第397話 補助魔法使い、獣王会議に参加する 本文編集

 「なるほど、アリアの話が本当ならば己の無知を恥じるべきですね」

 「気にするでない。私だってユアン達と関りがなければお主らと同じ立場であっただろうからな」


 アリア様とクドー様が向かい合い、神妙な顔で話合っています。

 それだけではありません。

 クドー様の隣にはラシオス様もいて、アリア様の隣にはアンリ様も座っています。


 「ユアンから報告しておく事はあるか?」

 「あ……えっと、僕からは特には……」


 そして、話を振られた僕はアリア様の隣に座り、みんなから注目を浴びています。

 明らかに場違いです。

 僕がアルティカ共和国の王様達と一緒に会議に参加しているのは明らかに場違いだと思うのです。


 「そう緊張しなくても良いぞ」

 「そう言われても……緊張しますよ」

 

 アリア様から会議では自由に発言していいと言われていますけど、特に言える事もないですし、あったとしても王様相手に自分の意見を言うだなんてとても畏れ多いです。

 今の僕に出来る事は、話しを聞いて、大人しくしている事だけです。


 「俺とクドー殿を嵌めた戦略は見事だった。ユアン殿に意見があるのならば発言して欲しい」

 「ラシオスの言う通りです。是非とも策士ユアン殿の意見をお聞かせください」


 違います。

 僕は策士ではありません!

 あの作戦だって僕が考えた訳ではありません。

 ラディくん達に任せて、ラディくん達があげた成果なのです。

 

 「ユアン殿、謙遜する必要はない」

 「いえ、謙遜ではなくて本当に僕の策じゃないので……」

 「それも美徳。手柄を独り占めするのではなく、周りの者にも光をあてるとは……。まるでユアン殿は太陽みたいなお方なのですね」


 困りました。

 何を言っても僕の株が上がっていきます。

 しかも、勘違いだとわかっているにも関わらず、アリア様も訂正することなく、隣で笑いを堪えているのです!

 きっと、僕が呼ばれる前にアリア様が二人に何かを吹き込んだに違いありません!


 「と、とりあえず僕の事はいいので今後の動きについて話し合いませんか?」


 そんな時は話題を変える。

 これが一番です!


 「うむ。そうじゃな……といっても、私は鼬族が何をしているかは知らぬからな。進軍を開始したという話も聞かぬし」

 「私達の方もですね。元々、私達はトーマの軍と戦う事になっていましたので鼬族の動向は知りませんね」

 「クドー様の方もですか?」


 それは意外でしたね。

 というよりも、普通はお互いに連絡をとりあって連携して戦いますよね?

 まぁ、もしかしたら連携をとろうとしていたのかもしれませんけど、ラディくん達が妨害していたみたいですけどね。

 

 「それがこ奴らの悪い所よ。いや、アルティカ共和国の悪い風習といったところか」

 「そうなのですか?」

 「うむ。所謂、平和ボケって所じゃな。ここ最近は戦争らしき戦争はなかったからな。軍は合っても正しい動かし方は知らぬじゃろうからな」


 アルティカ共和国となる前、まだ獅子王と呼ばれる存在が権力を握っていた時代はちょっとした争いは頻繁に起きていたみたいです。

 ですが、獅子王をアンジュお母さんが失脚させ、今の形になってからは争いは目に見えて減ったみたいです。

 

 「二人が王になったのはその後だったのですね」

 「そう言う事じゃな。ポックルもトーマもそうじゃが、戦争というものを経験していない。じゃから、あんな策に引っかかるのじゃよ」

 「それでよく戦争をしようと思いましたね……あっ」


 思わず思った事を言ってしまいました。

 僕とアリア様の会話で二人が肩を落としています。


 「これ、いちいちそんな事で男が落ち込むな」

 「そ、そうですよ。気にしなくていいですよ! ラシオス様もクドー様も今まで戦争を起こさずに、平和を守ってきたと考えればそっちの方が大事ですからね!」

 「それよりも今は鼬族の事じゃ。魔力至上主義は先ほど説明したな?」


 どうにか僕がフォローをいれ、二人が顔をあげてくれました。

 

 「魔力至上主義か、説明を聞いた今でもいま一つピンとこないな」

 「私の方もです。今思い返せば、異質な魔物が現れた事があったと報告があった気がしますが、特に気にも留めていませんでしたね」

 

 大きな事件こそありませんでしたが、やはり魔力至上主義は色んな場所で活動をしていたみたいです。


 「今はそこだけ知っていればよい」

 「しかし、その魔力至上主義が鼬族と関係しているというのは何か裏付けがあっての事なのか?」

 「確実ではありませんが、多分関わっていると思います」


 アーレン教会のあるサンケに行った時の出来事を二人に伝えると、二人は何かを悟ったように頷きました。


 「俺の国から行方不明者が出ていたが、鼬族の者に攫われた可能性は十分にありえるな」

 「私の方もラシオス程ではありませんが、多少はそのような報告がありましたね」

 「必ずしも鼬族の仕業とは限りませんが、気にしておいた方がいいと思いますよ」

 「ラシオスの所は特にな……と言っても、今回で終わらせるつもりじゃがな」

 「と言いますと?」

 「うむ。我ら四カ国で鼬族を攻め、ポックルの政権を潰すのじゃ」


 いきなりの提案で僕も驚きました!

 いえ、そのように動くつもりだと聞いていたので予想はしていましたが、これから鼬族をどうするかという話の段階で、このタイミングでアリア様が切り出すとは思わなかったのです。

 そして、珍しくアリア様の雰囲気がピリついているような気もしました。


 「アリア様?」

 「うむ? あぁ、すまんな」


 僕が声をかけると、ハッとした表情になり誤魔化すように水を口に含み、それを飲み干すと小さく息を零しました。


 「なるほど。その為に俺達を味方につけたという事ですね」

 「まぁ、これはユアン達が最善とも呼べる方法をとってくれたから出来る事じゃったがな。敵なら敵で構わなかった。何せ、トーマがお主らの相手をしてくれるからな」

 「という事は、アリアはフォクシアだけで鼬族を潰そうとお考えになっていたと?」

 「そうじゃな。ユアン達の手を借りてな」


 成り行きだと思っていましたが、アリア様がそこまで好戦的になっているとは思いもしませんでした。

 これは、別の理由がありそうですね。


 「だが、鼬族がそのような事をしているのであればあの会議で伝えてくれれば良かっただろう」

 「確かにな。しかし、ハッキリと言ってお主らの事は信用していなかったからな。そんな相手と協力する気にはなれないな」


 本当にハッキリと言いますね。

 まぁ、交流が大してなかったので、信用はしきれませんよね。

 二人とも国とアルティカ共和国の事を考えているという事はわかりますけどね。


 「では、今は信用できると?」

 「うむ。まぁ、信用ではないが、鼬族とフォクシア、どちらを敵に回すとマズいかは理解したじゃろ?」

 「当然フォクシアですね」

 「街に戻ったら魔鼠と魔鳥の軍団が待ち構えていたら逆らう気にはならないな」


 あれは効きますよね。

 アリア様に頼まれて、ラシオス様が街に戻るタイミングで街から少し離れた場所で僕達はラシオス様をお出迎えしました。

 魔鳥さんの背中に魔鼠さんを乗せ、兵士達が通る道を挟むようにして作ったのです。

 兵士の顔がかなり引き攣っていたので、生きた心地はしなかったかもしれませんね。

 それほどの数を用意したのですから。


 「安心するがよい。お主らが裏切らぬ限りは襲ったりはせぬからな」

 「わかっている。その為の契約と同盟だ」

 「うむ。それで、これからの事じゃが……」


 こうして話し合いは進み、四カ国で鼬族を攻める事が決まりました。

 といっても、主に戦うのはやはり僕達になるみたいです。

 元々、鼬族が僕達に難癖つけてきたのが原因で、他の三か国はアルティカ共和国の法により巻き込まれただけに過ぎませんからね。

 しかし、ラシオス様もクドー様も鼬族の悪行を理解してくれたみたいですし、少なくとも邪魔はしないでくれそうで何よりですね。

 まぁ、邪魔をしたり裏切ったらどうなるかを脅しつけた気もしますけどね。

 けど、何か忘れているような気がします。

 こうやって話をしているのに、大事な何かを忘れている気がするのです。

 でも、忘れているくらいですし、きっと大丈夫ですよね?

 それよりもさっきのアリア様が僕は気になりました。

 いつも優しいアリア様があの時だけは別人のように思えたのです。それも聞いてみないといけませんね。

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