第406話 一方その頃。鼬族は

 「は? 今、何て言ったのか、もう一度言ってくれる?」

 「は、はい……狼族と鳥族が寝返りました」


 引き攣った表情で報告にやってきた兵士の言葉に僕は耳を疑った。

 

 「ふぅ~ん。まぁ、いいや」


 馬鹿は救いようがないとはこの事か。

 別に最初から宛にしていなかったし、この程度のことの障害は僕の目的に何ら支障はないね。

 むしろ、僕の覇業へと軌跡に刻まれると言っていい位だ。

 困難な道を乗り越えてこそ、後の美談になるからね。


 「ポックル様、これからどうなさるつもりですか?」

 「何も変わらないよ。僕達はこのままでいい、痺れを切らした狐族が攻めてきた所を狙う」


 今頃、狐族の奴らは僕たちがいつ進軍してくるか怯えて震えているだろう。

 そして、いつまでも攻めてこない僕たちに恐怖が限界に達し、腹を括って逆に攻めてくるだろうね。

 恐怖に震えるくらいなら、いっその事とこっちからやってやろうってね。

 そこに寝返った鳥族と狼族。

 その二か国とやり合おうとした虎族が加わったとなれば、途端に気持ちも大きくなり大胆な行動になるだろうね。

 そこを一網打尽にすればいいだけの話。

 しかも、僕の戦略はそれだけではない。

 既に手は一つ打ってあるんだよね。


 「この前、ナナシキに向かわせた、弟からの報告はどうなってる?」

 「それが……戻って来るなり荷物を纏めて何処かに逃げようとしておりましたので、身柄を拘束してあります」

 「どういう事?」

 「わかりません」

 「とりあえず、連れて来て」

 「今すぐにお連れ致します」


 宰相が玉座の間から出ていき、暫く待つと、弟を連れ、宰相が一緒に戻ってきた。

 戻ってきた宰相の顔色は険しく、弟に関しては青ざめた表情でブルブルと震えている。


 「あ、兄上、お呼びでしょうか?」

 「久しぶりだね。僕に帰ってきたのに挨拶もせず、それどころか何処かに行こうとしていたみたいじゃないか。一体、何処に行こうとしていたんだい?」

 「それは、ちょっと別の用件で直ぐに動くために……」

 「そうなんだ。いやー、優秀な弟を持って、僕は幸せだなー。それで、ナナシキはどうなったのか、改めて報告を貰えるかな?」


 僕はこのかわいい弟に一つの仕事を与えていた。

 何せ、こんな弟でも王族だからね。

 少しの横暴も利くからね。立場を利用させていたんだ。


 「転移魔法陣の設置は失敗しました……」

 「失敗? どういう事かな?」

 「それが……ナナシキで転移魔法陣を設置しようとしたところ、いきなり狼の獣人に絡まれ、連れていった兵士も傷つけられ、やむを得ず撤退してきた次第です」

 「それがどうしたの? そんな事で転移魔法陣を設置できなかったって言い訳が通ると思うの? あー、残念だな。僕は君を信頼して送り出したのに。これじゃ、僕の面子が丸潰れだよ~」

 

 全く。こんな事も出来ないだなんて、役立たずにも程があるよね。

 何の為に権威を与えたのかまるで理解していないよね。

 相手がそんな事をしてきたら、自分の権威を活用して相手を委縮させて、マウントをとればいいのに。

 

 「それは……絡んできた相手が公爵家と侯爵家の家柄だったので、流石に僕も……」

 「それこそ好都合じゃないか~。君だって侯爵の爵位があるのだから、それを利用して対等にやり合えばいいだけでしょ?」

 「しかし、警備兵も集まって来てしまって……」

 「だから何なの? まぁ、いいや。とりあえずは、失敗したという事はわかったからそれでいいよ」

 「では……」

 「うん。許してあげる。かわいい弟だからね…………宰相、例の場所に弟を案内してあげて」

 「例の場所と、言いますと……」

 「そうだよ~。弟は軟弱みたいだから、いい機会だ。成長させてあげようと思ってね~」


 僕と宰相の会話を聞いた弟がブルブルと震えはじめた。

 どうやら、僕達の会話の意味を理解したみたいだね~。


 「兄上! どうか、もう一度でいいので、挽回の機会が欲しいのだ!」

 「うんうん。そのつもりだよ~。だから、君は今から凄ーく強くなれるの」

 「い、嫌だ。僕はあの場所には行きたくないのだ!」

 「逃げようとしても無駄だよ~」


 玉座の間から逃げ出そうとした弟は直ぐに部屋の外に待機していた兵士に押さえつけられる。


 「やめるのだ! 僕を離すのだ!」

 「ポックル様の御前だ! 大人しくしろ!」

 

 これから何をされるのか理解しているのか、弟は凄く必死に抵抗している。

 最初からそれくらい頑張ればこうはならなかったのに残念だね。


 「兄上ー! お許しを!」

 「うるさいから連れてって」


 玉座の間から、弟の姿が消えていく。

 本来なら処刑を施したい所だけど、命を助けてあげる所か、愚かな弟を成長させてあげるだなんて、優しい兄で良かったね~。


 「けど、困ったなー」

 

 転移魔法陣が設置できていないのなら、僕の作戦が一つ失敗になってしまった。

 狐族が攻めてきたら、その間にナナシキに兵を送り込んであげようと思っていたのに残念だよ。


 「ポックル様、どうなさいますか?」

 「仕方ないね。正面から堂々と叩きつぶそうか」


 しかし、それも作戦を少し変えなければならない。


 「進軍と防衛に軍を分けるよ」

 「防衛ですか?」

 「うん。僕達が狐族に進軍したら、寝返った鳥族と狼族が攻めてくる可能性があるからね」

 「数はどのように分けますか?」

 「進軍に七万。防衛に三万」

 「畏まりました。直ぐに手配いたします」


 本当は十万の兵士で攻め入り、狐王の驚く顔を見たかったけど、少し数が減ってしまったから残念だね。

 ま、僕の得た情報では狐族の兵士の数は万に満たないみたいだし、驚くことには変わりないか。


 「それと、防衛都市も利用するつもりだから、使えるようにしておいて」

 「はい、そちらに手配は既に進めてあります」

 「ありがとう~」


 たまには宰相も役に立つね。

 あの場所が使えるのなら、万が一にも負ける事はないだろう。

 そして、そこが使えるのなら直ぐに軍を進める事もできる。


 「それじゃ、そろそろ始めようか」


 これは僕が王となる戦い。

 アルティカ共和国に何人も王はいらない。

 王は僕一人で十分だ。

 そして、その後はルード帝国、ティアナ王国を呑み込み、僕がこの世界の王となる。

 みんな僕にひれ伏すんだ。

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