまだ恋人でした。

 それが、まだ数ヶ月しか経っていないのに、今では夫婦です。

 部屋の中はあの時と何も変わっていないのに、僕達の関係だけが変わったと感慨深いものがあります。

 ですが、一つだけあの時と違う事がありました。

 なんと、以前僕達が食事をしたソファーの上で、ぐったりと横たわる男性の姿があったのです。

 しかも、その男性は僕の知っている人でもありました。


 「カバイさん、大丈夫ですか?」

 「う、うぅ……」


 僕が声をかけると、カバイさんがうめき声をあげ、僕に返事を返してくれましたが、大丈夫そうではなさそうですね。


 「ユアンちゃん、悪いけどこの人を見てもらえるかしら?」

 「もちろんですよ。というよりも、苦しそうなので治しちゃいますね」


 カバイさんが苦しんでいる経緯は知りませんが、カバイさんは僕の知り合いですし、悪い人ではありません。

 まぁ、見る人によっては解放者レジスタンスが悪だという人もいるかもしれませんが、僕はカバイさんを信じています。

 なので、僕は苦しそうにしているカバイさんを癒す事に躊躇いはありませんでした。


 「フォースフィールド!」


 中級の回復魔法です。

 これならば、傷だけではなく、状態異常も回復できます。

 パッと見ただけで、全身が傷だらけで、出来たばかりの傷が紫色に変色しているのがわかったので、僕はこのリカバリーではなく、フォースフィールドを選びました。

 変色した傷跡は毒のせいだと直ぐにわかりましたからね。


 「後は安静にしていれば、大丈夫だと思います」


 僕だけの魔法では、流石に失った血と体力を取り戻す事は出来ません。

 もし、シノさんの力を借り、リザレクションを使えれば失った血も取り戻せるとは思いますが、今はシノさんが居ないので、今はこれが限界です。


 「すまないな。急に呼び出して仕事をさせて」

 「いえ……それで、一体何があったのですか? それに、どうしてカバイさんがここに……」


 急な展開に慌ててしまいましたが、ようやくカバイさんとカミネロさんの無事が確認できたことにより、僕もようやく状況を理解できる状態になってきました。

 

 「それは一つ一つ説明しよう。まずはカバイについてだ」


 どうしてこういう状況に陥ったのかをカミネロさんが順を追って説明してくれました。

 

 「そうだったのですね」

 「あぁ、俺がレジスタンスのリーダーと黙っていて悪かった」

 「いえ、悪い事ではないですよ。ただ、少し驚いただけです」


 確かですけど、カバイさんからレジスタンスにリーダーはいないと聞いた記憶がありました。

 それなのに、カミネロさんがリーダーだと知り、その事実に少し驚いただけです。


 「それは、ユアン……どの? が、タンザを離れた後に俺がリーダーになったからだ」

 「そうなのですね。あ、それと出来る事なら僕の事は普通に呼んでもらいたいです。一応、カミネロさんの義理の娘になるので……できれば、ですけど」

 「わかった。すまないな、逆に気を遣わたな、ユアン」

 「えへへっ」


 また、頭を撫でて貰っちゃいました!

 隣でシアさんがちょっと拗ねていますけど、今だけは我慢して貰います。

 けど、シアさんは我慢できないみたいですね。

 

 「むー……おとーさん、続きを話す」

 「あぁ、すまんな。それで、どうして俺がレジスタンスのリーダーとなったのかだが……」


 その経緯をカミネロさんが話してくれました。


 「まさか、クジャ様の息がかかっているとは思いませんでした」


 なんと、カミネロさんはクジャ様の指示でレジスタンスのリーダーになったみたいです。

 カミネロさんの主がクジャ様である事は知っていましたが、まさかそんな指示まで受けているとは思いませんでした。

 しかし、それにもちゃんとした理由があったみたいです。


 「カミネロさんがレジスタンスを救うと同時に、陰ながらエメリア様を支える為のクジャ様の配慮だったのですね」

 

 タンザの一件の後、レジスタンスがどうなっていたのかは知りませんでした。

 けど、普通に考えれば領主の館を襲撃した罪人ですので、ただでは済まなかったと思います。

 ですが、それをカミネロさんが救い、自分の手駒としてクジャ様が操れるようにし、レジスタンスを匿い、それと同時にエメリア様を陰ながら支える組織として生まれ変わらせたみたいなのです。


 「その一件があり、カバイは俺と共にリアビラを探っていた」

 「それで、カバイさんが前に僕達の元に手紙を届けにきたのですね」


 ようやく話が繋がってきました。

 カバイさんと会ったのは割と最近といえば最近で、いきなり僕の家に忍び込んできた事がありました。

 その時に、影狼族の男から手紙を預かっているという話があり、手紙を受け取ったのですが、その男というのがカミネロさんで、その時から既に繋がりがあったのだとわかります。

 まぁ、その時点で影狼族の男がカミネロさんである事は知っていましたけどね。

 ですが、流石にそこまで繋がりがあるとは思いもしませんでした。


 「それで、どうしてこんな事になったのですか?」

 「リアビラが動き出したからだ」

 「リアビラがですか?」

 「あぁ、鼬族に便乗してどうやらナナシキに攻め込むつもりのようだ」

 「そ、それは大変な事になってきましたね」


 そして、カバイさんがこんな事になったのは、リアビラの触れてはいけない部分に踏み込んでしまったのが原因のようです。

 

 「カバイは踏み込み過ぎてしまった」

 

 カミネロさんはレジスタンスが泳がされている事には気付いていました。

 それを良い事に、ギリギリのラインを見極め、探りをいれていたみたいです。

 ですが、カバイさんはそのラインを越え、リアビラが知られたくない所まで調べてしまったみたいなのです。


 「リアビラがナナシキを攻める理由は鼬族に便乗するためではなく、恐らくはカバイや俺を消すためだろう」

 「口封じって事ですね」

 「あぁ、ユアンからもらった転移魔法陣がなければ今頃はカバイの命はなかっただろう。助かったよ」

 「お役に立てたなら良かったです」


 ちなみにですが、他のレジスタンスはカバイさんが少し暴走気味だったのを危惧して先に逃がしていたみたいで無事のようで、今はアーリィという海辺の街にいるみたいで、リアビラが進軍したらナナシキへと避難する手筈になっているようです。

 けど、本当に大変な事になってきましたね。


 「護らなければいけない場所が増えてしまいました」


 今の話からすると、リアビラの狙いはナナシキのようですが、アーリィという街も危険に晒される筈です。

 何せ、リアビラとの国境に一番近い街ですからね。

 そこを素通りしてナナシキを攻めるとは思えません。

 けど、同時に先にそれを知れて良かったと思います。


 「しかし、俺達のミスで余計な手間が増えてしまった」

 「そこは関係ありませんよ。攻めてくるなら返り討ちにすればいいだけですし、何よりもリアビラの事は僕たちも気になっていましたからね」


 アーレン教会の件で、リアビラが気になっていたのは事実です。

 ですが、リアビラと僕達の接点は少なく、情報も集めようもないですし、こちらから手を出す訳にもいきません。

 それが、この件でリアビラとも接点ができました。

 これは僕達にとっても大きな一歩となる筈です。

 何せ、リアビラと魔力至上主義は繋がっている可能性が高いですからね。


 「なので、カミネロさんが気にする事ではありませんよ」

 「ありがとうな」


 えへへっ、またまた頭を撫でられてしまいました。

 僕の事を娘だと思ってくれているように優しく撫でてくれるのです!

 まぁ、その度にシアさんが拗ねますけどね。

 

 「それで? おとーさん達はこれからどうする?」

 「俺達はユアン達の指示に従うよ。戦えと言えば戦う覚悟はできている。むしろ、一緒に戦わせてほしい。自分の撒いた種だからな」

 「そこはスノーさん達と相談ですね。ですが、色々と助けて貰う事にはなると思います」


 カミネロさんがどれほどの実力を持っているのかはわかりませんが、少なくとも凄い強い事はわかります。

 何せ、服にこびり付いた血は、カバイさんを襲った敵の返り血みたいですからね。

 相当な返り血を浴びているくらいです、数人を相手をした程度では済まないと思います。

 そんな人をスノーさんが遊ばせておくとは思えないのです。


 「なので、明日相談してみますので、今は休んでください」

 「あぁ、そうさせて貰うよ」

 「はい。心配なのでカバイさんはこちらで預かって様子を見ますね」

 「重ね重ね悪いな」

 

 お義父さんのためですからね!

 当然のことです。

 それに、カバイさんには会わせたい人がいますからね。

 目が覚めたら少しでも早く安心させてあげたいのです。


 「では、また来ますね」

 「あぁ。またいつでも二人で泊りにきてくれ」

 「はい! この件が終わったらまた一緒にご飯を食べましょうね!」

 「私も楽しみにしてるわ」

 

 二人に見送られ、僕達は転移魔法でお家へと戻りました。

 その時にシアさんが歩いて帰ると少し駄々を捏ねましたけどね。

 どうしても僕と二人で手を繋いで帰りたかったみたいです。

 ですが、カバイさんを残していく訳にもいかない為に泣く泣く我慢をして貰いました。

 その代わりに、別の条件をつけられてしまいましたけどね。

 今夜が大変な気がします。

 まぁ、いつも通りといえばいつも通りですけど……。

 ともあれ、急な展開でしたが、いい情報を手に入れる事が出来ました。

 今日の出来事を翌朝、寝不足気味な僕はスノーさんに伝えるのでした。

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