第408話 補助魔法使い、鼬族の動向を知る
「そうですか。ついに鼬族が動き出したのですね」
ラディくんから報告があると聞き、領主の館へとやってきた僕は、先に集まっていたアリア様、スノーさんにキアラちゃん、そしてラディくんから鼬族の動向について知らされました。
予想はしていましたが、ついにこの時がやってきたみたいです。
あ、ちなみにシアさんはまだお仕事中で、サンドラちゃんはお家でお昼寝中なので今日はいませんよ。
っと、それは今はいいですね。
後で二人に説明する為にも報告をちゃんと聞いて、対策を練らなければなりません。
「それで、僕達はどうするつもりですか?」
「特に何もしないみたいだね」
「何もですか?」
「アンリ様は攻めさせた方が楽だから暫くは放っておくと言っていましたよ」
攻めるのではなく、護る戦いですね。
けど、それだとリコさんの予知夢通りにはならないのですよね。
「というのは建前じゃろうがな」
「建前ですか?」
「うむ。ポックルの性格は私もアンリも良く知っておる。あ奴の事じゃ、碌に準備もせずに進軍を始めているじゃろうだろな」
「え、でも宣戦布告をしてから随分と時間は経っていますよ?」
「うむ。それでも最低限の準備しかしていないじゃろうな」
そんな事がありますかね?
戦争というのは負ければ大変な事になります。
僕達は負けるつもりはありませんが、もしもの為にローゼ様に負けた時の事を相談したくらいです。
にも関わらず、ちゃんと準備をせずに戦争に挑むなんてありえるのですかね?
「それだけ私達の事を舐めているという事じゃろ。ラディ、実際に出兵した兵の様子はどうなのじゃ?」
「はい。水は軍より配給のようですが、保存食数か月分と武器は部隊、または兵士に個人的に用意させているみたいです」
流石ラディくんですね。
そこまで調べてあるとは思いもしませんでした。
「けど、それって士気に関わりませんか?」
「関わるじゃろうな。戦争に参加するのも強制で、それに掛かる費用も自腹となれば当然やる気になんてならぬじゃろう」
ですよね。
ただ働きどころか、無駄な出費なうえに、命の危険もあるわけですからね。
「でも、それでよく兵士達に暴動が起きませんね」
「それだけ何かしらの圧があるって事じゃないかな? 例えば家族を人質にとられていたりとかさ」
「それに、鼬王は反逆者を絶対に許さないみたいなの。噂によると、反逆者の一族は全員処刑にされると聞いた事があります。例え身内であっても」
「それは怖い話ですね」
兵士達が大人しく従うのにはそういった裏があるのかもしれませんね。
でも、兵士にやる気がないと知れたのは大きいですよね。
「多分ですが、攻めてこないですよね?」
「来るには来るじゃろうが、ちょっと手痛い反撃をすれば直ぐに引くじゃろうな」
ですよね。
兵士として戦うのは強制かもしれませんが、誰だって死にたくはない筈です。
攻めるよりも自分だけはどうにかして戦いに参加せずに、生き残る事を重視すると思います。
自分で言うのもアレですけど、鼬族の兵士よりも僕達の方が精鋭揃いですからね。
そんな相手と戦うとなったらすぐに総崩れになって逃げる気がしてなりません。
何よりも強制という事は、仲間意識も低い筈ですしね。
周りがどうなろうとか考える事はしないと思います。
「鼬王はそこをどう考えているのでしょうか?」
「深くは考えていないじゃろうな。数で押せば勝てると思っているじゃろうし、仮に押せなかったとしても、鼬族の領地には難攻不落と呼ばれた街がある。そこが落とされない限りは何処の国が相手でも負けないと言っていたからのぉ。本人曰く、じゃがな」
その言い方ですと、落そうと思えばその街も落とせるという事ですかね?
んー。鼬王の考えがいま一つわかりませんね。
アリア様の話からすると鼬族は勝つ戦争ではなく、負けない戦争を選んでるように思えます。
ですが、それだと何だか無駄に戦争が長引きそうですね。
「私達としてはそっちの方がありがたいけどね」
「どうしてですか?」
「戦争が長引けば長引くほど、兵の負担は大きくなりますし、水や食料なども不足していくと思うの」
「確かにそうですね。あれだけの兵士を動かしている訳ですし、物資を送る量も多いでしょうからね」
「ま、ポックルの事じゃから現地調達といって、兵士が立ち寄る街から物資を補給するじゃろうけどな」
でも、それにも限りがありますよね。
つまりは長引けば長引く程、僕達の方が有利になっていくという事みたいです。
何せ、僕達は待っているだけでいいので、鼬族を警戒しつつも、今の生活を保てばいいだけですので。
「となると、ずっと待っていればいいのですね」
「いや、それは建前と言ったじゃろ?」
「あ、そういえばそうでしたね……という事は、僕達もいずれかは攻めるという事ですか?」
「うむ。鼬族の兵は徐々に疲弊し、士気も下がっていくじゃろう。そして、最終的には二択を強いられる。攻めれる時に攻めるか、一旦引くかのどちらかにな」
攻めてくれば迎え撃ち。
兵士を戻すようならば背中を狙うという事ですかね?
「簡単にいえばそうなるな。しかし、ポックルも馬鹿なりに少しは考えるじゃろう。全ての兵士を流石に戻す事はしないじゃろうな」
「そうですよね」
そこで全ての兵士を撤退させたら何の意味もありませんからね。
なので、アリア様の予想ではフォクシアと鼬族の国境と例の難攻不落の街に兵士を配置するだろうとの予想を立てました。
「問題はどれだけの兵士が残るかですよね」
「普通の相手なら国境に一万、街に二万残すな」
「それだけですか?」
「合理的に考えればそうなるじゃろうな」
合計三万の兵士となれば実際には多いですよ?
ですが、最初に十万もの兵士がいると聞いていたので、少なく感じてしまっただけです。
けど、確かにアリア様の説明には納得がいきますね。
三万残すというのは計算された数字だと言いました。
「なるほど。戻した兵士と鼬族の都の防衛をしていた兵士を入れ替えるのですね」
「うむ。それが到着したら、今度は先に国境と街を護っていた兵士と入れ替えるのがいいじゃろう」
三万ずつで役割を回す訳ですね。
鼬族の街の防衛に三万、帰還組に三万、国境と防衛都市に三万。
確かに合理的と言えば合理的でしょうか。
期間はわからなくとも、いずれかは交代の兵士が来て、一時的に都に帰る事ができるとあれば、それだけでも頑張れますからね。
冒険者でいえば、夜に野営をしていて、眠いながらも頑張れるのは見張りの順番があるからです。
次の見張りの人が起きてくれば寝る事ができる。
それと似たような感じだと思います。
「けど、それをやられたら退却する兵士を狙うのは大変ですね」
前線で三万の兵士に手間取って粘られてしまえば、引き返している途中の兵士が戻ってきて、それが援軍となり六万の兵士を相手にする事になる可能性もあります。
そうなってしまっては、とても退却する兵士を狙う事は難しくなります。
「あまり深く考えるでない。あくまで可能性の一つとして考えておくだけで十分じゃよ。実際にはもっと楽な戦いになるじゃろうからな」
「本当になりますかね?」
「なるさ。ポックルはフォクシアの事を、いや……ナナシキの事を何も理解していないからな。それが命取りとなる」
「大袈裟ですよ。今攻めてきているのは七万の兵士ですよね? 流石にその数の相手に楽な戦いは出来ないと思いますよ」
「そうかのぉ? 私なら七万の兵士ではなく、十万の兵士で短期決戦を挑むぞ? そもそも私ならフォクシアに喧嘩をうったりはせぬけどな」
そんなに僕達の事を評価しているのですね。
あ、もちろん僕達というのは弓月の刻ではなくナナシキ全体の事です。
「んー……それでも不安になりますね」
「まぁ、ユアンはアランとチョリ婆の部隊の事をしっかりと理解していないからな」
「知っていますよ。凄く強いというくらいは」
実際に目の前で戦っている姿を見ましたからね。
「はっきりと言っておくが、ユアンが見たのはほんの一部に過ぎぬぞ? 思い返してみるがよい、アラン達はあれが復帰戦じゃ。その間、どれだけ戦いから遠ざかっていたと思う?」
「それは、数十年……あ、もしかして……」
「うむ。あの時のアラン達はまだ本来の姿には程遠い。何せ、私がついて行けるくらいじゃったからな」
そうですよね。
ほぼ引退していた人がいきなり昔通りに戦える筈がありません。
スノーさんですら、たった数ヶ月領主の仕事に専念しただけで久しぶりにシアさんと模擬戦をして息を切らしていました。
戦いから遠ざかった空白の期間を埋めるのは新しく何かを覚えるよりも遥かに大変な事なのです。
「じゃから、私は何も心配はしておらんのじゃよ。そこにユアンの補助魔法も加わる訳じゃからな」
「なんだか鼬族が可哀想に思えてきましたね」
「敵に同情はいらぬが、本気のアラン達が相手となれば、同情するしかないのぉ」
それでも油断は出来ませんけどね。
ですが、負ける気は一切していなかったのが、負ける要素がないように思えてきました。
「ま、今の所はこれくらいじゃな」
「では、引き続き鼬族の動向を探るという事で……」
解散しましょうとなった時でした。
『ユアン、悪いけど直ぐに来てほしい』
シアさんから急に念話が届きました。
『何処にですか?』
『おかーさん達の家。おとーさんが戻って、報告したい事があるって』
『わかりました。直ぐに行きますね』
慌てた様子ではありませんが、ちょっと様子が変ですね。
僕に用事があるのなら、シアさんは僕の元に飛んでくるのに、今日は念話で用件だけを伝えてきたからです。
「すみません。ちょっと、用事ができたので先に失礼しますね。報告はまた後でします」
アリア様達に先に部屋を離れる事を謝り、僕は直ぐに来てほしいとの事なので転移魔法でイルミナさんのお家に戻りました。
そして、僕はそこで衝撃の光景を目にしたのです。
「え……お義父、さん?」
家の前には、シアさんとイルミナさん。そして全身を血で染めたカミネロさんが立っていたのです。
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